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半日だけの…。貴方が私を忘れても
いつかまた、
しおりを挟む夜、ロイスが私の私室に入って来た。
「母様、僕お祖父ちゃまの家に行きたい」
8歳になったロイスが泣きそうな顔で言った。
「分かったわ。明日荷造りしてお祖父ちゃまの家に行きましょ」
「ごめんね母様」
「ううん、こっちこそ長い間ごめんねロイス」
「僕、父様が大好きなんだ。大好きだから辛い……」
「うん、分かるわ」
「毎日『はじめまして』が嫌なんじゃない。父様の記憶が1日しか覚えていられないのも分かってる。でも僕には昨日約束した事だから……」
「そうね。昨日約束した事を父様は次の日には忘れちゃう。頭ではロイスも分かっていても心が追い付いてこないのよね」
「うん……」
私はロイスを抱きしめた。
私はルイ様の今の状態を理解している。ロイスもそれは理解している。理解し一緒に過ごしてきた。
大人の私でも頭では理解してても心が追い付いてこない日はある。それでも心を強く持てたのはルイ様との思い出と愛情が詰まっているから。
婚約時代、結婚し夫婦になり、ロイスが産まれ親になり、家族になった。
かけがえのない人、私の心を占めているのはルイ様だから。だから耐えられたし側にいたいと思った。
記憶を毎日失くすルイ様との新たな関係も辛い日もあったけど幸せな日もその分あった。
それでもロイスの気持ちの前に私の気持ちは取るに足らない事。
まだ子供のロイスの心は敏感。だからこそ護らないといけない。
「もう少し大きくなったらまた一緒に住みたいと思うかもしれない」
「その時また一緒に暮せばいいわ」
「もう会いたくないと思うかもしれない」
「その時は会わなくてもいいわ」
「母様…、僕、僕ね、父様が大好きなんだ。だから毎日顔を見て話しをしたかった。でも最近は顔を見たくないって思うんだ。ごめんね、僕が我慢すればいいんだけどもう無理なんだ。うあぁぁぁん、うあぁぁぁん」
私は抱きしめているロイスの背中を優しく撫でる。
「ロイスごめんね。我慢させて、無理させてごめんね…。ロイスが我慢する必要はないの。無理して父様と一緒に居なくていいのよ。今まで辛かったわね、悲しかったわね…、ごめんねロイス…。
ロイスは父様を嫌いになる前に、大好きのままでいたいのよね」
「…うん……」
「明日お祖父ちゃまの家に行きましょう」
「…うん…うん……」
次の日私は最後の朝の日課をした。
「お前は誰だ!誰に許可を得てここにいる!」
「はじめまして、私はリリーです」
心で『さよなら』と言った。
ベイクが来て私はニックにお別れの挨拶をした。
「ニック、ごめんなさいね。後はよろしくね」
「はい、お任せ下さい」
「エミーと幸せにね。子供が産まれたら知らせてね」
「俺が幸せになっていいんでしょうか。子が出来たから結婚しましたが、俺に幸せになる権利はあるんでしょうか」
「ニック、ルイ様がニックを覚えていたらきっとこう言うわ。
『俺の体とニックは関係ない。強い者が弱い者を護る、それが騎士の心だ。だから気にするな。今度はお前が弱い者を護れ。それにな、幸せになる権利は皆に与えられたものだぞ』
ニックはエミーとお腹の子を幸せにしないと、ね」
「はい」
荷造りが終わった私達はルイ様と暮らした邸を出て侯爵家へ向かった。
「お義父様、お世話になりました」
「こっちこそ長い間すまんな。世話になった」
私はお義父様とお義母様に頭を下げた。
「ロイス、ロリーナ、二人共俺の可愛い孫なのは変わらない。これからも遊びに来いよ」
「うん。お祖父様また遊びに来るね」
お義父様はロイスとロリーナを抱き上げ、お義母様は抱きしめた。
馬車に揺られ伯爵家に着いた。
玄関の前で待つお父様とお母様の姿を見て涙が流れる。
「お父様、お母様、」
「よく頑張った」
「はい…」
「ロイス、ロリーナ、今日から一緒に暮らそうな」
「お祖父ちゃまいいの?」
「当たり前だろ。お祖父ちゃまはロイスとロリーナと暮らせるのを楽しみにしていたんだぞ」
「本当?」
「ああ。今日は一緒に遊ぼうか」
「うん」
お父様はロイスを抱き上げた。
「なら私はロリーナと遊ぼうかしら」
「おばあちゃま」
「ロリーナ、何して遊びたいの?」
「えほんよんでほしい」
「絵本?ならお庭で読みましょうね」
「うん」
お母様がロリーナを抱き上げた。
「姉上」
「リーク、ごめんね。私も早く働く場所を見つけるから」
「姉上は働かなくていいです。姉上とロイスとロリーナの面倒を見るだけの蓄えはこの先一生あります」
「でも、」
「今はゆっくりして下さい」
「ありがとうリーク」
ルイ様とは離縁という形は取らなかった。これから先、ルイ様以外の男性と結婚するつもりも、好きになるつもりもない。
書類上だけの夫婦になってもどこかで繋がっていたいと思ったから。
離縁ではなく別居。それでも「子供達と一緒に帰ってこい」と言ってくれたお父様、お母様、そしてリーク。これから先、伯爵家で暮らす事を許してくれた。
お義父様も「いつでも離縁したいと思ったら言ってくれ。離縁してもリリーは可愛い俺達の娘だしロイスとロリーナは俺達の可愛い孫なのは変わらない」そう言ってくれた。
この先、また一緒に暮らす事になるのか、それは誰にも分からない。
それで今は良いと思ってる。
この先の事はその先にまた考えればいいから…。
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