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50:遠くから。 side:ロブ
しおりを挟むピクニックをする湖畔では声が聞こえない程度の距離で護衛をしていた。
第二王子殿下自身がお強いから、護衛はごく少数で。
――――あぁ、また押し倒している。
敷物の上でいちゃいちゃしていたはずの殿下が、お嬢を抱えて別荘の方に移動を始めたので慌てて追いかけた。
別荘内に入ると、殿下が辺りを見回し、ギロリと俺を睨んできた。
「こちらから呼ぶまで誰も近づくな。護衛は部屋の外にロブ一人でいい」
――――そういう事か。
「…………さ、ま……んぁ…………」
「ミラベル……な……」
「んっ」
「はぅ……んっ、あっ!」
「んんっ! ひぁぁぁっ!」
ボソボソと漏れ聞こえる第二王子殿下の声と、淫らで刺激的なお嬢の嬌声。
五年間、思い続けた相手の、艷やかな声。
聞こえてしまうから、想像してしまう。
頬を染め恥ずかしがる顔、潤んだ瞳、柔らかそうな唇、あのたわわな胸が揺れるさま、括れた腰、形のいい臀部、秘められた場所。
想像してしまうと、もう駄目だった。
中心が熱くなり、熱り勃つ。
自分の熱棒をお嬢の狭く閉じられた秘所に無理矢理ねじ込む想像をした。
括れた腰が反り返り、突き立てられた猛りを必死に飲み込む姿が容易に妄想出来る。
なぜなら、何年も前からそうしたいと願っていたから。
殿下がお嬢をイかせる声を聞きながら、入りたい、出したい、と訴える下半身の怒張を無視して、永遠とも思える時間をドアの前で過ごした。
唇を噛み、剣の柄を握りしめて耐え続けた。
二人が部屋に籠もって何時間か経った頃、呼び出しベルが鳴ったのでドアを開けると、髪を少し乱し、倦怠感を乗せた艶っぽい顔をしたお嬢が目に飛び込んできた。
――――あぁ、あれを聞かせ、これを見せたかったのか。
食事や清掃の指示の後、お嬢が入浴している間に殿下が二人で話したいと言ってきた。
「私はな、お前を排除したい」
「……」
――――普通に話せるのかよ。
「だが、ミラベルはお前を気に入っている。気に入っているが、愛や恋の対象ではないのは解っているか?」
「はい」
解っている。
解りきっているから、ずっと横に居続ける事しか出来なかった。
お嬢に愛されているこの人には解らないだろう。
締め付けられる喉、破裂しそうなほどの心臓、どす黒いものが渦巻く腹、行き場が無くて痛む心。
この身が焦がれるほどに想っても、絶対に手に入らない人。
羨ましさと悔しさがぐちゃぐちゃに絡み合う。
ギリリと手を握り込むと、爪が掌に食い込み、心の痛さを緩和してくれたような気がした。
「懸想するなとは言わない。だが、己の内に秘め律しろ。他の者たちと同じ距離を保て。それが出来ないのであれば、私の持てる力を全て使い、二度と会えぬようにする」
「それをお嬢……アップルビー伯爵令嬢が知ったら、どうなるんでしょうね?」
我ながら最低な事を言っているなと思った。
王子殿下を脅したんだ、殺されても文句は言えない状況だろう。
だが、殿下は怒るでもなく、ただ穏やかな顔をしていた。
「言いたければ言えばいい」
「それほど自信がおありですか」
「いや、全くない」
――――ないのかよ!
「例え嫌われようと、憎まれようと、恨まれようと、絶対に逃さない。ミラベルになら殺されて構わない」
「……承知しました」
お嬢、貴女の愛した人は、とんでもなく粘着質で、かなり危険な思想の持ち主ですよ。
でも、きっとお嬢は受け入れてしまうんでしょうね。
殿下が道を踏み外しそうになったら、いつもの調子で怒って、ぐいぐい引っ張って、自分の道に引きずり込んで、晴れ渡るような笑顔で一緒に進もうとするんでしょうね。
俺はそれを遠くから見つめる事しか出来なくなったけれど、お嬢の幸せを願っています。
――――お嬢、貴女を愛しています。
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