76 / 196
76:寒い。
しおりを挟む******
ザラとリジーに薬を塗りたくられ、厚手で柔らかい夜着を着せてもらいました。
ベッドの上でぼーっと外を眺めていたら、ロブが部屋に入って来ました。
ぐしゃぐしゃの花束と、ノックスを連れて。
「ノックス! まぁ、大きくなって!」
「はい、殿下がそこら辺で千切ってた花束です」
ロブが近付こうとして、止まってくれました。
私がビクリと身体を震わせたことに、気が付いてしまったのでしょう。
ロブがザラに花束を渡し、ノックスのお尻を押して、こちらに行くようにと指示していました。
ノックスはベッドに前足を乗せ、クリクリとした瞳で、私を静かに見つめてきました。
鼻筋を撫でると、嬉しそうに目を閉じ、ヒュゥゥンと可愛らしい鳴き声を出しました。
「うふふ、かわいい」
「わふん!」
「あら、かわいいは嫌なの?」
「わふぅぅん!」
何だかノックスとお話ができているような気がして、楽しくなりました。
花束はザラが花瓶に活けてくれて、サイドボードに置いてくれました。
「綺麗。……まとまりないけど」
「そうですね。長さもバラバラで、センスゼロでしたわ」
「あはは、ひどぉい! ……っ」
何でもないことを話して、笑って、顔の痛みに気付いて、思い出して、震えて。
「…………ねぇ、ザラ」
「はい、何でしょうか?」
「……寒いの」
「そうですね。…………今日は、とても寒いですね」
「うん。…………ザラ、抱きしめて?」
ザラに縋るように手を伸ばすと、ザラが泣きながら柔らかく抱きしめてくれました。
ザラは温かくて、抱きしめられていると、穏やかな気持ちになれて、ウトウトとしてしまいました。
「眠られて大丈夫ですよ。ずっと側にいますから」
「ん……」
目が覚めたこの日から、私はずっと部屋に籠もっていました。
ザラとリジーだけが部屋に入り、ロブは休憩と睡眠以外、ずっと部屋の外で警備をしてくれているようでした。
部屋に籠もっている間、何度かテオ様の訪問があったようですが、全て断るように、報告もしないで、と頼んでいます。
あの事件の日から数日で始まる予定だった月のものが、三週間経っても来ず、私は軽いパニック状態になっていました。
夜は、どうしても目が冴えて眠れず、ただ窓の外を眺める日々が続いています。
だって、眠ったら…………怖いことが起こるから。
「……ミラベル、入ってもいい?」
「…………」
「ミラベルの顔が見たい。話したいことがあるんだ」
「…………」
この数日、夫婦の寝室の方から、ノックとテオ様の声が聞こえてきますが、返事はしません。
いつも、返事をしなければ、入って来ません。
ですが、今日は違いました。
ガチャリと鍵が開けられ、テオ様がゆっくりとベッドに近付いて来ました。
「っ! や……こないで」
「ミラベル、久しぶり」
「…………てお、さま?」
「ん?」
憔悴しきっていて、それでも無理矢理に笑っている。そんなお顔をテオ様がしていました。
テオ様が、ベッドから少し離れた場所に、書き物机のイスを持ってくると、ドサリと倒れ込むように、座られました。
「……ミラベル、月のものが来ていないんだよね?」
「っ! 何で……」
――――知っているのですか。
「侍医には見てもらった?」
ブンブンと首を横に振りました。
だって、お城の医師は、男性だから。
「私の子が出来たかもしれないんだよ?」
「ぃゃ…………」
「っ……嫌、なの?」
テオ様の眉間に皺がギュッと寄り、泣きそうなお顔になってしまいました。
「ミラベル……ごめんね。全部全部、私のせいにしていいからね?」
テオ様が、膝の上に置いていた手をギリリと握りしめて拳を作り、深呼吸を繰り返していました。
「ミラベル、……アップルビー伯爵家ミラベル嬢。その方を、重要参考人とし、二国間で行われる協議の場において、証人喚問をすることとなった。時は来週末。場所は、当王国の議事堂にて行う。必ず出頭するように」
協議。
証人喚問。
重要参考人。
出頭?
証言するという事?
……何を?
…………将軍にされた事を?
0
あなたにおすすめの小説
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる