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49:解っている。 side:ロブ
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あれよあれよという間に、お嬢が連れ去られた。
俺の手元から。
頭では解っていた。
赤色の髪をした可憐な少女は王族のものだと。
第二王子殿下のものなんだと。
それでも、諦め悪く領主様に頼み込んで、王城騎士団の登用試験を受けさせてもらった。
試験官が第二王子殿下とは思ってもみなかったが。
お嬢はあの人の事を文官……というか、運動はてんで駄目だと思っているが、恐ろしいほどに強かった。
「チッ…………我が一門に下れ」
「あ、試験合格との事ですよー。良かったですねぇ。殿下、やり過ぎですよ。ボロボロじゃないですか……」
「黙れ下僕三号」
「はいはい」
最近は第二王子殿下付きのコーディ殿がお嬢の代わりをしているらしい。
どうにか意思疎通出来るじゃないか。ならばお嬢がわざわざ殿下の通訳者などせずに…………なんて、無駄な願望だな。
二人が想い合っているのは、本人たち以外は気付いている、公然の事実なんだから。
「ロブ!」
王城内の訓練場で打ち合いをしていたら、自分を呼ぶ可憐な声が聞こえた。
「ロブ!」
「ちょ、お嬢! 訓練中ですよ! 危ないですって」
「何してんのよ!」
「え? 訓練っすけど?」
自分に駆け寄って、抱きしめられそうなほどの距離に来てくれる、かわいいお嬢。
ここで本当に抱きしめたら、どんな反応をしてくれるんだろうか? なんて、やましい事を考えながら、平静を装った。
お嬢はなんだかイライラしているらしい。
「馬鹿じゃないの⁉ 領地に帰りなさいよ!」
――――その事か。
「嫌っす」
「ご両親はどうするのよ」
「手紙書いたから大丈夫ですよ」
母親の体調が悪いのを知っているからお嬢は心配してくれているんだろう。そんな優しいところが、好きですよ。
……言えないけれど。
「……ロブの馬鹿!」
「馬鹿って言ったほうが馬鹿、って昔からお嬢が言ってますけど?」
いつもの軽口、いつものしょうもない罵り合い。
楽しい時間は長続きしない。
第二王子殿下が現れて、お嬢を連れ去ってしまった。
「おい、何故お前が同乗している」
「お嬢の護衛ですので」
「退任したと聞いたが?」
「お嬢の外出時の護衛がまだ決まっていませんでしたので」
「「……」」
二人が泊まりで出掛けると聞いて、慌てて警備責任者の隊長にお嬢の護衛は前任の自分がする、と頼み込んだ。
その事は隠し、無理矢理な理由を作って、二人が乗る馬車内に居座った。
「二人きりで乗ると伝えたはずだが?」
「お伺いしておりません」
「「……」」
という事にした。バレたらクビだろうな。
「……我ら、二人の想いが重なり、絆を深め、完全体と成るべくしてこの決戦に挑んでいる。如何なる者も、我らを引き裂く事は許されぬ」
(意訳:私達は付き合い始めた。折角の初デートを誰にも邪魔されたくない)
今のがどうやったらその意訳になるのか、お嬢にも殿下にも問い質したいが、殿下の満足そうな顔を見る限り、それで合っているんだろうな。
暫くの静かな時間が流れ、ずっと気まずそうにしていたお嬢が意を決したように口を開いた。
「テオ様――――」
「『テオ様』? お嬢、いつからそう呼ぶように?」
「えっ……と、その、先日から」
「…………ふぅん」
――――いつの間にそんなに親密になっていたんだ⁉
「何よ?」
「別に何でもないっすけど。…………あー、まぁ、チョロいなとは思いました」
「ぉぃ」
「チョロいぃぃ⁉ 私がっ⁉」
「ぉぃ」
「はい。チョロッチョロのチョロですね」
「なん――――」
「おい!」
平静を装いお嬢といつもの罵り合い。あぁ、楽しいな、と思っていたのに。
「ふ、んっ、っ、っあ…………んぅっ」
「ん、ミラベル、他の男を見ないで?」
「っ……ひゃぃ」
殿下は、ぐちゅぐちゅ、とわざとらしく水音を立たせてお嬢にキスをした。
……俺に一番響くであろう挑発と牽制。
そして、蕩けきったお嬢を隠すように抱きしめて、こちらを睨んで来た。
「ロブ、その方はただの護衛であろう?」
「……はい」
「ならば弁えろ」
「っ、はい」
「ミラベルの乱れた姿を見ることは許さん。降りろとまでは言わん。馭者の隣に移動せよ」
「…………承知、しました」
解っている。
二人は相思相愛なのだから。
ずっとずっと前から。
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