厨二病設定てんこ盛りの王子殿下が迫って来ます。 〜異世界に転生したら、厨二病王子の通訳者にされました〜【R18版】

笛路

文字の大きさ
49 / 196

49:解っている。 side:ロブ

しおりを挟む
 


 ******



 あれよあれよという間に、お嬢が連れ去られた。
 俺の手元から。



 頭では解っていた。
 赤色の髪をした可憐な少女は王族のものだと。
 第二王子殿下のものなんだと。
 それでも、諦め悪く領主様に頼み込んで、王城騎士団の登用試験を受けさせてもらった。
 試験官が第二王子殿下とは思ってもみなかったが。
 お嬢はあの人の事を文官……というか、運動はてんで駄目だと思っているが、恐ろしいほどに強かった。

「チッ…………我が一門に下れ」
「あ、試験合格との事ですよー。良かったですねぇ。殿下、やり過ぎですよ。ボロボロじゃないですか……」
「黙れ下僕三号」
「はいはい」

 最近は第二王子殿下付きのコーディ殿がお嬢の代わりをしているらしい。
 どうにか意思疎通出来るじゃないか。ならばお嬢がわざわざ殿下の通訳者などせずに…………なんて、無駄な願望だな。
 二人が想い合っているのは、本人たち以外は気付いている、公然の事実なんだから。



「ロブ!」

 王城内の訓練場で打ち合いをしていたら、自分を呼ぶ可憐な声が聞こえた。

「ロブ!」
「ちょ、お嬢! 訓練中ですよ! 危ないですって」
「何してんのよ!」
「え? 訓練っすけど?」

 自分に駆け寄って、抱きしめられそうなほどの距離に来てくれる、かわいいお嬢。
 ここで本当に抱きしめたら、どんな反応をしてくれるんだろうか? なんて、やましい事を考えながら、平静を装った。
 お嬢はなんだかイライラしているらしい。

「馬鹿じゃないの⁉ 領地に帰りなさいよ!」

 ――――その事か。

「嫌っす」
「ご両親はどうするのよ」
「手紙書いたから大丈夫ですよ」

 母親の体調が悪いのを知っているからお嬢は心配してくれているんだろう。そんな優しいところが、好きですよ。
 ……言えないけれど。

「……ロブの馬鹿!」
「馬鹿って言ったほうが馬鹿、って昔からお嬢が言ってますけど?」

 いつもの軽口、いつものしょうもない罵り合い。
 楽しい時間は長続きしない。
 第二王子殿下が現れて、お嬢を連れ去ってしまった。



「おい、何故お前が同乗している」
「お嬢の護衛ですので」
「退任したと聞いたが?」
「お嬢の外出時の護衛がまだ決まっていませんでしたので」
「「……」」

 二人が泊まりで出掛けると聞いて、慌てて警備責任者の隊長にお嬢の護衛は前任の自分がする、と頼み込んだ。
 その事は隠し、無理矢理な理由を作って、二人が乗る馬車内に居座った。

「二人きりで乗ると伝えたはずだが?」
「お伺いしておりません」
「「……」」

 という事にした。バレたらクビだろうな。

「……我ら、二人の想いが重なり、絆を深め、完全体と成るべくしてこの決戦に挑んでいる。如何なる者も、我らを引き裂く事は許されぬ」

(意訳:私達は付き合い始めた。折角の初デートを誰にも邪魔されたくない)

 今のがどうやったらその意訳になるのか、お嬢にも殿下にも問い質したいが、殿下の満足そうな顔を見る限り、それで合っているんだろうな。

 暫くの静かな時間が流れ、ずっと気まずそうにしていたお嬢が意を決したように口を開いた。

「テオ様――――」
「『テオ様』? お嬢、いつからそう呼ぶように?」
「えっ……と、その、先日から」
「…………ふぅん」

 ――――いつの間にそんなに親密になっていたんだ⁉

「何よ?」
「別に何でもないっすけど。…………あー、まぁ、チョロいなとは思いました」
「ぉぃ」
「チョロいぃぃ⁉ 私がっ⁉」
「ぉぃ」
「はい。チョロッチョロのチョロですね」
「なん――――」
「おい!」

 平静を装いお嬢といつもの罵り合い。あぁ、楽しいな、と思っていたのに。

「ふ、んっ、っ、っあ…………んぅっ」
「ん、ミラベル、他の男を見ないで?」
「っ……ひゃぃ」

 殿下は、ぐちゅぐちゅ、とわざとらしく水音を立たせてお嬢にキスをした。
 ……俺に一番響くであろう挑発と牽制。
 そして、蕩けきったお嬢を隠すように抱きしめて、こちらを睨んで来た。

「ロブ、そのほうはただの護衛であろう?」
「……はい」
「ならば弁えろ」
「っ、はい」
「ミラベルの乱れた姿を見ることは許さん。降りろとまでは言わん。馭者の隣に移動せよ」
「…………承知、しました」

 解っている。
 二人は相思相愛なのだから。
 ずっとずっと前から。


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...