今まで頑張ってきた私が悪役令嬢? 今さら貴方に未練も何もありません

アズやっこ

文字の大きさ
2 / 30
1巻

1-2

しおりを挟む
 私、リリーシャはこの国ぺープフォード国の王子ルドゥーベル殿下と、殿下が十歳、私が五歳の時に婚約した。
 高位貴族では五歳頃から家庭教師を付けて少しずつ、淑女としての嗜み、マナーやダンス、この国の歴史など、王立学院に入学するまでに一通り勉強をする。
 王立学院では勉強ももちろん学ぶけど、どちらかと言えば二年間かけて交流するのが目的だ。令嬢の中には通わない者もいる。家庭教師が推薦状を書けば卒業証明証は貰える。成人する十六歳になればすぐに婚姻する令嬢も少なからずいるからだ。
 本来なら公爵令嬢として恥ずかしくないように、十年かけて家庭教師から学び、学院に通う予定だった。それが殿下の婚約者になり、いずれ王太子妃、王妃となるべく、耐えがたいほど厳しくなった。
 貴族が相手をするのは貴族。王族が相手するのは他国。間違いや失礼があった場合、最悪、国が滅ぶ。戦争になる。
 私は王家から派遣された家庭教師と公爵家の離れで朝から夕方まで一日中勉強した。カーテシーから始まり他国の挨拶、歩き方から、カップの持ち方、飲み方まで。
 五歳の子に対する厳しい指導にお父様もお母様もお兄様達まで反対した。
 せめて十歳になるまで待ってくれと何度も何度も王家に打診した。
 日に日に笑わなくなる私を、日に日に食が細くなる私を見て、「私の娘を殺す気か!」とお父様は何度も何度も訴えた。
 王命であろうと不敬と言われようと、婚約は白紙に戻してもらうと。

「王子妃にさせるために子を作ったんじゃない! だからわざわざ五年も空けた! 私が娘が欲しかったからだ! 王子と同じ年に産まれた令嬢がいくらでもいたはずだ! どうしてそこで決めなかった!」

 お父様が何度も何度も訴えた結果、条件付きで教育を行うことになった。
 午前中の一時間は家族と過ごす。午後からはお昼寝の時間の確保。
 お父様もお母様もお兄様達も納得のいく条件ではなかったけど、少しでも心の休まる時間を家族と過ごす時間を確保できた。
 王家から派遣された先生方から最初に言われたことはこうだ。

「声を出して笑ってはいけない。声を出して泣いてはいけない。泣いてる姿を誰にも見られてはいけない」

 王太子妃、王妃は表情ひとつ、仕草ひとつ、常に誰かに見られている。隙を見せてはいけない。常に笑顔を貼り付け、相手を観察しないといけない。堂々とした態度で品位を持ち、笑顔で他国と対等に渡り合う。
 言うのは簡単だけど、実際やるのは難しい。笑顔も作り笑顔とわかられてはいけない。自然に微笑まないといけない。それを何時間も保たせる。会話の中では相手の腹を探り、自分の国が有益になるように持っていかないといけない。
 たった五歳の少女には難しい話だった。まだ走り回りたい歳で、笑ったり泣いたり怒ったり、感情が顔に出る歳だった。
 ただ一度会って遊んだだけ。私からすればお兄様と遊ぶ感覚だった。同じ歳の令息令嬢とのお茶会始めもまだ済んでいない少女にとって遊び相手はお兄様とお兄様のお友達だった。その延長と思っていた少女に課せられたのが王太子妃、ひいては王妃だった。
 幼い少女はゆくゆくは王太子妃になるために同じ歳の令息令嬢との接点を奪われた。だから交流はおのずとルドゥーベル殿下だけになり、優しくされて慕うようになった。
 わけもわからず厳しい淑女教育を受け、難しい国の歴史、他国の歴史、他国の言葉、他国の礼儀作法、できないと言えば手を扇子で叩かれ、「できないなら寝る間も惜しんでできるようにしなさい」と言われる。それでもお慕いするルド様のために頑張った。
 幼い頃は公爵家で学べた教育が、王太子妃教育、王妃教育と進むにつれ王城に学ぶ場が変わった。
 朝から王城へ行き、終わるのが夕方。遅い時は深夜近くなる時もあった。
 ルド様は朝と帰り、馬車から部屋へ、部屋から馬車へ必ずエスコートしてくれた。
 その時にルド様と話す時間が私を奮い立たせた。ルド様の隣に立つために、と。
 王太子妃教育、王妃教育を指導していただいた先生方から、

「あとは婚姻してから国の重要機密を教えるだけになりました」

 と言われた。

「学院に通わずとも、卒業できるだけの学力、能力、淑女の嗜み、すべてに秀でているため、卒業証明の推薦状を書きますから、少し休養なさい。長い間よく頑張りました」

 優しい笑顔でそう言われた時は涙が出た。
 ルド様のために頑張った努力がようやく報われたと。
 ようやくルド様を支える力を得たと。
 ようやくルド様と婚姻できると。
 この頃、側にはルド様しかおらず、ルド様のためならどんな苦悩も苦痛も乗り越えられると決心していた。
 そう、私にはルド様だけがすべてだった……


「リリーシャ、お前みたいな悪役令嬢とは婚約破棄する! 私は真実の愛に目が覚めたのだ! お前みたいに性格が悪く人を貶めることしか考えてないようなやつより、心優しく私が愛するに相応しいサラを私の婚約者にし、王太子妃とする。まぁお前がどうしてもと頼むのであれば側妃にしてやってもよい。サラには私の愛だけを受け取ってほしいからな。余計な執務はお前が側妃として代わりにやれ。サラの手となり足となり影として生きるなら、私の側にいることを認めてやらんでもない」
「まあ、ルドは優しいのねぇ」

 フフンと勝ち誇った顔をする目の前の女性。

(サラ様といったかしら? 貴女はどこの貴族なのかしら?)

 淑女の顔ではない、私自身の笑顔を婚約者になってから初めてルドゥーベル殿下に見せた。

「謹んで婚約破棄はお受けいたします、ルドゥーベル殿下」
「フン」

 私はルドゥーベル殿下の前から去り、馬車に乗って邸に帰ってそのまま自室で泣いた。
 夜中になり、まだ起きていたお父様の書斎に向かい扉を叩いた。
 コンコンコン。
 私は扉を開け、顔を覗かせる。

「お父様?」

 書斎でゆっくりくつろいでいるのは私のお父様でエイブレム公爵家当主、ケイニード・エイブレム公爵。
 少し疲れた顔をしている。それでもお父様に今から伝えないといけない。

「リリー、どうした。こっちへ来なさい」

 お父様は優しい顔で微笑み、手招きした。私を膝の上に乗せ、髪を優しく撫でてくれる。

「リリー、こんな夜中にどうしたんだ? 眠れないのかい?」

 お父様の優しい笑顔を見ていると申し訳なくなった。優しいお父様を悲しませる話をしないといけない……
 私は意を決してお父様に伝えた。

「お父様、今日ルドゥーベル殿下から婚約破棄すると言われました。申し訳ありません」
「何だと!!」

 私はお父様の大きな声に驚き、体がビクッと震えた。
 そうよね、殿下から婚約破棄されたなんてどんな醜態しゅうたいを晒したんだと怒るのは無理もないわ。お父様は野心家ではない。それでも婚約破棄をされるなんてされた方に何かしら理由がある。それに渋々婚約を了承したといっても、娘が王家に嫁ぐ、その意味は大きい。

「ごめんよ、リリー。リリーに言ったんじゃないんだ。ごめんよ? お父様を許してくれるかい?」

 お父様は泣きそうな顔で私を見ている。

(お父様は婚約破棄された私に怒っているのではないの?)
「はい」
「あぁ、リリーは優しい子だね。お父様の自慢の娘だ」
「お父様は私を叱らないのですか? 婚約破棄なんてされて、と」
「どうして俺の可愛い娘を怒らないといけないんだ?」
「殿下に婚約破棄されたからです」
「リリー、俺は渋々婚約を了承しただけだよ? 怒るとすれば婚約破棄をした殿下の方だ。俺の可愛い娘になんてことをしたんだと一発、いや二発、いやいやもっとかな、ぶん殴りたいくらいだよ」
(お父様、殿下をぶん殴ったらお父様が不敬罪で処刑されてしまいます)

 お父様は冗談だけどねと笑っていたけど……。目が笑っていないから冗談ではないわね。
 バタン。

「父上、どうされました」

 突然書斎の扉が開き、焦った顔をして入ってきたのは私のお兄様、エイブレム公爵家嫡男のアルドお兄様。

「アルドか、何でもない」
「リリーどうしたんだ? もう夜中だぞ?」

 お兄様はお父様の膝の上に座る私に気づいた。
 普段ならとっくに私は寝ている時間。

「アルドお兄様……」
「リリー、目が赤いが……」
「はああ!?」

 またまたお父様の大きな声にビクッと体が震えた。
 お父様が私に怒っていないのはわかっていても、耳元で聞こえるお父様の大きな声にどうしても体が反応してしまう。

「父上、いちいち大声を出さないでください。リリーが怯えています。リリー、お兄様のところへおいで」

 お兄様は腕を広げて待っている。

「アルドとてリリーはやれん!」

 お父様は離さないと言わんばかりに私をギュッと抱き寄せた。

「でしたら、リリーの耳元で大声を出さないでください」
「わかった」
「それで、リリー、どうしたんだ?」
「アルドお兄様、私、今日殿下に婚約破棄をされました」
「は!? なるほど! だから父上が大声を出したのですね、納得です。で、あのクズは何と言ったんだ? お兄様に包み隠さず話してごらん?」
(アルドお兄様、顔はにこにこと微笑んでいますが目が笑っていませんよ? それに殿下をクズって。確かにクズですが……)

 私は殿下に言われたことを包み隠さずお父様とお兄様に伝えた。

「へえぇー、あのクズがそんなことをねぇー。まあ真実の愛とやらでリリーが婚約者じゃなくなるのはいいことだ。リリーの十年を返せと言いたいが、まあその分は慰謝料に上乗せだな。それよりも側妃にしてやってもよいってあのクズは何様だ!」
(お兄様、王子殿下です)
「リリーの今までの努力を無にしただけでなく、リリーに執務を押し付けるだと! それから何だ、女狐のために手となり足となり影として生きろだと! あのクズが!!」
(お、お兄様……?)
「父上、婚約破棄は早急に処理しましょう」
「当たり前だ、お前は誰にものを言っている。明日中に婚約破棄の処理を終わらせてやる」
「側妃は所詮口約束、何の効力もありません」
「ああ、当たり前だ」
「なら答えはひとつしかありませんね」
「ああ、リリーの新しい婚約者を早急に見つける」

 お父様とお兄様は二人でどんどんと話を進め、当事者の私は唖然としていた。

「お願いします。今度はあんなクズはやめてくださいね!」
「当たり前だ。あのクズとの婚約も望んでではない!! 無理矢理婚約させられたんだ!! 俺の可愛いリリーの子供時代を無にしやがったやつらには慰謝料を上乗せの上乗せで請求してやる!!」
「だから父上は大声を出さないでください。リリー、やっぱりこっちへおいで」
(お父様にギュッと抱きしめられ身動きが取れません、お兄様)

 この国では王族のみ側室が持てる。
 それでも王子妃と婚姻してから一年後しか持てず、打診も一年後からしかできない。
 ルドゥーベル殿下が今日言った「側妃にしてやる」も、所謂口約束で効力はない。それに側妃に娶る条件は、婚姻していない者、婚約者がいない者と定められている。王族しか持てない側室だからこそ「人の幸せを壊してまで持つべきではない」と。
 それらを反故にした場合、重罰が下る。
 現国王陛下は王妃殿下だけで側妃は娶っていない。正確には娶ることができない。国王の側妃になるには愛だけではなれない。知性、教養、所作が優れていなければ娶ることはできない。
 さらに婚姻しておらず、婚約者のいない高位貴族令嬢は少ない。何かしら問題がある者しか残っていない。下位貴族では知性、教養、所作が劣り、他国を相手する王族に嫁ぐほどの技量がないからだ。稀にいるにはいるけどそういう者はすでに婚姻しているか婚約者がいる。
 はて? サラ様は大丈夫なのかしら?
 王子妃も知性、教養、所作が劣っていると娶れないのだけど……
 まあ、私にはもう関係ないわね。
 次の日、お父様は昨日言っていたように婚姻破棄の届け出を早急に処理した。
 陛下に「考え直してほしい」と何度も頭を下げられたらしいけど、お父様とお兄様はそれを無視して処理したらしい。
 あ、ちなみにこう見えてお父様はぺープフォード国の宰相なの。
 お兄様は宰相のお父様を補佐する宰相補佐、次期宰相よ。
 陛下の子で王子殿下はルドゥーベル殿下のみ。
 王位継承権は王弟殿下の御次男様も持っているけど、社交界に一切姿を見せない。
 だから私もお顔を拝見したことがないの。
 王弟殿下は今は大公になり辺境にいる。大公殿下は婚姻した時に王位継承権を放棄し、大公殿下の御嫡男様も婚姻した際に王位継承権を放棄した。
 だから今はルドゥーベル殿下と大公殿下の御次男様だけが王位継承権を持っている。
 私はお父様から、「今までが急ぎすぎたのだ。これからはゆっくり過ごしなさい」と言われ、この小高い丘に毎日来ている。


「と、いうわけなの」

 アーサーは最後まで私の話を黙って聞いていた。

「努力してきたんだね」
「そうね。無駄になっちゃったけど」
「無駄にはならないさ。これからリリーがどう過ごすかわからないけど、覚えた知識はリリーの財産だし、身に付いた所作はずっと体が覚えている。リリーの一部となってこれからも活きてくるよ」
「そうかな?」
「そうさ」
「なら十年も無駄じゃなかったってことかな?」
「ああ、もちろんだよ」

 アーサーの言葉に励まされて王太子妃教育は無駄じゃなかった、そう思えた。

「それでも幼い頃には戻れないわ」

 ルドゥーベル殿下の婚約者にならなければ私はまた違った人生を歩めた。
 でも、殿下と婚姻し王子妃になっていれば、その後悔も生まれなかった。

「リリーは何がしたかったの?」
「そうね……。思いっきり走り回りたかったし、笑ったり泣いたり怒ったりしたかった。それに友達も欲しかったわ。私、友達が一人もいないの。いずれ王太子妃になるのに、友人はいらないと言われて」
「何で?」
「王子妃、まあ王妃になったらだろうけど、一貴族に肩入れしてもいけないし、贔屓ひいきしてもいけないからかな」

 また違った人生を歩めるのなら今度は友達を作りたい。でもきっと無理ね、今さらどうやって友達を作ればいいのかわからないもの。それに公爵令嬢とはいえ、殿下に婚約破棄された私と距離は取っても友達になりたい人はいないわ。殿下の婚約者のままなら近寄ってくる人はいただろうけど。

「なら王妃様も友達がいないんだ」
「王妃殿下は私みたいに幼い頃からご婚約されてなかったから友人はいらっしゃるけど、今は表立って交友はされていないわ。王妃殿下主催のお茶会も王城で開かれるけど、それは高位貴族の夫人達を招待するから、仲がいい友人だけを呼んでのお茶会はされていないようよ」
「それは孤独だね」
「まあそうね。だから夫婦仲がよいのかもね」

 王や王妃は孤独。意見に耳は傾けるけど誰かの意見に左右されてはいけない。己の意志を強く持たなくてはいけない。己の揺るぎない信念を持たなくてはいけない。
 だから王と王妃は一対と言われている。お互いだけは信じられて頼れる。たとえ苦手なことがあってもどちらかが補えばいい。隣で支え助け合い、そして守り合う。
 王が間違えた時、それを戒めそして諭す。王妃とは王にとってそういう存在でなければならない。だから常日頃から会話をし、信頼関係を築いている。夫婦仲がよくなるのは自然な流れね。

「ああ、確かに」
「それでも王族には側近と呼ばれる人達がいるでしょ?」
「宰相とか近衛騎士総隊長とか、そういう人達?」
「そう。その人達の奥様なら親しくしてもおかしくないでしょ? だって側近の奥様なんだもの」
「まあ、そうだね」
「近衛騎士総隊長の奥様は王妃殿下の幼馴染みで、私のお母様、私のお父様は宰相なのね、お母様とは学友らしいの。だからまったく孤独ってわけじゃないわ。時々三人で親睦を深めるためにお茶会をしているの。王妃殿下だって誰かの助けは必要でしょ? 陛下を支えるのが側近なら、王妃殿下を支えるのは側近の奥様方、親睦を深めるのは当然だわ」

 一息に言ったあと、私は俯いた。

「でも私は幼い頃に婚約したから令嬢達と交流させてもらえなかったの。誰が側近になるかわからないし、誰が婚約者になるのか奥様になるのかわからないから。それにお兄様が宰相になるのはほぼ決まっているけど、お義姉様とは友達というよりも義理の姉妹だもの」

 そうか、それもそうだね、とアーサーは納得した顔をした。

「私ね、本当にルド様しか側にいなかったの。だからどんなことでも耐えてきたし努力してきた。ルド様の隣に立つに相応しくなりたいって。ルド様が大好きだったの。でも婚約破棄されて、今までは何だったんだろうって思ったらその気持ちも冷めちゃった。今は誰が側妃になんてなるかー! って思っているわ」
「そ、側妃!?」

 アーサーは驚いたように大きな声を上げた。

「あれ、真実の愛を見つけて婚約破棄したとしか言わなかった?」
「ああ、そう聞いたけど……」
「側妃にしてやってもいいって言われたの。誰がなるか! って思っているわ。だってそうでしょ? どうして私が側妃にならないといけないの?」

 殿下は本気で私が側妃になると思っているのかしら。喜んでなりますって?
 確かに私には殿下しかいなかった。周りを遮断され固められた。家族以外では私を教育する先生方だけ。だから殿下に会えた時は嬉しかった。それが幼い頃からの刷り込みだったとしても、殿下が好きだった。だからどれだけ辛くても耐えられたし、たとえ殿下の態度が素っ気なくても我慢した。婚姻すれば殿下も変わってくれると信じていたから。
 私だって本当はもっと優しくしてほしかったわ。労ってほしいのではなくて私の気持ちに寄り添ってほしかった。一緒に頑張ろうって言ってもらいたかった。
 でも殿下は私にそういう言葉をかけてはくれなかった……
 もしそんな態度や言葉をかけてくれていたら、私は喜んで側妃になっていたのかもしれない。

「王子はリリーを側妃にして何がしたいの?」
「真実の愛の相手の代わりに執務をこなして、手となり足となり影として支えろだって」
「え? 馬鹿なの? 婚約破棄した婚約者に言うこと? それに婚約者じゃなくてもリリーは公爵令嬢だよ、すぐに婚約の打診があるに決まっているよね?」
「私、公爵令嬢って言った? 間違ってはいないんだけど」
「いや、ほら……、そうそう、宰相が父親って言ったから」

 アーサーはなぜか急に焦った顔をした。

「それもそうね」
「ハハッ、そうそう」

 笑ったあと、彼はふうっと息を吐いていた。どうしたのかしら?


 アーサーにすべて話した翌日、今日も小高い丘に行こうとしたらお父様に呼び止められた。

「リリー、お客様が来るから今日は家にいなさい」
「わかりました……」

 お父様が家にいるってことは大事なお客様。きっともう婚約者を見つけてきたのよね……
 まだ婚約って気分じゃないんだけど……
 アーサー、待ってるかしら……。私が行かなかったら帰るわよね。
 私は部屋に戻り、憂鬱な気分でいた。
 メイドのミレが「旦那様がお呼びです」と私を呼びに来て、お父様が待つ書斎に向かった。
 書斎の扉の前、私は一度深呼吸をした。
 コンコンコン。


しおりを挟む
感想 464

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。

四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」 突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花
恋愛
「お前はいつものろまで、クズで、私の引き立て役なのよ、お姉様」  私を蔑む視線を向けて、双子の妹がそう言った。 「本当、お前と違ってジュリーは賢くて、裁縫も刺繍も天才的だよ」  愛しそうな表情を浮かべて、妹を抱きしめるお父様。 「――あなたは、この家に要らないのよ」  扇子で私の頬を叩くお母様。  ……そんなに私のことが嫌いなら、消えることを選びます。    消えた先で、私は『愛』を知ることが出来た。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?

荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」 そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。 「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」 「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」 「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」 「は?」 さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。 荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります! 第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。 表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。