18 / 24
18 ウォル視点
しおりを挟むいきなりメアリと引き離され王宮の庭に連れて来られた。
「お前がサニーの番としてサニーを護れるか俺が相手してやる」
目の前の男は腰から剣を抜いた。
「俺が護るのはメアリだけだ。お前があの女を今まで通り護ればいいだろ」
「魂の番が現れたなら、そしてお前がその魂なら、お前が護るべきだ」
いきなり剣を振りかざし俺も腰から剣を抜き剣を交わす。
カンカンと剣が交わる音が響きわたる。
「魂、魂って、本能が求めているだけでそれは俺の心じゃない。俺達は本能と理性を持つ獣人だ。お前のそれは本能か?理性か?
それはただの嫉妬だ!」
「お前に何が分かる」
「ならどうして俺に殺気を向けた。あの女の魂の番が俺だったからだろ?俺を殺したいほど憎いからだろ?
お前は魂の番同士が必ず幸せになれるとそう思っているのか?」
「より良い種に恵まれる」
「子孫繁栄は獣の本能だ。だがな、魂の番の子が必ずしも優秀なのか?俺の父上と母上は魂の番じゃない。獣人の中でどれだけの獣人が魂の番と出会い番になると思う。そんなの一握りだ。ほとんどが魂の番じゃない者と番になる。それでも幸せに暮している。それに魂の番だから幸せになれるとは限らない。
どんな両親の元に産まれてもその後は己の努力次第だ。お前の強さも努力の賜物なんじゃないのか!あの女を護る為に努力した結果じゃないのか!」
振り下ろされる剣に力が入ったのが分かった。目の前の男の無表情だった顔が悔しそうな顔になり俺を睨んだ。
「お前が努力して得た強さは王の娘だからか?愛しい人だからか?お前が護りたいものは何だ。
お前は俺の愛しい人に俺のメアリにも殺気を向けた。だから俺はお前を許さない。どれだけ力の差があろうと俺は戦う。それが護るっていう事だ。それが愛しい人を命がけで護るっていう事だ。
お前は今まであの女を命がけで護ってきたんじゃないのか。護る為に強くなったんじゃないのか。他の奴じゃない自分で護りたいと思ったからじゃないのか。それを魂の番だからって譲れるのか。お前の思いはそんな安っぽいものなのか。
お前も俺と同じ狼獣人だ。愛する者を手放したくないんじゃないのか」
「お前さえ、お前さえ現れなければ…」
「俺には考えられない。メアリが俺以外の男と幸せになるなんて、そんなの許さない。奪ってでも俺が幸せにしたい。
お前は違うのか?
お前は自分じゃない他の男と幸せそうにしている所を見守れるのか?自分が幸せにしたいと思わないのか?」
「王の娘だぞ」
「俺は異種族の人だ」
「どうして人族なんかを」
「魂だとか獣人だとか人族だとか王の娘だとか、誰かを好きに愛するのにそんなものが大事なのか?
俺はウォルという一人の男で俺の愛しい人はメアリという一人の女だ。立場や種族なんてそんなの関係ない。俺達狼獣人に流れる血は愛しい人を命がけで護る、それだけじゃないのか。
俺は俺が愛しいと思うメアリを俺の手で護り幸せにしたい。お前が護り幸せにしたい愛しい人は誰だ」
男の剣が止まり剣を鞘に戻した。俺も剣を鞘に戻し男と向き合う。
「俺に譲れない思いがあるように、あんたにも譲れない思いがあるんじゃないのか?
あんたが言うように子孫繁栄は我々獣人にとって使命のようなものだ。獣の本能、発情期もその一つだ。でも俺は子孫繁栄なんて望まない。俺は例え自分の子供でも愛する人を取られるのは嫌だ。俺にとってメアリだけ側に居てくれればいい。メアリの愛を全部を俺だけのものにしたい。例え愛する我が子でもメアリの愛を温もりを分け与えたくはない。
これが一人の男として譲れない思いだ。そしてそれが俺だ。
俺達に流れる血は愛に一途だ。番にしたいと望む愛する人は一人。俺は初めて会った時から番にしたいと思った。お前はどうなんだ?」
「そんなの俺もだ」
「それを魂だからって諦められるのか?今更渡せるか?自分の愛情を注いで常に側で護ってきて今更手が離せるか?
俺には無理だ。
お前がこだわる魂の番、それはお前にだっているかもしれないだろ。お前は誰だか分からない魂の番が現れたらあの女よりも魂を取るのか?
魂が引き付けられるように惹かれても、自分が好きになり愛した気持ちはいつまでも残る。愛しい人を思う心を完全には消せない。心で誰を思っていても魂だから幸せになれるとは俺は思えない。心も俺の一部だからだ」
「ならお前はあの人族と幸せになれるとそう思うのか」
「なれる。隣に居るだけで俺は幸せになれる。だから俺がメアリを幸せにするんだ」
「人族は俺達獣人を低能だと見下すのにか」
「この国では獣人を見下す者はいない。確かに獣人嫌いは少数だがいる。だけど関わらなければお互い害にはならない。そもそも獣人嫌いは俺達に近寄っても来ないさ」
はるか昔、この国で獣人と人が一緒に暮らし始めた時の王の言葉
『大事なのは容姿ではない。他者を認める事だ』
幼い頃から自然と教えられる。獣人と人、一緒に暮らす仲間。
同じ種族しか認められない者はいる。でもそれを認める。関わりは自分で選べばいい。それが共に暮らすという事だ。
7
あなたにおすすめの小説
〈完結〉デイジー・ディズリーは信じてる。
ごろごろみかん。
恋愛
デイジー・ディズリーは信じてる。
婚約者の愛が自分にあることを。
だけど、彼女は知っている。
婚約者が本当は自分を愛していないことを。
これは愛に生きるデイジーが愛のために悪女になり、その愛を守るお話。
☆8000文字以内の完結を目指したい→無理そう。ほんと短編って難しい…→次こそ8000文字を目標にしますT_T
ついで姫の本気
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
国の間で二組の婚約が結ばれた。
一方は王太子と王女の婚約。
もう一方は王太子の親友の高位貴族と王女と仲の良い下位貴族の娘のもので……。
綺麗な話を書いていた反動でできたお話なので救いなし。
ハッピーな終わり方ではありません(多分)。
※4/7 完結しました。
ざまぁのみの暗い話の予定でしたが、読者様に励まされ闇精神が復活。
救いのあるラストになっております。
短いです。全三話くらいの予定です。
↑3/31 見通しが甘くてすみません。ちょっとだけのびます。
4/6 9話目 わかりにくいと思われる部分に少し文を加えました。
公爵令嬢は運命の相手を間違える
あおくん
恋愛
エリーナ公爵令嬢は、幼い頃に決められた婚約者であるアルベルト王子殿下と仲睦まじく過ごしていた。
だが、学園へ通うようになるとアルベルト王子に一人の令嬢が近づくようになる。
アルベルト王子を誑し込もうとする令嬢と、そんな令嬢を許すアルベルト王子にエリーナは自分の心が離れていくのを感じた。
だがエリーナは既に次期王妃の座が確約している状態。
今更婚約を解消することなど出来るはずもなく、そんなエリーナは女に現を抜かすアルベルト王子の代わりに帝王学を学び始める。
そんなエリーナの前に一人の男性が現れた。
そんな感じのお話です。
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。
【完結】ロザリンダ嬢の憂鬱~手紙も来ない 婚約者 vs シスコン 熾烈な争い
buchi
恋愛
後ろ盾となる両親の死後、婚約者が冷たい……ロザリンダは婚約者の王太子殿下フィリップの変容に悩んでいた。手紙もプレゼントも来ない上、夜会に出れば、他の令嬢たちに取り囲まれている。弟からはもう、婚約など止めてはどうかと助言され……
視点が話ごとに変わります。タイトルに誰の視点なのか入っています(入ってない場合もある)。話ごとの文字数が違うのは、場面が変わるから(言い訳)
【完結】あなたのいない世界、うふふ。
やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。
しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。
とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。
===========
感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。
それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール
2度目の結婚は貴方と
朧霧
恋愛
前世では冷たい夫と結婚してしまい子供を幸せにしたい一心で結婚生活を耐えていた私。気がついたときには異世界で「リオナ」という女性に生まれ変わっていた。6歳で記憶が蘇り悲惨な結婚生活を思い出すと今世では結婚願望すらなくなってしまうが騎士団長のレオナードに出会うことで運命が変わっていく。過去のトラウマを乗り越えて無事にリオナは前世から数えて2度目の結婚をすることになるのか?
魔法、魔術、妖精など全くありません。基本的に日常感溢れるほのぼの系作品になります。
重複投稿作品です。(小説家になろう)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる