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しおりを挟む今日は学園の卒業パーティー。学生だった生徒が貴族に戻る区切りのパーティー。由緒ある学園の卒業を記念した言わば社交初め。婚約者がいる者は婚約者から贈られたドレスに身を包み婚約者のエスコートで会場に入る。
本日の私の出で立ちはお父様から贈られたドレスを着ているわ。お父様からというよりは私自らドレスを頼み支払いはお父様よろしくね?って請求書を渡したらちょっと睨まれたわ。でも仕方がないの。ドレスは女性の戦闘服。今日私は婚約者と戦うんだから。
ドレスはマダムサリーに選ばれた人しか着れないドレス。勿論生地もお針子も超一流。女性なら一度は着たいと憧れるマダムサリーのドレスだもの、値段もそれなりよ?エスコートは我がハウバウル公爵家の執事ジョーンズに頼んだわ。初老の執事ならいらぬ誤解は招かないもの。私達の後ろには従者のアランが私の荷物を持って付いてきている。
「エリーナお嬢様」
ジョーンズの目線の先を私も見つめる。
ローレンス第一王子、私の婚約者。婚約者の隣にはミリア男爵令嬢が私の婚約者と腕を組んで歩いている。
ミリア男爵令嬢はふわふわ髪の可愛い女性。いつも目をウルウルさせて守ってあげたくなる子よ。それに比べ私は真っ直ぐストレートの髪で涙なんて出ないわ。乾燥して目が痛いくらいよ?
それでも好きでもないローレンス殿下の婚約者になって10年。厳しい王子妃教育にも耐えていつか隣に立つ為に、隣に立っても恥ずかしくないようにって頑張ってきたわ。
でも10年なの。10年婚約者として過ごしてきたならその間に色々あったわ。8歳から殿下を支える為に、国の品位を落とさない為に、誰よりもこの国を知り誰よりも淑女ではいけないと、そして誰よりもこの国をこの国の民を愛しなさい貴女は国母になるのだからと。慈しみ敬い耳を傾け手を差し伸べなさい、そう教えられてきたわ。
だから私はこの国の民のミリア男爵令嬢に耳を傾けたわ。
『ローレンスのお嫁さんになりたい』
と言っていた言葉に。そしてローレンス殿下に救いの手を差し伸べようと思うの。
『私も心ではミリアに妃になってほしい。それでも私には決められた婚約者がいるんだ。父上に知られると愛しあう私達は引き離される。だから私は我慢して愛してもいない婚約者と婚姻するしかミリアを護れないんだ。いつか必ずミリアを妃にする。それまで私と耐えてくれないか、それまでミリアも私と一緒に我慢してくれないか。誰と婚姻しようが私が心から愛しているのはこの先もミリアだけだ』
殿下とミリア様が人目につく学園のカフェテリアで三文芝居をしてようと、ミリア様が涙を流し
『私も一緒に耐えるわ、だからローレンスも耐えて。私達はいつか必ず結ばれるから』
『ミリア、愛してる』
『私もローレンスを愛しているわ』
まぁ、無料で観れる劇なら良い出来ではあるわね。学園の生徒は何度も見せられてるけどわざわざ劇場に足を運ばなくてもここなら無料だしね。二人の劇が始まるとカフェテリアは満員御礼よ?立見も出るほどよ?
学生の娯楽かしら、それとも婚約者とのデート?
エンディングは抱き合い口付けをして二人の世界に入っていくわ。まあ、元々二人だけの世界に入っているんだけど。
殿下とミリア様私は邪魔しませんわ。だから私が障害みたいな話は止めてくださいね?どうぞ愛しあうお二人でこれからも愛しあってください。
これでも私は何度も殿下にお伝えしたわ。
『人目のある所では皆様方から殿下が紳士だと思われませんわ。時と場所をお考えになられた方がよろしいかと思いますの』
それでも殿下は皆様に見てほしいのか改善はしてくれなかった。改善どころか余計に悪化したわ。だから私は静観したの。私は私でやるべきことがあるから。こんな婚約者でも一国の王子。そして私は王子の婚約者。
この2年、殿下はミリア様と学園が終わってから遊んでいても私は王宮や自宅で復習の毎日。学園の休みの日は孤児院に行き子供達に文字を教えたり一緒に遊んだり、私で手伝える事は何でもしたわ。乳児院に行けばまだ自分の子を産んでもいないのに赤子のお世話もした。泣いてる子を抱っこして眠るまで歌を歌ったわ。
まだ私は妃ではなく婚約者という立場。それでも今王宮には王妃様しか女性はいない。10歳の第二王子の婚約者はまだ決まっていない。時間もあり自由に動けるのは私だけ。それに孤児院や乳児院訪問は王子の婚約者としての役目だけではない、貴族としての務めでもあるもの。
今はまだ婚約者でも学園を卒業すれば1年後の婚姻式の準備に入る。
だから最後なの。
まだ婚姻式の準備は始まっていない。周辺諸国に招待状も送ってない。ドレスの準備も何もかも。明日から殿下と私で初めての共同作業?一から全ての準備を始める予定だったの。
婚約破棄をして迷惑をかけるのは分かってる。正解じゃないことも。殿下を窘めるのが私。それに殿下は私と我慢して婚姻すると言っている。政略結婚で愛妾を囲う殿方やお互い不倫をする夫婦が全くいない訳じゃない。
私だって殿下を愛しているわけじゃないんだから。
「エリーナお嬢様本当によろしいのですね」
ジョーンズは鋭い目つきで私を真っ直ぐ見つめる。
「ええ」
私はローレンス殿下とミリア男爵令嬢の前に立ち二人を真っ直ぐ見つめる。
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