心は誰を選ぶのか

アズやっこ

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18 ウォル視点

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いきなりメアリと引き離され王宮の庭に連れて来られた。


「お前がサニーの番としてサニーを護れるか俺が相手してやる」


目の前の男は腰から剣を抜いた。


「俺が護るのはメアリだけだ。お前があの女を今まで通り護ればいいだろ」

「魂の番が現れたなら、そしてお前がその魂なら、お前が護るべきだ」


いきなり剣を振りかざし俺も腰から剣を抜き剣を交わす。

カンカンと剣が交わる音が響きわたる。


「魂、魂って、本能が求めているだけでそれは俺の心じゃない。俺達は本能と理性を持つ獣人だ。お前のそれは本能か?理性か?

それはただの嫉妬だ!」

「お前に何が分かる」

「ならどうして俺に殺気を向けた。あの女の魂の番が俺だったからだろ?俺を殺したいほど憎いからだろ?

お前は魂の番同士が必ず幸せになれるとそう思っているのか?」

「より良い種に恵まれる」

「子孫繁栄は獣の本能だ。だがな、魂の番の子が必ずしも優秀なのか?俺の父上と母上は魂の番じゃない。獣人の中でどれだけの獣人が魂の番と出会い番になると思う。そんなの一握りだ。ほとんどが魂の番じゃない者と番になる。それでも幸せに暮している。それに魂の番だから幸せになれるとは限らない。

どんな両親の元に産まれてもその後は己の努力次第だ。お前の強さも努力の賜物なんじゃないのか!あの女を護る為に努力した結果じゃないのか!」


振り下ろされる剣に力が入ったのが分かった。目の前の男の無表情だった顔が悔しそうな顔になり俺を睨んだ。


「お前が努力して得た強さは王の娘だからか?愛しい人だからか?お前が護りたいものは何だ。

お前は俺の愛しい人に俺のメアリにも殺気を向けた。だから俺はお前を許さない。どれだけ力の差があろうと俺は戦う。それが護るっていう事だ。それが愛しい人を命がけで護るっていう事だ。

お前は今まであの女を命がけで護ってきたんじゃないのか。護る為に強くなったんじゃないのか。他の奴じゃない自分で護りたいと思ったからじゃないのか。それを魂の番だからって譲れるのか。お前の思いはそんな安っぽいものなのか。

お前も俺と同じ狼獣人だ。愛する者を手放したくないんじゃないのか」

「お前さえ、お前さえ現れなければ…」

「俺には考えられない。メアリが俺以外の男と幸せになるなんて、そんなの許さない。奪ってでも俺が幸せにしたい。

お前は違うのか?

お前は自分じゃない他の男と幸せそうにしている所を見守れるのか?自分が幸せにしたいと思わないのか?」

「王の娘だぞ」

「俺は異種族の人だ」

「どうして人族なんかを」

「魂だとか獣人だとか人族だとか王の娘だとか、誰かを好きに愛するのにそんなものが大事なのか?

俺はウォルという一人の男で俺の愛しい人はメアリという一人の女だ。立場や種族なんてそんなの関係ない。俺達狼獣人に流れる血は愛しい人を命がけで護る、それだけじゃないのか。

俺は俺が愛しいと思うメアリを俺の手で護り幸せにしたい。お前が護り幸せにしたい愛しい人は誰だ」


男の剣が止まり剣を鞘に戻した。俺も剣を鞘に戻し男と向き合う。


「俺に譲れない思いがあるように、あんたにも譲れない思いがあるんじゃないのか?

あんたが言うように子孫繁栄は我々獣人にとって使命のようなものだ。獣の本能、発情期もその一つだ。でも俺は子孫繁栄なんて望まない。俺は例え自分の子供でも愛する人を取られるのは嫌だ。俺にとってメアリだけ側に居てくれればいい。メアリの愛を全部を俺だけのものにしたい。例え愛する我が子でもメアリの愛を温もりを分け与えたくはない。

これが一人の男として譲れない思いだ。そしてそれが俺だ。

俺達に流れる血は愛に一途だ。番にしたいと望む愛する人は一人。俺は初めて会った時から番にしたいと思った。お前はどうなんだ?」

「そんなの俺もだ」

「それを魂だからって諦められるのか?今更渡せるか?自分の愛情を注いで常に側で護ってきて今更手が離せるか?

俺には無理だ。

お前がこだわる魂の番、それはお前にだっているかもしれないだろ。お前は誰だか分からない魂の番が現れたらあの女よりも魂を取るのか?

魂が引き付けられるように惹かれても、自分が好きになり愛した気持ちはいつまでも残る。愛しい人を思う心を完全には消せない。心で誰を思っていても魂だから幸せになれるとは俺は思えない。心も俺の一部だからだ」

「ならお前はあの人族と幸せになれるとそう思うのか」

「なれる。隣に居るだけで俺は幸せになれる。だから俺がメアリを幸せにするんだ」

「人族は俺達獣人を低能だと見下すのにか」

「この国では獣人を見下す者はいない。確かに獣人嫌いは少数だがいる。だけど関わらなければお互い害にはならない。そもそも獣人嫌いは俺達に近寄っても来ないさ」



はるか昔、この国で獣人と人が一緒に暮らし始めた時の王の言葉

『大事なのは容姿ではない。他者を認める事だ』


幼い頃から自然と教えられる。獣人と人、一緒に暮らす仲間。

同じ種族しか認められない者はいる。でもそれを認める。関わりは自分で選べばいい。それが共に暮らすという事だ。



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