憎しみあう番、その先は…

アズやっこ

文字の大きさ
32 / 43

32

しおりを挟む

 ◆◇ レオン視点 ◆◇



 クロードの墓へ行こうとアイリスに手を引かれ俺はクロードの墓の前に来た。

 ガイがクロードにアイリスを預けてほしいと言っている。


 なあクロード、ガイにお前の言葉を伝えて良いか?お前が良く言っていたアイリスの夫になる奴には一言言わないとと言っていた言葉だ。後は剣の勝負だったか?お前より強い奴なんていないのに、俺より強い奴じゃないと認めないなんて、お前、アイリスを嫁に出す気なんて更々無かったんじゃないのか? 剣の方は俺に任せてくれ、鍛えて鍛えて鍛え抜いてやる。


 頭を下げ続けるガイを心配したアイリスが俺に「助けて」と目で訴えてきた。

 俺はクロードの言葉をガイへ伝えた。ガイなら大丈夫だ。番だけでなく狼獣人のガイなら一生アイリス一筋だしな。


 俺はクロードの墓の前に立った。

 何から言えばいい。

 何から伝えればいい。

 何も言葉が出てこない。

 お前を前にして、あれ程会いたかったお前を前にして、どんな言葉なら俺は納得できる。どんな言葉でも俺は納得できない。そうだろ?

 お前の死を未だに認めたくなく、お前を死に追いやった奴を未だに赦せず憎み、お前の死を罵倒し侮辱した奴等を未だに恨み憎み、お前を騎士として見送るのではなく荷馬車で見つからない様に闇に隠れてここに連れて帰れなかった俺の不甲斐なさを恥…。

 なあクロード、お前は立派な騎士だ。剣の腕はこの国一番、名を挙げた騎士だ。他国から恐れられた騎士だ。そんなお前の死になぜこの国の奴等はお前を蔑む!侮辱する!何故だ!

 俺は許せない!俺は憎む!俺は恨む!

 そうだろ?あんなのは死者への冒涜だ!



 アイリスとガイの気配が遠く離れていく。俺とお前の二人きりにしてくれた様だ。本当に良くできた妹だよな?俺達の愛しく大事な妹は…。

 なあクロード、俺にはこれしか出てこない…。


「何故死んだ…」


 頬を伝う涙…。


「なあクロード、何故死んだ…」


 俺はクロードの墓を左手で撫でる…。


「なあクロード、何故俺を残して死んだ…」

「答えてくれクロード、何故俺を残して先に死んだ!」

「なあクロード、答えてくれ!!」

「クロード!クローーードーーーーー!!」


 俺はクロードの墓を抱きしめ声を出して泣いた。


「クローーードーーーーー!! クローーードーーーーーー!! クローーードーーーーー!!」

「ガオォォォォゥー ガオォォォォゥー ガオォォォォゥー」


 俺はクロードを墓を抱きしめ、離す事が出来ない。


 暫くして、俺は墓から離れクロードの剣を腰から抜き、墓の前に置いた。


「クロードお前の剣だ」

「お前の命だ」

「なあクロード、アイリスがな、お前の剣を俺に預けてくれるらしい。俺がお前の命、貰って良いか?俺の側にずっと一緒に居てくれるか?」


 俺は右手でクロードの剣を握り、左手を墓に触れる。


「俺とお前、大切な物は一緒だ」

「なあクロード、俺の左手は今もお前を探し彷徨ってる」

「なあクロード、お前が最後に言いたかった言葉は何だ?俺はお前を、お前は何を言いたかった。友か?同士か?」


 俺は右手に剣を持ち、左手は墓を触れ、額を墓に付けた。

 いくら耳の良いガイでも聞こえないだろう。なあクロード俺の本当の心の内を聞いてくれ。


「クロード、俺はお前を愛してる。お前は俺の魂の番だった。俺はお前に心から惹かれ人として惹かれ、愛する番として護り側にいたかった。 クロード、お前を愛してる。今でも愛しているんだ…。


お前を抱きしめたかった。お前を見つめていたかった。お前を離したくなかった…。


なあクロード、俺が死ぬまでそこで待っててくれるか? 来世ではお前と恋人になりたい。


なあクロード、俺が死んだら俺もお前とこの墓に入りたい。お前を抱きしめて一緒に眠りたい…。

クロード愛してる。俺の愛しい番…」


 俺はクロードにだけ聞こえる囁き声で話した。最後に墓に口付けし、墓から離れ、墓の前に座った。

 ここから動くつもりはない。離れるつもりはない。もう離されるのも離すのも嫌だ。

 俺は墓を見つめ座り続けた…。






 ◆◇ アイリス父、母目線



 レオン君がクロードの墓の前に座り墓を見つめている。誰にも止める事など出来ない。誰にも声をかける事など出来ない、そんな雰囲気だ。


「旦那様…」


 私はカーラの肩を抱きしめる手に力が入る。


「カーラ…」


 カーラは涙を流し私にもたれ掛かっている。一人では立っていられない様だ。私はカーラの腰を抱き、抱き寄せる。

 何も言わずともカーラにも分かっているのだろう。自分と同じ様に、嫌、自分以上にクロードの死を嘆き悲しみ、今でも心に憎しみを飼ってる目の前にいる獣人…。

 私はレオン君から奪う様にクロードを取り上げた。

 先程、レオン君の慟哭の叫び、唸る雄叫び、それは愛する者を亡くした者の叫びだった。 まだ10年、そうまだ10年なんだ。彼にとっても…。嫌、彼に取ってみればまだ昨日の様だ…。


「なあカーラ、彼やガイ君を信じられないか?」

「……信じ、られるかは分かりませんが、彼の悲しみは分かりました」

「そうだな」

「はい……。それに…」

「何だ?」

「クロードに誓ってくれた、アイリスちゃんの…」

「ガイ君か?」

「はい」

「ガイ君がどうした」

「その言葉も本物でした…」

「そうだな、私もそう思う」


 ガイ君がクロードに誓った言葉。クロードを兄上と慕っていた。会った事もないはずなのに…。それでも自分の兄の様に慕い、クロードの代わりに自分がアイリスを護るんだと、自分がクロード以上に愛すんだとこちらに伝わってきた。


「さあ二人きりにさせてやろう」

「はい」


 私はカーラを抱き寄せ邸の中に入った。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん
恋愛
獣人と人が住む国で、ララベルが一番嫌う言葉、それは番。というのも、大好きな親戚のミナリア姉様が結婚相手の王子に、「番が現れた」という理由で結婚をとりやめられたから。それからというのも、番という言葉が一番嫌いになったララベル。そんなララベルを大切に囲い込むのが幼馴染のルーファス。ルーファスは竜の獣人だけれど、番は現れるのか……?  色々鈍いヒロインと、溺愛する幼馴染のお話です。 いつもながらご都合主義で、ゆるい設定です。お気軽に読んでくださったら幸いです。

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』

伊織愁
恋愛
 人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。  実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。  二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

【完結】最愛から2番目の恋

Mimi
恋愛
 カリスレキアの第2王女ガートルードは、相手有責で婚約を破棄した。  彼女は醜女として有名であったが、それを厭う婚約者のクロスティア王国第1王子ユーシスに男娼を送り込まれて、ハニートラップを仕掛けられたのだった。  以前から婚約者の気持ちを知っていたガートルードが傷付く事は無かったが、周囲は彼女に気を遣う。  そんな折り、中央大陸で唯一の獣人の国、アストリッツァ国から婚姻の打診が届く。  王太子クラシオンとの、婚約ではなく一気に婚姻とは……  彼には最愛の番が居るのだが、その女性の身分が低いために正妃には出来ないらしい。  その事情から、醜女のガートルードをお飾りの妃にするつもりだと激怒する両親や兄姉を諌めて、クラシオンとの婚姻を決めたガートルードだった……  ※ 『きみは、俺のただひとり~神様からのギフト』の番外編となります  ヒロインは本編では名前も出ない『カリスレキアの王女』と呼ばれるだけの設定のみで、本人は登場しておりません  ですが、本編終了後の話ですので、そちらの登場人物達の顔出しネタバレが有ります  

君は僕の番じゃないから

椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。 「君は僕の番じゃないから」 エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。 すると 「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる イケメンが登場してーーー!? ___________________________ 動機。 暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります なので明るい話になります← 深く考えて読む話ではありません ※マーク編:3話+エピローグ ※超絶短編です ※さくっと読めるはず ※番の設定はゆるゆるです ※世界観としては割と近代チック ※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい ※マーク編は明るいです

処理中です...