心は誰を選ぶのか

アズやっこ

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20 完

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「ウォル手を見せて」


ウォルは咄嗟に左手を隠した。


「大丈夫だ」


私は後ろに隠したウォルの左手を握り手のひらを見る。


「これは傷じゃない」

「うん、これは私の為に戦った証…」


右腕には今も残る私を護って出来た傷痕。左手の手のひらには抗ってついた傷。

私はいつもウォルに傷を残す。まるで貴方は私のものよと刻印するように…。


「メアリの為じゃない、俺の為だ。俺がメアリを手放せないからだ」

「そうね、でも私もウォルを手放せないもの。だからこの証は私のものよ」


私は手のひらに口付けをした。

本能よりも心を選んだウォルが戦った証がとても愛しいと思った。


「メアリ愛してる。俺が愛しているのはメアリだけだ」


ウォルは私を抱きしめた。ウォルの背中に腕を回しウォルの体温を感じようやく安心した。ようやく戻ってこれたと、包み込むように抱きしめるこの懐に、この場所が私の居場所だと心からそう思った。


「私もウォルを愛してる」


ウォルは私の頭に顔を乗せた。


「はあぁぁ、長かった…」

「でも必要な長さだったわ。ようやくウォルの番になる覚悟が出来たんだもの」


ウォルは私の両肩に手を置き私と顔を見合わせる。


「本当か?もう取り消せないぞ」

「ふふっ、取り消さないわよ。ウォルが抗ったように私も戦うって決めたの。それにもうウォルに気持ちを隠したりしたくないの」

「メアリ」


ウォルは私を抱き上げ


「本当にメアリは最高の女性だ」


私を見上げるウォルの頬に私は手を添えた。


「ウォルも最高の男性よ」


見つめ合う瞳。自然と近づき口付けをした。



「ウォル」


ウォルを呼ぶ声に私達は振り向いた。


「父上」

「お父様」


お父様とおじさまが私達の元へ向かって歩いて来た。

ウォルは私を下ろし私の手を握った。


「ウォル君、君を試すような真似をしてすまなかった」


お父様は頭を下げた。


「止めてください。試されても仕方がない事を俺がしたんです。俺が侯爵の信用を失くしたんです」

「そうだぞ、こいつが全て悪い」

「父上…」

「お前はまだ未熟だ。だがなそれは言い訳にはならない。一番泣かしてはいけない愛しい人を泣かしたんだ」

「分かってます」

「お前も未熟のままではいられないだろ?」

「勿論です」


ウォルはお父様の前に立った。


「侯爵、貴方の大事なメアリを俺の番にする事を許して下さい。絶対にもう泣かしません。この先何があっても絶対にメアリの手を離さないと約束します。これからは俺が命がけでメアリを護ります」

「メアリはどうなんだ?」


お父様と目が合い


「私もウォルの番になりたいです。今後また何かがあっても自分の気持ちを見失ったり偽ったりせず私も戦います。

私の幸せはウォルの側にあるから」

「そうか…。私が反対する理由はないな」


お父様は私を抱きしめた。


「幸せになりなさい」

「お父様……」


お父様の少し悲しそうな顔に涙が出そうになった。一人娘としてお父様とお母様の愛情をたくさん貰ってきた。私の幸せを一番に考えてくれて、私がウォルを選んでも反対しなかった。

私はどれだけ恵まれているんだろう…


「お父様ありがとう…」


私の頭を撫でるお父様の温かい手に涙が頬を伝った。



「感動の所悪いがもうそろそろ私も出て行ってもいいだろうか」


その声に一斉に礼をする。


「グルフ家ウォル、ハーデス侯爵家メアリ」

「「はい陛下」」

「ここに一組の夫婦が誕生した事を心から祝う。それと同時に二人を見ていて私も考えさせられたよ。

貴族制や家制は元々人と獣人の性質に合わせて決められた法だ。同じ国に住むと言っても生活は違う。種族に合わせた法、それらを変える事は出来ない。それに皆を纏める者は必要だ。

が、

各家を纏める長が獣人と人から産まれた子でも、女性でも、問題はないと思わないか?」

「ですが先人達が、」

「ああ、だが何百年も前の先人達が生きていた時と今とでは生活が違う。人と獣人、昔は同じ国に住む仲間であってそこに愛は生まれなかった。だが今は君達もだが人と獣人に愛が生まれている。

私は異種族の婚姻を認めている。

変えてはいけないものは勿論あるが変えられるものもあると私は思う」


前陛下がまだご存命の頃、人と獣人の夫婦は婚姻も認められず日陰者の暮らしだった。それを変えたのはまだ幼い王子だった陛下の一言だった。

『どうしてこの人達はこそこそと暮しているの?それにどうしてみんなはこの人達をじろじろ見るの?

大事なものは見た目じゃなくて認める事でしょ?この人達も僕と同じ命ある生きものなのに、自分達とは違うからって仲間はずれはしちゃいけないんだよ?』


王になる者に代々受け継げられるこの国の理念。

王子だった陛下は獣人と人の夫婦の元へ度々通ったと聞く。


「侯爵、これから忙しくなるぞ」

「そうですね陛下」


陛下は楽しそうな顔で笑った。



半年後、

私とウォルはお互いの両親が見守る中、幼い頃から夢だった結婚式を挙げた。

結婚式を挙げた私達は降り注ぐ色とりどりの花びらを浴びお互いの親族や使用人達に見守られながら夫婦になり番になった。


グルフ家とハーデス家の間に私達の愛の巣があり、ウォルが言ったように二人きりの生活が始まった。

ウォルは今日も朝から尻尾を揺らし朝食の準備をしている。私はその姿を椅子に座り眺めている。


「さあメアリ食べようか」


ウォルは私を膝の上に座らせ食べやすいように一口づつ私の口へ運ぶ。


「メアリ口開けて」


私は言われるまま口を開ける。

私の首筋に残る真新しいウォルが残した跡。ウォルはその跡を撫でながらうっとりとした瞳で見つめている。


「……甘かったな…」

「そう?ちょうど良い甘さよ?

いつもありがとうウォル」


幸せそうに笑うウォルの顔を見て、私も幸せになった。


「幸せだ」

「うん、私も幸せ」


私を包み込むように抱きしめるウォルの胸に私は顔を埋めた。


この幸せを絶対に守りたい。

この愛しい人とこれからも愛を紡ぐ為に…




             完



 ❈ こちらで番外編を投稿予定です。お付き合い頂けると嬉しいです。


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