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 その日は、何十年に一度の大寒波ということで、世間では外出する人の数は非常に少なくなっていた。雪が降る地域では例年稀に見るほどの大雪となり生活も困窮しているとか。

 幸い住んでいるここは、雪こそ積もっているものの、車が動けないというほどではない。それでも身を切り裂くような寒さなので、わざわざ外に出ようとする人は少ないが。

 そんな日でも、一人暮らしである自分には稼ぐ必要があるため、アルバイト先である本屋へと向かっていた。
 向かっている途中で吹雪になり、視界も悪くなってしまっていた。あまりにも寒くて、すぐにでもバイト先に向かいたいと早足で横断歩道を渡っていた時のことだ。

 吹雪を切り裂くように、巨大なトラックが突然右側から現れたのである。いくら急いでいたからといっても、こちらはちゃんと信号は守っていたにもかかわらず、トラックの運転手は明らかに止まる様子など見せない速度で突っ込んできていた。

 ヤバイと思って走ろうと焦るが、運の悪いことに凍り付いて悪くなっていた足場に滑ってしまい、その場から逃げ出すことができなかった。
 結果は、言わなくても分かるだろう。そのままトラックに衝突されたところまでは覚えていた。

 次に意識が目覚めると病院のベッドの上……ではなく、闇に支配された空間の中、一部だけスポットライトを浴びたような場所にいた。
 しかもそれまで自由に動かせていた肉体など持たず、まるで漫画に出てくるような人魂のような形でプカプカと浮かんでいたのである。

 そしてそこへ不意に出現したのは、自らを女神と名乗る女性。彼女曰く、自分はトラックに引かれて即死したのだという。
 まああれだけの速度で衝突されたのだから死んでもおかしくないだろうと理解はできたが、それよりも現状の不可思議さの答えが欲しいので尋ねた。

 ここは女神が所有する空間の一つであり、意向次第で魂を呼び出すことが可能なのだそうだ。本来は信仰者や運命者と呼ばれる者たちにだけに、夢という形をとってここに呼び出し天啓を授けるのだというが、どうやら自分はその運命者の枠にあるらしい。

 運命者とは、その名の通り様々な運命を背負った者のこと。異世界ファンタジーでいえば勇者や賢者など、世界に選ばれたような限られた存在といえば分かりやすいだろうか。
 そういう強烈な運命を持って生まれた者だけ、一時的に天啓を与えることが可能なのだという。

 なら自分もまた元の世界では、いずれ名を残すような優れた人物になる予定だったのかと聞けば、どうもそうではないとのこと。
 そしてその理由を聞いて、思わず耳を疑ってしまった。

『あなたの能力は、平凡も平凡。あの場で死ぬことが決定付けられていただけの哀れな人生でした』

 その辛辣過ぎる言葉を聞いて、しばらく思考が停止してしまった。
 だがそこで疑問が浮かぶ。なら何故そんな普通でしかない……いや、普通よりも理不尽な人生だった自分がここに呼ばれたのか。
 そこで女神は、またも驚くようなことを口にしたのだ。

『確かに今世の人生では、悲劇に見舞われたあなたですが、少々変質した魂の持ち主でもあるのです。何故ならあなたは、今回で連続百以上もの人種に生まれ、そのすべてにおいて最終的に悲劇で潰えているのですから』

 彼女が言うには、自分という魂は当然ながら何度も輪廻転生を繰り返しているらしい。それは魂を持つ者であるなら当然のことであり、死ねば来世にまた新たな人生を送る存在として生まれ変わる。その際には、記憶などが魂の奥底に厳重に封じられ、通常はその封印は破られない。これは魂にとって普遍的なことであり、神が創り上げた定めなのだという。

 ただ、生まれ変わりと言っても様々で、今世が人間だからといって来世がまた同じ人間だとは限らない。そこは完全なランダムに設定されていて、次は昆虫かもしれない。いや、動物あるいは生物ではなく植物かもしれない。
 その長い長い輪廻の流れの中で、いろいろなものに生まれ変わっていくものなのだ。

 しかし自分といった存在は、どういうわけかずっと人という種として誕生していたらしい。それが連続で途切れることなく百以上。これは長い長い魂の歴史の中で類を見ないことなのだという。
 さらに女神が困惑したのは、そのすべての人生において、常に悲劇的な最期を迎えていること。

 ある時は暗殺され、ある時は災害に見舞われ、ある時は突然の病に倒れ、ある時はいわれのない罪で処刑され、またある時は今回のように事故に遭う。
 とにかくハッピーエンドを迎えた試しがなく、いつも三十歳を迎える前に死を迎えてしまう。しかもその理由がすべて理不尽なものばり。今回のように、だ。

 その事実に気づいた女神は、さすがに不憫だと察し、こうして直接対話を試みたのである。
 そうはいっても対話をしたところで、自分としてはすでに死んでしまっているので嬉しいという気持ちはなかった。神様と謁見できたというのは凄いことだとは思うが、どうせもう死んでしまっているからという諦観の方が強かったから。しかし女神の話はそれで終わりではなかったのである。

『次の生では、加護を与えようと思います』

 当然、加護とは何か尋ねた。

『あなたの認識で分かりやすく説明するのであれば、転生特典といったところでしょうか』

 死ぬ前に読んでいたWEB小説には、そういう転生もののライトノベルが多かった。アニメや漫画化もされて大いに賑わっていたし、自分も好んで読んでいた。

『あなたの望む能力を付与しましょう。それを加護として』

 つまり特典次第で次の生では、理不尽に死んでしまうことがないかもしれない。しかし、ならばどういう特典が良いのだろうか。
 そもそも次の生が、どんな場所で生まれるかも分からないので聞いてみたが、恐らく人種ではあるだろうが、生まれる世界はランダムなのだそうだ。

 星の数ほど世界が存在するらしく、そのどれに魂が運ばれるかは女神でも把握できないとのこと。
 こういう場合、やはり異世界ファンタジーが多い。こちらにとっても魔法やスキルなどといったものに憧れはある。しかしなら魔法の才を選んだとして、その世界に魔法という概念が存在しなければ使えない可能性があるらしく、それでは意味がない。

 なら幸運というステータスを付与してもらえばいいのかと思ったが、何だか面白みがなさそうだし、漠然としている能力なこともあり、あまり魅力がなかった。
 しかし幸運というどの世界に生まれ落ちても人生をカバーできるような能力という考えは有りだと思ったので、そちら方面で考えてピンときた。

 そこで思いついたことを特典として願ったところ、女神は『そのような加護を願い出た者は初めてです』と言いつつも快く受け入れてくれた。
 授けられた能力は、五歳になった時点で覚醒するという話をもらった。

 そうして女神の加護という転生特典を授かり、次の人生に進むことになったのである。

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