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ガイとお兄様のお墓から離れ、庭のベンチに座る。お義姉様達は邸の中に入り、ガイと二人きり。ガイは私の手を繋ぎ、
「アイリス」
「何?」
「俺、頑張るからな」
「何を?」
「兄上に追い付く様に剣の稽古をもっと頑張る」
「急にどうしたの?」
「まだ俺では兄上の様にアイリスを護れないなと思って」
「そんな事ないわよ?」
「嫌、俺は今以上にもっと強くならないといけない」
「私ね?お兄様がどれだけ強いか、ガイがどれだけ強いか、そんなの分からないわ。それでも本当の強さって剣の腕じゃないと思うの」
「じゃあ何?」
「心の強さだと思うの」
「心の強さか…」
「そう。お兄様は心の強さがあった人」
「だろうな」
「私は弱いわ。獣人を憎いと恨む、その心は弱いの」
「俺もだな。人族を憎いと恨む、俺の心も弱いな」
「お兄様はきっと獣人に殺されても最期の時まで憎いとも思わなかった」
「ああ」
「憎むな、お兄様が言いそうな言葉…」
「ああ」
「だからね、お兄様より強くなるって言うならそれは心の強さでいいと思うの」
「それも頑張るよ」
「ううん、良いの。頑張って強くなれるものじゃないでしょ?二人で少しづつ強くなっていきましょ?」
「ああ、そうだな」
クローーードーーーーー クローーードーーーーーー クローーードーーーーー
ガオォォォォゥー ガオォォォォゥー ガオォォォォゥー
耳を劈くような慟哭、そして地を這うような雄叫び…。
私は耳を塞いだ。直ぐにガイが私を膝の上に乗せ私を抱きしめる。
レオンお兄様…。
次から次へと溢れ出る涙…。
レオンお兄様の声を聞いて私は自然と涙が溢れてきた。
とても悲しく、辛く、お兄様の死を嘆いている。クロードとしか言ってない言葉に、どうして、何故、お前は死んだんだ、とこちらに伝わってくる…。
お兄様、貴方は自分が死んだ後の事を考えた?私を始め私達家族がどれだけお兄様を亡くし失意のどん底になるか。嘆き悲しみ、憤り、恨み憎み、それでも尚、底から這い上がる事が出来ず、日々暮らして来たか。
お兄様、聞こえる?貴方の友の叫びが。心の叫びがお兄様に分かる? 愛する人を亡くした者の叫びがお兄様に分かる?
お兄様は確かに立派な騎士だった。騎士道を貫く立派な騎士だった。だけどね?お兄様を慕い、思い、愛する人が貴方にはいたの。私もその一人…。レオンお兄様もその一人…。お父様もお母様もケビンお兄様も、この邸の使用人全員、皆その一人だったのよ?
残された私達が思う気持ちは一緒。「憎い」ただそれだけ。それだけしか結局最後は残らないのよ? 何故、どうして、お兄様が死なないといけないの?悲しい、辛い、愛しい、愛してる、お兄様を返して、日毎何を思っても結局最後にいきつく思いは「憎しみ」だけなのよ? お兄様を愛した思いだけ憎しみも大きくなる。お兄様を悲しんだ分以上憎しみは増える。
お兄様、見てる?聞いてる?レオンお兄様の心の叫びを。私達の心を。 私を護ってくれるって言ったお兄様が私を一番傷つけてる。大切な友の手を取りたいと言ったお兄様がその友を一番傷つけてる。 どんなに騎士道から外れようが、どんなに騎士としてみっともなくても、それでも「生きる」それだけで良かったのよ?
お兄様、生きていて欲しかった…。
私は溢れる涙を止める事が出来ない。お母様のあの夜聞いた慟哭の叫びよりも耳に残るレオンお兄様の心の叫び…。
ガイは泣いてる私をただ抱きしめていてくれた。
何時間泣いていたのだろう、いつの間にか夕暮れ時になっていた。
「ごめんね」
「ん?」
優しいガイの声。
「愛してるよアイリス」
ガイは私の目元に口付けた。
「愛してる」
ガイは私の額に口付けた。
「愛しい俺の番」
ガイは私の頬に口付けた。
「アイリス、愛してる」
ガイは私の唇に口付けた。
「愛してる」
ガイは私を抱きしめた。
私はガイに横向きに抱き抱えられ、レオンお兄様の元へ行った。
レオンお兄様はお兄様のお墓の前に座り見つめている。ただ見つめているだけなのに声をかける事が出来ない、二人の中に入り込めない雰囲気を纏っていた。
ガイも声を発する事が出来ないみたい。それは私も同じ。
ガイの肩をお父様が触れた。
「ガイ君、今日は泊まって行きなさい」
「ですが」
「騎士団には使いを出した」
「ですがまだ俺は認められてない者ですので」
「良いんだ、今日は泊まって行きなさい。それにレオン君もクロードから離れるつもりはないみたいだ」
「そうですが…」
「さあ邸に入りなさい」
「はい、お父上」
ガイは私を抱いたままお父様の後について行った。玄関前で下ろして貰い、躊躇ってるガイの手を引いて邸の中に入った。
「もうすぐで夕食だ。皆で食べよう」
「いえ、俺は結構です」
「遠慮するな」
「俺は外で食べますのでパン一つだけ頂けますか?」
「ガイ君は私の息子になるのだろ?」
「認めて頂けたらですが」
「それならもう息子だな」
「お父上?」
「もうガイ分からないの?」
「嫌、俺の耳がおかしくなったとしか…」
「ガイの耳は良く聞こえる耳でしょ?お父様は認めたって言ってるのよ?」
「そんな俺にとって都合の良い話ないだろ?」
「ガイ君、アイリスを頼む。君にならアイリスを任せられる」
「本当に、本当に良いのですか?」
「ああ、君達の結婚を認める」
「あ、ありがとうございます。本当にありがとうございます」
ガイは何度も頭を下げた。
「アイリス」
「何?」
「俺、頑張るからな」
「何を?」
「兄上に追い付く様に剣の稽古をもっと頑張る」
「急にどうしたの?」
「まだ俺では兄上の様にアイリスを護れないなと思って」
「そんな事ないわよ?」
「嫌、俺は今以上にもっと強くならないといけない」
「私ね?お兄様がどれだけ強いか、ガイがどれだけ強いか、そんなの分からないわ。それでも本当の強さって剣の腕じゃないと思うの」
「じゃあ何?」
「心の強さだと思うの」
「心の強さか…」
「そう。お兄様は心の強さがあった人」
「だろうな」
「私は弱いわ。獣人を憎いと恨む、その心は弱いの」
「俺もだな。人族を憎いと恨む、俺の心も弱いな」
「お兄様はきっと獣人に殺されても最期の時まで憎いとも思わなかった」
「ああ」
「憎むな、お兄様が言いそうな言葉…」
「ああ」
「だからね、お兄様より強くなるって言うならそれは心の強さでいいと思うの」
「それも頑張るよ」
「ううん、良いの。頑張って強くなれるものじゃないでしょ?二人で少しづつ強くなっていきましょ?」
「ああ、そうだな」
クローーードーーーーー クローーードーーーーーー クローーードーーーーー
ガオォォォォゥー ガオォォォォゥー ガオォォォォゥー
耳を劈くような慟哭、そして地を這うような雄叫び…。
私は耳を塞いだ。直ぐにガイが私を膝の上に乗せ私を抱きしめる。
レオンお兄様…。
次から次へと溢れ出る涙…。
レオンお兄様の声を聞いて私は自然と涙が溢れてきた。
とても悲しく、辛く、お兄様の死を嘆いている。クロードとしか言ってない言葉に、どうして、何故、お前は死んだんだ、とこちらに伝わってくる…。
お兄様、貴方は自分が死んだ後の事を考えた?私を始め私達家族がどれだけお兄様を亡くし失意のどん底になるか。嘆き悲しみ、憤り、恨み憎み、それでも尚、底から這い上がる事が出来ず、日々暮らして来たか。
お兄様、聞こえる?貴方の友の叫びが。心の叫びがお兄様に分かる? 愛する人を亡くした者の叫びがお兄様に分かる?
お兄様は確かに立派な騎士だった。騎士道を貫く立派な騎士だった。だけどね?お兄様を慕い、思い、愛する人が貴方にはいたの。私もその一人…。レオンお兄様もその一人…。お父様もお母様もケビンお兄様も、この邸の使用人全員、皆その一人だったのよ?
残された私達が思う気持ちは一緒。「憎い」ただそれだけ。それだけしか結局最後は残らないのよ? 何故、どうして、お兄様が死なないといけないの?悲しい、辛い、愛しい、愛してる、お兄様を返して、日毎何を思っても結局最後にいきつく思いは「憎しみ」だけなのよ? お兄様を愛した思いだけ憎しみも大きくなる。お兄様を悲しんだ分以上憎しみは増える。
お兄様、見てる?聞いてる?レオンお兄様の心の叫びを。私達の心を。 私を護ってくれるって言ったお兄様が私を一番傷つけてる。大切な友の手を取りたいと言ったお兄様がその友を一番傷つけてる。 どんなに騎士道から外れようが、どんなに騎士としてみっともなくても、それでも「生きる」それだけで良かったのよ?
お兄様、生きていて欲しかった…。
私は溢れる涙を止める事が出来ない。お母様のあの夜聞いた慟哭の叫びよりも耳に残るレオンお兄様の心の叫び…。
ガイは泣いてる私をただ抱きしめていてくれた。
何時間泣いていたのだろう、いつの間にか夕暮れ時になっていた。
「ごめんね」
「ん?」
優しいガイの声。
「愛してるよアイリス」
ガイは私の目元に口付けた。
「愛してる」
ガイは私の額に口付けた。
「愛しい俺の番」
ガイは私の頬に口付けた。
「アイリス、愛してる」
ガイは私の唇に口付けた。
「愛してる」
ガイは私を抱きしめた。
私はガイに横向きに抱き抱えられ、レオンお兄様の元へ行った。
レオンお兄様はお兄様のお墓の前に座り見つめている。ただ見つめているだけなのに声をかける事が出来ない、二人の中に入り込めない雰囲気を纏っていた。
ガイも声を発する事が出来ないみたい。それは私も同じ。
ガイの肩をお父様が触れた。
「ガイ君、今日は泊まって行きなさい」
「ですが」
「騎士団には使いを出した」
「ですがまだ俺は認められてない者ですので」
「良いんだ、今日は泊まって行きなさい。それにレオン君もクロードから離れるつもりはないみたいだ」
「そうですが…」
「さあ邸に入りなさい」
「はい、お父上」
ガイは私を抱いたままお父様の後について行った。玄関前で下ろして貰い、躊躇ってるガイの手を引いて邸の中に入った。
「もうすぐで夕食だ。皆で食べよう」
「いえ、俺は結構です」
「遠慮するな」
「俺は外で食べますのでパン一つだけ頂けますか?」
「ガイ君は私の息子になるのだろ?」
「認めて頂けたらですが」
「それならもう息子だな」
「お父上?」
「もうガイ分からないの?」
「嫌、俺の耳がおかしくなったとしか…」
「ガイの耳は良く聞こえる耳でしょ?お父様は認めたって言ってるのよ?」
「そんな俺にとって都合の良い話ないだろ?」
「ガイ君、アイリスを頼む。君にならアイリスを任せられる」
「本当に、本当に良いのですか?」
「ああ、君達の結婚を認める」
「あ、ありがとうございます。本当にありがとうございます」
ガイは何度も頭を下げた。
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