3 / 23
3
しおりを挟む「話が逸れてしまいましたわ。
アラン例の物を」
アランが私に紙を差し出した。私はそれを受け取った。
「ローレンス殿下、こちらは婚約破棄の証明書ですの」
婚約破棄の証明書を殿下に見せた。
「殿下のサインをお願いいたしますわ」
「ま、待てエリーナ」
「このような状況でサインが出来ないとおっしゃるの?」
「そうじゃない。婚約破棄ではなく白紙や解消にするべきだ」
「いいえ、わたくしは婚約破棄を望みましてよ」
「別にいいじゃない。エリーナ様が望むなら婚約破棄してあげれば?」
またまた口を挟んできたミリア様。
「ミリアは口を挟むな」
驚いたわ、殿下もミリア様に強い口調で言えるのね。
ミリア様はぷくっと不貞腐れているけど可愛らしい顔の方が不貞腐れている姿も、あら、可愛らしく見えるわね。
「エリーナ、婚約を白紙に戻そう」
「いいえ」
「せめて解消にしよう」
「いいえ、わたくしは婚約破棄以外望みませんわ」
「エリーナ」
「殿下、わたくしが殿下の婚約者になり10年ですわ、10年ですのよ。わたくしは殿下の隣に立っても恥ずかしくないように、殿下を支える為に、そう思ったからこそ今まで頑張ってこれましたの。
確かに殿下とミリア様のような愛は無いのかもしれませんわ。それでもわたくしは殿下の婚約者になってから殿下をお慕いしておりましたの。例え殿下のお心がわたくしから離れようとわたくしがお慕いしていればいつかまたわたくしを見てくださる、そう思っておりましたわ。わたくしさえ目を瞑れば、わたくしさえ我慢すれば、わたくしさえ耐えれば、そう自分に言い聞かせておりましたわ。
始まりは政略ですもの。そこに心は関係ありませんわ。ですがわたくしは心を持ってしまいましたの。殿下をお慕いしている心を持ってしまいましたの。そして夢を持ってしまいましたの。例え始まりは政略でも殿下もわたくしを慕ってくださると、殿下とわたくしで愛を育てれると夢を持ってしまいましたの。
殿下、わたくしにも心がありますのよ。どれだけ妃教育で培ってきたとしても、心を隠し笑顔を貼り付けていようと、わたくしにも心がありますの。殿下の心変わりにわたくしが傷つかないとお思いですの」
「すまなかった」
「わたくしにすまないと思うのなら、どうかサインをお願いいたしますわ」
私の頬を伝う雫が次から次へと流れている。
「何を騒いでおる」
声の主に会場にいる者達が一斉に振り返り礼をとる。声の主の登場にざわざわしていた会場が静まりかえる。
ツカツカと歩いてくる声の主。私の手にある紙を取り見ている。
「婚約破棄とな、ローレンス答えよ」
「それは…」
「お主の学園での様子は報告を受けている。我は何度もお主に忠告をした。学園の中では身分は平等とはいえ婚約者を蔑ろにしていい訳ではないと。お主の婚約者はエリーナだけだと。
お主も学園の入学の時に言われたはずだ。
『身分は平等とはいえ、紳士は紳士らしくあるべし、淑女は淑女らしくあるべし、己の行動に責を負うべし、その事を忘れべからず』
ローレンス、婚約者以外に現を抜かす者は紳士か、答えよ」
「すみません父上…」
「我は紳士かと聞いたのだ」
「……紳士、ではありません」
「ならばお主は紳士ではなく愚者だ。お主のような者を紳士とは言えぬ」
「父上それは余りにも言い過ぎです」
「学生の内なら羽目を外しても許されるとでも思ったのか」
陛下の低い声が静まりかえった会場に響き渡った。
「学園は遊ぶ場ではない。身分は平等とはいえお主は王子だ。皆の手本になるように務め臣下と対等に声を交わせる唯一の場だったのだ。人脈を作る事も己の味方を作る事も出来た最後の機会だったのだぞ。お主はこの3年何をしていたのだ」
殿下は握り拳に力が入り唇を噛みしめ顔を下げている。
「エリーナ・ハウバウル」
「はい陛下」
「お主からの婚約破棄の申し出受理する」
「ありがとうございます陛下」
「だが婚約破棄は双方に傷がつく」
「はい、心得ております。わたくしはローレンス第一王子殿下の婚約者でありながら殿下を咎める事を怠りました。そして殿下にわたくしの意思を伝えずわたくしの身勝手で婚約破棄を致しました。わたくしは責を負う覚悟でございます」
本来ならこの場にお父様とお母様が卒業生の来賓として来るべきなのに今日は来ていない。隣国の王配になったお兄様の所に弟を連れて会いに行っている。
陛下は私を真っ直ぐ見つめる。
「エリーナ、本日の事ハウバウル公爵は知っておるのか」
「いいえ、両親は隣国へ行っております。わたくしは両親に反対されると思い両親が留守の間にわたくし個人の気持ちを優先しわたくしが身勝手に婚約破棄を致しました」
「公爵も知らぬとな」
「はい陛下、両親は知りません」
「公爵がいない今我がお主に処罰を下す。良いな」
「はい、処罰を受け入れる所存でおります」
「ハーベルト国におけるお主の身分を剥奪する。今この時をもってお主をハウバウル公爵家から籍を抜く、良いな」
「はい陛下、わたくしは自分の罪を認め罰を受け入れます」
「今後このような理不尽な行いは重い罰を下す、皆も忘れるな」
「陛下、身分を剥奪されたわたくしに慈悲を承りたく存じます。最後にこの国の民の一人として陛下にお伝えしたい事があります」
「最後だ、申してみよ」
「陛下の広いお心でお慈悲をお与えくださり誠にありがとうございます。
陛下、この国の民の一人としてこの国の発展を心から祈っております。そして、陛下のご活躍をそして健やかにお過ごしになさることを遠い国から祈っております」
陛下と王妃様の悲しげな顔が私の胸を締め付けた。10年、本当によくしてもらった。本当の娘のように接してくれていた。私も二人の義理の娘になりたかった…。こんな形でお別れしたくなかった…。
334
あなたにおすすめの小説
(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ?
青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。
チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。
しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは……
これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で
す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦)
それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。
[完結]だってあなたが望んだことでしょう?
青空一夏
恋愛
マールバラ王国には王家の血をひくオルグレーン公爵家の二人の姉妹がいる。幼いころから、妹マデリーンは姉アンジェリーナのドレスにわざとジュースをこぼして汚したり、意地悪をされたと嘘をついて両親に小言を言わせて楽しんでいた。
アンジェリーナの生真面目な性格をけなし、勤勉で努力家な姉を本の虫とからかう。妹は金髪碧眼の愛らしい容姿。天使のような無邪気な微笑みで親を味方につけるのが得意だった。姉は栗色の髪と緑の瞳で一見すると妹よりは派手ではないが清楚で繊細な美しさをもち、知性あふれる美貌だ。
やがて、マールバラ王国の王太子妃に二人が候補にあがり、天使のような愛らしい自分がふさわしいと、妹は自分がなると主張。しかし、膨大な王太子妃教育に我慢ができず、姉に代わってと頼むのだがーー
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
私のことを愛していなかった貴方へ
矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。
でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。
でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。
だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。
夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。
*設定はゆるいです。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
誰の代わりに愛されているのか知った私は優しい嘘に溺れていく
矢野りと
恋愛
彼がかつて愛した人は私の知っている人だった。
髪色、瞳の色、そして後ろ姿は私にとても似ている。
いいえ違う…、似ているのは彼女ではなく私だ。望まれて嫁いだから愛されているのかと思っていたけれども、それは間違いだと知ってしまった。
『私はただの身代わりだったのね…』
彼は変わらない。
いつも優しい言葉を紡いでくれる。
でも真実を知ってしまった私にはそれが嘘だと分かっているから…。
婚約破棄?ああ、どうぞお構いなく。
パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢アミュレットは、その完璧な美貌とは裏腹に、何事にも感情を揺らさず「はぁ、左様ですか」で済ませてしまう『塩対応』の令嬢。
ある夜会で、婚約者であるエリアス王子から一方的に婚約破棄を突きつけられるも、彼女は全く動じず、むしろ「面倒な義務からの解放」と清々していた。
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる