婚約破棄します

アズやっこ

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「ローレンス殿下、御卒業おめでとうございます。素晴らしい答辞でしたわ」

「ああ、エリーナも卒業おめでとう」

「殿下、先に謝らさせていただきますわ。このような場所で申し訳ありません」

「急になんだ」


私は姿勢を正し真っ直ぐローレンス殿下を見つめる。ドレスで隠れた足が震え、重ねた手が震える。会場にいる学生の視線、来賓者の視線が一斉に集まる。



「わたくしエリーナ・ハウバウルはローレンス第一王子殿下と婚約破棄いたします」



私の声は会場中に響き渡った。


「なんと言った」

「ですから殿下と婚約破棄いたしますと申しましたの」


婚約者とはいえ王族の殿下に婚約破棄するのは不敬罪にあたる。私は公爵令嬢でこの国の民の一人。かたや相手は王族。それに卒業パーティーは貴族として社交始め。


「何故だ」

「何故?ではわたくしは殿下にとってどのような立場ですの?」

「私の婚約者だ」

「では今殿下のお隣にいらっしゃるご令嬢はどなたですの?」


殿下は慌てて自分の腕に組まれているミリア様の腕を外した。


「ミリア嬢から卒業の記念にとエスコートを頼まれただけだ」

「婚約者のわたくしをエスコートならさず卒業の記念にとおっしゃったミリア男爵令嬢を殿下はエスコートしたと?そこには何のお気持ちも無いとおっしゃるの?」

「ああ、やましい気持ちは無い」

「やましい気持ちが無いのならば優先すべきは婚約者のわたくしではなくて?」

「今日は卒業パーティーだ、なら学園の中では地位も身分も関係ない」

「ええ、学生の間ならそれも許されましたわ。

ですが、それは卒業の式典までですの。今は貴族として社交始めのパーティーですのよ?爵位や身分そちらが反映されますの。

学生の間はわたくしも目を瞑りましたわ。例えお二人が誰の目にも明らかなほど仲がよろしくても学生の間だけと思っていたからですわ。婚約者のわたくしがいようと学園の中だけは殿下は第一王子ではなくローレンスとして学園の一人の生徒だと思っていたからですの。例えミリア様に愛の言葉を囁やき抱きあい口付けしようともわたくしも殿下の婚約者ではなく学園では一人の生徒のエリーナですもの。だからこそわたくしは目を瞑りましたの。

わたくしは殿下を信じておりましたの。本日のパーティーのドレスもエスコートも殿下からのご連絡をお待ちしておりましたの。毎日毎日わたくしは殿下からのご連絡をお待ちしておりましたのよ」

「それは…わる」

「ならエリーナ様は自分でドレスを用意したの?」


突然口を挟んできたミリア様に私はにこっと笑った。


「私のドレスはローレンスが贈ってくれたの。とても私に似合うドレスを作ったって。どうかしら、私似合ってる?ローレンスのお嫁さんみたいに見える?」

「ええ、とてもよくお似合いでいらっしゃるわ」

「でしょ?王族お抱え職人が私の為にわざわざ作ってくれたのよ?ねぇエリーナ様は誰が作ってくれたの?」

「あまり誰がお作りになったとか皆様の前で申し上げるのは淑女としてどうなのかしら。ですがご質問にはお答えしないと失礼にあたるのかしら。困りましたわ」


私は困った顔をして首を傾けた。


「どうせ公爵家のお抱えなんでしょ?王族には負けるから言いたくないのかしら」


ミリア様はフフンとした顔で私を見ている。

公爵家お抱えの職人を馬鹿にしないでほしいわ。マダムサリーほどではないけど王族には負けないわよ?だって公爵家お抱え職人はマダムサリーの唯一の弟子。マダムサリーは弟子を取らない。元々公爵家のメイドだったメイサがお茶会の席で私のドレスを素早く直した所をマダムサリーが見ていた。

まだ殿下の婚約者になる前、お茶会の席でお兄様がお菓子を取ろうと手を伸ばした時、飲み物が入ったカップが私のドレスに落ちた。まだ幼かった私はドレスが汚れ泣き出した。その時メイサが汚れた部分を隠すようにドレスを直したの。まるで初めから花のコサージュが付いていたかのように。機転が利いた対応、なにより私を笑顔にしたいと思う心。それからメイサはマダムサリーに弟子入りし厳しい修行に耐え今は公爵家お抱え職人になった。

本当は今日のドレスもメイサに頼むつもりだったの。それでも私はマダムサリーに頼んだ。


私はにこっと笑ってミリア様を見た。


「今回のドレスはマダムサリーにお願いいたしましたの」

「はあ?なんでよ、なんでエリーナ様がマダムサリーのドレスを着ているのよ。私には作ってくれなかったのよ?ローレンスが頼んだのによ?」

「マダムサリーは気ままなお方ですもの」

「そんなのおかしいわ。ローレンスは王子なのよ。エリーナ様、貴女にはそのドレス似合ってないわ。私が代わりに着てあげるから早く脱ぎなさい。早く脱ぎなさいよ」


私はにこっと殿下を見つめた。


「ミリア」

「だって私が着た方が似合うもの」

「ミリアにはミリアに似合うドレスを頼もう」

「本当?」

「ああ」

「なら、分かったわ」


何度頼んでもマダムサリーは首を横に振るわ。一応王子だから話は聞くとは思うけど。王族だからと身分で決めない。自分が作るドレスは自分で着る人を選ぶ、だからマダムサリーのドレスは希少価値が高いの。だから女性なら憧れるのよ、一度はマダムサリーのドレスを着たいって、マダムサリーに選ばれたいって。マダムサリーのドレスを着るという事は相応しいと認められた、それと等しいの。



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