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「隊長さん」
「はい」
「お兄様の剣は隊長さんの側に置いて下さい」
「ですが」
「お兄様もそう望むと思います。お兄様は私に言いました。大切な物は自分の手の分しか持ちたくないと。右手は剣を、そして左手は友の手を取りたいと。隊長さんがご迷惑でないのならどうかお兄様の剣を隊長さんの側に置いて下さい」
「い、良いの、ですか」
「はい。お兄様も隊長さんの側の方が喜ぶと思います」
「あ、ありがとう、ございます」
隊長さんは左手を見ながら涙を流した。クロードと言いながら…。その声がとても悲しく寂しく、そして愛しそうに…。
私はガイに肩を抱かれ、瞳に涙が浮かんだ。
「隊長さん、一つお伺いしてもよろしいですか?」
「はい。何でしょう」
「隊長さんの大切な物は何ですか?」
「はい。右手は剣を、左手は友の手です」
「そうですか」
「友の最期の時、私達はお互い大切な物を握りあいました」
「隊長さんはお兄様を愛していましたか?」
「はい。今でも愛しています」
「良かった」
「………」
「お兄様を愛してくれる人がいて」
「そう、ですか」
「はい!」
「クロードは、嫌がりませんか?」
「喜ぶと思います。お兄様も隊長さんを愛していますもの」
「はい?」
「だって大切な物って愛する人の事でしょ?お兄様にとって剣は命と同じくらい大切な物。一緒に寝ていたくらいですよ?」
「それは護衛と言うか、騎士の性と言うか、」
「そうでしょうか。私は1度もお兄様のベッドで寝た事はありません。剣と寝るからと断られた事もあります。剣と同じくらい大切な物は隊長さんです」
「そうですか…嬉しいです……」
隊長さんはまた涙を流されました。
「お兄様の剣をお願いします」
「はい」
「たまに見に来ても良いですか?」
「勿論です」
「………」
「どうされましたか?」
「もう一人のお兄様と思っても…その…」
「ああ、アイリス」
突然フワリと浮き抱きしめられた。
「アイリス」
と、隊長さんの顔が私の肩に乗り、涙が服に染み込んできた。
「アイリス、可愛い妹」
幼い頃、私より大きな身体のお兄様に抱きしめられ包みこまれると、逞しい腕や胸にとても安心した。今、私も背が伸び大きくなった。それでも隊長さんは私よりも大きく包みこまれてる。逞しい腕や胸があの時のお兄様と重なり、とても安心する。
グルルル
ガイが怒ってる?それでもお兄様を思い出し懐かしい思いが私を包む。
「お兄様…」
隊長さんの腕に力が少し入った。それは痛くなく優しく私を大事に包む。
私は涙が溢れた。私は大きく逞しいお兄様が無敵の騎士だと思ってた。剣を振る姿は勇ましく声をかける事が出来ない程凛としていて、辺りの空気は張りつめていた。 私は静かにいつも見ていた。剣を振る姿を…。そして終わると私に笑顔を見せ、私を抱き上げ肩に座らせた。そしてお兄様は色々な話を私に聞かせた。獣人の事、この国の事。
お兄様の亡骸を隠す様に埋葬した。墓地ではなく伯爵家の庭に…。それからお兄様に対する侮辱や批判を私達家族は他人からあびせられた。
お兄様を失くし、他人の敵意に耐えられなくなった私は家に閉じこもった。お兄様が眠る庭の片隅でお兄様に寄り添うようにいつも一緒に居た。
ガチャ
「隊長、判を、し、失礼しました」
バタン
「入れ」
私はまだ隊長さんに抱きしめられてる。
入って来たのはとても大きな獣人…。
「クロードの妹だ」
「クロード殿の?」
「ああ」
「クロード殿の妹君、あの妹君ですか?」
「あの妹だ」
「クロード殿が激愛していたあの妹君ですか。確かにクロード殿の面影を感じます」
「隊長さん、あのとは?」
「クロードは騎士達にアイリスの自慢話ばかりしていたからな」
「はい。少しお転婆で人見知りだけどとても可愛い愛しい妹だと。詰所に来るなり今日のアイリスはと皆に言っていました」
「お兄様は!もう!」
「クロード殿は私の憧れの騎士です。当時下っ端の私にも気さくに話しかけてくれ、剣の稽古も見てくれました。貴女の兄上は立派な騎士です。誰が何を言おうと誇り高き立派な騎士です」
「はい」
「クロード殿に敬拝」
と言ってお兄様の剣に向かい騎士の礼をしている。それも最高級の騎士の礼。
お兄様に教えて貰った。騎士には3つの礼があると。1つ目は己の胸に手を当て礼をする。2つ目は片膝を付き己の胸に手を当て礼をする。そして3つ目は己の剣を胸に当て礼をする。
最高級の礼は3つ目。騎士にとって剣は命と同位。相手を敬い己の剣と己の命を捧げると相手に示す礼。
今、騎士達から最高級の礼を受けるのは陛下のみ。己の全てで護ると、己の全てを預けると誓う。そして騎士の間でのみ語り継がれている、己には敵わない相手に尊敬すると賛美した時に相手に向ける礼。
お兄様に最高級の礼をガイもしてる。一騎士のそれも死んでも尚、皆から侮辱を受けたお兄様に捧げる礼ではない。それをこの人とガイは躊躇いもなく礼を捧げてる。私達家族だけしかお兄様の死に深い悲しみを持ち、お兄様の騎士道を承認していないと思っていた。実際そうだった。だけど隊長さんもお兄様を今でも思い、深い悲しみを心に抱えてくれている。お兄様は家族以外の心の中でも生きている。それが本当にありがたい。
私は隊長さんを抱きしめ、隊長さんの胸に顔を埋め、
「ありかどうございます」
と、涙が溢れた…。
「はい」
「お兄様の剣は隊長さんの側に置いて下さい」
「ですが」
「お兄様もそう望むと思います。お兄様は私に言いました。大切な物は自分の手の分しか持ちたくないと。右手は剣を、そして左手は友の手を取りたいと。隊長さんがご迷惑でないのならどうかお兄様の剣を隊長さんの側に置いて下さい」
「い、良いの、ですか」
「はい。お兄様も隊長さんの側の方が喜ぶと思います」
「あ、ありがとう、ございます」
隊長さんは左手を見ながら涙を流した。クロードと言いながら…。その声がとても悲しく寂しく、そして愛しそうに…。
私はガイに肩を抱かれ、瞳に涙が浮かんだ。
「隊長さん、一つお伺いしてもよろしいですか?」
「はい。何でしょう」
「隊長さんの大切な物は何ですか?」
「はい。右手は剣を、左手は友の手です」
「そうですか」
「友の最期の時、私達はお互い大切な物を握りあいました」
「隊長さんはお兄様を愛していましたか?」
「はい。今でも愛しています」
「良かった」
「………」
「お兄様を愛してくれる人がいて」
「そう、ですか」
「はい!」
「クロードは、嫌がりませんか?」
「喜ぶと思います。お兄様も隊長さんを愛していますもの」
「はい?」
「だって大切な物って愛する人の事でしょ?お兄様にとって剣は命と同じくらい大切な物。一緒に寝ていたくらいですよ?」
「それは護衛と言うか、騎士の性と言うか、」
「そうでしょうか。私は1度もお兄様のベッドで寝た事はありません。剣と寝るからと断られた事もあります。剣と同じくらい大切な物は隊長さんです」
「そうですか…嬉しいです……」
隊長さんはまた涙を流されました。
「お兄様の剣をお願いします」
「はい」
「たまに見に来ても良いですか?」
「勿論です」
「………」
「どうされましたか?」
「もう一人のお兄様と思っても…その…」
「ああ、アイリス」
突然フワリと浮き抱きしめられた。
「アイリス」
と、隊長さんの顔が私の肩に乗り、涙が服に染み込んできた。
「アイリス、可愛い妹」
幼い頃、私より大きな身体のお兄様に抱きしめられ包みこまれると、逞しい腕や胸にとても安心した。今、私も背が伸び大きくなった。それでも隊長さんは私よりも大きく包みこまれてる。逞しい腕や胸があの時のお兄様と重なり、とても安心する。
グルルル
ガイが怒ってる?それでもお兄様を思い出し懐かしい思いが私を包む。
「お兄様…」
隊長さんの腕に力が少し入った。それは痛くなく優しく私を大事に包む。
私は涙が溢れた。私は大きく逞しいお兄様が無敵の騎士だと思ってた。剣を振る姿は勇ましく声をかける事が出来ない程凛としていて、辺りの空気は張りつめていた。 私は静かにいつも見ていた。剣を振る姿を…。そして終わると私に笑顔を見せ、私を抱き上げ肩に座らせた。そしてお兄様は色々な話を私に聞かせた。獣人の事、この国の事。
お兄様の亡骸を隠す様に埋葬した。墓地ではなく伯爵家の庭に…。それからお兄様に対する侮辱や批判を私達家族は他人からあびせられた。
お兄様を失くし、他人の敵意に耐えられなくなった私は家に閉じこもった。お兄様が眠る庭の片隅でお兄様に寄り添うようにいつも一緒に居た。
ガチャ
「隊長、判を、し、失礼しました」
バタン
「入れ」
私はまだ隊長さんに抱きしめられてる。
入って来たのはとても大きな獣人…。
「クロードの妹だ」
「クロード殿の?」
「ああ」
「クロード殿の妹君、あの妹君ですか?」
「あの妹だ」
「クロード殿が激愛していたあの妹君ですか。確かにクロード殿の面影を感じます」
「隊長さん、あのとは?」
「クロードは騎士達にアイリスの自慢話ばかりしていたからな」
「はい。少しお転婆で人見知りだけどとても可愛い愛しい妹だと。詰所に来るなり今日のアイリスはと皆に言っていました」
「お兄様は!もう!」
「クロード殿は私の憧れの騎士です。当時下っ端の私にも気さくに話しかけてくれ、剣の稽古も見てくれました。貴女の兄上は立派な騎士です。誰が何を言おうと誇り高き立派な騎士です」
「はい」
「クロード殿に敬拝」
と言ってお兄様の剣に向かい騎士の礼をしている。それも最高級の騎士の礼。
お兄様に教えて貰った。騎士には3つの礼があると。1つ目は己の胸に手を当て礼をする。2つ目は片膝を付き己の胸に手を当て礼をする。そして3つ目は己の剣を胸に当て礼をする。
最高級の礼は3つ目。騎士にとって剣は命と同位。相手を敬い己の剣と己の命を捧げると相手に示す礼。
今、騎士達から最高級の礼を受けるのは陛下のみ。己の全てで護ると、己の全てを預けると誓う。そして騎士の間でのみ語り継がれている、己には敵わない相手に尊敬すると賛美した時に相手に向ける礼。
お兄様に最高級の礼をガイもしてる。一騎士のそれも死んでも尚、皆から侮辱を受けたお兄様に捧げる礼ではない。それをこの人とガイは躊躇いもなく礼を捧げてる。私達家族だけしかお兄様の死に深い悲しみを持ち、お兄様の騎士道を承認していないと思っていた。実際そうだった。だけど隊長さんもお兄様を今でも思い、深い悲しみを心に抱えてくれている。お兄様は家族以外の心の中でも生きている。それが本当にありがたい。
私は隊長さんを抱きしめ、隊長さんの胸に顔を埋め、
「ありかどうございます」
と、涙が溢れた…。
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