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“まあ《神格級》の魔法というものは一度使えば反動が大きいからな。そうそう使えるものでもないが、切り札として持っているかもしれないというだけで強大な存在には違いあるまい。最低でも《王格級》は確実なのだからな”

 一国を一つの魔法だけで滅ぼす存在。確かに異常な者であることは間違いないだろう。

“あまり関わり合いたくない連中だね、そいつら”
“しかしそうもいかぬだろうな”
“何でさ?”
“有史以来、力を持つ者が平穏無事に過ごせた試しがないからだ。本人が望もうが望むまいが、世界が必ず引き込んでしまう。そういう存在は得てしてトラブルに巻き込まれやすいからな”
“……それってシンちゃんの力のせいでってこと?”
“否定はできぬな”
“……できればオレはオレのやりたいことを静かにやり尽くしたいんだけど”
“やればよいではないか。しかしそれを邪魔する者が現れたならどうする? 例えばそこで寝ている少女が、悪人に攫われ獣耳を傷つけられたりしたら?”
“は? なにそれ、冗談じゃないんだけど。そんなことする奴なんて全力でぶっ壊しますよ”
“オマエのその獣耳信者っぷりには呆れるが……まあそういうことだ。オマエの性格上、一度大切だと認識したものを傷つけられるのは我慢ならないであろう”

 それは確かに否定できない。自分のものを他人に壊されたりするのは許容できない。一度捨て猫を拾って育てていたことがあったが、それが近所に住む高校生たちに虐められ結果、死んでしまったことがあった。

 その時、ブチ切れてしまい高校生たちに向かって行ったことがあった。無論一人で勝てるわけもなく返り討ち。しかしその後、今度は冷静に策を立てて罠を張ったり闇討ちしたりして、身体的のみならず、社会的にも名誉を貶めてやったりしてやったが。

 まあ、結局復讐をしたところで何も取り戻せはしなかった。やり過ぎだと周りから突き放されたりもした。ただ幾分かスッキリしただけ。あとは自分の心に変な歪み合いが生じているだろうことを認識できたくらいか。

“……でもよく分かったね。オレの性格がそんなんだって”
“……オマエには悪いが、憑依した時に僅かながらオマエの記憶が我に流れ込んできたのだ”
“え、それズルくない? オレにはなかったのに”
“そっち? てっきり勝手に見るなって怒るかと思ったのだが”
“別にいいよ。見られて恥ずかしい記憶なんてないし。まあ、若干厨二病をこじらせてしまってる部分はキッツイなぁとか思うけどさ”

 元々それほど普段から怒るタイプでもない。どちらかというと大人しい性格だ。俗に言うキレたら危ない奴だと自分でも思っているが。

“我の過去は、これから嫌というほど理解する時がくるだろう”
“嫌っていうほど知りたくないんだけど。だってシンちゃんってオッサンでしょ? 可愛い女の子の過去ならまだ知る価値はあると思うけどさ”
“……はぁ。本当に思うが、オマエはつくづく変わっておるな”
“そう?”
“何度も言うが、我は竜種だけでなく他の存在からも畏怖され遠ざけられてきた存在だ”
“でもそいつらはシンちゃんとろくに話さなかったんでしょ?”
“…………”
“オレは結構見た目でも判断するけど、話してみてどんな奴かはちゃんと分かるつもりさ。そんなに鈍感でもないし”
“…………”
“シンちゃんは……善い奴か悪い奴かはとりまおいといて、少なくてもオレは……気に入ってるかな”
“セイバ……”
“だってからかうと面白いしね”
“うぉいっ!?”

 こういうツッコミも結構好きだったりする。
 しかし彼に言ったことはどれもすべて本当のこと。まだ出会って短い間だが、何というかシンセークンと話すのは楽しいと思っているのだ。

 これも憑依しているからなのか、シンセークンが気を遣ってくれていることも伝わってきている。そこには一抹の申し訳なさも感じているのだ。
 彼はどこか自分と似ている。歪んでいるけれど、必死にそれを他人には隠そうとしているところが。

 そして内面の奥底には、マグマのような激情の塊が埋もれていると思わせるようなところもだ。
 ドラゴンなのに……というところがまたツボではあるが、彼は自分と同じように心が狭いのだろう。だから他人には辛辣に動けるが、一度認めてしまえばその者を熱き情を持って守りたくなってしまう。しかしそれを誰かに悟られたくない。だって恥ずかしいから。

 多分、そういう部分をシンセークンも持ち合わせているのだろう。それが何となく話していると分かるのだ。だから星馬も彼と話していると居心地が良いと思う。
 同族嫌悪という言葉もあるが、初めて自分と同じような存在と出会えたという喜びの方が強かったりする。

“ま、オレは楽しいよ、シンちゃんがいるのは”
“フン、竜の神に選ばれたのだから胸を張るがよい”
“元、だけどね”
“うっぐ……っ”

 やはりそこは痛いところなのか、それからしばらく落ち込んでいたシンセークンだった。



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