憎しみあう番、その先は…

アズやっこ

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「さあ降りましょ」


 ガイはまたヒョイと飛んで降りた。お兄様もそうだったけど、そういう所ちょっとズルイ。飛んで降りれるなら私だって飛んで降りたいもの。お兄様なんて私を抱きかかえ登った事もあったわ。

 それでも少し高さのあるここから飛んで降りたら間違いなく足首捻りそう。だから不格好だけど登って来た時みたいに降りていくしかないの。


「先ずはソニックから降りましょ?」

「はい、姉様」

「登る時よりゆっくりよ?きちんと足の置き場を確認してね!」

「はい」

「ソニック」

「兄様?」


 ガイが下から声をかける。


「こい!」


 ガイが下で手を広げている。


「俺が必ず受け止める、信じろ!」

「はい」

「はい?ソニック? もしかして飛び降りるつもり?」

「はい、姉様」

「危ないでしょ」

「兄様が受け止めてくれるって」

「そうだけど、」

「大丈夫です。兄様なら僕を落としたりしません」

「そうだけど」

「ソニック、こい!」

「はい、兄様」


 ソニックはガイに向かって飛び降りた。ガイはソニックを軽々受け止め、


「姉様、楽しいです」

「そ、そう、なら良かったわ」

「アイリスもこい!」

「無理無理」

「ソニックでも出来たんだぞ?」

「ソニックは軽いじゃない」

「アイリスも軽いだろ!早くこい!」

「もう、知らないから」


 私は目を瞑り手を広げた。衝撃の後、


「アイリス」


 私は目を開けた。目の前にガイの顔…。


「ガイ?」

「楽しかったか?」

「こ、怖かった…」

「そうなのか?」


 私はガイにギュッと抱きついた。ガイが優しく私の背中を撫で、


「もう大丈夫だからな」

「うん」


 ガイは私の頭に口付けを何度も落とした。足が地面に付きようやく安心した。


「姉様、鳥になったみたいで楽しかったです」

「そう、良かったわね」

「はい」

「ソニック、もう一度やるか?」

「はい!」

「アイリスは?」

「私は見てるだけで良いわ」

「そうか。ならソニック、一人で登ってみるか?」

「はい!」


 ソニックはゆっくりだけど登っていき、


「ソニック、木にしっかりしがみつけ」

「はい」

「しがみついたまま足を揃えて座れるか?」

「はい、やってみます」

「ゆっくりだぞ?」

「はい」

「そうだ、そのまま木をしっかり持て。ゆっくり左足を前に出すんだ。手を離すなよ!」


 ソニックはゆっくり左足を前に出した。


「木は持ったままで少しお尻を後ろに動かしてしっかりと座るんだ!」

「はい」

「座れたか?」

「はい、兄様」

「左手はそのまま木を持ってろよ。右手を離せるか?」

「はい」

「そうだ。よしこい!」

「はい、兄様」


 ソニックがガイに向かって飛び降りた。 

 ガイがソニックを抱きしめ、


「凄いじゃないか、一人で登って降りてこれた」

「はい」


 ガイはソニックの頭をガシガシと撫でた。その光景はまるで私とお兄様の様だった。


「ソニック!」

「母様~」

「ここに居たのね、もう探したわよ」

「ごめんなさい」

「お義姉様、ごめんなさい」

「良いのよ。そちらは?」

「私の旦那様になる人です」

「ガイと言います」

「私はアイリスの義理の姉のソフィアと申します」

「姉上ですか」

「よろしくね?」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

「息子がご迷惑をかけたのではなくて?」

「いえ」

「母様!僕一人で登れる様になりました」

「まあ凄いわね」

「母様、見てて!」


 ソニックはまた木に登って座った。


「兄様~」

「おお、こい!」


 ソニックが飛び降りた。


「母様、見てくれました?」

「ええ、凄いわね」

「鳥みたいになれるんです」

「そう。でも、ガイで良いかしら?」

「はい」

「ガイにご迷惑をかけてはいけませんよ」

「姉上、俺が好きでやってますから」

「そうなの?」

「ソニックは上達が早いです。流石自慢の甥っ子です」

「ふふっ、そう。なら良いのだけど。ガイ」

「はい」

「娘のアンネよ?」

「アンネ、よろしくな」

「ワンワン?」

「アンネ、兄様は狼だよ」

「おおかみ?ワンワンじゃないの?」

「アンネ、ワンワンで良いよ。そんな大差ないしね」

「兄様、狼と犬とでは違います」

「まあ確かに違うけど、犬と同じ耳と尻尾があるからそんな大差ないだろ」

「兄様!」


 ガイはソニックを肩車し、


「ソニック、そう怒るな」


 肩車されたソニックはとても嬉しそう。

 肩車されたソニックはそのまま木に跨がり、飛び降りるとガイと繰り返してた。


「お義姉様」

「何?」

「お義姉様はガイの事、その…」

「獣人だけど気にならないかって?」

「はい」

「そうね。私も始めはこっそり覗いていたの。ソニックに危害を加えないか、ごめんなさいね」

「いえ」

「ケビンは今でこそ獣人に対して穏和になったわ」

「はい」

「王宮で働く以上、獣人を毛嫌いしていたら働けないもの」

「はい」

「クロードお義兄様の事も聞いてるし、私も獣人を毛嫌いしていたのも事実よ?ミミやレイは別としてね?」

「はい」

「それでもアイリスの笑顔とソニックの笑顔でガイは危害を加える獣人じゃないって分かったわ。それにソニックの事も本当に可愛がってるって見てて分かるもの。ソニックがガイに懐いたのも分かるわ。ガイって憎めないのよね」

「なんとなく分かります」

「私達の事を本当の家族だと思って接してくれてるのが分かるわ」

「ガイの家族は皆亡くなっていますから」

「そう。でもだからかしらね」

「そうかもしれません」







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