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笑顔には笑顔が返る
しおりを挟む「貴女に頼みたいのは元バーチェル国の人達の分よ?元バーチェル国の人達でここに残ったのは6家族13人。13人分のパンを焼いてほしいの。頼めるなら三食分。でも貴女も自分の生活があるわ。無理のない程度で、最低一食分はお願いしたいの」
「分かりました。一食分でもいいのなら…」
「ありがとう。なら必要な材料を紙に書いてもらえる?材料が揃い次第お願いしたいんだけどいいかしら?」
「はい」
「お爺さんが畑の先生なら貴女はパン屋さんね?フィンはお母さんが焼いたパンを皆に配る配達人、どう?」
フィンは『うんうん』と笑顔で頷いている。
「お駄賃がこれで申し訳ないんだけど、配達が終わったらお母さんから一粒貰ってね?」
私はキャンディーの瓶を母親に渡した。
今までは人付き合いをしてこなかったのかもしれない。それでもいざという時助けてくれるのは近所に住む人達。
大人だけじゃない、子供も親以外に頼れる大人が必要。夫がいない、子供がいない、確かにそうよ?でも大きな家族は作れる。大人全員で子供達を育てていけばいい。動けない人の代わりに手伝ったり、野菜を収穫したり、そうして人は助け合い生きている。
自分の゙持つ知識を教え、そしてそれは受け継がれていく。
「畑の事はこのお爺さんに聞くのよ?お爺さんは畑の先生なの」
「お爺ちゃんは先生なの?すごいね。僕も畑やりたい」
フィンは目をキラキラさせてお爺さんを見ている。
「坊主、今度一緒に苗を植えるか?」
「うん、僕に植え方教えて」
お爺さんはフィンの頭を撫でている。
こうして他人と関わり癒やされる。
家の中で悲しみに暮れるのもいい。残された者でお互いを慰め合い支え合うのもいい。
でも見て?他人と関わり笑顔があふれる事もあるの。もう一度笑う事が出来るの。もう一度一歩踏み出そうと思うの。
「やっぱり男の人だから?」
ぼそっと呟いた母親。
「違うと思うわよ?笑顔には笑顔が返ってくるものなの。フィンはまだ子供だもの、貴女が悲しければフィンも悲しいの。
でもやっぱりフィンは男の子なのね。小さい体で貴女を助けたいと思っているわ。お父さんの代わりに貴女を守らないとって。
素敵な息子さんね?」
母親は優しい顔で微笑みフィンを見つめている。
「まだ貴女達を信用はできません。ですが私は息子を信じます」
私は微笑んで母親を見つめた。
「ミシェル、次の家に行くか」
「分かりました」
私は母親に頭を下げてリーストファー様のもとへ向かった。
「僕も付いて行っていい?」
「フィン約束して。必ずお母さんに聞いてからよ?」
『母さんいい?』とフィンは母親に尋ねた。『いいけど邪魔をしちゃ駄目よ?』母親の返事にフィンは嬉しそうに笑った。『行ってくるね』フィンは元気に手を振った。母親もフィンに手を振っている。
私達は次の家に向かった。
「少し歩くわよ?」
次の家は少し離れている。
「うわあぁ」
リーストファー様はフィンを肩車した。リーストファー様の肩の上でフィンは『高い高い』と喜んでいる。
「おじちゃんが父さんになってくれればいいのにな」
「おじちゃん?リーストファー様はおじちゃんじゃないわ、お兄さんよ?それにこのお兄さんは私の旦那様なの。だからフィンのお父さんにはなれないわ」
私はリーストファー様の腕に腕を絡ませた。
「姫さん、子供相手に大人気ないぞ」
「煩いわね、子供相手だろうがこういう事ははっきりしておかないといけないの。リーストファー様は私の旦那様だもの、私も譲れないわ」
「お姉ちゃん、僕、本当に父さんがほしいわけじゃないよ?だから安心して?」
「ハハハッ、姫さんよりフィンの方が大人だな」
大きな声で笑うリックを睨んだ。お腹を抱えて笑っている。
『クッ』と聞こえ私はリーストファー様を見た。平静を装うリーストファー様。それでも口角が上がっている。
リーストファー様やリックだけじゃない、お爺さんもフィンも声を出して笑っている。
「ニーナは私の気持ち分かるわよね?」
「ん、んっ、私は奥様の味方です」
ニーナも笑っていたわね。
でもこれでいいの。こうして皆で笑いあえる所から始めればいい。
何気ないことで笑い、面白いことで笑い、リックのように人を小馬鹿にして笑い、それにつられて周りも笑う。
笑うことは先に逝ってしまった者への裏切り行為ではない。
笑うことは人間本来の感情の一つ。
笑ったことが一度もない人はいない。笑顔を忘れたとしても、無邪気に笑った頃もあった。幸せに笑ったこともあった。
その時を思い出してみて?相手も同じ顔で笑っていなかった?
笑顔には笑顔が返ってくる、私はそう信じているの。
愛しい我が子を亡くし、愛する夫を亡くし、寂しいと泣く夜があってもいい。行かせなければ、止めていれば、騎士なんて辞めさせていればと後悔する夜もあってもいい。
それでも周りにつられて笑う日があればそれでいい。嬉しいと楽しいと喜ぶ日があればいい。
少しづつ人間本来の感情を取り戻してほしい。
明るい未来は明るい感情の側にあるのだから。
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