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第二十七話 トワーク山

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 ――【トワーク山】。

 麓まで来た。そこから山頂までは、長い長いうねり道を上っていくのだ。整備されている道でもないし、崖や、ぬかるんだ道などもあったりする。また無数の木々で埋め尽くされているので実に進みにくい。

 なので、頂上までの高さは五百メートルほどしかないらしいが、登頂するまでかなりの時間を有する。前に、クエストでここに来て探索したこともあるので体験済みだ。
 それに問題はクミルたちだ。慣れない山道は、たった数百メートルでも辛いものである。

「ワッツ様、この山にモンスターはいるのでしょうか?」

 恐らくクミルのことを慮り、メリルが不安そうに尋ねてきた。

「当然いるよ。まあ、ここに生息してる連中は、最高でもDランクだし、そんなに慌てることないから」
「Dランク!? あ、あの! ワッツ様はそう仰いますが、Dランクといえば『探求者』の方々がパーティを組んで討伐すると聞きますが!?」
「あーまあそうだな。基本は、だけど」

 Cランクの『探求者』でも、単独で討伐することはできる。ただ、油断すれば大怪我を負い死ぬことだってある。それは、どのランクのモンスター相手でも言えることだが、より生存率を上げるために、Dランクモンスター相手でも、パーティを組んで臨むのが普通。

 ただ、BやAなど高ランクの『探求者』ならば、さすがにDランク程度のモンスター相手に徒党を組んで事に当たることはあまりしない。それほどまでに強いということだ。

「本当にお嬢様や私を連れて行っても問題ないのでしょうか……? それに登山も初めてですし……」

 彼女の懸念は分かる。ワッツ一人なら問題なくとも、今回は言葉は悪いが足手纏いとも言える重りをつけての実行だ。普段と同じように行動はできない。そんな心配があるのだろう。

「問題ないわよ、メリル! 何事も初めてはあるもの! 初のクエスト、初の登山、初のモンスター討伐、このクミル・オル・ベアーズ・クロンディア、どんな初めても見事にこなしてやるわ! だから案してアタシについてきなさい!」

 どうやらクミルは、気持ちの上では真っ直ぐ前向きのようで何よりだ。若干足が震えているような気もしないが、そこは見なかったことにしてやろう。

「クミル様、やる気に満ちてるのはいいんですけど、そっちじゃないですよ?」
「ふぇ? だ、だって、こっちに人が通った跡があるわよ!」

 整備されていないとはいっても、何度も『探求者』たちが行き来したことで、そこには獣道のような歩道が出来上がっている。
 そしてクミルが言うように、確かに登頂するには、そこを行くのが正しい。

「クエストは、どれだけ安全に速やかにこなすか。それが高い達成率を生むんです」
「? ……どういうことよ?」
「つまり――時短って最高ってことですよ」

 ワッツが不敵な笑みを見せて言うと、二人はまだ意味が分かっていないようで唖然としている。 そんな二人に構わずに、《霊波翼》を一枚出現させた。

「あ、それは……っ!?」

 クミルが、真紅の羽を見て興奮して目を見開いた。彼女の前で見せたことはないと思うが、反応からして《霊波翼》のことを知っているようだ。もしかしたらルーシアやアロムなどに聞いたのかもしれない。
 ワッツは羽を足元へと移し、その大きさを倍加させていく。

 どんどん巨大化していき、サーフボードを三倍ほど大きくしたような形態になった。

「さあ、この上に乗ってください」
「の、乗ってもいいの!?」

 何故か、遊園地の乗り物にでも乗る子供みたいに嬉しそうな顔を見せるクミル。

「お、お嬢様! お気をつけてくださいね!」
「大丈夫よ、メリル! ほら、手を繋ぐから一緒に乗るわよ!」

 二人が仲良く手を繋ぎ、巨大化した羽に乗った。

(このままだと落ちかねないか?)

 故に、少し形態を変化させることにした。二人を支えるように、両側から手すりを生み出す。

「落ちないように、手すりを掴んでください。じゃあ、行きますからね」
「え、行きますって……きゃっ!? う、うううう浮いてりゅぅぅぅっ!?」

 フワリと浮いた《霊波翼》に驚嘆し、メリルは腰を引いて手すりを持つ。

「もう、情けないわね、メリル! こんな体験そうそうできないんだから、しっかり堪能しなさい!」
「そ、そう言われましてもぉぉぉぉっ!?」

 何の予備知識もなく。ガラスのように薄い板が突如浮かんだらメリルのようになってもおかしくはない。むしろクミルのように、一切の驚きも見せず感動しているのが少数派だ。

「このまま一気に山頂まで行きますよ」
「じ、じじじじじ時短ってこういうことだったんでしゅかぁぁぁぁぁっ!?」

 メリルの悲鳴をBGMにしながら、まるでエレベーターのように浮上していく。
 そこそこの速度を出していたこともあり、三分もかからず頂きが見えてきた。

「ねえワッツ、確かに楽なんだけど……何かズルをしてる気がするわ」
「いえいえ、これはズルではなく賢明なんです。最も効率が良く、かつ安全に配慮した最適な〝作戦〟なんですから」
「作戦……なるほど、そういう考え方もあるのね!」

 単純で良かったと思いつつ、そろそろ到着するので二人にそう伝えた。
 静かに羽を動かして、山頂の一所で降りる。

「はぅあぁぁ……怖かったですぅぅぅ」

 ずっと手すりを抱きしめながら目を閉じていたメリルだったが、地に足をつけることができて喜んでいる。もしかしたら高所恐怖症なのかもしれない。だとしたら可哀そうなことをした。帰りはもう少し考えよう。


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