20 / 24
20 完
しおりを挟む「ウォル手を見せて」
ウォルは咄嗟に左手を隠した。
「大丈夫だ」
私は後ろに隠したウォルの左手を握り手のひらを見る。
「これは傷じゃない」
「うん、これは私の為に戦った証…」
右腕には今も残る私を護って出来た傷痕。左手の手のひらには抗ってついた傷。
私はいつもウォルに傷を残す。まるで貴方は私のものよと刻印するように…。
「メアリの為じゃない、俺の為だ。俺がメアリを手放せないからだ」
「そうね、でも私もウォルを手放せないもの。だからこの証は私のものよ」
私は手のひらに口付けをした。
本能よりも心を選んだウォルが戦った証がとても愛しいと思った。
「メアリ愛してる。俺が愛しているのはメアリだけだ」
ウォルは私を抱きしめた。ウォルの背中に腕を回しウォルの体温を感じようやく安心した。ようやく戻ってこれたと、包み込むように抱きしめるこの懐に、この場所が私の居場所だと心からそう思った。
「私もウォルを愛してる」
ウォルは私の頭に顔を乗せた。
「はあぁぁ、長かった…」
「でも必要な長さだったわ。ようやくウォルの番になる覚悟が出来たんだもの」
ウォルは私の両肩に手を置き私と顔を見合わせる。
「本当か?もう取り消せないぞ」
「ふふっ、取り消さないわよ。ウォルが抗ったように私も戦うって決めたの。それにもうウォルに気持ちを隠したりしたくないの」
「メアリ」
ウォルは私を抱き上げ
「本当にメアリは最高の女性だ」
私を見上げるウォルの頬に私は手を添えた。
「ウォルも最高の男性よ」
見つめ合う瞳。自然と近づき口付けをした。
「ウォル」
ウォルを呼ぶ声に私達は振り向いた。
「父上」
「お父様」
お父様とおじさまが私達の元へ向かって歩いて来た。
ウォルは私を下ろし私の手を握った。
「ウォル君、君を試すような真似をしてすまなかった」
お父様は頭を下げた。
「止めてください。試されても仕方がない事を俺がしたんです。俺が侯爵の信用を失くしたんです」
「そうだぞ、こいつが全て悪い」
「父上…」
「お前はまだ未熟だ。だがなそれは言い訳にはならない。一番泣かしてはいけない愛しい人を泣かしたんだ」
「分かってます」
「お前も未熟のままではいられないだろ?」
「勿論です」
ウォルはお父様の前に立った。
「侯爵、貴方の大事なメアリを俺の番にする事を許して下さい。絶対にもう泣かしません。この先何があっても絶対にメアリの手を離さないと約束します。これからは俺が命がけでメアリを護ります」
「メアリはどうなんだ?」
お父様と目が合い
「私もウォルの番になりたいです。今後また何かがあっても自分の気持ちを見失ったり偽ったりせず私も戦います。
私の幸せはウォルの側にあるから」
「そうか…。私が反対する理由はないな」
お父様は私を抱きしめた。
「幸せになりなさい」
「お父様……」
お父様の少し悲しそうな顔に涙が出そうになった。一人娘としてお父様とお母様の愛情をたくさん貰ってきた。私の幸せを一番に考えてくれて、私がウォルを選んでも反対しなかった。
私はどれだけ恵まれているんだろう…
「お父様ありがとう…」
私の頭を撫でるお父様の温かい手に涙が頬を伝った。
「感動の所悪いがもうそろそろ私も出て行ってもいいだろうか」
その声に一斉に礼をする。
「グルフ家ウォル、ハーデス侯爵家メアリ」
「「はい陛下」」
「ここに一組の夫婦が誕生した事を心から祝う。それと同時に二人を見ていて私も考えさせられたよ。
貴族制や家制は元々人と獣人の性質に合わせて決められた法だ。同じ国に住むと言っても生活は違う。種族に合わせた法、それらを変える事は出来ない。それに皆を纏める者は必要だ。
が、
各家を纏める長が獣人と人から産まれた子でも、女性でも、問題はないと思わないか?」
「ですが先人達が、」
「ああ、だが何百年も前の先人達が生きていた時と今とでは生活が違う。人と獣人、昔は同じ国に住む仲間であってそこに愛は生まれなかった。だが今は君達もだが人と獣人に愛が生まれている。
私は異種族の婚姻を認めている。
変えてはいけないものは勿論あるが変えられるものもあると私は思う」
前陛下がまだご存命の頃、人と獣人の夫婦は婚姻も認められず日陰者の暮らしだった。それを変えたのはまだ幼い王子だった陛下の一言だった。
『どうしてこの人達はこそこそと暮しているの?それにどうしてみんなはこの人達をじろじろ見るの?
大事なものは見た目じゃなくて認める事でしょ?この人達も僕と同じ命ある生きものなのに、自分達とは違うからって仲間はずれはしちゃいけないんだよ?』
王になる者に代々受け継げられるこの国の理念。
王子だった陛下は獣人と人の夫婦の元へ度々通ったと聞く。
「侯爵、これから忙しくなるぞ」
「そうですね陛下」
陛下は楽しそうな顔で笑った。
半年後、
私とウォルはお互いの両親が見守る中、幼い頃から夢だった結婚式を挙げた。
結婚式を挙げた私達は降り注ぐ色とりどりの花びらを浴びお互いの親族や使用人達に見守られながら夫婦になり番になった。
グルフ家とハーデス家の間に私達の愛の巣があり、ウォルが言ったように二人きりの生活が始まった。
ウォルは今日も朝から尻尾を揺らし朝食の準備をしている。私はその姿を椅子に座り眺めている。
「さあメアリ食べようか」
ウォルは私を膝の上に座らせ食べやすいように一口づつ私の口へ運ぶ。
「メアリ口開けて」
私は言われるまま口を開ける。
私の首筋に残る真新しいウォルが残した跡。ウォルはその跡を撫でながらうっとりとした瞳で見つめている。
「……甘かったな…」
「そう?ちょうど良い甘さよ?
いつもありがとうウォル」
幸せそうに笑うウォルの顔を見て、私も幸せになった。
「幸せだ」
「うん、私も幸せ」
私を包み込むように抱きしめるウォルの胸に私は顔を埋めた。
この幸せを絶対に守りたい。
この愛しい人とこれからも愛を紡ぐ為に…
完
❈ こちらで番外編を投稿予定です。お付き合い頂けると嬉しいです。
52
あなたにおすすめの小説
〈完結〉デイジー・ディズリーは信じてる。
ごろごろみかん。
恋愛
デイジー・ディズリーは信じてる。
婚約者の愛が自分にあることを。
だけど、彼女は知っている。
婚約者が本当は自分を愛していないことを。
これは愛に生きるデイジーが愛のために悪女になり、その愛を守るお話。
☆8000文字以内の完結を目指したい→無理そう。ほんと短編って難しい…→次こそ8000文字を目標にしますT_T
ついで姫の本気
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
国の間で二組の婚約が結ばれた。
一方は王太子と王女の婚約。
もう一方は王太子の親友の高位貴族と王女と仲の良い下位貴族の娘のもので……。
綺麗な話を書いていた反動でできたお話なので救いなし。
ハッピーな終わり方ではありません(多分)。
※4/7 完結しました。
ざまぁのみの暗い話の予定でしたが、読者様に励まされ闇精神が復活。
救いのあるラストになっております。
短いです。全三話くらいの予定です。
↑3/31 見通しが甘くてすみません。ちょっとだけのびます。
4/6 9話目 わかりにくいと思われる部分に少し文を加えました。
公爵令嬢は運命の相手を間違える
あおくん
恋愛
エリーナ公爵令嬢は、幼い頃に決められた婚約者であるアルベルト王子殿下と仲睦まじく過ごしていた。
だが、学園へ通うようになるとアルベルト王子に一人の令嬢が近づくようになる。
アルベルト王子を誑し込もうとする令嬢と、そんな令嬢を許すアルベルト王子にエリーナは自分の心が離れていくのを感じた。
だがエリーナは既に次期王妃の座が確約している状態。
今更婚約を解消することなど出来るはずもなく、そんなエリーナは女に現を抜かすアルベルト王子の代わりに帝王学を学び始める。
そんなエリーナの前に一人の男性が現れた。
そんな感じのお話です。
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。
【完結】ロザリンダ嬢の憂鬱~手紙も来ない 婚約者 vs シスコン 熾烈な争い
buchi
恋愛
後ろ盾となる両親の死後、婚約者が冷たい……ロザリンダは婚約者の王太子殿下フィリップの変容に悩んでいた。手紙もプレゼントも来ない上、夜会に出れば、他の令嬢たちに取り囲まれている。弟からはもう、婚約など止めてはどうかと助言され……
視点が話ごとに変わります。タイトルに誰の視点なのか入っています(入ってない場合もある)。話ごとの文字数が違うのは、場面が変わるから(言い訳)
【完結】あなたのいない世界、うふふ。
やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。
しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。
とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。
===========
感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。
それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール
2度目の結婚は貴方と
朧霧
恋愛
前世では冷たい夫と結婚してしまい子供を幸せにしたい一心で結婚生活を耐えていた私。気がついたときには異世界で「リオナ」という女性に生まれ変わっていた。6歳で記憶が蘇り悲惨な結婚生活を思い出すと今世では結婚願望すらなくなってしまうが騎士団長のレオナードに出会うことで運命が変わっていく。過去のトラウマを乗り越えて無事にリオナは前世から数えて2度目の結婚をすることになるのか?
魔法、魔術、妖精など全くありません。基本的に日常感溢れるほのぼの系作品になります。
重複投稿作品です。(小説家になろう)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる