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初夜
しおりを挟む婚姻式が終わり皆で食事をした。この国の貴族は、婚姻式後のお披露目会はしない。王族は別だけど。婚姻式後は教会の一室で、家族だけでゆっくり話しをしながら食事をする習わし。
リーストファー様のお義兄様を初めて見た。お義兄様が婚姻していた事も今日初めて知った。黙々と食事をするお義母様とお義兄様、少し離れた所で子供をあやすお義姉様。
改めてリーストファー様が置かれていた立ち位置を知った。
期待なんてしていなかった。微塵もしていなかったわ。それでも、浮かれてほしい訳ではないけど、もう少し嬉しそうに出来ないのかとそう思った。
それが作られたものでも。
お義父様はお父様とは話をしていたけどリーストファー様に声をかける事は最後までなかった。お父様には『本日は本当におめでたい日ですね』と言っていても私達には『おめでとう』とその一言さえなかった。
リーストファー様はお父様から伯爵位を譲り受けたから侯爵家からは籍が抜けた。紙の上では親子ではない。でもそうじゃないでしょ?辺境へ追いやって今更どう接していいか分からないなんて言わせないわ。
侯爵家の人達は幼いリーストファー様を捨てたの。
でもリーストファー様が私と婚姻し、公爵家と縁を繋いだとお義父様は思っている。どこまでも人を駒としか見ていないのね。きっとお義母様は男児を産む駒、そしてお義兄様は侯爵家を継ぐ駒。
リーストファー様は公爵家と縁を繋いだ駒かしら。
捨てたくせに、幼いリーストファー様を捨てたくせに、『リーストファー、公爵殿の大切なお嬢さんを幸せにするだぞ』って、こんな時だけ父親面しないで。白々しい。
私の愛しい人を捨てた人達を父と母と兄とは呼びたくない。
「どうした?」
「ううん、幸せだなって思っていたの」
私は隣に座るリーストファー様の手を繋いだ。ギュッと握り返してくれるリーストファー様。
私は隣に座る愛しい人を幸せにしたい。そして家族を作ってあげたい。今度は幸せな家族を…。
食事が終わりお義父様はお父様に『場所を移しもう少し話しませんか?』と言った。『結構』とお父様は手で制し断った。お母様は『呆れた人達ね、おめでとうも言えないなんて』そう言った。その顔は少し怒っていたように見えた。『二人は幸せになりなさい。家族は自分達で作るものよ。これから嬉しいことも辛いこともあるわ、でもそうやって夫婦になっていくの。あなた達夫婦はあなた達の形で夫婦になればいいの。おめでとう幸せになって、私の愛しい娘愛しい息子』お母様は隣に並んで立っている私とリーストファー様を同時に抱きしめた。
お父様達と別れ伯爵邸へ帰りリーストファー様は一階の部屋で待つワンズのもとへ行った。きっと今日は無理をした。まだ杖なしで歩くのは辛いのに、それでも最後まで杖を使わず邸まで帰ってきた。
自室に戻ると教会から先に帰っていたニーナ達が待ち構えていて、私は湯浴みをし念入りに香油を塗られた。軽い夕食が部屋に用意されていてそれをつまみ、解きやすい夜着を着せられた。
ニーナ達が部屋を去り、私は寝室へ繋がる扉を開けた。静かな寝室は私を緊張へと誘った。ドクンドクンと自分の鼓動が全身を駆け巡り、ベッドに腰掛け、そして立ち上がりまた腰掛ける。普段ならやらないのに無駄にカーテンを直したり、ベッド脇にある水差しとグラスの位置を何度もずらしたり、自分でも何がやりたいのか分からない。
そもそもリーストファー様が二階に来ているのかさえも知らない。
そうね、もしかしたら今日は来ないかもしれない。きっと二階に上がる階段の一段一段が彼には重いものかもしれない。行くなと見えない力で止められているのかもしれない。
それでも私は待つと決めた。
彼の意思で二階に上がってくる事を。そしてこの寝室に入る事を。
ガチャ
扉のノブが回る音が聞こえ私は振り返った。扉が開き立っているリーストファー様。そしてゆっくりと私のもとへ歩いてきた。ベッドに腰掛ける私の隣にリーストファー様も腰掛け、私の手を握った。少し震えているリーストファー様の手に私は手を重ねた。
重なる視線、お互い反らすことはしない。
「綺麗だ」
リーストファー様はもう片方の手で私の髪を撫でる。その撫で方は愛しいと言っていた。
髪を撫でていた手が頬を包み指が私の唇を撫でる。
「いいか?」
私はコクンと頷いた。
触れるだけの口づけ。初めて触れる互いの唇。それだけで幸せだと思った。今の私の顔は真っ赤になっているだろう。それでも蝋燭の炎だけの寝室では赤くなった私の顔を隠してくれる。
そしてもう一度触れるだけの口づけが落とされた。
リーストファー様は私を抱きしめ、私の首筋に顔を埋めた。
「いいのか?こんな俺でも許されるのか?」
私はリーストファー様を抱きしめた。彼に私の温もりが伝わりますようにと願いを込めて。貴方を私が包みますとそう伝わるように。
「私を抱いて頂けますか?」
少しでも楽になってほしい。貴方が抱きたいのではなく私が抱いてほしい、だから私を抱いて下さいと、そう思ってくれればいい。
彼は重いものを持つ人だから。きっと今も尚自分を許せない人だから。
でも私はそんな彼が愛おしい。
「抱いて下さい」
口づけが落とされ
「抱かせてくれ」
そのままベッドに寝かされ、私はリーストファー様に抱かれた。
優しく触れるその手から見つめる瞳から伝わる貴方の思い。
「愛してますリーストファー様」
私はリーストファー様の首に手を回した。
足の痛みを堪え、それでも私を優しく抱いてくれる。ゆっくりとゆっくりと私が痛くならないように。『綺麗だ』と何度も言い私に触れる。私も『愛してます』とリーストファー様に触れる。
リーストファー様が子種を放ち私はまどろみへと誘われた。
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