今まで頑張ってきた私が悪役令嬢? 今さら貴方に未練も何もありません

アズやっこ

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1巻

1-3

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「お父様、リリーシャです」
「入りなさい」

 私は扉を開けて書斎の中に入る。お父様の背に隠れて見えないけど、誰か奥に立っているようだ。

「リリーシャ、ご挨拶を」
「はい。お初にお目にかかります。エイブレム公爵家長女、リリーシャと申します。以後お見知りおきを」

 私はカーテシーをしたまま頭を下げる。

(早くお声かけしてくれないかしら。案外疲れるのよね)
「リリーシャ嬢、顔を上げてください」

 私はカーテシーをやめ頭を上げる。聞き覚えのある声。この声は――

「アーサー?」

 私の邸にいるはずもない、あの丘で今日も待っているであろう人物。
 私は思わず目の前にいるアーサーの名前を呼んだ。

「アーサーがお客様なの?」
「そうなんだけど……、ごめん、リリー」

 アーサーは申し訳なさそうに謝った。

「何が?」
「俺も自己紹介するよ。リリーシャ嬢、私はサイドメア辺境伯次男、ハインスリードと申します。以後お見知りおきを」
「え? 大公殿下の御次男様?」
「ああ」
「失礼いたしました。ハインスリード殿下」
「リリー、やめてくれよ」
「ですが……」

 大公殿下は辺境伯も兼ねている王弟殿下。大公子のハインスリード殿下に失礼な態度はできない。

「それにもうひとつ、リリーに謝らないといけない。偽名を使ったこと、ごめん。アーサーは街に出る時の名前なんだ」

 アーサー、ではないわ、ハインスリード殿下は伏し目がちに顔を逸らした。
 街に出る時に偽名を使うことがあるのは私も知っている。貴族だと身元がわからないようにするためだと。誘拐などの犯罪を防ぐためにも街へ出掛ける際には偽名を名乗り、服装も平民らしく偽装する。もちろん貴族として街へ出掛けることもある。街へ行く用途によってそれらを使い分ける。
 ただ、私は街へ出掛けたことがないから偽名の使用に馴染みは薄い。
 それでも身を護るためにも、街に溶け込むためにも、偽名を使ったからと彼を咎めるつもりはない。

「はい、わかりました。お気になさらずとも」

 私の言葉を聞いたハインスリード殿下は私をまっすぐ見つめる。

「リリーシャ嬢」
「はい」

 ハインスリード殿下の真剣な声に私は背筋を伸ばした。

「私と婚約してほしい。私の婚約者になってはくれないだろうか」

 突然の申し出に私は驚き、言葉を失った。

「あの……」
「嫌かい?」
「いえ……」
「殿下、少々お待ちいただけますかな?」

 私が返事をためらっていたからか、少し離れた場所で見守っていたお父様が口を挟んだ。

「エイブレム宰相、ああ構わない」
「リリーシャ、いいかな」
「はい、お父様」

 お父様に呼ばれ、私はお父様を見つめる。

「リリーシャが嫌だと言うなら無理にとは言わない。だけどね、ハインスリード殿下がリリーシャを最も護ってくださる方だ。それはわかるね」
「はい」
「あの王子から、陛下から、お前を護るためにはハインスリード殿下しかいない」

 お父様の強い意志が私にも伝わる。
 お父様の言いたいことはわかる。陛下がもう一度婚約の王命を出すかもしれない。考えたくはないけど、婚約破棄はルドゥーベル殿下が陛下のあずかり知らぬところで勝手に行ったこと。それをお父様は早急に処理をした。
 だから私には今婚約者がいない。でもそれを覆せるのが陛下。陛下がまた王命を出すとは考えにくいけれど絶対ではない。
 ただ、今度こそお父様は首を縦には振らないだろう。

「それはわかりました。ですが、ハインスリード殿下はよろしいのですか? ルドゥーベル殿下から私を守るためだけの婚約でよろしいのですか?」

 お父様の意志も、ハインスリード殿下しかルドゥーベル殿下に対抗できる人がいないこともわかる。それでも私を護るためだけの婚約をハインスリード殿下に強いたくはない。
 貴族の婚約は大半が親が決める。
 それでも……

「あっ! リリー、ごめんよ。これを先に言うべきだった……リリーシャ嬢、私はあの丘で会った貴女に一目惚れしました。貴女を見ていて私がお護りしたいと思ったのです。二人で話をする内に好感を抱き、ますます好きになりました。どうかぜひ考えてはくれませんか?」

 ハインスリード殿下は私から目を逸らさずまっすぐ見つめている。
 本当に一目惚れなのか、それはわからない。殿下の本心なのか御両親に決められたのか。
 それでもお父様が私の婚約者にと選んだのがハインスリード殿下だ。王命を出せないように、ルドゥーベル殿下と立場が並ぶ唯一の人。
 ハインスリード殿下の婚約者か、ルドゥーベル殿下の側妃か――考えるまでもない。

「本当に私でよろしいのですか?」
「ああ」

 殿下のひたむきに私を見つめる瞳。そこに嘘は見受けられない。

「私は悪役令嬢で性格が悪く人を貶めるそうです。それでもよろしいのですか?」
「それを言ったやつは人を見る目がないね。リリーシャ嬢ほど優しくて強い人はいない。君はすべてが美しい。リリー、できれば今まで通り素で話してほしい。もし婚約を受けてくれたら俺達は結婚するんだ、俺の前でだけは飾らない君でいてほしい」

 殿下はいつもの丘で会っているように優しい顔で笑った。

「本当に?」
「ああ。そのままの君が好きだ」
「こんな私でもよければ、こちらこそお願いします」
「本当だね? もう取り消せないよ、いい?」
「はい、謹んでお受けいたします」
「ヨッシャー!!」

 どさくさに紛れ、私をぎゅっと抱きしめるハインスリード殿下。

(あぁ、お父様の目が据わっているわ……)
「ゴホン! 私の可愛い娘を、否、私の愛しい娘を離していただけますかな? 抱きしめるのはまだお早い!」
(お父様、別に言い直さなくても……。それに切れ者宰相の顔が崩れていますよ?)
「すみません」

 ハインスリード殿下は私を離し、お父様に頭を下げた。

「ハインスリード殿下、二、三質問してもよろしいでしょうか?」
「はい」

 お父様は宰相の顔を取り戻し、真剣な顔でハインスリード殿下と向き合った。

「殿下は王子教育はお修めになりましたか?」
「はい、私も一応、王位継承権を持っておりますので」
「それでは王太子教育はいかがですかな?」
「王太子教育は受けていません。私も婚姻したら父上や兄上のように権利を放棄する予定です。それに私は万が一、何かがあった時の代わりですので、そこまで学ぶ必要はないかと」
「わかりました。ではこの質問が一番重要とお思いください」

 ハインスリード殿下を見つめるお父様の顔つきが厳しいものに変わった。

「王位を継ぐ覚悟はおありですか?」
「正直に答えても?」
「もちろんです」
「五分といったところでしょうか」
「その理由をお伺いしてもよろしいか」
「ルドゥーベル殿下に国王は務まりますか? 頭の善し悪しではなく器量としてです。それに殿下が見つけたその真実の愛の女性で王妃は務まるでしょうか。他国と戦争になるような方々では王位を継ぐに相応しくない。ですが、リリーシャ嬢にはもうこれ以上負担をかけたくない。これからは平穏に暮らしてほしい。だから五分です」
「わかりました。それなら貴方は王位を継ぐべきだ。リリーシャは王妃に相応しい。そのための十年です。そしてリリーシャの十年を無駄にしたくない父の願いです」
「リリーシャ嬢は?」

 まっすぐ私を見つめるハインスリード殿下と目が合った。
 私も殿下をひたと見つめる。

「私はハインスリード殿下に従います」
「わかった。なら王位を継ぐ努力をしよう。リリーシャ、私と一緒にこの国を支えてくれるか?」
「はい、ハインスリード殿下のお側で」

 今目の前にいるハインスリード殿下も、あの丘で会っていたアーサーも同じ人物。それは間違いない。それでも本当に同じ人なの? と疑いたくなるくらい別人のよう。
 それでも時折見せる笑顔は紛れもなくアーサーの笑顔。包み込むような優しい顔。
 その顔を見るとほっとする。この人はきちんと話を聞いてくれる。他人のやるせない気持ちもわかってくれる。そして自分のことのように怒ってくれる。
 私はアーサーに救われたの。過ごしてきた十年が無駄じゃなかったって。今は自分のための十年だったって思えるようになったわ。
 ここだけの話、婚約者にと言われた時少しだけ嬉しかったのよ?
 貴方を好きかと聞かれたら嫌いじゃないと答えるわ。まだ好きとは言えない。
 でも好感が持てる人だと思ってる。それはあの丘で貴方と過ごしたからだと思う。


 次の日、王弟殿下のアンスレード・サイドメア辺境伯、つまり大公殿下も辺境から王都に出てきて、エイブレム公爵家で四人揃って顔合わせをした。

「おお、久しいなケニー、元気にしていたか?」
「ああ、お前も元気そうだな、アンスレー」

 大公殿下がお父様の肩を叩き、二人は懐かしそうに見つめ合った。

「兄上も息災でいるようだな」
「ああ、少し鬱陶しいがな」
「少しじゃないだろ?」
「まあな」

 お父様と大公殿下の気を許した話し方で二人が本当に親しい間柄だと伝わる。

「さて、息子から聞いたが、ハインスを王位に就かせるつもりか?」
「ああ、そうしたいと思っている」
「兄上にも王子が一人いるだろ、確かルドゥーベルといったか」
「いるぞ、あのクズがな」
「お前がそこまで言うのなら、相当なんだな」
「ああ、思い出したくもない。私の娘を蔑ろにした報いも必ず受けさせてやる」
「よしわかった。ハインスはお前に任せる。俺は辺境にいるし、こっちのことはお前に任せるのが一番だ」
「ああ、任せてくれ」

 よしわかったってそんな簡単に? 王位を継ぐかどうかはまだわからないにしても、目指すのは国政に関わることだわ。簡単に即決できることじゃない。
 ハインスリード殿下が目指すと決めたとしてもそれは彼の気持ちであって、父親の大公殿下は複雑な気持ちではないの?
 でもきっとそうね、大公殿下から託されたのがお父様だからなのかもしれないわ。二人だけの信頼関係、きっとそうよ。
 大公殿下が突然私の近くまでやってきた。近くで見ると少し迫力がある。
 怖くはないの。とても優しい笑顔の方よ? 大柄だから余計にそう思うのかもしれないわね。

「で、このお嬢ちゃんが、お前が奥方に頼みに頼んで泣き落としでようやく産まれた娘か?」
「うるさい、黙れ。リリーシャ、こっちに来なさい」
「可愛いじゃないか」
「だろ? 俺の自慢の娘だ。本当ならお前の息子にもやりたくない。だがあのクズに利用されるよりはお前の息子の方がまだマシだ」
「そうかそうか。俺はお前が大事にしている愛娘を自分の娘にできるんだな? 俺は子供も男二人だからな。おまけに孫も男だ。これで娘が二人になる」
「辺境にはやらんぞ。王位を継げないなら俺の邸で暮らさせる。ああ、そうなれば息子はお前に返してもいいがな」
「ハハハッ、ハインス、頑張れよ」
「父上!」

 それまで黙って聞いていたハインスリード殿下が焦った声を出した。
 大公殿下って大雑把というか、ずいぶんおおらかな方ね。
 それに、ハインスリード殿下でも父親には敵わないんだわ。
 お父様達は昼間からお酒を飲み始め、私とハインスリード殿下は庭に移動した。

「父上がすまない。悪い人じゃないんだけど……」
「大丈夫よ、それは見てわかるわ」
「リリー」
「何?」
「本当に俺と婚約してくれるの?」
「ええ」
「俺のことどう思ってる? いやなんでもない。婚約破棄したばかりの君に聞くことではないな」
「どうってまだよく知らないもの。あの丘の貴方しか私は知らないわ。でも、毎日アーサーに会いに行ってたのは本当よ? それに好ましい男性だとも思ってる」
「本当? ……よかった。それで、その……手を繋いでもいいかな?」
「ええ、もちろん」

 殿下は私の手を取りゆっくり歩きだした。

「リリー、すぐに好きになってとは言わない。言われて好きになるものじゃないしね。だからまずは俺と一緒に過ごしながら知ってほしい。それから俺を好きになってくれたら嬉しいな」

 殿下は優しい顔で笑った。
 今の私の気持ちが恋かはわからない。家族以外の男性に好意を向けられ、優しくされて舞い上がっているだけかもしれない。
 好感を持っているのは確かだけど、それは友人に向ける感情なのか婚約者に向ける感情なのか、まだはっきりとはわからない。それでも婚約者がアーサーだと知って嬉しいって思った気持ちは大事にしたい。この感情が何なのか、いつかわかる時がくるだろう。
 それでも縁あって婚約者になったんだもの、今度こそ仲よくなりたい。

「わかったわ。ねえ、私は何て呼べばいい? アーサーはだめよね?」
「ハインスでもリードでもハリーでも、好きなように呼んでくれて構わないよ?」
「ハリーだと面倒よね?」
「君の護衛に怒られちゃうよ」
「ふふっ、ハリーは怒らないけど、遠乗りした時にどっちを呼んでいるかわからないのも困るわ。うーん……ハンスはどう?」
「いいよ。でもどうしてハンスなのか聞いてもいい?」
「別に理由はないの。ただ誰にも呼ばれていない呼び方がいいなと思っただけよ?」

 メイドのミレが言っていた。二人だけの愛称で呼び合うと幸せになれるって。その呼び方はどんな風に呼んでもいいらしい。
 恋人同士の秘密の暗号のようなものらしいわ。特別な関係、それをお互い実感するって。
 ミレはどこからそういう話を聞いてくるのかわからないけど、平民の間で流行ってる話を教えてくれるの。街に行ったことがない私には新鮮な話ばかり。今まで家と王城の往復だけだったのが変だったんだけど。

「なら俺もリリーじゃなくてリシャって呼ぼうかな?」
「別にいいけど、どうして?」
「リリーだと君のお父上と一緒の呼び方だろ? 俺だって俺だけの呼び方で呼びたい」

 ハンスは少し拗ねたような不貞腐れたような顔をした。

「ふふっ、ならハンスにはリシャって呼んでほしいな。呼んでくれる?」
「リシャ」

 ハンスは照れながら私を呼んだ。
 二人だけの愛称で呼び合うと一気に仲よくなった気がした。
 それに今まで誰にも呼ばれたことのない呼び方に少し胸がドキっと高鳴った。

「それよりハンスは本当によかったの?」
「ん? 何が?」
「王位を目指すことよ。お父様はああ言ったけど私、別に王妃になりたいわけじゃないの」
「そうだね、知っているよ」
「今さら過去は戻らないでしょ? 確かに走り回ったり友達作ったりしたかったわ。それでももう戻れない。それに今はどうあれ、その時々の努力はルドゥーベル殿下のためだと思っていたから、そこまで苦ではなかったの。だからハンスが無理する必要はないの」

 私は王妃になりたかったのではなく、ルドゥーベル殿下の妻になりたかっただけ。もちろん殿下は陛下の一人息子だから王太子となり、王になる人。そんな人の妻になりたいならそれ相応の教育が必要だ。だから私は頑張ってきた。
 でも、ハンスが目指したくないのに無理矢理目指そうとするのは嫌だ。そんなの私は望まない。

「リシャは優しいね」
「そんなことないわ」
「でもね、俺はこのぺープフォード国が滅びるのだけは避けたいんだ。真実の愛が駄目なんじゃない、愛も大事だと思うよ。でもね、他国と渡り合うには愛だけでは駄目なんだ。知性、教養、所作すべてに秀でてないと。リシャの話では殿下はリシャにそれらをやらせようとしてる。殿下もわかってるんだ、その真実の愛の女の子では無理だと」

 ハンスは立ち止まり、真剣な顔で私を見た。

「でもね、王妃は王妃だし側妃は側妃なんだよ? 役割が違う。執務はできるけど他国の来賓を招いたパーティーには側妃は参加できない。王妃を差し置いて側妃を参加させるなんてできないだろ? その時何か失敗すれば戦争の火種を起こす。殿下が考え直して新たな婚約者を選ぶなら俺はそれでいいと思う。その女の子を愛妾に迎え入れればいいだけだろ? だけどこのままその女の子を婚約者にするなら俺は王位を奪いにいくつもりだ。それはリシャのためじゃなく国を救うためにね」
「そう、それだけ国を想っているのね。安心したわ。ならいいの」
「その時はリシャも俺に力を貸してくれる?」
「当たり前よ」

 こうして私は二歳年上のハインスリード殿下と婚約した。


 婚約した次の日、私は今、王城の謁見の間にいる。お父様と大公殿下、ハンスも一緒。
 陛下が入室され、その後ろにはお兄様が控えている。

「おお、兄上! 息災か!」

 大公殿下が朗らかに陛下に呼びかけた。

「どうしたアンスレード」
「兄上の息子が婚約破棄したそうだが、優秀な息子はやっぱり違うな、兄上?」
「あ、ああ」
(大公殿下でも嫌味を言うのね)
「おまけに優秀な婚約者ももういるとか、流石、兄上の自慢の息子だ」
「………………」
(あぁ、これは嫌味を通り越して馬鹿にしてるわね)
「でだ、うちの息子もようやく婚約するらしい。まあいつまでも遊んでいられても困るしな」
(これはハンスに対する嫌味ね……。ハンスも苦笑いしてるわ)
「そこでな、兄上!」
「……何だ」
「ここに印をくれ!」
「……は?」
「ちょちょっと印を押すだけだ! 兄上にしかできない仕事だぞ。早く押してくれ」
「わかった、わかったから」

 ポン!

(大公殿下って陛下よりも強いのね。おまけにちょっと陛下を、馬鹿にしていない? っていうより陛下、貴方今何も見ないで印押しましたよ? 今回は何も見ずに押してくれてよかったですけど、これが重要な書類だったらどうするのです?)
「兄上、まだだぞ!」
「何だ、まだあるのか? まったく騒しいやつだな」
「これにもちょちょっとよろしくな」

 ポン!

「流石、兄上だ!」
(あらあら、陛下また見ずに……。一回目はハンスと私の婚約証明書の陛下の印。二回目はハンスの王太子教育の許可書の陛下の印。あとで何を言ってももう通用しませんよ?)
「兄上、ありがとな! これで息子も婚約者ができたよ」
「そうか。で、誰が婚約者になったのだ?」
「兄上、この場に誰がいる?」
「リリーシャ嬢だが……。え? リリーシャ嬢なのか?」
「反対にリリーシャ嬢でなければ、なぜ連れてくる」
(それもそうね。私がハンスの婚約者でなければどうして私がこの場にいるの? ってなるもの。どれだけお父様と大公殿下の仲がいいといっても、流石に私が付き添う義理はないわ)
「それもそうだが……」
「彼女に婚約者はいなかったんだから、問題はないだろう、なあ兄上?」
(あぁ、圧がすごすぎるわ。陛下が若干引いてる……)
「あ、ああ。そうだな」
「今はすでに息子の婚約者だがな。ハハハッ」
「そ、そうか」
「どっかの優秀な王子が婚約破棄してくれたおかげで、こちらはよい縁を得たよ。まあ息子のべた惚れなんだがな」
「あ、ああ、そうか」

 陛下は気まずそうに苦笑いをした。

「なあ、兄上」
「な、なんだ」
「リリーシャ嬢はもう俺の娘だ、だろ?」
「あ、ああ、そうなったようだな」
「俺の娘を傷つけてまで選んだ女は、この国を任せるだけの器が本当にあるんだよなあ?」
(圧が……。私まで倒れそうだわ。大公殿下、顔は笑っているけど目が、獲物を捕らえる獣みたい……)

 そっと繋がれたハンスの手にとても安心した。「大丈夫」って言われているみたい。

「………………」
(陛下が無言になったわね。あぁ、ついに目も背けちゃった。陛下の敗北ね……)


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