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166:ありがとう。
しおりを挟む破水はしたものの前期破水だったので、テオ様と主寝室でのんびりと陣痛が訪れるのを待っていました。
カードゲームをしながら。
「私の勝ちです!」
「ちっ。ページワンだけ異様に強いな」
「ん? ……あ、いたた……た?」
お昼を過ぎた頃から地味な痛さが広がりだし、それからニ時間ほどすると、段々と痛みが訪れる感覚が狭まってきました。
ちなみに、陛下や両親達は、ザラが出産した時のように、サロンで待機して下さっています。
「うう、いたたたた」
「ここか?」
「ありがとうございます」
グリグリと痛む腰や尾てい骨辺りを、テオ様がゆっくりと擦ってくださいます。
痛みで息を止めたくなるのを我慢し、ハフハフと浅い息を繰り返し、痛みが遠のいたら深呼吸をして、ドキドキと激しく鼓動する心臓を落ち着けます。
「うううう……」
「ミラベル、辛いな。辛いだろうが、ゆっくり息をするんだ」
「……うぅ、はいぃぃ」
――――いたいぃぃぃ。
夜九時を過ぎて、痛みが三分間隔になってきました。
「子宮口が充分に広がってます。そろそろですね。次陣痛が来たら息んでみましょう」
仰向けにベッドに寝て、膝を立てて大股開きにされました。
テオ様は私の右手側に座り、手を握って下さっています。
「いぃきむぅぅ?」
すでにヘロヘロのヘロなのに、タイミングで息めと言われました。
「え、あ、いたた」
「はい、上半身丸めて、おへそを見るようにして、いきむ!」
「えっ、はい、ううぅー」
「目はつぶらない!」
「はいぃぃ!」
「痛みが引いたら、休憩!」
「ふぁひぃぃ」
おへそを見ながら、お腹に力を入れて、赤ちゃんをみぞおちから押し出してあげるように、いきむ。
吸うときには赤ちゃんに酸素を送ってあげることをイメージしながら。
兎にも角にも呼吸を意識する。
……と事前学習してはいたものの、実際することになると頭が真っ白になりました。プチパニックです。
「いたた、あっ、うぅぅぅ!」
ハァハァと息を整えていたら、また陣痛が再開しました。
目を閉じないように、押し出すように、おへそを見つめて、いきむ……って、予想外に難しいです。
テオ様の手をギリギリと握りしめてしまっています。
ごめんなさいと言うと、もっと痛くしていいと、マゾのようなことをいわれました。
私が分娩にヒーヒーしている間、テオ様はニコニコとしていて、私の汗を拭ったり、水分補給の手伝いをしてくださったりと、甲斐甲斐しく動いてくださっています。
何回、何時間、いきんで休憩を繰り返しているのだろうと気になりました。
まさかの、まだ三十分ですよ、と言われました。
「もう出てきてます⁉」
「あー、うん。出てます出てます、もうちょっとです」
結構に適当に言われました。
これ、絶対に全然まだなヤツですよね⁉
「ぅ、あぁぁぁだだだだ」
「ミラベル様、いきむの止めて下さい! 頭が出てきましたよ! 今度こそもうちょっとですよ!」
幾度となく、もうちょっともうちょっと、と言われ続けましまが、今度こそ本当にもうちょっとらしいです。
頭が出たら、次の関門は肩だそうです。
そこさえ通り過ぎれば――――。
「おめでとうございます、立派な男の子ですよ!」
ズリュン、と何かがお股から引きずり出された、と思いましたら、ふにゃんふにゃんと子猫のような可愛らしい声が聞こえてきました。
あっ、と思った瞬間には、真っ赤でしわくちゃ顔の赤ちゃんが、胸の上に乗せられていました。
髪の毛はテオ様と同じ色、瞳はなんとなく私に近いような薄茶色です。
――――赤ちゃんだ。
「殿下、ここにハサミを入れて下さい」
「お、おぉ」
――――赤ちゃんが、泣いてる。
ふにゃんふにゃん泣きながら、くにゃくにゃ動く赤ちゃんを不思議な気分で見つめていましたら、ジャクンッ、という音がして、私の胎盤と赤ちゃんを繋いでいたへその緒が、テオ様の手によって切られました。
テオ様がハサミをじっと見て、私と赤ちゃんを見て、カクリと膝から崩れ落ちました。
「テオ様っ⁉」
「っ…………ミラベル」
「はい?」
「あ……りがと」
片手て目元を隠して、震える声でお礼を言われました。
「ありがとう…………ありがとうっ」
「っ! はい!」
テオ様にお礼を言われて、やっと自分が産んだんだと、赤ちゃんが産まれてきたんだと、実感しました。
嬉しくて嬉しくて、心も身体もぽかぽかです。
「ん、ありがとう」
テオ様は、『ありがとう』以外の語彙が奪われたかのように、ずっと『ありがとう』ばかりを言っていました。
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