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77:今のままではいけない。
しおりを挟むテオ様に協議の場に証人喚問すると言われ、頭の中にあの日の事が甦りました。
おぞましいモノが自分に触れている記憶……。
「っ………………いやぁぁああああ! ザラ! ザラ! リジー! ロブ!」
「ミラベル! あの三人にこれ以上の無理をさせるな! もっと周りを見ろ! ちゃんと……見るんだ!」
「っ⁉」
テオ様が、急に怒鳴り出しました。
テオ様が怖くて、慌てて部屋に飛び込んで来てくれたザラに抱きつこうとしましたら、テオ様がザラの腕を掴み、私に近寄れないようにしてしまいました。
「入ってくるなと言っていたはずだが?」
「で、ですが……」
「とにかく、お前たちは二日間しっかりと休め」
「「はい」」
いつの間にか部屋の入口にいたリジーとロブが、申し訳無さそうな顔をして、テオ様の言葉に返事をしていました。
ロブが、ザラの背中に腕を回して、支えるようにして部屋から出て行ってしまいました。
「ミラベル、あの三人はな……あの日から全く休んでいない。ずっと、ずっと……ミラベルの側にいて、ミラベルを助けようとしてくれている」
「…………」
「気付いていないのか? この数日、ザラは何度も倒れかけている。リジーも明らかに顔色が悪い。ロブは…………知ったこっちゃない。と言いたいが、あいつは殆ど寝ていない。ずっとこの部屋を護っている」
「……うそ」
全然気付いていませんでした。
ずっと側にいてくれているのはわかってました。
いつものように、きちんと休憩も睡眠も取っているとばかり思っていました。
「ミラベル…………酷いことを言って、して、ごめんね。私の事は、大嫌いになってもいいよ。でも、覚えていてね。私はミラベル以外を愛することは、一生ないからね? ミラベルだけが私の唯一だからね? ……だから、いなくならないでね? 愛してる」
「……」
テオ様が、泣きそうなお顔で、無理矢理に笑って、私のおでこにキスを落として行かれました。
私は、返事もお返しのキスもしませんでした。
…………出来ませんでした。
テオ様に言われた二国間協議の日まで、ずっと部屋に籠もり続けました。
あの日以来、テオ様にはお会いしていません。
「ミラベル様、そろそろお着替えいたしましょう」
「…………ぅん」
ザラに促されて、長袖ハイネックで濃紺のデイドレスを着ました。
「……寒いわ」
「では、ストールも肩に掛けましょうね?」
「うん」
ザラとリジーに付き添われ、ロブに護衛をしてもらいながら、一ヶ月以上ぶりに部屋から出ました。
「っ…………三人とも、ごめんね」
「ミラベル様?」
「お嬢様?」
不甲斐なくて、恥ずかしくて、悔しくて。
何度も何度も泣いたのに、また泣いて、周りを困らせて。
強くありたいのに、強くなれなくて。
議事堂に向かう足は、ガタガタと震えていました。
何が起こるのか、何を言われるのか、あの日の事を知られてしまう、将軍があの場にいる……そんな恐怖があります。
でも、頭の片隅には『今のままではいけない』という思いも、ちゃんとあるのです。
ちゃんと向き合わないと、と思っているのです。
――――大丈夫、きっと大丈夫。
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