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「貴方は奥様を初めから愛していたんですか?」
「ああ、愛していた。俺は妻を今でも愛してる」
「なら!どうして言葉にしなかったんですか!言葉にしなくても分かるだろ、ですか?」
「……俺は妻に…」
「妻になんです」
「俺は妻に愛されていない。結婚して8年、俺は妻に愛されなかった。結婚した時は俺が愛してると言えば妻は恐縮するだろうと言葉にしなかった。妻にしてみれば金で買われた身、俺が愛してると言えば嘘でも愛してると言わざるを得ない。そんな嘘の言葉を聞きたい訳じゃない。だから俺は口を噤んだ。
いつか俺を愛してくれた時、俺は自分の気持ちを言おうと。だが妻の態度は俺を愛していないと言う」
「貴方から見て奥様はどんな態度でしたか?」
「俺に心を開いていない」
「それは、」
「俺に笑顔を見せない」
「それは、」
「俺を愛してると言ってくれない」
「それは!」
「ああ、俺も言ってない。なあ、ジニア、どうして俺に心を未だに開いてくれない」
「それは…、私は貴方に買われた身、そんな私が貴方に我儘を言えますか?綺麗なドレスも綺麗な宝石も、温かくて美味しい食事も、暖かい布団も、自由に過ごせる部屋も与えてもらっています。それに実家にも生活に困らないお金を渡してくれています。こんなにしてもらっているのにこれ以上我儘が言えますか?」
「言ってくれれば良かっただろ」
「それならもっと一緒に過ごしたかった。もっと色々話したかった。私にもきちんと教えてほしかった。それに体を求められるだけじゃなく、ただくっついて寝たかった。抱きしめ合って寝たかった。
それに…、愛してるって言われたかった。でもそんな事を言ってどうなります」
「ジニア、俺はジニアを金で買ったつもりはない。
結果として金で買った事になるが、俺はただ純粋にジニアを救いたかった。あのクソ親父から、あの環境から救いたかっただけだ。あのクソ親父からジニアを護るには金しかない。だから金を持って子爵家へ行き目の前に並べた。
俺が資産家になったのは全てジニアの為だ。ジニアと婚約出来るように結婚出来るように、俺の一目惚れだった。あのデビュタントのジニアの姿に笑顔に俺は目も心も奪われた。あの日から俺の好きな人も愛する人もジニアだけだ」
「ならどうして私を使用人のように扱ったんです」
「扱った覚えはない」
「部屋の掃除をしろと、服の準備をしろといつも言っていたでしょ」
「ジニアと結婚して俺達は夫婦の部屋で一緒に過ごした。ジニアを抱いた寝室、俺の部屋、ジニアの部屋、全て繋がった夫婦の部屋に俺とジニア以外に入ってほしくなかった。夫婦の部屋は俺とジニアを繋ぐ唯一のものだからだ。
俺も結婚するまではメイドに部屋の掃除をしてもらっていた。その時は何も思わなかったんだ。だけど結婚してジニアを抱いた次の日、メイドが部屋の掃除をしに入って来た時、俺はメイドに敵意が湧いた。
入ってくるな、ここは俺とジニアの部屋だ。神聖な場所に踏み入れられた気持ちになった。だからジニアに頼んだ。
服は……」
「なんです」
「ジニアが伯爵家へ来た時にドレスがあっただろ。あのドレスに合わせて俺もお揃いの布地で服を作った。それからもジニアの服に合わせて俺も作った。朝身支度を整えたジニアと同じ布地で同じ色合いの服を着たかったんだ」
「それならそうと言ってくれれば」
「男の俺が揃いを着たいなんて言ったら気持ち悪いだろ。夜会でもないのに何年たってもジニアと揃いの服を着たいなんて言えないだろ」
「部屋の事もどうして入られたくないのかその理由を教えてくれれば私は使用人なんだとは思いませんでした。それに服だって言ってくれればお揃いの服を準備しました」
「悪い…」
「ならどうして私にアイビー様の部屋の掃除をしろと言ったんです。メイドに任せても良かったはずです」
「俺の部屋はジニアがしているからついでにと思っただけだ。本当だ、ただそれだけだ、他意はない」
「どうして…、どうして二人目の子が天に召されてから私にきつく当たったんですか?」
「あれはジニアが離縁したいって言ったからだ。これからも言い出さないように、だから金の事も言った。卑怯だと思ったがそれしか俺にジニアを縛るものはない。金の事は気にするなって言ったらジニアは直ぐに離縁して出て行っただろ。
俺にはそんなやり方でしかジニアを縛れなかったんだ。そんなやり方でしかジニアを繋ぎ止めておけなかったんだ」
「ならどうして私が浮気していると言ったんですか」
「俺は強引にジニアを妻にした。ジニアに好きな人がいたかもしれない。だからジニアは強引に妻にした俺を愛さないのだと、許せないのだと思った。街へ行きたいと言われ好きな人と会う為かと…」
「貴方の妻になる前に好きな人はいませんでした。それに結婚してからも邸から出れない私が誰と会うと言うんです。
私は浮気していると言われて傷つきました」
「すまない」
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