憎しみあう番、その先は…

アズやっこ

文字の大きさ
29 / 43

29

しおりを挟む
 レオン隊長視点


 窓の外を見るとアイリスとガイが仲良く木に登ってる。アイリスの笑い声、ガイの笑い声が聞こえる。


「10年か…」

「はい…」


 伯爵も同じ様に俺の隣で窓の外を眺めてる。


「レオン君」

「何でしょう」

「君にはお礼を言わないといけない。

ありがとう。クロードを護ってくれて、私達家族の元に帰してくれて本当にありがとう」


 伯爵は深々と頭を下げた。


「止めて下さい。頭を上げて下さい、お願いします」


 伯爵は頭を上げまた外を眺める。


「あの夜、内密に騎士から手紙を貰い、夜中に隠れる様に荷馬車で君がクロードを私達の元に帰してくれた。野に放てと言われ、私達はクロードの亡骸を諦めていた…。クロードが殺され3日後だったな」

「はい、申し訳ありません」

「あの時、君には申し訳ない事をした。君が抱えるクロードを奪うように取り上げ、最後にもう一度クロードに会わせてほしいと言った君を追い出した」

「当たり前です」

「それでも君がクロードを護り隠してくれたお陰で我々家族はクロードと会えたんだ」

「いえ、クロードは立派な騎士です。名を挙げた騎士です。出来る事なら私もクロードを堂々と騎士全員で送り届けたかった。騎士達はクロードの対応に憤りを感じていた。だからクロードを隠す事も出来、クロードを家族の元へ帰す事も出来ました」

「そうか…」

「クロードの亡き後があんな屈辱的な事、許されるはずがありません!」

「私もだが妻も、獣人は獣だ、人族は悪魔だ、と思っているよ」

「私もです。未だに獣人も人族も許せない。クロードの死を罵倒し侮辱した。許せるはずがありません」

「私もだ」

「クロード程、獣人を人と扱い慕ってくれた者はいません。クロード程、獣人と人族が共存出来ると信じた者はいません。そんなクロードに!クロードにする仕打ちがどうして!どうして…。屈辱です。死者への冒涜です」

「ああ、私もそう思う」

「奥方ではありませんが、私もクロードを返して欲しい」

「ああ、私もだ。

私は後悔しているよ。まだ幼いクロードに、人族は頭を使う事を得意にしていて獣人は体を使う事を得意にしている。得意にしている事が違うだけで我々と変わらぬ人なのだと言い聞かせた。種族が違っても仲良く手を取り合えるとな。そのような事を言わなければ、獣人とは分かり合えないと教えていればクロードは死なずに済んだ」

「私もあの時発情期でした。もし発情期で無かったらクロードを助ける事も出来たでしょう。あの時程発情期を憎んだ事などありません」

「まだ10年なんだ」

「はい、私もです」

「表面上は取り繕っても心の内は憎い」

「はい」

「アイリスの相手がまさか獣人とはな」

「そうですね」

「だがアイリスのあんな笑顔も久しぶりに見る。あの子はクロードが亡くなってから心を失くした様になったんだ」

「そうなのですか?」

「クロードの亡骸を伯爵家の墓に入れる事が出来ずこの邸の庭に墓を作った」

「はい」

「この邸の中なら護ってやれる」

「はい」

「アイリスは毎日クロードの墓の前で座っていた。時には横になり誰が何を言っても動かなかった。眠ったアイリスを抱き部屋のベッドに寝かせるそんな毎日だった」

「はい」

「レオン君、ガイ君はアイリスを幸せに出来ると思うか?アイリスを護れると思うか?」

「はい、それは勿論です。ガイは愛情深い狼獣人ですから。番以外に目を向ける事は絶対にありません。一度愛したら己の命を掛けて一生愛しぬき護ります。ガイは一生アイリス嬢以外を愛する事はありません」

「そうか」

「はい、剣に誓って」

「君の言葉を信じよう」

「ありがとうございます」

「アイリスに案内して貰ってクロードに会ってやってほしい」

「よろしいのですか?」

「ああ。長く待たせてしまった」

「ありがとうございます、本当にありがとうございます」




◆◇◆

 アイリス父視点


 レオン君が部屋を出て行き、


「カーラ入って来なさい」


 別の扉から入って来た妻の手を引いて窓際へやって来た。


「なあカーラ、私達以外にも同じ思いを未だに思ってる獣人もいるんだ。 クロードを慕い、クロードの死を悲しみ、涙を流し、憤りを持ってくれる獣人がいたんだ。 同じ人族でも私達と同じ思いを持った者などいなかった。

なあカーラ、獣人を許せとは言わない。私も全ての獣人を許す事など出来ない。だが、信じられる獣人もいると言う事は今日分かった。信じてみないか?」

「旦那様…」

「憎み続けるのも疲れた。それにクロードはそんな事望んではいない」

「旦那様…」

「少なくとも二人、レオン君とガイ君は信じてみないか?」

「…………」

「今すぐとは言わない。だが、見てみろ。アイリスのあんな笑顔はクロードが亡くなってから見ていない。それに、ガイ君とソニックを見ているとクロードとアイリスを思い出さないか?」

「………ううっ…」

「カーラは覚えているか? クロードの左手が変な形をしていた事を」

「……ううっ…は、い…」

「クロードが息を引き取る前から、そして亡くなってこの邸に返って来るまで、レオン君が握りしめていたからだと思う。医師も言っていただろ?何かを握っていたからだと」

「……は、い……ううっ…」

「今日話を聞いて、アイリスが言った言葉で確信した。クロードは最期の時、友の手を握り、友に見送られた。そして友も息を引き取ってもなお離さず護り私達にクロードを返してくれた。

私はそれが知れただけで充分だ」

「……はい…」


 私はカーラの抱きしめた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

番認定された王女は愛さない

青葉めいこ
恋愛
世界最強の帝国の統治者、竜帝は、よりによって爬虫類が生理的に駄目な弱小国の王女リーヴァを番認定し求婚してきた。 人間であるリーヴァには番という概念がなく相愛の婚約者シグルズもいる。何より、本性が爬虫類もどきの竜帝を絶対に愛せない。 けれど、リーヴァの本心を無視して竜帝との結婚を決められてしまう。 竜帝と結婚するくらいなら死を選ぼうとするリーヴァにシグルスはある提案をしてきた。 番を否定する意図はありません。 小説家になろうにも投稿しています。

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

[完結]間違えた国王〜のお陰で幸せライフ送れます。

キャロル
恋愛
国の駒として隣国の王と婚姻する事にになったマリアンヌ王女、王族に生まれたからにはいつかはこんな日が来ると覚悟はしていたが、その相手は獣人……番至上主義の…あの獣人……待てよ、これは逆にラッキーかもしれない。 離宮でスローライフ送れるのでは?うまく行けば…離縁、 窮屈な身分から解放され自由な生活目指して突き進む、美貌と能力だけチートなトンデモ王女の物語

『完結』番に捧げる愛の詩

灰銀猫
恋愛
番至上主義の獣人ラヴィと、無残に終わった初恋を引きずる人族のルジェク。 ルジェクを番と認識し、日々愛を乞うラヴィに、ルジェクの答えは常に「否」だった。 そんなルジェクはある日、血を吐き倒れてしまう。 番を失えば狂死か衰弱死する運命の獣人の少女と、余命僅かな人族の、短い恋のお話。 以前書いた物で完結済み、3万文字未満の短編です。 ハッピーエンドではありませんので、苦手な方はお控えください。 これまでの作風とは違います。 他サイトでも掲載しています。

番が逃げました、ただ今修羅場中〜羊獣人リノの執着と婚約破壊劇〜

く〜いっ
恋愛
「私の本当の番は、 君だ!」 今まさに、 結婚式が始まろうとしていた 静まり返った会場に響くフォン・ガラッド・ミナ公爵令息の宣言。 壇上から真っ直ぐ指差す先にいたのは、わたくしの義弟リノ。 「わたくし、結婚式の直前で振られたの?」 番の勘違いから始まった甘く狂気が混じる物語り。でもギャグ強め。 狼獣人の令嬢クラリーチェは、幼い頃に家族から捨てられた羊獣人の 少年リノを弟として家に連れ帰る。 天然でツンデレなクラリーチェと、こじらせヤンデレなリノ。 夢見がち勘違い男のガラッド(当て馬)が主な登場人物。

『番』という存在

恋愛
義母とその娘に虐げられているリアリーと狼獣人のカインが番として結ばれる物語。 *基本的に1日1話ずつの投稿です。  (カイン視点だけ2話投稿となります。)  書き終えているお話なのでブクマやしおりなどつけていただければ幸いです。 ***2022.7.9 HOTランキング11位!!はじめての投稿でこんなにたくさんの方に読んでいただけてとても嬉しいです!ありがとうございます!

『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』

伊織愁
恋愛
 人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。  実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。  二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』

番など、今さら不要である

池家乃あひる
恋愛
前作「番など、御免こうむる」の後日談です。 任務を終え、無事に国に戻ってきたセリカ。愛しいダーリンと再会し、屋敷でお茶をしている平和な一時。 その和やかな光景を壊したのは、他でもないセリカ自身であった。 「そういえば、私の番に会ったぞ」 ※バカップルならぬバカ夫婦が、ただイチャイチャしているだけの話になります。 ※前回は恋愛要素が低かったのでヒューマンドラマで設定いたしましたが、今回はイチャついているだけなので恋愛ジャンルで登録しております。

処理中です...