憎しみあう番、その先は…

アズやっこ

文字の大きさ
33 / 43

33

しおりを挟む
 ガイとお兄様のお墓から離れ、庭のベンチに座る。お義姉様達は邸の中に入り、ガイと二人きり。ガイは私の手を繋ぎ、


「アイリス」

「何?」

「俺、頑張るからな」

「何を?」

「兄上に追い付く様に剣の稽古をもっと頑張る」

「急にどうしたの?」

「まだ俺では兄上の様にアイリスを護れないなと思って」

「そんな事ないわよ?」

「嫌、俺は今以上にもっと強くならないといけない」

「私ね?お兄様がどれだけ強いか、ガイがどれだけ強いか、そんなの分からないわ。それでも本当の強さって剣の腕じゃないと思うの」

「じゃあ何?」

「心の強さだと思うの」

「心の強さか…」

「そう。お兄様は心の強さがあった人」

「だろうな」

「私は弱いわ。獣人を憎いと恨む、その心は弱いの」

「俺もだな。人族を憎いと恨む、俺の心も弱いな」

「お兄様はきっと獣人に殺されても最期の時まで憎いとも思わなかった」

「ああ」

「憎むな、お兄様が言いそうな言葉…」

「ああ」

「だからね、お兄様より強くなるって言うならそれは心の強さでいいと思うの」

「それも頑張るよ」

「ううん、良いの。頑張って強くなれるものじゃないでしょ?二人で少しづつ強くなっていきましょ?」

「ああ、そうだな」




クローーードーーーーー クローーードーーーーーー クローーードーーーーー

ガオォォォォゥー ガオォォォォゥー ガオォォォォゥー



 耳を劈くような慟哭、そして地を這うような雄叫び…。

 私は耳を塞いだ。直ぐにガイが私を膝の上に乗せ私を抱きしめる。


 レオンお兄様…。


 次から次へと溢れ出る涙…。

 レオンお兄様の声を聞いて私は自然と涙が溢れてきた。

 とても悲しく、辛く、お兄様の死を嘆いている。クロードとしか言ってない言葉に、どうして、何故、お前は死んだんだ、とこちらに伝わってくる…。





 お兄様、貴方は自分が死んだ後の事を考えた?私を始め私達家族がどれだけお兄様を亡くし失意のどん底になるか。嘆き悲しみ、憤り、恨み憎み、それでも尚、底から這い上がる事が出来ず、日々暮らして来たか。

 お兄様、聞こえる?貴方の友の叫びが。心の叫びがお兄様に分かる? 愛する人を亡くした者の叫びがお兄様に分かる?

 お兄様は確かに立派な騎士だった。騎士道を貫く立派な騎士だった。だけどね?お兄様を慕い、思い、愛する人が貴方にはいたの。私もその一人…。レオンお兄様もその一人…。お父様もお母様もケビンお兄様も、この邸の使用人全員、皆その一人だったのよ?

 残された私達が思う気持ちは一緒。「憎い」ただそれだけ。それだけしか結局最後は残らないのよ? 何故、どうして、お兄様が死なないといけないの?悲しい、辛い、愛しい、愛してる、お兄様を返して、日毎何を思っても結局最後にいきつく思いは「憎しみ」だけなのよ? お兄様を愛した思いだけ憎しみも大きくなる。お兄様を悲しんだ分以上憎しみは増える。

 お兄様、見てる?聞いてる?レオンお兄様の心の叫びを。私達の心を。 私を護ってくれるって言ったお兄様が私を一番傷つけてる。大切な友の手を取りたいと言ったお兄様がその友を一番傷つけてる。 どんなに騎士道から外れようが、どんなに騎士としてみっともなくても、それでも「生きる」それだけで良かったのよ?

 お兄様、生きていて欲しかった…。




 私は溢れる涙を止める事が出来ない。お母様のあの夜聞いた慟哭の叫びよりも耳に残るレオンお兄様の心の叫び…。

 ガイは泣いてる私をただ抱きしめていてくれた。

 何時間泣いていたのだろう、いつの間にか夕暮れ時になっていた。


「ごめんね」

「ん?」


 優しいガイの声。


「愛してるよアイリス」


 ガイは私の目元に口付けた。


「愛してる」


 ガイは私の額に口付けた。


「愛しい俺の番」


 ガイは私の頬に口付けた。


「アイリス、愛してる」


 ガイは私の唇に口付けた。


「愛してる」


 ガイは私を抱きしめた。


 私はガイに横向きに抱き抱えられ、レオンお兄様の元へ行った。

 レオンお兄様はお兄様のお墓の前に座り見つめている。ただ見つめているだけなのに声をかける事が出来ない、二人の中に入り込めない雰囲気を纏っていた。

 ガイも声を発する事が出来ないみたい。それは私も同じ。

 ガイの肩をお父様が触れた。


「ガイ君、今日は泊まって行きなさい」

「ですが」

「騎士団には使いを出した」

「ですがまだ俺は認められてない者ですので」

「良いんだ、今日は泊まって行きなさい。それにレオン君もクロードから離れるつもりはないみたいだ」

「そうですが…」

「さあ邸に入りなさい」

「はい、お父上」


 ガイは私を抱いたままお父様の後について行った。玄関前で下ろして貰い、躊躇ってるガイの手を引いて邸の中に入った。


「もうすぐで夕食だ。皆で食べよう」

「いえ、俺は結構です」

「遠慮するな」

「俺は外で食べますのでパン一つだけ頂けますか?」

「ガイ君は私の息子になるのだろ?」

「認めて頂けたらですが」

「それならもう息子だな」

「お父上?」

「もうガイ分からないの?」

「嫌、俺の耳がおかしくなったとしか…」

「ガイの耳は良く聞こえる耳でしょ?お父様は認めたって言ってるのよ?」

「そんな俺にとって都合の良い話ないだろ?」

「ガイ君、アイリスを頼む。君にならアイリスを任せられる」

「本当に、本当に良いのですか?」

「ああ、君達の結婚を認める」

「あ、ありがとうございます。本当にありがとうございます」


 ガイは何度も頭を下げた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』

伊織愁
恋愛
 人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。  実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。  二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

私のことが大好きな守護竜様は、どうやら私をあきらめたらしい

鷹凪きら
恋愛
不本意だけど、竜族の男を拾った。 家の前に倒れていたので、本当に仕方なく。 そしたらなんと、わたしは前世からその人のつがいとやらで、生まれ変わる度に探されていたらしい。 いきなり連れて帰りたいなんて言われても、無理ですから。 そんなふうに優しくしたってダメですよ? ほんの少しだけ、心が揺らいだりなんて―― ……あれ? 本当に私をおいて、ひとりで帰ったんですか? ※タイトル変更しました。 旧題「家の前で倒れていた竜を拾ったら、わたしのつがいだと言いだしたので、全力で拒否してみた」

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

番が逃げました、ただ今修羅場中〜羊獣人リノの執着と婚約破壊劇〜

く〜いっ
恋愛
「私の本当の番は、 君だ!」 今まさに、 結婚式が始まろうとしていた 静まり返った会場に響くフォン・ガラッド・ミナ公爵令息の宣言。 壇上から真っ直ぐ指差す先にいたのは、わたくしの義弟リノ。 「わたくし、結婚式の直前で振られたの?」 番の勘違いから始まった甘く狂気が混じる物語り。でもギャグ強め。 狼獣人の令嬢クラリーチェは、幼い頃に家族から捨てられた羊獣人の 少年リノを弟として家に連れ帰る。 天然でツンデレなクラリーチェと、こじらせヤンデレなリノ。 夢見がち勘違い男のガラッド(当て馬)が主な登場人物。

呪われた黒猫と蔑まれた私ですが、竜王様の番だったようです

シロツメクサ
恋愛
ここは竜人の王を頂点として、沢山の獣人が暮らす国。 厄災を運ぶ、不吉な黒猫─────そう言われ村で差別を受け続けていた黒猫の獣人である少女ノエルは、愛する両親を心の支えに日々を耐え抜いていた。けれど、ある日その両親も土砂崩れにより亡くなってしまう。 不吉な黒猫を産んだせいで両親が亡くなったのだと村の獣人に言われて絶望したノエルは、呼び寄せられた魔女によって力を封印され、本物の黒猫の姿にされてしまった。 けれど魔女とはぐれた先で出会ったのは、なんとこの国の頂点である竜王その人で─────…… 「やっと、やっと、見つけた────……俺の、……番……ッ!!」 えっ、今、ただの黒猫の姿ですよ!?というか、私不吉で危ないらしいからそんなに近寄らないでー!! 「……ノエルは、俺が竜だから、嫌なのかな。猫には恐ろしく感じるのかも。ノエルが望むなら、体中の鱗を剥いでもいいのに。それで一生人の姿でいたら、ノエルは俺にも自分から近付いてくれるかな。懐いて、あの可愛い声でご飯をねだってくれる?」 「……この周辺に、動物一匹でも、近づけるな。特に、絶対に、雄猫は駄目だ。もしもノエルが……番として他の雄を求めるようなことがあれば、俺は……俺は、今度こそ……ッ」 王様の傍に厄災を運ぶ不吉な黒猫がいたせいで、万が一にも何かあってはいけない!となんとか離れようとするヒロインと、そんなヒロインを死ぬほど探していた、何があっても逃さない金髪碧眼ヤンデレ竜王の、実は持っていた不思議な能力に気がついちゃったりするテンプレ恋愛ものです。世界観はゆるふわのガバガバでつっこみどころいっぱいなので何も考えずに読んでください。 ※ヒロインは大半は黒猫の姿で、その正体を知らないままヒーローはガチ恋しています(別に猫だから好きというわけではありません)。ヒーローは金髪碧眼で、竜人ですが本編のほとんどでは人の姿を取っています。ご注意ください。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

処理中です...