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私の罰
しおりを挟む陛下の隣でうっとり見つめる事はできなくても、視線はリーストファー様の姿を追う。
稽古をしている若者達が集中しているという事は、きっと普段から時間が空いたら陛下はこうして稽古風景を眺めていた。
稽古を止める訳でもなく、稽古の邪魔にならないようにこっそりではないけど、こうして椅子に座り眺める。騎士隊にあるような観覧席もない、日を遮る屋根もない、あるのはすぐ越えられる木の柵だけ。近衛隊が近くに居るとはいえ無防備な場所。
王宮の敷地の端にあり、王宮軍の関係者しか外部からは入れない。広い訓練場が何ヶ所もあり、騎士兵士達が自身の真剣と練習刀を持ち行き交う。
その中を陛下は歩いてここまで来る。
陛下にとって、国にとって王宮軍は要だと示している。周辺諸国も表立って攻めてはこない。それでも今でも火種がくすぶっているのは事実。
稽古が終わり陛下が席を立った。私も席を立ち見送ろうと思っていた。席を立った陛下は訓練場の中に入って行った。労いの言葉をかける、そう思った。
稽古が終わり、若者達はリーストファー様を囲んで談笑している。陛下は真っ直ぐリーストファー様のもとへ向かった。
「リーストファー」
「陛下」
リーストファー様の周りにいた若者達は離れ、二人は向かい合った。
陛下は自分が帯刀する剣をリーストファー様に差し出した。リーストファー様は差し出された剣を手に取った。渡されたから受け取った、勝手に体が動いた無意識の反射。そこに他意はない。
「その宝剣は代々王に受け継がれる。初代王はその剣でこのエーネ国を建国した。5代目王はその剣で王弟に討たれた。時代の節目節目でその宝剣は王の裁きを担った」
初代国王は後に剣王と呼ばれたけど元は武人だった。残虐非道の暴君だった5代目だけじゃない、王を処刑する場合、断頭台ではなくその時代の名を馳せた武人がその宝剣で首を刎ねた。
「私は自分の息子すら真っ当に育てられない暗君だ。愚息の命令で多くの尊い命を失った。私一人の命では到底足りないが、どうか私の命をお主の手で討ってくれ。
武人リーストファー、王に裁きを」
陛下は両膝をついて頭を下げた。
分かっていた、こうするのだと、分かっていた。
私に最後の頼みと言った事、いつもは結んでいない長い髪を今日は一つに結んでいた事、目に焼き付けるように未来を担う若者達の稽古風景を見ていた事、そして安心したように笑った顔…。
殿下の戦場での命令は暴君の片鱗を見せたのかもしれない。元婚約者だから庇う訳ではないけど、陛下の一人息子として真面目に政務もこなしてきたし、勉学だって怠った事はない。聡明とは言えないかもしれないけど努力する人だった。一人息子の重圧に押し潰されながらも気丈に振る舞っていた。
私がもっと殿下に寄り添っていたら、私がもっと殿下との関係を築いていたら、私がもっと殿下と心を通わせていたら、私がもっと……。
そしたら殿下は賢王になれた…。
私が諦めずに、次期王になる者とその婚約者と割り切らずに、愛し合えたら、殿下に私の声が伝わり関係性は変わった。
リーストファー様と愛し合えたから、リーストファー様を愛したから気付けたこと。
なら私にも責任があるじゃない。
そして陛下は『武人リーストファー、王に裁きを』そう言った。例え復讐の為に陛下の首を刎ねたとしても、これは復讐ではない、武人が王に裁きを下した。
宝剣で時の王を裁けるのは選ばれた武人だけ。
宝剣だから許される。不敬罪ではなく正義。誰も武人を咎めない。誰も武人を責めない。国の安寧の為、正義の為に許された行為だから。
陛下は分かっていた。リーストファー様の復讐心。まだ見え隠れする復讐心に己の命で終止符を打たせようとしている。
陛下にとってリーストファー様はこの国の未来を担う若人だから。また名を馳せる武人として奮い立ってほしいと願いが込められている。
だから訓練場に来た時から近衛隊はピリピリとした空気だった。陛下の意志を尊重し見届人になる決意の表れ。
だから今、誰も止めに入らない。
国の王が膝を付き頭を下げているのに。
王が頭を垂れる時は処刑の時だけ。
そして根回しも既に済んでいる。
王宮軍隊長は凛と立ち目をそらさずこの場を見届けている。
後ろに立っていたロータス卿はいざとなった時私を止める為に隣に立っている。その目は二人を見つめている。
若者達は知らされていなかった。だから今どうしていいのか分からずあたふたしている。止めに入ろうか、でも隊長達は動いていない。若者達の視線が右往左往しているのが分かる。彼等の動揺がこちらにも伝わる。
目をそらしてはいけない。
この場を見届ける一人として、
殿下の元婚約者として、
リーストファー様の妻として、
私は決して目をそらしてはいけない。
これは私に課せられた罰………
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