憎しみあう番、その先は…

アズやっこ

文字の大きさ
20 / 43

20

しおりを挟む
「隊長さん」

「はい」

「お兄様の剣は隊長さんの側に置いて下さい」

「ですが」

「お兄様もそう望むと思います。お兄様は私に言いました。大切な物は自分の手の分しか持ちたくないと。右手は剣を、そして左手は友の手を取りたいと。隊長さんがご迷惑でないのならどうかお兄様の剣を隊長さんの側に置いて下さい」

「い、良いの、ですか」

「はい。お兄様も隊長さんの側の方が喜ぶと思います」

「あ、ありがとう、ございます」


 隊長さんは左手を見ながら涙を流した。クロードと言いながら…。その声がとても悲しく寂しく、そして愛しそうに…。


 私はガイに肩を抱かれ、瞳に涙が浮かんだ。


「隊長さん、一つお伺いしてもよろしいですか?」

「はい。何でしょう」

「隊長さんの大切な物は何ですか?」

「はい。右手は剣を、左手は友の手です」

「そうですか」

「友の最期の時、私達はお互い大切な物を握りあいました」

「隊長さんはお兄様を愛していましたか?」

「はい。今でも愛しています」

「良かった」

「………」

「お兄様を愛してくれる人がいて」

「そう、ですか」

「はい!」

「クロードは、嫌がりませんか?」

「喜ぶと思います。お兄様も隊長さんを愛していますもの」

「はい?」

「だって大切な物って愛する人の事でしょ?お兄様にとって剣は命と同じくらい大切な物。一緒に寝ていたくらいですよ?」

「それは護衛と言うか、騎士の性と言うか、」

「そうでしょうか。私は1度もお兄様のベッドで寝た事はありません。剣と寝るからと断られた事もあります。剣と同じくらい大切な物は隊長さんです」

「そうですか…嬉しいです……」


 隊長さんはまた涙を流されました。


「お兄様の剣をお願いします」

「はい」

「たまに見に来ても良いですか?」

「勿論です」

「………」

「どうされましたか?」

「もう一人のお兄様と思っても…その…」

「ああ、アイリス」


 突然フワリと浮き抱きしめられた。


「アイリス」


 と、隊長さんの顔が私の肩に乗り、涙が服に染み込んできた。


「アイリス、可愛い妹」


 幼い頃、私より大きな身体のお兄様に抱きしめられ包みこまれると、逞しい腕や胸にとても安心した。今、私も背が伸び大きくなった。それでも隊長さんは私よりも大きく包みこまれてる。逞しい腕や胸があの時のお兄様と重なり、とても安心する。


グルルル


 ガイが怒ってる?それでもお兄様を思い出し懐かしい思いが私を包む。


「お兄様…」


 隊長さんの腕に力が少し入った。それは痛くなく優しく私を大事に包む。

 私は涙が溢れた。私は大きく逞しいお兄様が無敵の騎士だと思ってた。剣を振る姿は勇ましく声をかける事が出来ない程凛としていて、辺りの空気は張りつめていた。 私は静かにいつも見ていた。剣を振る姿を…。そして終わると私に笑顔を見せ、私を抱き上げ肩に座らせた。そしてお兄様は色々な話を私に聞かせた。獣人の事、この国の事。

 お兄様の亡骸を隠す様に埋葬した。墓地ではなく伯爵家の庭に…。それからお兄様に対する侮辱や批判を私達家族は他人からあびせられた。

 お兄様を失くし、他人の敵意に耐えられなくなった私は家に閉じこもった。お兄様が眠る庭の片隅でお兄様に寄り添うようにいつも一緒に居た。




ガチャ

「隊長、判を、し、失礼しました」

バタン

「入れ」


 私はまだ隊長さんに抱きしめられてる。

 入って来たのはとても大きな獣人…。


「クロードの妹だ」

「クロード殿の?」

「ああ」

「クロード殿の妹君、あの妹君ですか?」

「あの妹だ」

「クロード殿が激愛していたあの妹君ですか。確かにクロード殿の面影を感じます」

「隊長さん、あのとは?」

「クロードは騎士達にアイリスの自慢話ばかりしていたからな」

「はい。少しお転婆で人見知りだけどとても可愛い愛しい妹だと。詰所に来るなり今日のアイリスはと皆に言っていました」

「お兄様は!もう!」

「クロード殿は私の憧れの騎士です。当時下っ端の私にも気さくに話しかけてくれ、剣の稽古も見てくれました。貴女の兄上は立派な騎士です。誰が何を言おうと誇り高き立派な騎士です」

「はい」

「クロード殿に敬拝」


 と言ってお兄様の剣に向かい騎士の礼をしている。それも最高級の騎士の礼。

 お兄様に教えて貰った。騎士には3つの礼があると。1つ目は己の胸に手を当て礼をする。2つ目は片膝を付き己の胸に手を当て礼をする。そして3つ目は己の剣を胸に当て礼をする。

 最高級の礼は3つ目。騎士にとって剣は命と同位。相手を敬い己の剣と己の命を捧げると相手に示す礼。

 今、騎士達から最高級の礼を受けるのは陛下のみ。己の全てで護ると、己の全てを預けると誓う。そして騎士の間でのみ語り継がれている、己には敵わない相手に尊敬すると賛美した時に相手に向ける礼。


 お兄様に最高級の礼をガイもしてる。一騎士のそれも死んでも尚、皆から侮辱を受けたお兄様に捧げる礼ではない。それをこの人とガイは躊躇いもなく礼を捧げてる。私達家族だけしかお兄様の死に深い悲しみを持ち、お兄様の騎士道を承認していないと思っていた。実際そうだった。だけど隊長さんもお兄様を今でも思い、深い悲しみを心に抱えてくれている。お兄様は家族以外の心の中でも生きている。それが本当にありがたい。

 私は隊長さんを抱きしめ、隊長さんの胸に顔を埋め、


「ありかどうございます」


 と、涙が溢れた…。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』

伊織愁
恋愛
 人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。  実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。  二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん
恋愛
獣人と人が住む国で、ララベルが一番嫌う言葉、それは番。というのも、大好きな親戚のミナリア姉様が結婚相手の王子に、「番が現れた」という理由で結婚をとりやめられたから。それからというのも、番という言葉が一番嫌いになったララベル。そんなララベルを大切に囲い込むのが幼馴染のルーファス。ルーファスは竜の獣人だけれど、番は現れるのか……?  色々鈍いヒロインと、溺愛する幼馴染のお話です。 いつもながらご都合主義で、ゆるい設定です。お気軽に読んでくださったら幸いです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

私のことが大好きな守護竜様は、どうやら私をあきらめたらしい

鷹凪きら
恋愛
不本意だけど、竜族の男を拾った。 家の前に倒れていたので、本当に仕方なく。 そしたらなんと、わたしは前世からその人のつがいとやらで、生まれ変わる度に探されていたらしい。 いきなり連れて帰りたいなんて言われても、無理ですから。 そんなふうに優しくしたってダメですよ? ほんの少しだけ、心が揺らいだりなんて―― ……あれ? 本当に私をおいて、ひとりで帰ったんですか? ※タイトル変更しました。 旧題「家の前で倒れていた竜を拾ったら、わたしのつがいだと言いだしたので、全力で拒否してみた」

【完結】最愛から2番目の恋

Mimi
恋愛
 カリスレキアの第2王女ガートルードは、相手有責で婚約を破棄した。  彼女は醜女として有名であったが、それを厭う婚約者のクロスティア王国第1王子ユーシスに男娼を送り込まれて、ハニートラップを仕掛けられたのだった。  以前から婚約者の気持ちを知っていたガートルードが傷付く事は無かったが、周囲は彼女に気を遣う。  そんな折り、中央大陸で唯一の獣人の国、アストリッツァ国から婚姻の打診が届く。  王太子クラシオンとの、婚約ではなく一気に婚姻とは……  彼には最愛の番が居るのだが、その女性の身分が低いために正妃には出来ないらしい。  その事情から、醜女のガートルードをお飾りの妃にするつもりだと激怒する両親や兄姉を諌めて、クラシオンとの婚姻を決めたガートルードだった……  ※ 『きみは、俺のただひとり~神様からのギフト』の番外編となります  ヒロインは本編では名前も出ない『カリスレキアの王女』と呼ばれるだけの設定のみで、本人は登場しておりません  ですが、本編終了後の話ですので、そちらの登場人物達の顔出しネタバレが有ります  

君は僕の番じゃないから

椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。 「君は僕の番じゃないから」 エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。 すると 「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる イケメンが登場してーーー!? ___________________________ 動機。 暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります なので明るい話になります← 深く考えて読む話ではありません ※マーク編:3話+エピローグ ※超絶短編です ※さくっと読めるはず ※番の設定はゆるゆるです ※世界観としては割と近代チック ※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい ※マーク編は明るいです

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

処理中です...