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蛙の子は蛙
男娼との時間 1
しおりを挟む男が娼館で娼婦を買うように俺は男娼の彼の時間をお金で買う。
俺は妻に悪いと思う気持ちはなかった。彼が男性なのもそう思う一つだった。後ろめたい気持ちも、妻以外の女性と過ごす訳ではない。彼の時間をお金で買い話を聞いてもらう、ただそれだけだ。確かにお金を払う以上俺は客だ。それでも友人のように思っていた。
結婚し妻がいる男性でも娼婦を買う。それよりかは俺の方がましだと思ったのも事実だ。
サロンへ行きたまには一人で飲みたい夜もある。自分の飲みたい酒を頼み一人の時間を楽しむ。彼が相手をしてくれる日もあれば知人が声をかけてくる日もある。
一人で飲んでいると彼が目の前に立った。『次をお作りしますか?』『頼む』それが俺達の合言葉になった。
彼の時間が空いていない時は『お飲み物は』
俺が彼の時間を買いたい時は『グラスが空いたから何か作ってもらえるか?』
良ければ『同じものを』悪ければ『違うものを』
こうして彼との秘密な関係を続けていた。
『グラスが空いたから何か作ってもらえるか?』
『では同じものを』
『頼む』
次の日の昼間、街で彼と待ち合わせをする。サロン近くで馬車を降り、少し歩くと葉巻専門店がある。その店で待ち合わせ彼は先に店を出る。俺が店を出れば店から少し離れた場所に立っている。そのまま脇道を通りいつもの場所へ入っていく。
初めてここへ来た時は驚いた。
『ここは宿じゃないのか?』
『俺の部屋は娼館の裏にあるからな、流石に娼館が建ち並ぶ道に入っていくのは嫌だろ?ここは俺が男娼をする時に使ってる宿で融通が聞くんだ。誰にも邪魔されず話を聞くにはもってこいだろ?』
彼は自分の家のように宿に入って行きそのまま部屋に入った。甘い香りの香が部屋中を充満している。
『この部屋を買い取っているんだ。だから俺以外この部屋は使わない。それに宿客の部屋から離れているから誰かに会う事はないから安心してくれ』
『男娼も大変なんだな』
『そりゃあ俺は女性が相手だ。そのほとんどが貴族の奥方だ。誰にも会わず誰にも知られたくないだろ?家に男娼を呼ぶ訳にもいかないしな、この部屋は重宝してるんだ。それに、』
彼はカーテンを開けた。
『旦那はあそこで娼婦を買い、奥方は目の前で男娼を買う。旦那もまさかこんな所で自分の妻が男を買ってるなんて思ってもいないだろうがな』
宿の裏側の道を挟んだ所には娼館が建ち並んでいた。この宿に入った時まさか娼館がすぐ近くにあるとは思わなかった。
『娼館と宿屋は近くに建てる。娼館で娼婦を買い、宿屋で泊まる。娼婦を一日買うと高いからな。どこの街も宿屋と娼館は街の外れに建てられる。人目を忍んで入りやすいようにな』
宿の入口は普通の宿屋。疲れたから休憩していたと言い訳もできるという事かと思った。
俺は今まで一度も娼館には行った事はない。それに宿屋に泊まる機会もなかった。
彼といつものように部屋に入り、上着を壁掛けに掛け、俺はベッドに座り彼は椅子に座る。この部屋は宿屋だけあり置いてあるのはベッドと椅子が一脚、それと小さい机だけ。あとは湯殿があり手水がある。宿屋の部屋の中でも高い部屋だ。
「今日はどうする?」
話を聞いてほしい時は話を聞いてもらい、ただ横になり目を瞑りたい時は横になり目を瞑る。その間彼は彼で時間を潰している。
「今日は折り入って頼みがある」
「なんだ?」
「以前俺がふらついた時に支えてくれただろ。あの時みたいに俺を後ろから支えてくれないか」
彼に男娼の仕事をしてほしい訳ではない。それでも彼と過ごし頼みにくい頼みも頼めるような関係にはなった。
彼はベッドに乗り俺を後ろから支えた。
「これだと抱きしめるになるのか?やっぱり立ってくれるか?」
「いや、これでいい」
俺は力を抜いて彼にもたれた。
「やっぱり男性は女性のように柔らかくないんだな」
「まあそうだな。胸はないし柔らかくはないな」
「妻と結婚し初めて女性の肌はどこも柔らかいと知った。そして人の肌は温かく安心すると。
俺はあの日初めて男性の胸がかたく腕が逞しいものだと知った。自分で自分を抱きしめる事はできないから知らなかった。
父上からも母上からも抱きしめられた事はない。メイドが世話をしてくれたが、仕える主人の息子を抱きしめる者はいなかった。坊っちゃんと少し離れた場所にいつも立っていた。
祖母はすでに亡くなっていて、祖父は厳しい人だった。幼い頃から甘えは許さないと言う人だった。父上があんなだったから俺は幼い頃から厳しく教育された。祖父は父上のことを『あれは欠陥品だ。あれのようにはなるな。お前は欠陥品ではないだろう』呪文のように言われ続けた。欠陥品は家にはいらない。欠陥品では価値もない。
祖父は俺を見ていてくれていた訳ではない。跡継ぎが必要だっただけだ。それでも幼い俺には祖父だけが俺を人として扱いここにいると存在を認めてくれた唯一の人だった。
だから俺は欠陥品になる事だけはできない」
「勃たないのが欠陥品か?」
「男としては欠陥品だ」
「例え勃たなくても抱きしめるだけでいいんじゃないのか?別に入れるだけが行為じゃない。口付けをして愛撫する。それだって立派な行為だ。あんたのなにが勃たないなら指を使えばいい。舌を使えばいい。それでも女は快楽を楽しめる。絶頂し体を痙攣させる。そりゃあ硬いもので突かれたいかもしれないが、それなら何度も指や舌で絶頂させればいい。最後はお互い裸のまま抱きしめ眠ればいい。
俺の客の中には行為はせずただ抱きしめてほしい人もいる。男に抱きしめられる、それだけで安心すると言っていた。子供では得られない何かがあるって。安心感や幸福感、それに包容力、自分を包み込む逞しい腕の中にいると自分も守ってもらえているみたいだと言っていた。
子供の頃に親から貰った安らぎを知っているからか、体が心が覚えているからか、それは分からない。でも、だから今度は恋人や夫婦、相手に求めるんじゃないのかな。俺はその代役。後腐れなく一時だけの安らぎを得る為のな。大人になろうが親になろうが、甘えたい時は甘えたいし、安らぎを求めたい時はある。それは別に恥じることじゃない」
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