元公爵令嬢、愛を知る

アズやっこ

文字の大きさ
6 / 15

6 昏

しおりを挟む

私は食堂の前で待つ団長さんの所まで速歩きで向かった。


「団長さん、遅くなりました」

「ルナ、ちゃん?」

「はい。ルナさんにお願いしておめかしをしたんですが、やっぱり修道服の方が良かったですか?」

「いやいや、これでいいよ。っていうよりこれがいい。似合ってる」

「ありがとうございます」

「さぁ行こうか」


団長さんの後を付いて街を案内してもらった。


「案内するほど大きな街じゃないんだけど」


食堂に届けられる野菜を売ってる野菜屋さん、肉屋さん、それから色々な店を教えてもらった。

昼食は屋台で売られている肉と野菜を刺した物を食べ、果物の果汁の飲み物を飲んだ。


「屋台で良かった?」

「はい、初めて食べました。とても美味しいです。それに外で食べるのも初めてでしたが、一度食べてみたかったので嬉しいです」


公爵令嬢として屋台で食べ物を買うのも外で食べるのも禁止されていた。『恥ずかしい真似はするな、お前は公爵令嬢だ。屋台など下下の者が食べる物だ』幼い頃一度食べてみたいと言った時、お父様に怒られた。

だから屋台で買い外で食べる、一度はしてみたいとずっと憧れていた。

昼食を食べ終わってからも街の案内をしてもらった。公園や広場、道案内も兼ねて教えてもらいながら街を歩いた。


「街の案内はこんな所かな。どこか行きたい所はある?」

「大丈夫です。ここといってありません」

「なら、これから俺のお気に入りの場所に案内するよ」


私は団長さんの後を付いていき、塔の上まで階段で上り、視界が開けた時、何も遮るものがない風景が広がっていた。


「少し早かったか」


ほぞっと呟いた声が聞こえ私は団長を見た。


「ここから見る景色で一番綺麗な景色を見せたかったんだ」

「今も十分に綺麗です」

「これ以上に綺麗な眺めだ」

「楽しみです」

「この塔はさ、大昔に神が降り立った場所なんだ」


団長さんの話に耳を傾ける。


「修道院も昔は今みたいに貴族のお嬢さん達の監獄ではなかった。神にあやかりたいと行儀見習いの場所だった」


今もシスターになりたいと修道院に入ってくる平民はいる。一緒に暮らしていた時もシスターを目指す子達はいた。

それでも私のように罪を償う為に送られる場所、貴族令嬢はそう思っている。だから修道院には行きたくないと…。


「元々貴族のお嬢さん達の行儀見習いの場所がいつしか罰を受ける場所になり、この街から人が出て行くようになった。

同じ街にある修道院は疎外する場所ではなく受容する場所。やり直す機会を与える場所だと俺は思っている。だから街の行事にも参加してもらった。そして今回ルナちゃんを受け入れた」


今まではシスターを目指す子達が街に行き街の行事に参加していた。バザーがある時は私もハンカチに刺繍を刺した。刺繍を刺すのは貴族令嬢として身に付いたものだから。

でも、罪を償う私のような元貴族令嬢は交流させない。それが修道院の決まりだった。

その足がかりとして私が選ばれた訳だけど…。


「俺はこの街が好きだ。この街で生まれ育った。親父がいて母さんがいて、忙しくても毎日が楽しかった。食堂を営む親父を助ける為に母さんも一緒に働いていたからどこか遊びに連れていってもらった事はない。それでも子供の頃は母さんといつもここに来ていた。ここは母さんとの思い出の場所。そして俺の好きな場所だ。

ルナちゃん、見てみな」


その声に私は団長さんの見つめる視線の先を見つめた。


「きれい…」


始めて景色を見て綺麗だと思った。

違うわね、今まで景色なんて見てこなかった。空さえもゆっくり眺めた事はなかった。


「ああ」


太陽が沈もうと赤みがかったオレンジ色の空が広がっている。

黄昏時、

そう言われるのが分かる。綺麗な景色の中に寂しさを感じる。

昼間の空が嘘のように辺りは明るさが陰り、空の色も少し薄暗く感じる。夜に向けて太陽は役目の終わりを告げる。

それでも、最後の最後まで輝き続け、まだ私はここにいる、と太陽が主張する。

温もり、寂しさ、その両方を私は自分の目に焼き付ける。

黄昏色の空がこの街を包む。まるで母のように大地を包み込む。

私もその温もりの光を浴び、こんな私でも包み込んでくれる太陽に感謝した。


この幻想的な景色に言葉は必要ない。


団長さんの顔を見ると、とても幸せそうな顔をしていた。

その気持ちが分かる。とても幸せな時間。今、この場からこの景色を独り占めしている私達は幸せな事。

母なる大地、父なる空をいう本を子供の頃読んだ時、父なる空が分からなかった。お父様は空のような人ではなかったから。

でもこの景色を見ているとやっぱり母なる大地、母なる空だと思ってしまう。暖かい温もりある赤みがかったオレンジ色の空が大地を包み込む景色はやっぱり母のように思える。

我が子を抱きかかえる母のように

この景色を見ていると、産まれたばかりの弟を抱いているお母様の顔が浮ぶ。そして私を優しい眼差しで見つめ頭を撫でてくれた。

あの幸せな時間

あの時と同じ時間を今私は体感している。



また団長さんを見るとさっきまでの幸せそうな顔ではなく、どこか寂しそうな辛そうな顔をしていた。



しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

「君との婚約は時間の無駄だった」とエリート魔術師に捨てられた凡人令嬢ですが、彼が必死で探している『古代魔法の唯一の使い手』って、どうやら私

白桃
恋愛
魔力も才能もない「凡人令嬢」フィリア。婚約者の天才魔術師アルトは彼女を見下し、ついに「君は無駄だ」と婚約破棄。失意の中、フィリアは自分に古代魔法の力が宿っていることを知る。時を同じくして、アルトは国を救う鍵となる古代魔法の使い手が、自分が捨てたフィリアだったと気づき後悔に苛まれる。「彼女を見つけ出さねば…!」必死でフィリアを探す元婚約者。果たして彼は、彼女に許されるのか?

あなたの言うことが、すべて正しかったです

Mag_Mel
恋愛
「私に愛されるなどと勘違いしないでもらいたい。なにせ君は……そうだな。在庫処分間近の見切り品、というやつなのだから」  名ばかりの政略結婚の初夜、リディアは夫ナーシェン・トラヴィスにそう言い放たれた。しかも彼が愛しているのは、まだ十一歳の少女。彼女が成人する五年後には離縁するつもりだと、当然のように言い放たれる。  絶望と屈辱の中、病に倒れたことをきっかけにリディアは目を覚ます。放漫経営で傾いたトラヴィス商会の惨状を知り、持ち前の商才で立て直しに挑んだのだ。執事長ベネディクトの力を借りた彼女はやがて商会を支える柱となる。  そして、運命の五年後。  リディアに離縁を突きつけられたナーシェンは――かつて自らが吐いた「見切り品」という言葉に相応しい、哀れな姿となっていた。 *小説家になろうでも投稿中です

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。 父親は怒り、修道院に入れようとする。 そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。 学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。 ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。

婚約者から悪役令嬢と呼ばれた公爵令嬢は、初恋相手を手に入れるために完璧な淑女を目指した。

石河 翠
恋愛
アンジェラは、公爵家のご令嬢であり、王太子の婚約者だ。ところがアンジェラと王太子の仲は非常に悪い。王太子には、運命の相手であるという聖女が隣にいるからだ。 その上、自分を敬うことができないのなら婚約破棄をすると言ってきた。ところがアンジェラは王太子の態度を気にした様子がない。むしろ王太子の言葉を喜んで受け入れた。なぜならアンジェラには心に秘めた初恋の相手がいるからだ。 実はアンジェラには未来に行った記憶があって……。 初恋の相手を射止めるために淑女もとい悪役令嬢として奮闘するヒロインと、いつの間にかヒロインの心を射止めてしまっていた巻き込まれヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:22451675)をお借りしています。 こちらは、『婚約者から悪役令嬢と呼ばれた自称天使に、いつの間にか外堀を埋められた。』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/572212123/891918330)のヒロイン視点の物語です。

どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。 無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。 彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。 ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。 居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。 こんな旦那様、いりません! 誰か、私の旦那様を貰って下さい……。

呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました

しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。 そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。 そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。 全身包帯で覆われ、顔も見えない。 所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。 「なぜこのようなことに…」 愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。 同名キャラで複数の話を書いています。 作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。 この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。 皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。 短めの話なのですが、重めな愛です。 お楽しみいただければと思います。 小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!

婚約破棄を宣告した王子は慌てる?~公爵令嬢マリアの思惑~

岡暁舟
恋愛
第一王子ポワソンから不意に婚約破棄を宣告されることになった公爵令嬢のマリア。でも、彼女はなにも心配していなかった。ポワソンの本当の狙いはマリアの属するランドン家を破滅させることだった。 王家に成り代わって社会を牛耳っているランドン家を潰す……でも、マリアはただでは転ばなかった。

処理中です...