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しおりを挟む「大丈夫だ、心配するな、な?」
そう言ったウォルの笑顔が引きつっていた。痛みに耐えているような、そんな笑顔。うっすら額が汗ばんでいる。私を抱き上げる手に力が入っている。必死で大事なものを守ろうとする、そんな必死さが私に伝わってくる。
「ウォル」
泣きそうな顔で必死に首を横に振ってる。私はウォルの頬を撫でた。
「ウォル、私は大丈夫だから」
嫌だとウォルは首を横に振る。
「はあぁ、グルーと貴方、邪魔ね。騎士なら外で剣でも交えてきたら?私達は女の子同士仲良く話をするわ」
ウォルが睨む先
「貴女は…、ウォルの……」
「私は王の娘よ?剣も体術もお手のものなの。貴女のお姫様を守るナイトにもなれるからこっちの事は気にしないで。さあ行って。
グルー!」
私は下ろされウォルは無理矢理連れて行かれた。
「メアリ!」
遠くでウォルの声が聞こえる。
「さあ座りましょ」
震える足で私はソファーに座った。
「そんなに怯えないで」
優しい笑顔を向けられた。
「私ね、魂の番になんて会いたくなかったの。それに国を出るつもりもなかったの。王の娘として他国との外交も仕方がないわ。でも…、
私の後ろに立ってた護衛騎士、グルーって言うんだけど、私と彼、幼馴染みでね番になる事が決まっていたの。でもお互いが魂の番じゃなかったわ。それに国には魂の番はいなかった。それは私にもグルーにも…
だから国を出たくなかった…」
目の前の彼女の悲しそうな顔。
「あの模擬試合で戦う貴女の彼を一目見た時に魂の番だって直ぐに分かったわ。でも彼の瞳に映っていたのは貴女だけ、だから私は嬉しかったの。
私は王の娘として幼い頃から色々な耐性を身に付けさせられたわ、媚薬の類やそれこそ毒までもね。剣と体術で本能を抑え込むように鍛えさせられた。
私は分かっていたから、だから魂の番に手を伸ばさなかった。でもね、グルーは私と距離を置いたの。魂の番が見つかったのなら魂の番と番になる方がいいって。
ふっ、全く知らない魂の番のどこを好きになるの?本能が叫ぶから?幸せになれるから?私の幸せは私が決めるわ。私は心を持つ獣人だもの。一緒に過ごした事もない、誰だか分からない、そんな人と幸せになれる?魂の番だからってだけで幸せになれるの?
魂に抗うのは身を裂かれるような痛みが全身を駆け巡るわ。その手を取った方が楽になれるって本能的に分かった。勝手に動く足を力で止めて、それでもその痛みを耐えてでも守りたいものがあるから…。
私はグルーを、彼は貴女を選んだの。
一瞬揺れ動くわ。まるで目の前にいる人に恋い焦がれてるような。でもそれは幻って分かるわ。だってずっと獣ではいられないでしょ。正気に戻った時何に恋い焦がれていたのか相手の顔さえ覚えていないのよ?それを幸せと呼ぶのならそんな幸せ、私はいらない」
「王女様はグルー様が好きなのですね」
「当たり前よ。グルーを番に望んだのは私だもの。
だから貴女の彼が騎士で愛する貴女がいて安堵したの。私が目の前に現れても抗い何もなかったように終われるって。
貴女の彼はまだまだ未熟ね」
目の前に座る王女様も今は穏やかな顔をして話している。それでもさっきまでは険しい顔をしていた。
きっと王女様も全身で抗い戦っていた。
魂の番、ただそれだけで、私とグルー様二人の犠牲の上にある幸せを、王女様もウォルも幸せだと思えるのかしら。幸せだと言えるのかしら。
私とウォルの間に長年の絆があるように、王女様とグルー様にも長年の絆がある。積み重ねてきた思いがある。
絆を心を捨てて魂の番の手を取り本当に幸せになれるのかしら…。
「私の住む国は獣人しかいないの。獣人の子供は人族の子供よりも頑丈な体を持つわ。ある程度の子供になればそれなりに力も強い。でも幼獣の子供は簡単に攫えるの。産まれたばかりは親も神経を尖らせているけど幼獣になると自由にさせる。人族のように家に閉じ込める事はしないの」
確かに遊んでも邸の庭。お互いの家に遊びに行き安全な庭で遊ぶ。邸の外に行く時はお父様やお母様と、そして必ず数人の騎士達が付いている。街へ行った時獣人の子供達は子供達しかいなかった。自由に行きたい所に行く、当たり前の事だったから気にしなかったけど同じ国に住むのに生活は全く違う。
「攫われた子達は奴隷にされたり愛玩具にされるわ。人族のね。
だから私はこの国に来る事になったの。獣人と人族が共に生活しているこの国で人族との付き合い方を見る為に。そして力を借りる為に。
私達獣人は力が武器だけど人族は知恵が武器でしょ?だからその力を借りに来たの。違う国にも行ったわ。でも他の国は獣人と人族の間に隔てる壁があった。共に生活している国はこの国だけだったわ。
この国は素晴らしい国ね」
「ありがとうございます」
「だからこそはっきりさせないといけなかったの」
遠くを見つめる王女様の瞳に強い意志が見えた。
知恵を借りるという事はこれからもこの国と繋がるという事。そしてこの国にはウォルが居る。
グルー様はウォルと番になれと言い、王女様はグルー様と番になりたい。
だからグルー様の目の前で必死に抗った。
王女様の服に血が滲んでいる。きっとウォルと同じ。握った手のひらから流れた血。
奥底にある魂ではなく心を選びたいと、愛するのはあなただと…。
それは魂を振り切ろうと戦った証…
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