今まで頑張ってきた私が悪役令嬢? 今さら貴方に未練も何もありません

アズやっこ

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1巻

1-1

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   プロローグ 婚約破棄されても


 私は今、小高い丘に来ている。ここはお父様から教えてもらった秘密の場所。
 芝生の上で横になって空を眺める。淑女教育や王太子妃教育の先生に見られたらすごく怒られそうだけど、誰にも見られていないし、もう他人の目を気にする必要もない。

「真実の愛か……」

 私だって愛されたかった。たとえ政略結婚だったとしても、私は大好きだったのになぁ。
 芝生の上をゴロゴロしたあと、うつ伏せになり涙を流した。声を出さず泣けるようになったのはいつだったか……、泣いている姿を見られないように泣く癖がついたのはいつだったか……
 私の名前は、リリーシャ。エイブレム公爵家の長女。お父様、お母様、二人のお兄様、そして私の五人家族。どうしても女の子が欲しくて諦めきれないお父様がお母様に頼みに頼んで、毎日毎日土下座して泣いてもう一人子を産んでくれと頼んだそう……
 産まれてくる子がもし男児でもこれが最後! と、お母様は渋々(?)多分、お父様が面倒になって(?)了承したそう。
 お母様が妊娠中、お父様は常に寄り添い、毎日毎日お腹に話しかけていたみたい。「女の子かなぁ? 女の子だといいなー」って……
 そんな中、産まれてきたのが私。
 お父様は待望の女児誕生で、三日三晩パーティーをしたらしいの。王都では貴族にお酒を配り、領地では領民にお酒と料理を振る舞ったらしいわ。お母様は呆れていたけど……
 お父様からは目に入れても痛くないって、それはそれは甘やかされたわ。お母様もなんだかんだ言いながら、上二人が男の子というのもあり、私の服や小物を楽しそうに選んだり、嫡男のお兄様も次男のお兄様も年の離れた妹の私を可愛がってくれたの。
 家族から、我が家の使用人達から、甘やかされて育った私は確かに我儘お嬢様になったわよね。自分で言うのもあれだけど、小さい頃の私は天使だったの、見た目も仕草も! ふわふわした透き通るような金髪にエメラルドのパッチリお目め。いつも笑顔で、立っただけで、座っただけで、歩いただけで、走っただけで、声を発しただけで、皆から「天使のようだ。本当に愛くるしいお嬢様」と言われて育てば「この世界は私の物!」って思っても仕方がないわ。
 私が五歳の時、五歳年上のルドゥーベル王子殿下と婚約した。
 お父様は最後まで反対していたけど、王命を出されて渋々了承したの。
 王家曰く、家柄と年齢が見合う女児がいないためって言ってたらしいけど、正確にはいなかったわけではない。王妃殿下が妊娠したら貴族は競って子を作る。我が子が婚約者候補や側近になれる確率が上がるから。
 お父様とお母様は王家とのつながりに興味がないみたいで、王女殿下が産まれた時にも、王子殿下が産まれた時にも、合わせて子を作らなかった。
 次期国王になるルドゥーベル王子が産まれた年、貴族も出産が相継いだ。高位貴族は婚約者や側近に……、下位貴族は侍従や侍女に……。本来なら五歳年下の私に白羽の矢は立たなかった。
 ルドゥーベル王子が産まれた年に公爵家、候爵家、伯爵家にも女児が数人産まれ、その中から選ばれる予定だった。それを王家は保留にし、次の年も保留にした。
 保留とはいえ、ある程度候補は絞られていた。
 それでも保留にし続けたのは、筆頭公爵家である、お父様がずっと女児を望んでいたから。
 ええ、賭けよ? でも王家はお父様の執念に賭けたの。
 お母様が懐妊し私が産まれ、産まれてすぐに打診があった。
 お父様は五年間断り続け、それでも諦めない王家から顔合わせだけでも……と言われ、渋々顔合わせだけした。結果、私はルドゥーベル殿下と仲よく遊び、そのまま婚約者に内定してしまった。お父様は最後まで反対していたけど、王命を出され泣く泣く了承した。
 ルドゥーベル殿下が成人した十六歳の時に婚約式を行い、私が成人する十六歳の時に婚姻式を行う予定になっていたの。
 当初の予定では半年後の私の誕生日に婚姻式を行うはずだった。


 それがどうして? 私は、泣くだけ泣いた。

「レディ、もうすぐ日が暮れますよ」

 突然声をかけられ、慌てて起き上がった。私を覗き込む青年と目が合う……
 私は青年を警戒しつつも、「夕焼けを見に来たので」と素っ気なく返した。

「なら一緒ですね。俺もここから見る夕焼けが綺麗だとある人に聞き、その人が見ないと絶対に後悔するとお勧めするので見に来たんです。俺もご一緒してもいいですか?」

 青年は窺うように私に尋ねた。

「どうぞ?」

 私は手で促した。

「では失礼して」

 青年は私の隣に座った。隣といっても三メートル程度は空けていたけど……


「あの……、レディは一人でここへ?」
「えぇ」

 青年はくったくなく話しかけてきた。
 普段なら初対面の人と話したりはしない。
 相手は男性だ、この場を譲り立ち去る。
 それでも私は青年と話している。あの厳しかった妃教育から解放されたからか、それとも男性と二人きりになってももう関係ないと自棄になったか。
 きっと私を知らない人と話したかっただけかもしれない。

「お供とか……」
「護衛ならいるわ」

 青年は辺りをキョロキョロと見渡す。

「います?」
「いるわよ、そこに」

 私は馬のハリーを見た。

「馬…………? です……よね……?」
「馬ですね。それが何か?」
「護衛といったら、騎士や従者などではないかと……」
「そう? 確かに一般的にはそうかもね。でもハリーは私の護衛なの」
「え、ハリー? 馬の名前ですか? 俺には見えないハリーがいるとか? え?」

 青年はきょとんとした顔をして辺りを見渡している。

「ハリーは馬の名前よ。ハリーは強いの。そして賢い子なの」
「へぇ、そうなんですね……」
「信じてないわね!」
「あっ、いえいえ……」

 青年の表情から疑っているのが見て取れた。
 確かに護衛といったら誰もが騎士を想像する。私だって護衛と言われたら騎士だと思う。それでも私にとってハリーは立派な護衛。

「ハリーは私が幼い頃、攫われそうになった時、相手に体当たりして私を咥えて家まで連れ帰ってくれたのよ! それに、私を追いかけて迎えに来てくれるわ。信頼も安心もできる護衛なの」
「すごく賢い子なんですね」
「そうなのー」

 ハリーが褒められたのが嬉しくて、笑顔で答えた。
 日が暮れ始め、夕焼け空が茜色に染まる。
 それを二人で無言で眺めていた。
 お父様が言っていた通りね。「丘から見る夕焼けを見ていると嫌なことを忘れられる」少しだけその気持ちがわかる。綺麗な景色を見ていると心が洗われるもの。
 王都の街並みも茜色に染まり、今私は夕日に照らされている。その暖かい色合いに包まれる私も雄大な景色の一部。そう思うとこの悲しい気持ちがとてもちっぽけに感じる。
 だって私はこの夕焼けが綺麗だと思える。その感情がまだ残っているんだから。

「じゃあ、私はお先に失礼するわね」

 私は立ち上がり、ハリーの元へ歩き出した。

「あの、レディ、明日もここに来ますか?」

 青年が話しかけてきて、私は立ち止まり振り返った。

「多分ね。何もすることはないし。あと、さっきからレディレディってやめてくれる? 私はリリーよ。それにきっと貴方の方が年上でしょ? 気軽に話して」
「あっ、ごめん。リリー、明日もここに来れる?」
「ハリー次第だけど」

 青年はハリーの元へ歩み寄り、ハリーを撫でながら聞く。

「ハリー、明日もリリーを連れてきてくれるかい?」
「ぶるるるるる」
「ありがとう。よろしくね」

 青年は私の方へ向き直った。

「気をつけて帰ってね」
「貴方もね」

 私はハリーに跨がり、「じゃあね」と青年に声をかけ手を振った。

「じゃあ、明日。あ! 俺の名前をまだ教えていなかったよね? 俺の名前はアーサーっていうんだ。アーサーだよ? 覚えておいてね?」

 アーサーという名の青年は笑顔でずっと手を振っている。
 変な人……
 馴れ馴れしくて警戒しないといけないんだろうけど……。そこまで嫌悪感は抱かなかった。あの優しそうな雰囲気? ハリーを褒めてくれたから? きっと人畜無害そうなあの見た目のせいね。
 そんなことを考えていたらいつの間にか邸に着いていた。
 ハリーを厩まで連れていき、軽くブラッシングしていたら、ハリーがスリスリと顔を近づけてきた。

「ハリー、私は大丈夫よ」
「リリーシャお嬢様ー」

 邸からメイドのミレが叫びながら走ってきた。
 ミレは私より五歳年上でお姉さんのような友達のような存在で、とにかくとても仲がいいの。それに物事をはっきり言ってくれるところが私は気に入っているわ。

「ミレ、ただいま」
「はぁ、はぁ、はぁ、お嬢様、はぁ、お帰りなさいませ。はぁ」
「ミレ、大丈夫?」
「はい。もう大丈夫です。お嬢様も大丈夫ですか?」
「まぁ、何とかね」

 私は苦笑いをした。

「しばらくゆっくりしてくださいませ。今までが忙しすぎたんですから」
「そうね。そうするわ」
「そうしてください。さぁお嬢様、湯浴みをいたしましょう」
「服を着替えるだけでいいわ」
「髪に芝生が付いていますよ? 旦那様の泣き落としに耐えられるのであれば、無理にとは言いませんが……」
「お父様の泣き落としは嫌よ! ミレ、先に湯浴みをするわ」
「はい。その方がよろしいかと。すでに準備はしてあります。さぁ、急ぎますよ!」

 ミレやほかのメイド達数人に手伝ってもらい、急いで部屋の浴室で湯浴みを済ませる。夕食には何とか間に合ってお父様の泣き落としは回避できてよかったわ。泣かれたら手に負えないもの。
 芝生が髪の毛に付いているだけではお父様はきっと何も無茶は言わない。丘に行ったのか? 綺麗な夕焼けだっただろう、きっとそれだけ。それでも何のきっかけで泣き落としの手を使ってくるのかわからない。
 この前なんて家族で食事をしている時、隣に座っていた次兄が「リリー、お前トマト苦手だろ、残りは俺の皿に入れてもいいぞ」って言ってくれたから、そっとお兄様のお皿に載せたの。そしたらお父様の泣き落とし……。「お父様がリリーのトマト食べたかったなぁ。お父様もトマト好きなのになぁ。全部残したらお父様も注意するけど、半分以上食べたんだから怒らないのになぁ」って。結局「リリーがお父様の膝の上に座ってくれたらお父様嬉しいなぁ」と言われ、お父様が離すまで膝の上に座らされたわ。だから全力でお父様の泣き落としは回避したいの。
 丘でのことをいろいろ聞かれても困るし。たまたまい合わせただけとはいえ、相手は男性。素性もわからない男性と一緒だったなんて知られれば……、考えたくもないわ。



   第一章 新たな婚約者


 不思議な青年と出会った翌日、私は昼からハリーと丘に来た。
 芝生の上に寝転がり、空を眺める。曇が流れるのをただただじっと見つめる。

「リリー?」

 アーサーの声に上半身を起こした。

「アーサー」
「来てくれてよかった。ハリー、ありがとう」
「ぶるるる」

 アーサーはハリーを撫でている。

「ハリーは本当に賢い子だね」
「そうなの! ハリーは強くて賢くて美男子よ」
「美男子? 雄? ハリーって雄なの!?」

 アーサーは驚いた顔をして大きな声を上げた。

「そうよ? そんなに驚くこと?」
「雄馬は気性が荒いし、女の子が乗っているから雌馬なんだと思っていたよ。でもだからか、雌馬にハリーって名前は変だなとは思っていたけど、雄馬なら納得だよ」

 アーサーはウンウンと納得している。

「まぁ、普通なら雌馬に乗るわよね。でもハリーは絶対に私を落としたりしないの」
「ハリーからしたら大事なお姫様なんだろうね」
「うーん、お姫様というよりも妹? その方がしっくりくるわね。ハリーはお兄様よりもお兄様らしいもの」
「そ、そうなんだ……」

 私達は並んで座った。昨日よりは少しだけ近づいた距離。
 今日もしばらく夕焼け空を見てアーサーと丘の上で別れた。


 アーサーと初めてここで会った日から一週間、毎日この丘でアーサーと会っている。
 約束をするわけではないけど「また明日」、帰る時そう言われると私を待っていたら悪いかな? と思い、どうせ暇だし? 夕焼けを見たいからと理由をつけては毎日丘に来ている。
 アーサーと話すのは楽しい。本当にたわいもない話しかしていないけど、それすらする相手がいなかった私には新鮮だった。私が話す時はきちんと話を聞いてくれるし、それに、アーサーの話し方は聞いていて苦にならない。怒った口調でもないし、話す速さが聞きやすい、のかな?
 アーサーは感情を隠さず嬉しそうに楽しそうに話す。困った時や焦った時もよ。表情がころころと変わって、聞いている私にもその時の彼の気持ちが伝わる。だから私は毎日アーサーの話を聞くのが楽しみでここに来ているようなものなの。
 それに名前しか知らないから気楽に話せるのかもしれない。それこそアーサーに話す言葉遣いを先生方が聞いたら倒れちゃうわね。
 もちろん警戒はしているわ。でも、ハリーがアーサーを警戒しないから、それが一番危険を感じない理由かも。
 それに、平民が着るには上質な生地の服を着ている。どことなく立ち振る舞いが紳士的。きっとアーサーも私と同じで身分を隠して一人の時間をここで過ごしているんだろう。
 もし彼が貴族だったとしても、お互い身分を明かしていないから私は私でいられるし、きっとアーサーもアーサーでいられる。
 でも、貴族にアーサーという青年はいないはず。だから、もしかしたら平民でも良家の子息なのかもしれないわね。
 今日も丘の上で夕焼けを見るためにアーサーと並んで座っている。
 まだ夕焼けには早い時間。いつものように話をして過ごしている。
 でも今日のアーサーは何か落ち着かないのか、そわそわ? している。
 それにさっきから何度も私をチラチラと見てくる。

「アーサー、さっきから何?」
「ねぇ、リリー、聞いていいのか悪いのか……」
「何?」
「うん……、初めてここで会った日、リリーは泣いていたよね?」
「え? アーサー、貴方いつからいたの?」
「リリーが芝生の上をゴロゴロしてた頃からかな?」
「そんな前からいたの?」
「ごめん、出ていくタイミングがね……なくて……、ハハ……」
「そう……ね……」

 夕焼けを見に来たらゴロゴロと転がる変な女性がいた。
 誰だって少し様子を見るわ。この子は何をしているんだろうって観察するわよね。

「聞いても、いい? どうして泣いていたの?」
「まぁ、いろいろあったのよ。いろいろね……」

 私は遠い目をした。本当にいろいろあった。一言では言い尽くせないほどに。

「そっか……」
「うん……」
「泣きたくなるほど悲しいことがあったんだね」
「悲しいこと……そうね……」

 私は俯いた。

「リリー、溜め込むのはよくないよ? 全部吐き出した方がいい」

 アーサーの真剣な声で私を心配して言ってくれているのだとわかった。それでも私は顔を横に振る。たとえ誰かに聞いてほしいと思っていても軽率には言えない。
 家族や仲がいいミレにだって言えない。言えば苦しむのがわかっているから。王命を受けざるを得なかったとしてもお父様は自分を責める。どうして自分の娘を王子の婚約者にするのが嫌だともっと強い意志表示をしなかったのかと。それにミレは自分のことのように悲しみ苦しむ。それがわかるから私は自分の心の中に秘めた。

「俺は今から木になる。そこに生えている草になる。リリーは独り言を呟けばいい。それを咎める人はいないだろ? だから全部吐き出しなよ」

 アーサーの優しい声に促されるように私は重い口を開いた。

「婚約を突然破棄されたの……悲しかったわ。それに辛かった。今までの努力や頑張りを無にされたわ。十年よ、十年。友達を作ることもできなかった。走ることも、声を出して笑うことも泣くことも、何もかもできなかった。全部我慢して頑張ったの。いずれ来る未来のために……。恥ずかしくないように、心も殺して頑張った。自分のために……相手のために……、我慢も我慢できたわ」
「……………………」

 アーサーは本当に何も言わず私の話を聞いてくれている。

「私の努力を返して! 私の十年を返して!」

 私は婚約破棄をされてから初めて自分の気持ちを声に出した。
 それは悲痛の叫びのような怒号のようになって、感情的に大きな声を上げた。
 でもそれが私の気持ち。幼い頃の十年は長い。
 少し離れて座っていたアーサーは隣に片膝をついて座り、私の背中をトントンと優しく叩いた。

「リリー、泣いていいんだよ」

 私は顔を横に振る。

「リリー、誰にも見られていない。俺も見ていない。だから大丈夫だよ?」

 涙が頬を伝い、次から次へと溢れ出た。

「リリー、悲しかったね。辛かったね。リリーの努力は無駄にはならないよ?」

 アーサーは優しく私に話しかける。

「リリー、笑いたい時は笑えばいいし、泣きたい時は泣けばいい。声を出していいんだよ?」

 私は再び顔を横に振った。

「リリー、声を出して笑えば楽しさが増える。声を出して泣けば気持ちがスッキリするよ。俺はそう思う。それに今は俺とハリーと俺の馬しかいない。誰にも文句は言われない。いいんだ。声を出して泣いても叫んでも、いいんだ。そうだろ?」

 アーサーの優しい声が、温かい背中の手が、私の涙を誘う。
 ポロポロと次から次へと涙が溢れ出てきた。

「うわぁぁぁぁん、うわぁぁぁぁん、うわぁぁぁぁん」

 私は何年振りかに声を出して泣いた。

「私は王妃になりたかったわけじゃない! ルド様と一緒にいたかっただけなの! ただ愛してほしかっただけなの! 私を見てほしかっただけなの! うわぁぁぁぁん、うわぁぁぁぁん、うわぁぁぁぁん」

 私はアーサーの前で泣き叫んだ。
 アーサーは優しく背中を撫でてくれていた。私が泣きやむまでずっと……
 どれだけ時間が経ったんだろう。
 自然に涙も枯れて、今度は恥ずかしくなった。

「アーサー、ごめんなさい」
「何が?」
「泣き叫んで?」
「スッキリしただろ?」
「うん」
「ならよかった」

 アーサーの安堵した声に私も安堵した。
 それにアーサーの言う通り声を出して泣いたらスッキリした。心に残っていたしこりが流されたような……

「ありがとう」
「どういたしまして?」
「それで……今度は恥ずかしくて……」

 アーサーが私の顔を覗き込む。

「顔、真っ赤だ」
「ちょ、ちょっと! 恥ずかしいんだから見ないでよ」
「お! ちょっと元気になった」
「ふふっ、そうね。ありがとう」
「リリー、何があったの?」
「………………」
「俺には話せない? 誰かに聞いてもらうと心が軽くなるよ?」

 アーサーが興味本位で聞いているのではないとわかっている。本当に私を心配して言ってくれていると。
 でも……

「さっき、王妃とかルド様とか……、リリーはルドゥーベル王子の婚約者だったの?」

 私はアーサーを見つめた。アーサーのまっすぐ私を見つめている瞳に、なぜか話してもいい気がした。アーサーは誰にも言わない、彼ならきちんと聞いてくれる、そう思った。

「そうなの……。私はルドゥーベル殿下の婚約者だったの。聞いてくれる?」


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