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55:覚悟
しおりを挟む夫婦の寝室で痴女のような格好をして、ひっぐ、えぐっ、と子供のようなしゃくり声を上げて泣いている姿を好きな人に見られていると思うと、余計に恥ずかしくて、悔しくて、更に涙が溢れて来ます。
「ごっ……ごめ、な、ざいっ……」
「っ、ミラベル」
テオ様がぐっと握りこぶしを作って、深く溜め息を吐いて立ち上がりました。
「や……来ないで」
近付かれてたら、この恥ずかしい格好を余計にハッキリと見られてしまうと思い、更に強く腕を抱きしめるようにしました。
「うぐっ……だからっ、それは駄目だと……盛り上がり過ぎだ……」
「へ……盛り、上がり?」
テオ様が鼻の下から口にかけて掌で押さえて、うぐっ、んはぁ、などと呻いていました。
苦しそうなわり視線は私の体に固定されています。
何が駄目なんだろうとテオ様の視線をたどって下を向くと、胸が目に入りました。
腕で寄せて押し上げられている、胸。
谷間がくっきりして、たゆんと揺れる、胸。
――――コレですか!
テオ様の大好きな胸が強調され過ぎて、興奮するから、駄目だと。
なんっって紛らわしいんでしょうか。
「直ぐに厚手のガウンを用意させます」
「いぃぃや! 着る必要はなぁいっっ」
「……声が裏返っていらっしゃいますが?」
「そんんな事はないぃっ。……ほら、もう遅い時間だ。そろそろベッドに入った方がいい。うん、さぁ、入ろう。なっ!」
明らかに声が裏返っていらっしゃいますし、キョドキョドし過ぎですし、まだそんなに遅い時間ではありませんし、えらく前傾姿勢ですが? と言いましたが軽やかにスルーされました。
テオ様に手を引かれ、ベッドに並んで座りました。
テオ様の視線は相変わらず胸元に固定されています。
「……なん…………据え膳…………べきだ」
「へ? 何かおっしゃいました?」
「い、いや! さぁ! ねっねね寝るか!」
テオ様が鼻息でフンガフンガ、ムフー、ハフー、とちょっとした乱気流を起こされていました。
コレに煩いですなどと言ってしまったら、またイジけてしまいそうな気がして、口を噤むことにしました。
ベッドにそっと押し倒され、覆いかぶされ、軽く触れるようにキスをされました。
ちゅ、ちゅ、と啄むような、くすぐったいキスの合間に、胸がやわやわと揉まれ、クニッと胸の先を押し込むように触られました。
「ん、テオ、さま」
お腹の奥底がゾクリとする刺激と妙な熱浮かされてテオ様の名前が漏れ出ました。
テオ様は急に真顔になって、肺いっぱいに空気を吸い込み、大きく吐き出して深呼吸をしていました。
「っ、ふぅぅぅぅぅ……ミラベル、たぶんもう止まれない。ミラベルは、覚悟があってここにいるんだよな?」
「え……っと、その……たぶん、あの二人の独断でここに入れられたようなのです……」
私的にはそれが事実なので、そうお伝えしましたが、テオ様がとても納得のいかなさそうな顔をされました。
「……そういう事ではない。こんな格好をしているうえに、ベッドに共に入って、組み敷かれているんだ。覚悟したと思っていいんだよな?」
「かくご……」
「あぁ」
――――覚悟。
先日、婚姻を結んだ後に本当の意味での初夜をするのはもう古い習慣だ、と言われたのは覚えています。
前世でも婚前交渉は普通の事でしたし、私も経験していた覚えはあります。
ただ、子供の頃からの妃教育でずっと初夜について厳しく言い含められ、ほとんど擦り込みのように覚えてしまっているせいか、どうしても悪い事をしているような気持ちになってしまうのです。
でも、この状況に期待してしまっている私も確かにいて……。
――――覚悟を、決めるべきですわよね。
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