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おまけ ルーファー視点 ①
しおりを挟む「殿下お帰りになってよろしいのですか?」
「ああ、あれでいい」
兄上のもとから去り王宮へ帰る。
「ですが、本当は和解をとおっしゃるはずだったではありませんか」
10年、長い10年か短い10年か、それは人それぞれ違う。
私にはとても長い10年だった。自分の容姿が成長したように兄上も変わっていて会っても兄上だと分かるか気になっていたが…フッ、案外直ぐに分かるものだな。父上の若かりし頃はきっとあんな感じだったんだろうと想像がつく。私も父上に似ていると思っていたが私よりももっと似ていた。
兄上を許すとは違う。だが和解ではないが兄上は変わり父上と母上と一度くらい顔を合わせても良いのではないかと思った。それに謝罪の機会になるのではないかと思った。
私の婚姻式は皆にとって良い機会になると。
だが兄上に会うまであの兄上がどこまで変わったのか自分の目で確かめるまで確証はなかった。兄上と話し、今の兄上に父上と母上と一度会ってみてはどうかと言っても兄上は決して会いたいとは言わないと感じた。合わせる顔がない、それもあるだろう。会って迷惑をかける、それもあるだろう。
だが私は線を引かれたと感じた。
もう自分は関係ない他人だと、私を含む父上や母上は敬い尊い存在で一民が会える存在ではないと。
そして王は民を大切にするがそれは平等だ。一民だけを贔屓してはならない。
それも分かっている。
分かっているから私は兄上に私に悪いと思うなら詫びたいなら見に来いと言った。そう言えば兄上は見届けに来るしかない。
10歳の時兄上は断罪され王宮から王都から追放された。当時の私はそれは当然だと思った。あんなに優しいエリーナ姉様に酷い仕打ちをして、王宮での暮らしがさも当然だと感謝もしない。母上が食卓につけず私と二人きりの食事の時は必ずと言っていい程、その日の気分で食事を残し苦手な物が出れば皿を投げた日もあった。私が苦手な物を無理して食べていれば『滑稽だな』と鼻で笑った。食は神の恵みと同時に民からの恵みだ。民が汗水垂らし働き育てた恵みを私達が食している。肉も動物からの恵みを私達が与えて貰っているんだ。それすら分からず何が第一王子だ、何が次期王太子だ、子供心にそう思った。
兄上は本も雑に扱った。『また買えばいい』兄上の口癖だ。確かに買えばいいのかもしれないが雑に扱わなければその本は一生物だ。それに本は知識の宝庫だ。絵本は文字や言葉を覚えるには最適だ。冒険の物語は想像力や夢を与えてくれる。令嬢が好む恋愛の物語は女性目線で描かれていて恋を知らない私には手本になる。全て兄上がくだらないと言った本だ。
指南書、図鑑、それだって知って知識を得る事が出来る。歴史の本には先人達の知恵を知り何もない時代でも猟をし逞しく生きたその生き方は生きる元祖。先人達が生きたからこそ今があり先人達が考えあみ出したからこそ今便利に使える。そして考え挑戦し失敗しても諦めないその強い意思、そして努力をし続ける事で成果が現れる。努力は人として生きるにはとても大事な事だと教えている。
私は兄上が恥ずかしくもあり憎くもあった。
第一王子だからと待遇されそれを当然だと疑わない。なぜ兄上が第一王子なんだと、こんな人が王太子になっては王になってはこの国は終わる。父上も母上も貴族達も何も分かっていない。
私はこの国を捨てるつもりだった。
兄上が王太子になったら私は他国に移住しもうこの国には帰らないと、父上も母上も貴族達も兄上と一緒に堕ちればいいと。
私が8歳の時に思った気持ちだ。
兄上が王都から追放され、今まで好意的に私を見ていた貴族達が私を見定めるように私の行動言動全てにおいて厳しい視線を向けた。
私は兄上とは違う、だがお前も第一王子と同じだろと、まるで敵意のように。
私は兄上を憎む気持ちが増した。貴方が置いていったものをなぜ私が担わないといけない。弟というだけで10歳の子供に何を背負わせたと。
だがハウバウル公爵は言った『ルーファー殿下、憎しみは殿下の目が曇ります。憎しみに囚われれば何も見えなくなります。殿下、殿下は聡明なお方だ、何をすべきか殿下ならお分かりだと思います。殿下、エリオットを味方に付けるんです』
3歳年上のエリオットとは幼い頃から私の遊び相手として育った。兄上とエリオットの姉上エリーナ姉様が婚約者だった事もありエリオットが選ばれた。まだ幼い頃は良かったが兄上と姉様が学園に入学し兄上が姉様に酷い態度を取れば取るだけエリオットは私から離れていった。そして兄上が最終学年の年は1度も会っていなかった。
エリオットを味方に付ける、それは王族とハウバウル公爵家との和解を意味しエリオットの兄君はウィングル国の王配殿下、隣国との強い絆に繋がる。
公爵は手も口も出さない。私自身の力で味方に付けろと言っている。
貴族達の信頼も取り戻さないといけない。
残された王子は私一人。
私はエリオットに毎日手紙を書いた。兄上の謝罪をどうして私が、そうは思ったが身内として謝罪するのは当たり前だ。姉様を傷つけた事実は変わらない。
それから母上も貴族達の信頼を取り戻す為に夫人達をサロンへ招いている。私は毎回顔を出した。夫人達の話を聞き、話題に上がった流行りの観劇に行き、流行りの物語を寝る間も惜しんで読んだ。
『殿下も恋愛小説を読まれるのですね』
私付きのメイドが机にあった本を見ていた。
『あ、それ、恥ずかしいけど母上のサロンで夫人達の話に付いていけなくて、少しでもと思ったんだ…』
『でしたら今流行りの小説をお持ちしますね。夫人達や令嬢達の流行りは早いですから』
『そうなの?助かるよ、ありがとう。出来ればでいいんだけど今流行りの物を教えてくれないかな?本もだけどドレスや宝石、女性の好む物、分かる限りでいいから教えてほしい』
『では他のメイドにも聞いてお教え致しますね』
『本当に?それは助かる、忙しいのに手間をかけさせてごめんね』
『殿下、殿下の優しさも殿下の努力もきっと皆直ぐに思い出します。私達メイドは殿下のお味方ですからいつでも頼って下さいね』
『ありがとうミラ、味方がいるって嬉しいもんだね』
メイド達は独自の情報網を持っていて流行りには敏感らしい。
私は宰相に頼んだ『宰相、貴族達の趣味を教えてほしい。出来れば詳しく教えてもらえると助かる』数日後貴族達の趣味を記した紙を受け取った。狩りを好む男性が多く狩り場を地図で見て今は何が狩れるか調べた。狩り場を調べれば誰の領地で隣は誰の領地かも知れ、またワインを好む男性も多くワイン畑はどこの領地にあり今の時期はこの領地のワイン、一番収穫量が多い領地を知り、この時期は自国よりも他国のワインが美味しいと試飲は出来ないが種類や産地、またその領地の祭りも合わせて調べた。
社交は進んで参加した。お茶会は招待されれば行ったし夜会も1時間だけ顔を出した。父上や母上の代わりに自由に動ける私が動くしかない。
狩りの話には『この時期だとボーン侯爵領のキジですか?それともパーカー伯爵領の兎ですか?』『ルーファー殿下も狩りにご興味がおありですか?』『一度は挑戦してみたいとは思っています。今は弓の練習もしています』『殿下は剣の腕もお達者でいらっしゃるとお聞きしましたが』『私なんてまだまだですがこれからも精進したいと思っています』
ワインを好む貴族にはワインの話を、新しい物好きな貴族にはまだ流通されていない酒を、強い酒を好む貴族には他国で強いと言われている酒を振る舞った。
全ては話題作りの為に。話題があれば話ができ話も弾む。領地の話や領地の祭りの話、私は進んで話しに行った。私から話し掛ければ無視をする事は出来ない。それでも私から話し掛けなければ何も変わらない。
『殿下、もうそろそろ』
従者が私を呼びに来た。成人していない私が夜会に出られるのは長くて1時間が限界だ。夜会の場から出ようとした時だった。
『ルーファー殿下、ダンスは踊られないのですか?もしお相手がいないのなら私の娘はいかがでしょう』
私よりも10歳以上年上だとしても未婚同士で私の初めてのダンスを婚約者でもない令嬢と踊る事は出来ない。初めてのダンスは婚約者か既婚者が鉄則だ。
断ればダンスも踊れない、我々貴族を粗末に扱うとあることないこと言われても困る。
私はにこっと微笑んだ。
『では私の相手をして頂けますか?フォード侯爵。私は女性側も踊れますから』
フォード侯爵とダンスを踊った。男同士だろうが未婚の令嬢と踊れば鉄則も知らない好色王子だと言われる。
『お見事なお点前でした殿下』
『こちらこそ相手をして下さりありがとうございました』
侯爵とのダンスが終わり、
『ルーファー殿下、次はわたくしのお相手をお願いできますでしょうか』
『オードン公爵夫人、こちらこそよろしくお願いします』
宰相夫人の手を取り今度は男性側のダンスを踊る。
『流石ですわ殿下』
『夫人に指導してもらったお陰です。ありがとうございました』
夜会に少しでも顔を出すと決めた時、私は夫人に女性側の指導を受けた。からかい半分で声が掛かるだろうと思ったからだ。夫人は指の先に至るまで女性らしく華やかに、夫人の指導は厳しかったがこうして実を結んだ。
『殿下、悔しくてもにこやかにですよ。殿下の表情、仕草全てを見られているとお思い下さい』
『はい分かっています』
『今は辛くても耐える時です。ですが殿下の本来の姿を努力の姿を見れば皆殿下をお認めになります。私はそう信じております。殿下辛い時こそ笑顔です。笑顔には幸運を引き寄せる力があると私は思っております』
『はい、ありがとうございます。これからもご指導よろしくお願いします』
ダンスが終わり夫人を夫人が集まる席までエスコートし私は会場を後にした。
母上のサロンでのお茶会ではメイド達のお陰で話にも参加でき、夜会では貴族達と話しをする。それでも私を見定める視線は変わらない。
そんな時兄上がハウバウル公爵領で子供達に勉学を教え自分の力で生活をしていると聞いた。父上も母上も我が事のように喜んでいた。
父上も母上も私を褒めてくれる。それに最近は父上の執務室で一緒に書類を見て少しづつ教えてもらっている。時に地図を広げながら時に対処法を、そして私の考えを言う。父上は否定もしないが肯定もしない。そして自分だったらと父上の考えを聞く。『ルーファーはまだまだこれからだ。学園に行けばもっと視野が広くなる。一度頭の中で自分の考えを仮想し不備はないか他に案はないか考えてみると良い』そう言って頭を撫でる。
兄上だけが愛されてるとは思っていない。私も愛されていて私の事もきちんと見てくれている。
それでも兄上は努力した成果が出て私は成果が出ない。一向に縮まらない貴族達の溝は私を焦らせた。
『殿下、焦りは禁物です。先人達はどうおっしゃっていましたか?』
従者は私に厳しくもあり寄り添ってもくれる。
『日々の努力は報われ必ず成果が現れる。焦れば焦るほど成功は遠のき日々コツコツと積み上げる事こそ成功の糸口になる。成功に近道はない。どれだけ遠回りしようと努力は裏切らず努力すれば成果を実らせる』
『はい、今は焦らず努力を積み上げる時です。殿下は殿下です』
『そうだな、ありがとうネイソン』
エリオットへの一方通行の手紙、貴族達との溝、王族への信頼と信用の回復、11歳の王子が背負うには重すぎる荷物。それでも残された王子は私だけ。
私が背負わず誰が背負う
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