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次の日、エマが突然家にやって来た。
「約束もしてないのに急に来てごめんなさい」
「ううん、嬉しい」
私もエマに会いたかった。会って色々話しを聞いてほしかった。
私の部屋に移動し、ソファーに座る。レイラはお茶とお菓子をテーブルに置いて部屋を出ていき、今はエマと二人きり。
「急にどうしたの?」
家に来た時からエマの様子が変だった。
「お兄様とちょっと喧嘩しちゃって、家にいたくなくて。ごめんね」
「私はエマに会えて嬉しいわ。でもお兄様と喧嘩なんて珍しいわね」
「お兄様は頭が固いのよ」
エマは思い出したのか怒っている。
エマに優しいあのお兄様がエマを怒らせるなんて。
「それよりどうなの?」
怒っていたエマは身を乗り出すようににこにこと笑っている。
「どうなのって」
「ラウル様のことよ。好きになれそう?」
私はエマを見つめる。
「私に好きになられても困るだけよ」
「私はセレナの気持ちを知りたいの」
「私の気持ち?」
エマはうんうんと頷いている。
「………好き」
「本当!?」
エマは目を大きく開け嬉しそうに笑った。
「でもこの気持ちは隠すつもり。ラウル様には伝えるつもりはないの」
「どうして?」
「迷惑だもの。だって私達は仮初の婚約者なのよ?本当の婚約者じゃないわ。それなのに好きになられたら迷惑でしょう?」
私は微笑んだ。
向かいに座っていたエマは私の隣に座り、私を抱きしめた。
「そんな悲しそうな顔をさせたかったわけじゃないの。ごめんねセレナ」
私は顔を横に振った。
エマは私の背中を優しくトントンと叩いた。自然と溢れる涙が頬を伝う。
「ほら泣き止んで?」
エマは私の涙を拭った。
「誰を好きになっても、心はその人のものよ。誰が咎めるの?」
「でも迷惑だわ」
「ラウル様が迷惑だと言った?」
「伝えてないもの。私が勝手に好きになってるだけだもの。仮初の婚約者に意味を持たせただけだもの」
このまま本当に結婚できるんじゃないかって。ラウル様の妻になれるんじゃないかって。勝手に私がそう思ってるだけ。
「それに伝えるつもりはないの」
好きという気持ちをラウル様に伝えるつもりはない。
私を好きになってほしい、その為の努力はする。それでも好きと伝えたら、私を好きじゃなくてもラウル様はそれに応えようとしてくれる。
でもそれは私が嫌。
ラウル様にも私を好きになってほしい。
私は欲張りなの。婚約者という立場だけではなく、ラウル様の心も欲しい。
「気持ちは伝えないと伝わらないわ。貴女達二人共臆病だもの。セレナは自分が我慢すればいいと思ってる。自分の幸せより周りの幸せを優先するの。ラウル様は、ほら、逃げられたから…。自分に自信がないの。自分の愛し方に自信がないの。でも皆自分の心を優先してるわ」
エマは私の両手を握った。
「ラウル様が好きなんでしょ?」
私は頷く。
「今回も我慢するの?誰か他の女性に譲るの?譲れるくらいならやめなさい」
私は顔を横に振った。
「嫌、譲りたくない。ラウル様が好きなの」
「なら気持ちを伝えないと」
「迷惑じゃない?」
「伝えないと何も始まらないわ。好きって思っていても相手に伝わっていなければ何もないと同じ。それに好きって伝えたら好きって返ってくるかもしれないじゃない」
「でも私から伝えて…」
「ほら、すぐ消極的になる」
エマは私の言葉を掻き消すように言葉を被せた。
「セレナって昔から自分に向けられる好意には気づかないのよね。ショーンだって昔はセレナが好きだったと思うわよ?」
「ショーンは昔からアニーが好きよ?」
「それはセレナがショーンはアニーが好きだと決めつけていたから、だからショーンは貴女を諦めたの。私から見ていても幼い頃のショーンは貴女を好きだったわ」
そうなの?なら幼い頃の私達はお互い好きだったの?あんなに何重にも蓋をしなくても、本当は良かったの?
「ラウル様は私を好きかしら。どう思う?」
「直接聞けばいいわ。ショーンにだって聞けば良かったのよ?」
「聞いて嫌いって言われたら落ち込むわ」
「でも聞かないとラウル様の気持ちは分からないわ。それにラウル様にもセレナの気持ちは伝わらないでしょう?」
「ラウル様に伝えたら、ラウル様はきっと私を好きじゃなくても私に応えてくれようとするわ。なら本当の婚約者になるかって。結婚しようかって。でもそれはラウル様の本心じゃない」
好きじゃなくても婚約者になれるし結婚もできる。でもそんな結婚で幸せになれるの?
「私はラウル様には好きな人と今度は幸せになってほしいの。自分の幸せも大事よ?でも元奥様に傷つけられた分幸せになってほしいの。彼は幸せにならないといけないの。優しい人だもの。愛情深い人だもの。だから今度はラウル様の愛に愛を返してくれる人と幸せになってほしいの」
「それがセレナでは駄目なの?」
「私を愛してくれるなら私も愛を返すわ。同じ分だけ、ううん、それ以上返すわ。でも心はその人のものでしょう?だからラウル様が選んだ人じゃないと意味がないじゃない」
ラウル様が私を選んでくれるなら、私もラウル様の思いに応える。
でも私は選ばれてはいない。
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