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番外編 サニー
しおりを挟む国へ帰る途中、野原に座って休憩をしている。
「良かったのか」
私の隣に座ったグルーを睨んだのは仕方がない。
良かったのか?この男は…、呆れてものが言えないわ。
私は立ち上がった。この馬鹿とは今は一緒に居たくない。
「どこへ行く」
私の手首を掴むグルーの手を振り払おうとした。
「……俺の、側から離れるな。危ないだろ」
「今は一人になりたいの」
「お前は王の娘だぞ。何かあったらどうする」
「そこら辺の男よりは強いと思うけど」
「駄目だ。ここからは俺の前に座れ。その手じゃ手綱を握るのも辛いだろ」
両手に巻かれた包帯の事を言っているんだろうけど…。
「このくらい平気よ、私は王の娘だもの」
「サニー!」
「手を離して」
「お前は昔から平気なふりをする。あの時だって…」
幼い頃から毒に慣れるように何度も何度も毒を飲まされた。死にそうになったのは一度や二度じゃない。どんなに苦しみもがいても毒消しの薬は貰えなかった。
いつも青白い顔をしている私をグルーはいつも心配していた。いつからか毒を飲む時は側に居てくれて手を握ってくれていた。私の手を握るグルーの手はいつも震えていて泣きそうな顔をしていた。
私はグルーが泣きそうな顔を見せるから気丈に振る舞っていた。
『こんなの平気よ。2~3日すれば元気になるわ』
毒を飲み始めた時は1ヶ月以上寝込んだ。毒の耐性が付き始めたらだんだん寝込む日にちは少なくなっていった。それでも2~3日は寝込まないといけないけど。
でもある時急変して私は一週間目を覚まさなかった。
この時からグルーは変わった。剣の稽古も体術の稽古も傷だらけになりながらくたくたになるまで指導を受けるようになった。
グルーは元々根の優しい男の子だった。争いを嫌い相手を傷つける剣を嫌っていた。
『サニーは女の子なのに傷が残ったらどうするの?』
王の娘というだけで剣の稽古も体術の稽古もさせられた。本当は私だって稽古なんてしたくない。でもそれは許されなかった。
王の娘だから本能を抑える為に厳しい指導を受けさせられた。そこにグルーも混ざりグルーはメキメキと剣の腕を上げていった。
そして私の護衛騎士になった。
私は根が優しいグルーだった頃から大好きなの。強さが象徴の獣人の中でグルーは弱者だった。それでも優しい心を持っていた。
毒の時も剣の稽古の時も、私の周りにいる大人は私を見ていなかった。
王の子供なら耐えなさい
王の子供ならこれくらい出来て当たり前
父様と私は違うわ。それに兄様のように体格も大きくない。
誰も私自身を見てくれる人はいなかった。
でもグルーはいつも心配そうに私を見つめていた。
『サニー、僕と番になろ?そしたら毒も飲まなくていいし稽古もしなくていいんだよ?サニーは一人の女の子に戻れるんだ。僕の前だけは一人の女の子になって』
私はグルーの言葉を今でも覚えてる。例えグルーが覚えていなくても。
この時に私はグルーの番になりたいと思ったんだもの。王の娘じゃなく一人の女の子として接してくれるグルーに、私はグルーの言葉を今でも信じているの。だから魂の番なんて必要ない。私の幸せはグルーと番になる事だから。
年頃になりお互いの気持ちは分かっていた。言葉よりも雄弁に語る尻尾。それに野生のカン?後は匂い。
好意を抱いているか嫌悪を抱いているか、それは纏う空気や匂いで分かる。
私とグルーは相手を誘惑するような匂いをお互いに出していた。周りに人が居る時は隠し、二人だけになると途端に匂いが濃くなる。
周りは私とグルーを番にしようとしていた。実際、番になるのは秒読みだった。
優しい男の子も今は自分の感情を上手く隠せる男性になった。弱者だった男の子は国で5本の指に入るほど強くなった。剣を握る事を嫌い相手を傷つける事を躊躇っていたのに、私の側を片時も離れない私の騎士になった。
人族との交渉が王の娘として最後の仕事だった。協力を頼み何事もなく国へ帰りグルーと番になる予定だった。
笑えるわ、私の幸せを壊したのが私の魂の番の存在だなんて…
本当、厄介ね
獣人といえど幼い頃から鍛えられたお陰で獣の部分が少ない獣人になったというのに…
それも番になる事が決まっていた人に魂の番を取れと言われた。
幼い頃から大好きな、愛しい人に先に手を離された。
本当厄介ね、
どれだけ心が欲しても、相手も心を持っている以上私の感情だけ押し付ける事は出来ない。
「休憩は終わりだ、行こう」
グルーの前に跨り私が乗っていた馬は違う騎士が手綱を引いている。
しばらく走ると小雨が降ってきた。濡れないようにグルーのマントを頭から被る。
小雨が本降りになり走る馬の速度が上がった。
「私ももう一人の女性に戻りたい…」
耳の良いグルーでも風を切る音で、この雨音で、私の囁きは聞こえない。
どうか私の本心を消して……
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