完結した作品の番外編特集

アズやっこ

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悪女と呼ばれた王妃

アルバートのあの世…

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暗い暗い暗闇…

迫る恐怖に、見えない何かに、封じ込められこの暗闇から出る事は許さないと、どこまで歩いても暗闇が続き、声をあげても何も返ってこない。


「リリーアンヌどこだ」


響くのは俺の声だけ。

そしてまた途方もない暗闇に襲われた。


ここは何処だというよりも、ここに一人という恐怖。音もない静けさが恐怖を助長する。

乾くのは喉ではなく心…


「リリーアンヌ、タイラー、隠れていないで出てきてくれ。俺が悪かった。謝って許してもらえないのは分かってるけど出てきてくれないと謝れないだろ?」


己を見つめ直せ、と言う事かと思い見つめ直した。それでも暗闇は晴れない。

何処かへ繋がる扉があるのかもと思い探したが何処まで歩いても何処にも辿り着けない。


「リリーアンヌ……、タイラー……、出て、きて、くれよ……。一人は、嫌、だ………」


ここに来て何日何ヶ月何年経ったのか分からない。ただただ途方もない暗闇が広がり孤独だと分かるだけ…。


「リリー、アン、ヌ………、タイ、ラー………」


目を開けていれば暗闇が独占し目に見えない恐怖が支配する。


リリーアンヌは最期『さよなら』と言った。いつもなら『いつかまた』と言っていた。

いつか、そのいつかはもう永遠に来ない。


「なぁ、さよならは嫌だ。リリーアンヌ、もう一度会いたい…。

リリーアンヌ、もう一度会いたいよ…。

今度は絶対にリリーアンヌを裏切らない。だからまた会いに来てくれ」


俺は毎日祈った。

今度なんて一生こないのに、

俺はこの暗い場所で一人

ここからは抜け出せない

それが分かっていても願うのはリリーアンヌの事だけだ。

だから俺は目を閉じた。

頭の中で繰り広げられる世界。その世界の中だけが今の俺の世界。



「タイラー聞いてくれ。リリーアンヌに子が出来た。俺の子だ。

タイラーありがとう。おめでとうはリリーアンヌにも言ってくれ」

自然と緩む頬。



「リリーアンヌ、よく頑張ったな。可愛い子だ。よく頑張った……。

泣いてない。泣いて、ない……」

頬を伝う涙。

「俺は乳母に育てられた。だから子は自分の手で育てたい。リリーアンヌにも苦労をかけるが一緒に育てくれるか?

そうか、そうか、一緒に育ててくれるか。これでこの子には寂しい思いをさせずにすむ。大きくなってくれ。愛情を受け取って大きくなってくれ。

なぁリリーアンヌ、あまりに軽くて壊しそうだ。だけど温かいな……。父はお前を愛してる。産まれてきてくれてありがとう……」

宙にかざす手。伝う涙。



「待て待て、父はまだ政務の途中だ。もう少しだけ待ってくれ。今日は剣の稽古だったか?」

抱きしめる腕。



「リリーアンヌ、もう一度言ってくれ。二人目が、出来た、そう言ったか?

そうか、そうか……、ありがとうリリーアンヌ、ありがとう……」

腹を撫でる。



「タイラーここだが、俺は橋を作りたい。ここに橋をかければ今まで遠回りしていた所が短縮出来る。どうだろうか。

人手?人手は浮浪者達はどうだろう。衣食住を与え少ない賃金にはなるが支払う。そしたら橋が出来上がっても生活には困らない。それに働く意欲は出ると思う。予算か、問題はそこだな。議会で通し国の準備金で賄いたい。大丈夫だ、貴族達を必ず説得してみせる。必ず承認させる」

こめかみをトントンと叩く。



「コナー悪いが子の師にはなってくれないだろうか。コナーほどの剣士はこの国にはいない。

そうか引き受けてくれるか。すまない、助かった」

差し出す手。



「皇帝陛下、いえ、義兄上、リリーアンヌは私が愛している女性です。私が必ず幸せにします」

真剣な眼差し。



「ジェイデン、もうリリーアンヌの事は諦めろ。俺の妻だ、俺の愛する妻だ」

勝ち誇った顔。



「ジェイデン、俺はお前が嫌いだった。勉強も剣も俺より優れていて、それに皆から可愛がられるお前がずっと嫌いだった。父上も母上もボビーも、俺は出来て当たり前。お前は出来なくても許される。

どうしてだ!どうして同じ子なのに俺は父上にも母上にも頭を撫でられた事はない。抱きしめられた事もない。

いつもいつも、兄だから我慢しろ、兄だから、兄だから!どうしていつも比べられる!どうして少し早く産まれただけで俺が我慢しないといけない!どうして自分は何でも手に入れられると思ってる!

どうして俺は良い兄をしないと、いけない…。どうして父上も母上も俺を、愛してくれない…。どうして誰も、俺を、見てくれない……」

握り拳に力が入る。

「なのにお前は俺が唯一持てたリリーアンヌもタイラーも、手に入れようとする。俺からどれだけ奪えばいい!父上も母上も、ボビーも、騎士達も、使用人達も、俺からどれだけ奪えばいい!だからお前にだけは渡せなかった!リリーアンヌもタイラーも、俺はお前から奪ったんだ!タイラーを側に置いて、お前が愛するリリーアンヌを常に隣に置いた!ハハハッ!ざまあみろ!リリーアンヌと婚約すると決まった時のお前の悔しがる顔、婚姻した時の絶望、ようやく、ようやくお前に復讐してやった!

誰にもリリーアンヌは渡さない!お前にもタイラーにもコナーにも、誰にも、誰にも!渡さない。俺だけのものだ、俺だけのものだ!

あの頬を染める顔も恥じらう顔も、柔らかい唇も華奢な体も、開かれる女性の部分も、全部!全部、俺の、俺だけのものだ。

ハハハッ、ハッ、ハッ、ハ………」

笑顔が消える顔。



「リリーアンヌはいつもそうだ!タイラー、タイラー、タイラーっていつもタイラーばっかり!それにコナーの話しをする時はすごく楽しそうだ!

そんなに俺は頼りないのかよ!そんなに俺と居るのがつまらないのかよ!

俺にはいつも一線引いてるように冷たく言う。王なら、王らしくって俺は王の前に人だ!それに弱音を吐けなくしたのはリリーアンヌじゃないか!

俺にはリリーアンヌとタイラーしか居なかった。俺には二人しか居なかった!弱音も唯一二人にだけ見せていたんだ!それを王になった途端、リリーアンヌは俺を見放した…。王ならしっかりしろ、王なら間違えるな、王なら、王なら…、

なぁ、俺は神じゃない……人間だ………」

ドンドンと叩く握り拳。



「リリーアンヌ、タイラー、ずっと僕の側にいてくれる?僕、二人が側に居てくれたら寂しくない。怖い夜も寂しくない。

リリーアンヌ、僕が寂しい時は手を繋いでくれないかな?

タイラー、僕が泣きそうな時は何か話しを聞かせてくれないかな?

二人が側にいてくれるだけで僕は僕でいられるんだ。

僕、寂しいのは嫌だ…。頑張るの、嫌だ…。勉強も剣の稽古も、もう嫌だ…。それよりも二人ともっともっと遊びたい。二人と走ったり木登りしたり水遊びしたり、したいよ。僕は王じゃなくて普通の人になりたい。したい事をして行きたい所に行って、笑いたい時には笑って泣きたい時には泣きたい。僕は普通の人になりたい…。

でも誰も許してくれない……。どうして?どうして僕は許してもらえないの?自由に笑う事も泣く事も、何処かへ行く事も、どうして許してもらえないの?僕が嫌いだから?皆僕が嫌いだから?

僕が誰からも愛されていないから?

父様からも母様からも僕は愛されなかった…。そっか、僕は誰からも愛されていなくて皆から嫌われ者なんだね。なら僕はいらないね。

ねぇリリーアンヌ、ねぇタイラー、どうして僕は産まれてきたのかな?僕なんて産まれてこなきゃ良かった…。僕なんて、死んじゃった方が、皆、喜ぶね。だって皆ジェイデンさえ居ればいいんだもん」

「ねぇリリーアンヌ、ねぇタイラー、こんな、皆から疎まれてる僕だけど、二人だけは、僕を嫌わないで?二人だけは、僕を嫌いに、ならないで…、おねがい……」

丸まる体。



「なぁ、リリーアンヌ、俺の父上とはどんな人だった?何をしている人だった?それにそもそも俺に母上は居たのか?母上とは誰だ?何だ?」


「ジェイデン、俺にはもう一人弟がいたか?いや、俺とジェイデン二人だけだったよな?俺達は二人きりの兄弟だった、よな…?」


「タイラー、俺は、一人っ子、だよな?そうだよな?きっとそうだ。俺は一人っ子だ」


「リリーアンヌ、ここに誰か、誰か大事な、無くてはならない誰かがいたはずなんだ。でも思い出せない。誰か、忘れてはいけない誰か…。誰だ?」


「俺には愛する人がいたはずだ。俺の唯一無二で常に側にいてくれた誰か。心から愛する人…。手放せない心から愛する人…。

愛する人の名は?

愛する人の顔は?

何も何も思い出せない。名も顔も、何も思い出せない。でも心を締めつける痛みだけは心を支配している。温もりも安らぎも与えてもらったはずだ。寂しい時は側にいてくれた。辛い時は隣でそっと背中に手を添えてくれた。楽しい時は手を繋いだ。嬉しい時は抱きしめた。愛しい時は口付けをした。

名も顔も分からない愛する人、その人を思う気持ちだけは残ってる。でもその愛する人が分からない。

痛みも苦しみも残っているのに…。俺の心を支配する愛する人…。

貴女は誰?」


「俺は誰だーーー!誰か教えてくれーーー!」


「俺は、誰だ…。そもそも俺とは何だ…。俺の事も、ここにいるのも、何も分からない……。

俺は死んでるのか?生きてるのか?」


「あぁもうどうでもいいか……。ここがどこでも、俺が誰でも、そんな事もうどうでもいい……」



俺は寝転がり目を開けて暗闇を見つめる。

叫び続けて喉が潰れて声も出なくなった。

流す涙も枯れ果てた。

自分の首を力一杯締めても意識を失うだけで目が覚める。

目を瞑れば無数の憎悪の顔が手が襲いかかる。


何もしたくない。考える事ももう面倒だ。暗闇の一部になれば良い。

ここから出たいとも出ようとも思わない。このまま暗闇の一部で良い。

ただ息をしている肉塊

そうだ、俺は暗闇だ…

この暗闇が俺の居場所で俺自身だ…


そうだ、それで良い………



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