心は誰を選ぶのか

アズやっこ

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「さぁ迎えに行きましょうか」


王女様が立ち上がり私も立ち上がった。部屋を出てウォル達が居る所まで向かう。


「どこにいるんでしょうか」

「大丈夫よ、私には鼻があるから」


王女様は自分の鼻を指した。私よりも鼻が利く王女様ならウォル達の居場所は直ぐに分かると思う。


「貴女、私が怖くないの?」


歩きながら王女様が話しかけてきた。


「怖いです。でもそれは獣人だからではなくウォルの魂の番だからです。でも私にも譲れない思いがあります。ウォルを王女様に渡したくないという気持ちがあります。後悔は一度だけでいいので」

「そうね、貴女は早々に逃げ出したものね」

「はい、あの時逃げたから自分の中でウォルがどんな存在か気付けました。

だから今度は逃げません。貴女にウォルは渡しません。最後まで私も戦います。自分の為にもウォルの為にも」

「貴女なら彼を止めれるわ」

「………私はずっと怯えていました。ウォルの魂の番が現れたらとそしてそれは誰か…。心変わりは見ていれば分かります。それなりに心の準備が出来ますが、魂は突然現れそれまでの関係を壊します。

抗う事はそんな簡単な事ではないと思いますが、それでも私も一緒に背負いたい。痛みを和らげる事は出来ます。側で支える事も出来ます」


私は足を止め王女様に向き合った。そして王女様の両手を握り王女様の手のひらを上に向かせた。


「王女様が耐えたこの痛みウォルが耐えた痛み、私は知らないといけません」


血はもう止まっていたけど爪が食い込んだ跡は残っている。


「抗う為に自身を傷つけないといけない、そこまでしてでも抗いたい心を気持ちを私は目をそらさず見ないといけません。

この傷はグルー様の為にウォルの傷は私の為に付いた傷ですから。そして今からも傷を付ける事になります。もしかしたら今後も…」

「それは、」

「頑丈な体だけの理由で理不尽な扱いを受けるのは違います。今理不尽な扱いを受けている子を助ける為にも今後防ぐ為にも、知恵でも何でも借りれるものは借りればいいと思います。そして助けが必要な時に手を差し出せばいいんです。皆助け合いながら生きています。自分達の出来る範囲で助け合う、そんなのお互い様ではありませんか」

「でもそうなると今後もこの国へ来る頻度が多くなるわよ」

「はい、私も戦います。ウォルを繋ぎ止める為にウォルを渡さない為に、王女様がウォルの魂の番だと認め、それでも私を選んでもらう為に私は私のすべき事をします」

「彼は幸せ者ね」

「もう隠したくないんです。私はずっと怯え隠す事で傷つかないように自分を守ってきました。でもそれは愛を伝え続けてくれるウォルを不安にさせていたんだと気付いたんです。ウォルを思うこの気持ちは嘘偽りない私の心です。ウォルに隠さないといけない思いではありません。

それに幸せ者は私の方です。ウォルの愛に包まれて護られてきたんですから。

王女様もそうではありませんか?グルー様の愛に包まれて護られてきたのではありませんか?」

「ええ、そうよ」


そう言って王女様は幸せそうな笑みを私に向けた。


遠くにウォルの姿を見つけた。


「ウォル」


ウォルの姿を見つけ安心し思わず呟いた。

ウォルには聞こえない大きさの声。それなのにウォルは私に一直線で走ってきた。


「メアリ大丈夫か」


私を抱きしめるウォル。


「ただ話をしていただけよ。王女様は素晴らしい人よ?」

「メアリ?」


不安そうな顔をしたウォルの頬に手を添えた。


「ウォル大好きよ」

「メアリ!俺の方が大好きだ」


私を包み込むように抱きしめるウォル。ウォルは私の肩に顔を埋め私の首にスリスリしている。


「彼は貴女しか見えていないわね」


王女様の呆れた声が聞こえた。


「ねぇグルー、この二人を見ても魂だからって幸せになれると思う?この二人を引き離して手にする幸せってなに?

グルーは私が不幸になればいいと思ってるの?」

「そんなわけないだろ」

「ならもう魂の番の話はしないで。私の幸せは私が決めるわ」


王女様とグルー様は向き合い話している。王女様の気持ちはもう知っている。抗う強さも一人の女性として魅力的な事も。

グルー様はずっと側で支えてきた。魂に怯える気持ちは分かる。でもそれは王女様も同じ。『そんなわけないだろ』と言ったグルー様の言葉に嘘はない。だからこそグルー様も早く気付いてほしい。

幸せとは何か。

どれだけ言葉で偽っても心を偽る事はできないのだから…。



「貴方達騎士として挨拶はしたの?」


ウォルもグルー様も『ん?』という顔をしている。


「剣で始まり剣で終わる。礼は騎士の基本でしょ。貴方達それでも騎士なの?」


グルー様が鞘から剣を抜き、ウォルも私を離し鞘から剣を抜きお互い向かい合う。


王女様は私を抱きしめウォル達に聞こえないように耳元で囁いた。


「ごめんなさい。今回グルーに分かってもらう為に貴女達を利用したわ」


私は首を横に振った。


「私も私自身の気持ちも覚悟も持てるようになりました。

グルー様とお幸せに」

「貴女も」


王女様は私を離しグルー様と王宮の中に入って行った。


後はグルー様の覚悟さえできれば、早く持てるように、そしてお二人の幸せを、遠く離れた空の下から願っています。



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