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133:ポツンと置かれていたから。
しおりを挟むテオ様と唇を重ね、妊娠を喜んでいましたら、テオ様のテオ様がムクムクしてきました。
「「……」」
無言で無音になる瞬間ってあるのですね。
ソソッとテオ様から離れましたら、ちょっと寂しそうなお顔をされてしまいました。
「流石に、解っているからな⁉」
「で、ですよねっ」
エヘッと笑って誤魔化しましたが、未だに寂しそうなお顔です。
ソソッとテオ様にくっ付きましたら、嬉しそうに頬を染められました。
――――あら、チョロい。
「……今、ものすごく不敬な事を考えたよな?」
「何のことでしょう?」
口角をやや上げて小首を傾げつつ、ニコリと微笑みましたら、「私に対外用の胡散臭い笑顔をするな」と怒られてしまいました。
「バレバレですか……。私、直ぐに顔に出てしまうのですよね」
「ん、可愛い」
いや、可愛かろうと何だろうと、令嬢ましてや王子妃になる者がそれでは駄目でしょうよ。
王妃殿下に怒られ――――。
「――――あぁっ!」
「っ⁉ どうした?」
口を半開きにして顔を寄せてきていたテオ様が、ビクゥゥゥッとなったのはスルーするとして。
王妃殿下に怒られます! 間違いなく、絶対に怒られます! 結婚式が間違いなく前倒しの変更になりますもの。
私がアワアワとしているのにテオ様ときたら、何だそんなことかと呆れた顔をされていました。
「母上には侍女を通じて既に伝えている。大喜びだったそうだぞ?」
「……」
いえ、別に絶対に自分で伝えたかったとか、安定期まで内密にしたかったとかでも無いですが。ただ、礼儀的なものはちゃんとしたかった、という気持ちはあります。
「明日以降でテオ様はお時間に余裕のある日はございますか? 出来れば、陛下と王妃殿下に直接二人で報告したかったです」
テオ様の正面に立ち、そうお伝えすると、緩んでいたお顔を為政者のそれに変えられました。
「直ぐに確認、調整する。ミラベルはベッドに入って安静にしておくように、いいな?」
テオ様が私をビシィッと指差しながら扉からフェードアウトして行かれました。
真面目なお顔がちょっと格好良くて見惚れてた、とか諸々は置いておいて、余りの勢いの良さと素早さに『明日でいい』と言いそこねました。
ハァ、と溜息を吐きつつメイドを呼び、厚手の夜着に着替えました。
夫婦の寝室に行こうとしましたら、ソファの前にあるテーブルに、テオ様のガントレットが寂しそうな感じでポツンと置かれていました。
カチャリと持ち上げてみると、手首がカクンと動きました。
何だかそれが面白くて、ガントレットを縦に持ち、ガチャガチャと揺らして、テオ様が手を招いているように動かしながら寝室へと向かいました。
暫くガチャガチャと揺らして遊んでいたのですが、ふと気になって、手に嵌めてみると、思っていたよりもぶかぶかで、テオ様の手って大きいんだなぁ、とか変に感動しました。
なんとなく手がジットリとしてきたので、抜いたのですが、またもやここでむくむくと好奇心が湧き上がり…………臭いを嗅いでしまいました。
「…………臭っ」
地味に、薄らっと臭いです。軽ーく、ごく僅かに獣臭がします。なのに、蓄積されたテオ様の匂いなのかとか思うと、もう一回だけ、と嗅いでしまいました。
何というか、妙に癖になるような、どこかで嗅いだことのあるような…………。
「あっ!」
分かりました。思い出しました。
抱き合って汗だくになって、身体を清めそこねて眠った時のテオ様の匂いです。
テオ様が、「しまった。汗臭い……」と凹んでいるときのやつです。
それを思い出すと、この匂い、ちょっと愛しいです。
ベッドに寝転んで、くんくんとガントレットの匂いを嗅ぎつつ、テオ様の寝顔を思い出しながら目蓋を閉じました。
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