17 / 24
17
しおりを挟む「大丈夫だ、心配するな、な?」
そう言ったウォルの笑顔が引きつっていた。痛みに耐えているような、そんな笑顔。うっすら額が汗ばんでいる。私を抱き上げる手に力が入っている。必死で大事なものを守ろうとする、そんな必死さが私に伝わってくる。
「ウォル」
泣きそうな顔で必死に首を横に振ってる。私はウォルの頬を撫でた。
「ウォル、私は大丈夫だから」
嫌だとウォルは首を横に振る。
「はあぁ、グルーと貴方、邪魔ね。騎士なら外で剣でも交えてきたら?私達は女の子同士仲良く話をするわ」
ウォルが睨む先
「貴女は…、ウォルの……」
「私は王の娘よ?剣も体術もお手のものなの。貴女のお姫様を守るナイトにもなれるからこっちの事は気にしないで。さあ行って。
グルー!」
私は下ろされウォルは無理矢理連れて行かれた。
「メアリ!」
遠くでウォルの声が聞こえる。
「さあ座りましょ」
震える足で私はソファーに座った。
「そんなに怯えないで」
優しい笑顔を向けられた。
「私ね、魂の番になんて会いたくなかったの。それに国を出るつもりもなかったの。王の娘として他国との外交も仕方がないわ。でも…、
私の後ろに立ってた護衛騎士、グルーって言うんだけど、私と彼、幼馴染みでね番になる事が決まっていたの。でもお互いが魂の番じゃなかったわ。それに国には魂の番はいなかった。それは私にもグルーにも…
だから国を出たくなかった…」
目の前の彼女の悲しそうな顔。
「あの模擬試合で戦う貴女の彼を一目見た時に魂の番だって直ぐに分かったわ。でも彼の瞳に映っていたのは貴女だけ、だから私は嬉しかったの。
私は王の娘として幼い頃から色々な耐性を身に付けさせられたわ、媚薬の類やそれこそ毒までもね。剣と体術で本能を抑え込むように鍛えさせられた。
私は分かっていたから、だから魂の番に手を伸ばさなかった。でもね、グルーは私と距離を置いたの。魂の番が見つかったのなら魂の番と番になる方がいいって。
ふっ、全く知らない魂の番のどこを好きになるの?本能が叫ぶから?幸せになれるから?私の幸せは私が決めるわ。私は心を持つ獣人だもの。一緒に過ごした事もない、誰だか分からない、そんな人と幸せになれる?魂の番だからってだけで幸せになれるの?
魂に抗うのは身を裂かれるような痛みが全身を駆け巡るわ。その手を取った方が楽になれるって本能的に分かった。勝手に動く足を力で止めて、それでもその痛みを耐えてでも守りたいものがあるから…。
私はグルーを、彼は貴女を選んだの。
一瞬揺れ動くわ。まるで目の前にいる人に恋い焦がれてるような。でもそれは幻って分かるわ。だってずっと獣ではいられないでしょ。正気に戻った時何に恋い焦がれていたのか相手の顔さえ覚えていないのよ?それを幸せと呼ぶのならそんな幸せ、私はいらない」
「王女様はグルー様が好きなのですね」
「当たり前よ。グルーを番に望んだのは私だもの。
だから貴女の彼が騎士で愛する貴女がいて安堵したの。私が目の前に現れても抗い何もなかったように終われるって。
貴女の彼はまだまだ未熟ね」
目の前に座る王女様も今は穏やかな顔をして話している。それでもさっきまでは険しい顔をしていた。
きっと王女様も全身で抗い戦っていた。
魂の番、ただそれだけで、私とグルー様二人の犠牲の上にある幸せを、王女様もウォルも幸せだと思えるのかしら。幸せだと言えるのかしら。
私とウォルの間に長年の絆があるように、王女様とグルー様にも長年の絆がある。積み重ねてきた思いがある。
絆を心を捨てて魂の番の手を取り本当に幸せになれるのかしら…。
「私の住む国は獣人しかいないの。獣人の子供は人族の子供よりも頑丈な体を持つわ。ある程度の子供になればそれなりに力も強い。でも幼獣の子供は簡単に攫えるの。産まれたばかりは親も神経を尖らせているけど幼獣になると自由にさせる。人族のように家に閉じ込める事はしないの」
確かに遊んでも邸の庭。お互いの家に遊びに行き安全な庭で遊ぶ。邸の外に行く時はお父様やお母様と、そして必ず数人の騎士達が付いている。街へ行った時獣人の子供達は子供達しかいなかった。自由に行きたい所に行く、当たり前の事だったから気にしなかったけど同じ国に住むのに生活は全く違う。
「攫われた子達は奴隷にされたり愛玩具にされるわ。人族のね。
だから私はこの国に来る事になったの。獣人と人族が共に生活しているこの国で人族との付き合い方を見る為に。そして力を借りる為に。
私達獣人は力が武器だけど人族は知恵が武器でしょ?だからその力を借りに来たの。違う国にも行ったわ。でも他の国は獣人と人族の間に隔てる壁があった。共に生活している国はこの国だけだったわ。
この国は素晴らしい国ね」
「ありがとうございます」
「だからこそはっきりさせないといけなかったの」
遠くを見つめる王女様の瞳に強い意志が見えた。
知恵を借りるという事はこれからもこの国と繋がるという事。そしてこの国にはウォルが居る。
グルー様はウォルと番になれと言い、王女様はグルー様と番になりたい。
だからグルー様の目の前で必死に抗った。
王女様の服に血が滲んでいる。きっとウォルと同じ。握った手のひらから流れた血。
奥底にある魂ではなく心を選びたいと、愛するのはあなただと…。
それは魂を振り切ろうと戦った証…
3
あなたにおすすめの小説
〈完結〉デイジー・ディズリーは信じてる。
ごろごろみかん。
恋愛
デイジー・ディズリーは信じてる。
婚約者の愛が自分にあることを。
だけど、彼女は知っている。
婚約者が本当は自分を愛していないことを。
これは愛に生きるデイジーが愛のために悪女になり、その愛を守るお話。
☆8000文字以内の完結を目指したい→無理そう。ほんと短編って難しい…→次こそ8000文字を目標にしますT_T
ついで姫の本気
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
国の間で二組の婚約が結ばれた。
一方は王太子と王女の婚約。
もう一方は王太子の親友の高位貴族と王女と仲の良い下位貴族の娘のもので……。
綺麗な話を書いていた反動でできたお話なので救いなし。
ハッピーな終わり方ではありません(多分)。
※4/7 完結しました。
ざまぁのみの暗い話の予定でしたが、読者様に励まされ闇精神が復活。
救いのあるラストになっております。
短いです。全三話くらいの予定です。
↑3/31 見通しが甘くてすみません。ちょっとだけのびます。
4/6 9話目 わかりにくいと思われる部分に少し文を加えました。
公爵令嬢は運命の相手を間違える
あおくん
恋愛
エリーナ公爵令嬢は、幼い頃に決められた婚約者であるアルベルト王子殿下と仲睦まじく過ごしていた。
だが、学園へ通うようになるとアルベルト王子に一人の令嬢が近づくようになる。
アルベルト王子を誑し込もうとする令嬢と、そんな令嬢を許すアルベルト王子にエリーナは自分の心が離れていくのを感じた。
だがエリーナは既に次期王妃の座が確約している状態。
今更婚約を解消することなど出来るはずもなく、そんなエリーナは女に現を抜かすアルベルト王子の代わりに帝王学を学び始める。
そんなエリーナの前に一人の男性が現れた。
そんな感じのお話です。
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。
【完結】ロザリンダ嬢の憂鬱~手紙も来ない 婚約者 vs シスコン 熾烈な争い
buchi
恋愛
後ろ盾となる両親の死後、婚約者が冷たい……ロザリンダは婚約者の王太子殿下フィリップの変容に悩んでいた。手紙もプレゼントも来ない上、夜会に出れば、他の令嬢たちに取り囲まれている。弟からはもう、婚約など止めてはどうかと助言され……
視点が話ごとに変わります。タイトルに誰の視点なのか入っています(入ってない場合もある)。話ごとの文字数が違うのは、場面が変わるから(言い訳)
【完結】あなたのいない世界、うふふ。
やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。
しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。
とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。
===========
感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。
それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール
2度目の結婚は貴方と
朧霧
恋愛
前世では冷たい夫と結婚してしまい子供を幸せにしたい一心で結婚生活を耐えていた私。気がついたときには異世界で「リオナ」という女性に生まれ変わっていた。6歳で記憶が蘇り悲惨な結婚生活を思い出すと今世では結婚願望すらなくなってしまうが騎士団長のレオナードに出会うことで運命が変わっていく。過去のトラウマを乗り越えて無事にリオナは前世から数えて2度目の結婚をすることになるのか?
魔法、魔術、妖精など全くありません。基本的に日常感溢れるほのぼの系作品になります。
重複投稿作品です。(小説家になろう)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる