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4 完
しおりを挟む「この場は平民のわたくしには不相応な場、わたくしは退場いたします。陛下よりお先に御前をご無礼する事をお許し下さい。
10年間ありがとうございました」
私はカーテシーをして会場を後にした。会場の外は茜色の染まった空。
「ハウバウル嬢」
声をかけられ私は振り返った。
「宰相様」
「陛下からの伝言です。
『愚息がすまなかった。最後までこの国の未来を見据えてくれた事に感謝している。だがこれ以外の方法を取ってほしかったと悔やんでならない。我々は得難い存在を失くした事を心に刻み、お主に恥じない国にすると誓う。
エリーナ、私の可愛い娘、健やかに笑顔で過ごす日々を遠いこの国から祈っている。エリーナの旅立ちに幸あらんことを私も王妃も祈っている』
ハウバウル嬢、お元気で」
「はい、宰相様もお元気で」
私は綺麗に染まった茜色の空を眺める。
卒業パーティーに入場する少し前、陛下と王妃様と宰相様と別室で話をした。
『本当に婚約破棄をするつもりなのか』
『はい陛下、わたくしの意思は変わりません』
『何もエリーナが婚約破棄しなくても良い、婚約は白紙に戻す。不義をした息子が悪いんだ』
『いいえ陛下、婚約破棄でないと意味がありません。今ここで婚約を白紙や解消にすればわたくしに傷はつきません。学園での殿下の行いは皆が知っています。だからこそ殿下だけでなくこの国の未来を担う者達への見せしめでもあるのです。婚約者がいながら他に心を移す、人に心がある以上避けて通る事は出来ないのかもしれません。ですが意にそぐわない婚約だから政略だから致し方ないでは駄目なのです。婚約者がいても婚約を白紙や解消にし新たに婚約を結んでもまた同じように白紙や解消すればいい、そうなります。それは男性だけでなく女性も同じです。婚約とはそんな簡単に扱うべき事ではないはずです。
それに白紙や解消は双方が納得し至りますが破棄は片方だけの一方的な行為。家の繋がりや相手の気持ち、それらを全て無視し一方的に個人の意思で関係を断つ。悲しい事に婚約破棄をする者が少しづつ増えているのはご存知ではありませんか?』
『確かにその報告は受けている』
『婚約者以外に心を奪われたのなら婚約者に誠意を見せるべきです。殿下の学園での行いが他の者に助長させたのも原因ですが婚約破棄を目論む者達がいるのも事実です。簡単に縁が切れ、その一方で婚約破棄された者はされるだけの理由があったと思われます。例え婚約破棄した側に理由があったとしてもです。
わたくしはわたくしのように婚約者に心変わりをされてどれだけ傷つくか、それをもう一度皆に知ってほしい。皆が知る機会だと思っています。婚約破棄が及ぼす影響を己の身を差し出し示すつもりです』
『だがそれはエリーナがしなくてもいい事だ』
『いいえ陛下、殿下とわたくしだからです。皆の手本にならないといけない私達だからです。影響力がある私達だから皆の心に訴えられると思っています』
『意思は変わらないのだな』
『はい、変わりません』
『分かった。エリーナが退場した後、必ずローレンスにもエリーナより重い責を負わせる。
エリーナ、今まですまなかった。10年間お前の人生を王家に縛りこのような結果になるとは私達も思っていなかった。10年間王家に身を捧げてくれた事心から感謝している。
エリーナ申し訳ない』
陛下と王妃様が私に頭を下げた。
『いいえ、わたくしこそ殿下の心を取り戻せず止める事も出来ず申し訳ありませんでした』
茜色の空に一番星が光っている。光はあると希望の星のように。
会場の外にいる私達の耳にも静まり返っていた会場からざわざわとした声が聞こえてきた。きっと陛下が殿下に罰を与えた。会場にいる貴族達がざわざわとするほどの重い罰。
婚約破棄をすれば双方に重い罰を受ける。
殿下が『私は婚約破棄をするつもりだ』そう言っていたのを私は知っていた。だから私は今回の計画を立てた。お父様とお母様と弟は関係なく私個人の意思で婚約破棄すると、私個人と公爵家は無関係だと、だからお父様達には隣国へ行ってもらった。当主が留守のうちに身勝手に婚約破棄したとそう思わせる為に。
この計画にはお父様だけじゃない陛下も私に協力してくれた。
そして殿下に続けとばかりに婚約破棄をする者達がいる事も知っていた。婚約破棄をするなら相応の罰を、そう願った。
そこまでに至るまでに話し合い自分の非を認め相手に頭を下げてでも誠意を見せ婚約者の承諾を得ればいい。
婚約者以外に好意を寄せ不義を働いたのに誠意を見せず一方的に婚約破棄をしたいだなんて虫が良すぎるわ。
私は殿下が卒業パーティーが終了する前に私と婚約破棄をすると令息達に言っているのを聞いた。だから私は始まる前に言った。殿下から言われる前にどうしても私から言いたかったから。
ただそれだけ。
だっておかしいじゃない。どうして私が婚約破棄されないといけないの?そうでしょ?
殿下は婚約破棄をする証明書の紙すら用意していなかったから、私は確実に婚約破棄する為に証明書の紙を用意しサインも書いて準備した。
口頭での婚約破棄は後で何とでも言い逃れが出来るもの。解消しようを破棄と間違えた、とかね。
でも一度言った言葉は誰の記憶にも残る。例え解消したのが事実でも破棄された、それがいつまでも残り続けるの。
「なあエリーナ、王子に言った言葉はエリーナの本心だろ?」
「さあどうかしらね」
「あの涙もな」
「良い場面で涙が出てくれたわ。もう流す涙は枯れたと思っていたんだけど」
「帰ろうか、俺達の国へ」
「そうね、お父様達が待ってるわ」
「エリーナも婚約者が居なくなった。なら口説いてもいいよな?これからは本気で口説くからな」
「あら私平民よ?公爵令息のアランには不釣り合いだわ」
「この国だけでな。俺の国では侯爵令嬢として養子縁組されてる。それにエリーナは王配殿下の妹君だ」
お父様達が隣国へ行ったのは勿論お兄様に会いに行ったのは事実。ついでに公爵令嬢の間に隣国の侯爵家に養子縁組の手続きをしただけ。この国に帰ってこない限り私は平民ではない。その事は陛下も承知している。
それに貴族なら両国に籍を置く人は数少ないけどいるもの。
もう帰って来る事はない生まれ育ったこの国。目に焼き付けておこう。もう見る事が出来ないこの景色を…。
「あっ、そうだアラン、貴方の口説きに乗るか乗らないかは分からないからね」
「フッ、そんなの端から持久戦勝負だと思ってるさ」
「ふふ、さあ行きましょう」
茜色の空に輝く光、私の希望の光。
私達は馬車に乗り込みこの国を旅立った。
完結
❈ 作者から一言
ショートショートの短い物語を目に止めて頂きありがとうございます。
短い物語なのでエリーナ視点だけにしましたが、断罪がないのは納得できない、ローレンス殿下の断罪を読みたい、どんな罰か知りたい、など…、そう思われた方はお知らせ頂けると幸いです。おまけの話として投稿したいと思っています。
アズやっこ
365
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