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第四十一話 ルーシアからのサプライズ
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――一週間後。
夕食前に、帝国へ出張していたルーシアが家に帰ってきた。
何でも帝国で、【ロイサイズ】で起きた事件を知り、手早く用事を済ませてすぐに引き返してきたらしい。
事件は解決し、街は救われたという事実は聞いていたようで、慌てて帰ってくる必要はなかったのだが、それでもやはり気になって急いで帰還したとのこと。
詳しい話は、家に帰ってくる前にアロムに聞いてきたと言った。
だからか、家に入ってくるなりワッツの姿を見ると、嬉しそうに抱きしめてきて頭を撫でつけてきた。
照れ臭いので止めてくれと頼んだが聞いてくれず、結局、夕食ができるまでの間、ずっと人形のように可愛がられてしまったのである。
「ちょっとルーシア、あなた飲み過ぎよ!」
すでに酒瓶の三つ目に突入したルーシアを、ラーティアが叱りつける。
「んく、んく、っぷぁ! へへ、いいじゃねえか! 何たってワッツが街の英雄だぜ! こんな日は祝うもんだ!」
英雄認定されてからすでに一週間は過ぎているが……。
「ったくもう……」
「んだよ、お前だって嬉しいだろ? 自分の息子が、この街の英雄だぜ?」
「それは……まあ、誇らしくはあるけどね」
「だろぉ? それに、今もその見た目のせいで、ワッツはどこか避けられたりしてるからな。今回の件で、そういう連中の目も変わったんじゃねえか?」
確かにルーシアの言う通り、街を歩けば以前とは違う視線に気づく。前は、一応住むのは渋々了承しているが、関わり合いになりたくないという気持ちが伝わってきていた。
特に直接関わりのない住民たちからは、恐れられたり、避けられたりがしょっちゅうだ。
しかし今は、この前はありがとうと、声をかけられることも多くなり、こちらを見る視線も幾分が和らいだような気もする。
「あ、そういや変わったっていや、アイツ……クミルもここ数日で大分成長したみてえだな」
その言葉を聞き、ワッツは知らず知らず溜息が漏れた。
理由は簡単だ。あの事件から今日まで、ワッツが修練する時には必ず姿を見せて、「アタシを鍛えなさい!」と言ってくるのだ。
正直面倒なので最初は断ったのだが、いつの間にか覚えたのか、涙目でさらに上目遣いをしながら懇願してくる。しかもメリルも一緒にだ。
その女子の圧力に根負けし、仕方なく修練を見てやっている。
それにラーティアからも頼まれたのだ。何でも、あの事件の最中、クミルは必死に民のために働いていたと。当然メリルも。
ただ、クミルの活躍がなければ、少なくとも二人の少年の命はなかったらしいことも。
クミルは、二人の命を助けられたのは、間違いなくワッツに修練を見てもらっていたからともラーティアに言ったという。
そんな懸命に強くなろうとする姿が、かつてのワッツに重なったとかで、ラーティアに少しでもいいからクミルに力を貸してあげてほしいと言われたのである。
母親の頼みを断れないワッツは、結果的にクミルの成長のために時間を費やしているというわけだ。
(ま、アイツが強くなる分には問題ねえだろうしな)
〝学園編〟が始まれば、おのずと主人公と出会い、彼と一緒に原作を進めていくはず。成長したクミルが傍にいれば、主人公もまた負けじと成長してくれる。そうなれば、敵に敗北する確率も低くなり、物語をスムーズに終わりまでこなしてくれるだろう。
あとは強く成長した主人公たちにすべてを任せ、ワッツはこの街で静かに過ごせる。そう前向きに考え、クミルを鍛えることを飲んだのである。
「にしてもまさか、アタシが出張してる間にそんなことがあったとはなぁ。でもまあ、これで上の連中を納得させられるだけの大義が得られたのも事実か」
突然ルーシアが訳の分からないことを言うので、思わずワッツは「大儀?」と首を傾げてしまう。すると、ルーシアがニヤリと大きく口角を上げて「おうよ」と返事をする。
「じゃあルーシア、まさか……?」
ラーティアの言葉に、ルーシアがグーサインを突きつける。
何やら二人には共通している話のようだが……。
「ワッツ、お前には言ってなかったけどよ。今回、アタシが帝国に行ったのは、お前のこれからに関係してんだよ」
それを聞いて、やはり原作から外れてしまい、ルーシアが街にいなかったのは、自分のせいだったことを知った。
ただ、自分のこれからに関することというのは一体どういうことなのだろうか。
「俺のこれからって……どういうこと?」
「にしし、実はなワッツ――――――お前、学園に通えるようにしといたから!」
「…………………………は?」
今、信じられない、いや、信じたくない言葉が聞こえた気がした。
「え、えっと……もう一度言ってくれる?」
絶対に聞き間違いであってくれという願いを込めて問い質した。
「だから、帝都にある【シンウォー学園】に通えるんだよ!」
……どうやらワッツの願いは虚しく掻き消えた。
「いやぁ、アタシが学園に直談判しに行って正解だったぜ。書面だけじゃ、あっさり弾かれちまったからよ」
それも初耳で、詳しく聞くと、ワッツには内緒で、ラーティアと一緒にルーシアは、ワッツの入学願書を作り、学園に送ったのだという。
ルーシアの見解では、平民として生きているものの、有能な『霊道士』であり、かつ実績もある『探求者』ということで、あっさりと受け入れてくれると思っていたらしい。
だが、彼女の思惑は外れ、検討する余地もなく不合格を言い渡されたそうだ。その理由は非常に単純なもの。ワッツが赤髪だということ。それだけで十分に弾く理由になるのだ。
これにキレたルーシアは、直々に学園の偉いさんと話をつけに向かったのである。
「学園長は好印象だったんだけどな。他の頭が固い連中を説得するのは骨が折れたが、アタシの推薦状だけじゃなく、アロムの推薦状もあったし、とりあえずは前向きに検討してくれるって話をもらった」
「え? ちょ、ちょっと待って! ……領主様の……推薦状?」
「おう、そうだぜ。……あれ? もしかしてまだ報酬の話、聞いてなかったのか?」
「報酬? ……! ま、まさか……っ」
夕食前に、帝国へ出張していたルーシアが家に帰ってきた。
何でも帝国で、【ロイサイズ】で起きた事件を知り、手早く用事を済ませてすぐに引き返してきたらしい。
事件は解決し、街は救われたという事実は聞いていたようで、慌てて帰ってくる必要はなかったのだが、それでもやはり気になって急いで帰還したとのこと。
詳しい話は、家に帰ってくる前にアロムに聞いてきたと言った。
だからか、家に入ってくるなりワッツの姿を見ると、嬉しそうに抱きしめてきて頭を撫でつけてきた。
照れ臭いので止めてくれと頼んだが聞いてくれず、結局、夕食ができるまでの間、ずっと人形のように可愛がられてしまったのである。
「ちょっとルーシア、あなた飲み過ぎよ!」
すでに酒瓶の三つ目に突入したルーシアを、ラーティアが叱りつける。
「んく、んく、っぷぁ! へへ、いいじゃねえか! 何たってワッツが街の英雄だぜ! こんな日は祝うもんだ!」
英雄認定されてからすでに一週間は過ぎているが……。
「ったくもう……」
「んだよ、お前だって嬉しいだろ? 自分の息子が、この街の英雄だぜ?」
「それは……まあ、誇らしくはあるけどね」
「だろぉ? それに、今もその見た目のせいで、ワッツはどこか避けられたりしてるからな。今回の件で、そういう連中の目も変わったんじゃねえか?」
確かにルーシアの言う通り、街を歩けば以前とは違う視線に気づく。前は、一応住むのは渋々了承しているが、関わり合いになりたくないという気持ちが伝わってきていた。
特に直接関わりのない住民たちからは、恐れられたり、避けられたりがしょっちゅうだ。
しかし今は、この前はありがとうと、声をかけられることも多くなり、こちらを見る視線も幾分が和らいだような気もする。
「あ、そういや変わったっていや、アイツ……クミルもここ数日で大分成長したみてえだな」
その言葉を聞き、ワッツは知らず知らず溜息が漏れた。
理由は簡単だ。あの事件から今日まで、ワッツが修練する時には必ず姿を見せて、「アタシを鍛えなさい!」と言ってくるのだ。
正直面倒なので最初は断ったのだが、いつの間にか覚えたのか、涙目でさらに上目遣いをしながら懇願してくる。しかもメリルも一緒にだ。
その女子の圧力に根負けし、仕方なく修練を見てやっている。
それにラーティアからも頼まれたのだ。何でも、あの事件の最中、クミルは必死に民のために働いていたと。当然メリルも。
ただ、クミルの活躍がなければ、少なくとも二人の少年の命はなかったらしいことも。
クミルは、二人の命を助けられたのは、間違いなくワッツに修練を見てもらっていたからともラーティアに言ったという。
そんな懸命に強くなろうとする姿が、かつてのワッツに重なったとかで、ラーティアに少しでもいいからクミルに力を貸してあげてほしいと言われたのである。
母親の頼みを断れないワッツは、結果的にクミルの成長のために時間を費やしているというわけだ。
(ま、アイツが強くなる分には問題ねえだろうしな)
〝学園編〟が始まれば、おのずと主人公と出会い、彼と一緒に原作を進めていくはず。成長したクミルが傍にいれば、主人公もまた負けじと成長してくれる。そうなれば、敵に敗北する確率も低くなり、物語をスムーズに終わりまでこなしてくれるだろう。
あとは強く成長した主人公たちにすべてを任せ、ワッツはこの街で静かに過ごせる。そう前向きに考え、クミルを鍛えることを飲んだのである。
「にしてもまさか、アタシが出張してる間にそんなことがあったとはなぁ。でもまあ、これで上の連中を納得させられるだけの大義が得られたのも事実か」
突然ルーシアが訳の分からないことを言うので、思わずワッツは「大儀?」と首を傾げてしまう。すると、ルーシアがニヤリと大きく口角を上げて「おうよ」と返事をする。
「じゃあルーシア、まさか……?」
ラーティアの言葉に、ルーシアがグーサインを突きつける。
何やら二人には共通している話のようだが……。
「ワッツ、お前には言ってなかったけどよ。今回、アタシが帝国に行ったのは、お前のこれからに関係してんだよ」
それを聞いて、やはり原作から外れてしまい、ルーシアが街にいなかったのは、自分のせいだったことを知った。
ただ、自分のこれからに関することというのは一体どういうことなのだろうか。
「俺のこれからって……どういうこと?」
「にしし、実はなワッツ――――――お前、学園に通えるようにしといたから!」
「…………………………は?」
今、信じられない、いや、信じたくない言葉が聞こえた気がした。
「え、えっと……もう一度言ってくれる?」
絶対に聞き間違いであってくれという願いを込めて問い質した。
「だから、帝都にある【シンウォー学園】に通えるんだよ!」
……どうやらワッツの願いは虚しく掻き消えた。
「いやぁ、アタシが学園に直談判しに行って正解だったぜ。書面だけじゃ、あっさり弾かれちまったからよ」
それも初耳で、詳しく聞くと、ワッツには内緒で、ラーティアと一緒にルーシアは、ワッツの入学願書を作り、学園に送ったのだという。
ルーシアの見解では、平民として生きているものの、有能な『霊道士』であり、かつ実績もある『探求者』ということで、あっさりと受け入れてくれると思っていたらしい。
だが、彼女の思惑は外れ、検討する余地もなく不合格を言い渡されたそうだ。その理由は非常に単純なもの。ワッツが赤髪だということ。それだけで十分に弾く理由になるのだ。
これにキレたルーシアは、直々に学園の偉いさんと話をつけに向かったのである。
「学園長は好印象だったんだけどな。他の頭が固い連中を説得するのは骨が折れたが、アタシの推薦状だけじゃなく、アロムの推薦状もあったし、とりあえずは前向きに検討してくれるって話をもらった」
「え? ちょ、ちょっと待って! ……領主様の……推薦状?」
「おう、そうだぜ。……あれ? もしかしてまだ報酬の話、聞いてなかったのか?」
「報酬? ……! ま、まさか……っ」
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