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おまけ ローレンス視点 ⑦
しおりを挟む遠くで何か声がする。
『……ンス……レンス、生き……れ』
『わた……いと……ロー………』
『…に上、生き……くだ……』
懐かしいとても懐かしい声がする。
それにさっきから左手が…
私は左手を見つめた。
懐かしい温もり…、この温もりを私は知っている。幼い頃繋いだ大きな手、優しい温もり、見上げると私に微笑む父上の優しい眼差し。
父上すみません、なんて私は愚かな息子だったのでしょう。父上の愛に気付かず愛されていないと癇癪を起こし父上の期待に添えない不甲斐ない自分を人のせいにしてきました。貴族達の目に自分がどう映っているのかも気付いていて気付かないふりをしてきました。
どうせ皆ルーファーが良いのだろう
厄介者の私を排除したいのだろう
エリーナとの婚約は私に残された唯一の王への道、父上は唯一の道を私に授けてくれた。それを私自身で台無しにした。
筆頭公爵のハウバウル家の長女でありウィングル国王配殿下を兄に持つエリーナは何も持たない私の強力な後ろ盾だった。エリーナの知識、聡明さ、エリーナは全て私に捧げたであろう。彼女はそういう女性だ。
最後にエリーナの声が聞こえたと思ったがあれは私が作り出す幻。彼女に謝罪したいと心から望む私の最後の強い思いだったに違いない。
父上、母上、ルーファー、最後にもう一度お会い、した…かった…………
「生きよ!ローレンス!戻ってこい!」
「ローレンスお願いよ、もう一度目を覚まして」
「兄上!諦めないで下さい!ようやく家族が揃ったんですよ。また貴方は私を切り捨てるんですか」
ルーファー…、私はずっと自分が切り捨てられたと思っていたが、切り捨ててきたのは私だったのか……。
「兄上、目を覚まして確認して下さい。貴方は愛されているという事を」
そうだな…、私には愛が詰まっていた。私は何でも欲しがる駄々っ子だ。目に見えない愛を見ようとしなかった…。
すまない、すまない……
「お前を重罪にした私が今更父だと言うのも都合が良すぎるかもしれない。それでもお前の死を望んだ事は一度もない。だから生きてくれ……、死ぬな……、私よりも…早く……死ぬな………」
違う、違う、違う違う違う。重罪になったのも自分の責任、父上はこんな息子でも生きろと処刑にはなさらなかった。生きてやり直せと最後の最後まで私に教え続けた。
「すまないローレンス…、すまない……」
ポタポタと生温かいものが私を温める。
さっきまで私の足を掴んでいたものが消えてなくなりこっちだと光の線が私を導く。
「ち……ぇ」
「ローレンス?ローレンスしっかりしろ、ローレンス」
重い重い瞼を少しだけ開く。ぼやけて見える父上の顔。
「ち…ち……う…え……」
「ああ、お前の父だ、分かるか」
私は繋がる左手に力を入れた。
「そうか、ローレンス…助かって…良かった………」
繋がる左手に父上の涙が伝う。
「ローレンス、私の愛しいローレンス」
「はは…う…え…」
「良かった、本当に…良かった…わ……」
今にも崩れ落ちそうな母上をルーファーが支える。
「ルー…ファ……」
「兄上」
私は自然と涙が溢れた。
もう一度会いたいと願った家族がここにいる。こんな息子をこんな兄を心配してくれる家族がここにいる。
「すみ…ま……せ、ん……」
「今はゆっくり体を治せ」
『はい』と言葉にできず『うぅぅ』と体が震え涙が流れ続けた。
「おじさん起きて朝よ」
小さい天使が毎日私を起こしに来る。
「シャルルありがとう」
あれから3ヶ月、すっかり体も治った。ただ少し左足を引きずる程度。それも毎日少しづつ動かせば杖なしで歩けるようになると言われた。
「今日は僕とお庭を散歩しようね」
「ああ、また話を聞かせてほしい」
フィンは絵本が大好きで絵本の話をキラキラとした顔で歩きながら教えてくれる。時に木の棒を剣の変わりにし戦いを実演してくれる。
フィンを見ていると幼いルーファーにとても良く似ている。ルーファーもこうして絵本を手に『兄上聞いて下さい』とよく言っていた。私は邪険に扱ったがエリーナはよくルーファーの話を聞いていた。
惜しい事をした、今はそう思う。幼いルーファーの話をきちんと聞いてやるべきだった。子供の想像力は豊かだ。私には考えられない想像をし、話を聞いているだけで面白い。その想像に私も想像し楽しい。
「ここにいたのね」
今はフィンと庭の芝生の上に座りフィンの話を聞いている。
「子供達が迷惑をかけていませんか?」
「迷惑をかけているのは私の方だ」
エリーナは私の隣に座り、フィンはシャルルと元気に走り回り遊んでいる。
「エリーナ、すまない。私は傲慢でどれだけお前を傷つけてきたか」
「殿下、それは私も同じです。お互い相手に配慮が足りなかった、そう思います。それに過去はもう変えられません。殿下も私ももう婚約者ではありません。
それにもう何度目ですか?毎回会う度に謝罪するおつもりですか?もうこれで最後に致しましょう。
ローレンス殿下、殿下と関係を築く努力もせず婚約破棄をして申し訳ありませんでした」
「エリーナ、私はエリーナがいながら浮気をし不貞をした。婚約者のエリーナに不誠実な態度だった、申し訳ない」
「はい、とても辛かったです」
「ああ、すまない、すまなかった」
「これで終わりです。
ロウ、困ったことがあったらいつでも言ってね、私達は友でしょ?」
「ああ」
私はロウと名を変えた。ロウとしてまた一からやり直す。エリーナとも友になった。
「エリーナ、ノイルが起きたぞ」
「ありがとうアラン」
エリーナは赤子を抱いた。その姿に目を細める。よしよしとあやす姿はもう私の知ってるエリーナではない。
「長い間世話になった」
「世話をしたのは義父上だ」
「エリーナを頼む、彼女を不幸にした私が言う事ではないのは百も承知だ、それでも彼女には幸せになってほしいと心から願っているんだ」
「君に言われなくても俺はエリーナを愛しているし彼女は幸せだ。エリーナは俺の愛しい奥さんだし可愛い子供達もいる。君に心配される必要はない。でも、まあ君の願いは叶ってるよ、それはこれからも俺が叶える。だから安心して」
「ああ、そうだな」
私とエリーナの道は外れ別々の道を歩いている。外した私に心配する権利はない。それでも幸せを祈る事は許してほしい。それが私への戒めでもある。もう誰も自分の手で不幸にしたくない。
「ああそれと、ミリアさんの事は俺達に任せてほしい」
「ミリアの事、よろしくお願いします」
私は頭を下げた。
『ミリア、謝るんだ、君は彼女を傷つけた』
『ごめんなさいお姉ちゃん』
『すまないエリーナ、今はこれで許してほしい。必ずいつかきちんと謝らせる、それまで待っていてほしい』
『殿下、私は彼女も私達の意地の張り合いに巻き込まれた犠牲者だと思うんです。だからこそ私は彼女を助けたい。現実から逃げる時も必要でしょう。でももう現実に戻ってきてもらわないと。いつまでもお花畑の世界では生きられません。きっと彼女にはその世界の方がいいのかもしれませんが』
『いや、いつまでもお花畑の世界の住人でいていいわけがない』
『何年かかるか分かりませんがそれまで待っていて下さいますか』
『ああ、何年でも待っている。ミリアをよろしく頼む』
ミリアは心の病を専門に見る医師に託す事にした。この国を出る事は許されない。それでも父上が許可を出した。
『病を治す為なら致し方ない。それにあの娘がこの国にいないなど誰にも気づかれなければいるのと同じだ。幸い公爵領だしな』
ミリアは先日公爵家の医師と共に他国へ行った。
『お兄ちゃん行ってくるね』
と満面の笑みを浮かべて。新しい服と沢山のお菓子を詰め込んだ鞄を持って。そして手には
『これねシャルルとお揃いなの。シャルルが離れてもいつも一緒だよって、私の代わりよって。だから私は淋しくないわ』
私がシャルルとお揃いで買ったぬいぐるみを持って旅立った。
いつまでも待ってるから、ミリアの帰りをいつまでも待ってるからまた笑ってほしい。
「兄上、明日領地へ帰るんですよね」
「ああ、公爵領の子供達も待ってるからな」
「では今日は家族で食事をしましょう」
ルーファーはこうして度々公爵家へ来る。『私は友のエリオットに会いに来ているだけですから』と言って。
あれから父上とも母上とも内密に会っている。公爵家に時折来て夕食を共にする。ルーファーの妻も紹介された。仲睦まじい二人の姿を見れて嬉しいと思った。
まだ堂々とは会えない。それでも私達に協力してくれる公爵、宰相、それに近衛騎士総隊長、心強い味方だ。
「ルーファー殿下、聞いて下さい」
「フィン、なんだ?今日はどんな絵本を読んでいるんだ?」
ルーファーはフィンを抱き上げた。
幼かった自分と同じように目をキラキラさせ話すフィンに、同じように目をキラキラさせ聞いているルーファー。
あぁ、私は何と勿体ない時間を過ごしてきたのだろう。
「あらルーファー来てたの?」
先日エリーナはルーファーに謝罪をしていた。
『ごめんなさいルーファー、私は自分可愛さで貴方に手を貸したわ。子供の貴方に重い荷物を背負わせ逃げた自分が許せなくて自分が楽になりたいだけで貴方に手を貸して利用したの。謝って許される事じゃないわ、それでも、ごめんなさいルーファー』
『姉様、姉様がどんな理由だろうと港が開港できたのは姉様の多額の寄付のお陰です。確かに姉様の事を恨んだ時もありました。それでも姉様と過ごした日々で私が救われたのは事実。幼い私の夢を笑わず聞いてくれたのは姉様だけです。いつも優しい姉様を私が大好きなだけです。だからもう気にしないで下さい』
私は子供の頃のルーファーとの思い出もない。私は薄情な兄だった。
「姉様、私の子供の頃の夢を覚えていますか?」
「勿論よ」
「ならいつかまた応援してくれますか?次世代へ繋いだその後で私は子供の頃の夢をジュリエッタと叶えるその時に」
「ええ、楽しみにしてるわ。貴方から届く絵葉書をそして話を」
「はい待っていて下さいね、姉様」
子供のように笑ったルーファー。
ルーファーの夢を私は知らない。でもそれを知ろうとは思わない。ルーファーとエリーナ、二人だけの思い出だからだ。幼いルーファーにエリーナが側にいて良かった。そしてどんな夢であったとしてもそれを笑わず応援してくれるエリーナがいたからルーファーは今王太子になり王になる。
自分の味方がいる、それだけで人は強くなれる。
それは私が公爵領で身をもって経験したことだ。
それをもっと早く、もっと早く気付くべきだった。そしたらルーファーとも良い兄弟になれただろう。父上とも母上とも良い親子になれただろう。
だがまだ私は生きている。
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