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食事を終えると、琴乃にアイドル番組を一緒に観ようと言われたが、部屋で絵本を読みたいからといって自室へと向かう。
一応耳を澄まして、琴乃が来ていないことを確認してから机の引き出しから数珠を取り出す。その直後にまたも亀へと変化した。
「おそいよぉ、パパ~」
「ごめんごめん。ほら、残りのチョコ」
「わぁい。ハムハムハム」
こうして見ていると普通の亀にしか見えないし、ちょっと可愛い。前世の頃から動物は好きだったので、できればペットを飼ってみたいなと思っていたのだ。家庭の事情や金銭事情のせいで望みは叶わなかったが。
「そういえばお前って名前はあるの?」
「んぁ? だから『霊亀』だよぉ」
「それは僕でいう人間って言ってるようなもんじゃないか。お前個人を示す名称はないの?」
「う~ん……あったような……なかったような……どっちかなぁ?」
「いや、僕に聞かれても……じゃあ名前つけよっか?」
「うんうん! パパがつけてくれたら嬉しいなぁ」
「そうだなぁ……あ、お前ってメスかオスかどっち?」
「一応メスだよぉ」
「え……そうだったの?」
てっきりのんびり屋のオスかと思ったが。
「メスね……じゃあ…………メメってのはどう?」
「メメかぁ……うん! 可愛いからいいよぉ。ありがとぉ、パパ~」
どうやら喜んでくれたようで何よりだ。それとどうしても尋ねておきたいことがあった。
「ところで何で僕のことをパパって呼ぶの?」
「えぇ……だってパパはパパだしぃ」
これって生まれてからすぐに目にした存在を親と思うインプリンティングというやつだろうか。
「ま、いっか。それと僕がいない時は勝手に亀にならないでね」
「何でぇ?」
「いや、家の中に飼ってないのに亀がいたらダメでしょ。それに僕と一緒でも許可がないと亀になっちゃダメ。あ、喋ってもね」
「えぇ! それはイヤなんだけどぉ」
「ダメだよ。喋る亀とか下手すりゃ、怖い大人に捕まって研究所行きだぞ。身体中弄り回されて実験動物扱いだね」
「うわぁ、それはイヤだなぁ」
「だろ? だから我慢してよね」
「う~ん……じゃあ念話術もダメぇ?」
「ねんわじゅつ? ああ、もしかして念話のこと? なるほど……使えるんだね? ちょっとやってみて」
悟円の要求に「うん」とメメが答えると――。
(どう、パパ? 聞こえるぅ?)
(お、ちゃんと聞こえる。僕の声も聞こえてる?)
(うん、聞こえてるよぉ)
これは便利だ。仙人の時も念話を使用していたから、いつか使えたらと思っていたが、そう簡単に使える対象がいないのでヤキモキしていた。だからこうして使うことができて嬉しい。
「よし、じゃあこれからはできるだけ念話で会話をすること。そうすればいつでも話してもいいから」
「わかったぁ。えへへ、パパといっぱいお喋りできるから嬉しいなぁ」
悟円は健気なことを言うメメを優しく撫でてやると、メメも笑みを浮かべて堪能している。
(じゃあさっそく念話で会話の練習ね)
こうして念話を使い続けることで経験値も上がる。熟練者になればかなり離れていても会話ができるようになるので、目指すは仙人だった時の自分だ。
(仙術には結構便利なものもあるから、気と並行して鍛錬しとかないと)
本来なら仙人に直接学ぶか、仙術を記した書物などを解明して自力で習得するのが普通だが、最初から知識があるのは本当に助かる。
どうすれば学べるか瞬時に理解できるから、あとは知識に沿って技術を培っていくだけだ。
悟円は、風呂場からタオルと、キッチンから小皿を二枚持ってくると、引き出しを整理して、そこにタオルを敷き、近くに皿を二枚置く。それぞれ水とチョコが入っている。ここが今日からメメの部屋になる。
メメも嬉しいのか、タオルに乗るとゆったりと身を預けたと思ったら、再び数珠になってしまった。どうやら寝てしまったらしい。
そんなメメの愛らしい姿に微笑みながら引き出しを静かに閉めると、少しこの世界について思考に耽ることにした。
(この世界は明らかに僕が前にいた世界とは違う……よね)
何せ『霊亀』なんていなかったし。
(それとも本当は存在してて、単に会う機会がなかっただけ……?)
だが気になるのは、メメが自分を創ったのは仙人だと言ったこと。前の世界に、神を創ることができるような仙人がいるとは到底思えない。やはりこの世界だからこそだと考える。
(となると他にも神って存在がいてもおかしくないよな)
何せまだ生まれたばかりで、ロクに力も無いが、それでもメメは水神の象徴だ。ファンタジーの塊のような存在。
それに『四霊』ということは、他の三つの存在もどこかにいる可能性が高い。それに仙人が存在するなら、他に漫画やアニメに出てくるようなビックリ人間もいるかもしれない。
(超能力者とか魔法使い? それに宇宙人とかサイボーグとかいたり……まさかね)
もしそうならごった煮のような世界だ。それとなく親にでも聞いてみようか。まだこの世界について情勢などを詳しく調べたことはない。
自分が使えるネット環境があればいいが、残念ながら勝手に親が所持するパソコンやスマホを使うことは禁じられている。
(琴姉ちゃんのスマホを貸してもらう?)
琴乃は小学校に上がって与えられたのだ。今どき持っていない子の方が珍しいらしいから。それに一人で外出する機会が多い彼女には持たせておくべきだという理由もあった。
チラリと琴乃の机を見ると、そこには充電したままのスマホが置かれている。
(……ちょっとだけならいいよね)
心の中で一応姉に対して謝罪してから、彼女のスマホを借りることにした。
そうしてこれまで気になったワードを検索する。
「…………うーん、別にファンタジー事件とかはないなぁ」
もしかしたらモンスターが現れたり、超能力者だけが通う学校とか、魔法使いの里などの情報があるかもと思ったが、前の世界とあまり変わらない検索結果だった。
もちろん中には未確認飛行物体や未確認生物を見たとか、気功の達人がいるとか、超能力を使って事件を解決などという眉唾物の情報がある。しかしそれくらいなら前の世界だってありふれていた。どれも信憑性に足りないものばかりだ。
「『霊亀』や『四霊』に関しても、基礎的な情報だけか。」
「これはメメの記憶が完全に復活するのを期待した方が良いかもなぁ」
しかしそのことについても気になることがあった。
メメは自分を創った存在を待っていたということだけは覚えていた。あとはうろ覚えというか記憶の欠如が見られる。
この状態について悟円には些か身に覚えがあったのだ。
それは――。
「――メメは封印処置をされていた」
だから封印が解かれて間もない今は記憶が定まっておらず、身体能力も衰退していた。恐らくメメは、衰退させられてから封印された。
実際の『霊亀』は、もっと遥かに身体も大きく、強大な霊力を有している。それこそ全力を出せば世界すらも脅かせるほどに。
だから封印しようとするなら、それ相応の規模の術が必要になるだろう。山そのもの、見上げるほどに大きな岩、あるいは大地そのものを媒体として封印しなければならない。ハッキリいって、神社にあった祠のような小規模で封印処置などできるはずがない。
つまりメメを封印した何者かは、そんな強大な存在を弱体化させてわざわざ封印したのだ。
(弱体化できるなら、そのまま殺すことだってできたはずだ。それなのに封印で留めた)
その理由がいまだに分からない。たとえば過去にメメが暴走し、世界に危機が訪れたとしよう。ならそのまま討伐する方が賢い。何せ弱体化させられるのだから、わざわざ危険な存在を活かす必要がない。
(つまり封印した奴は、メメを殺すつもりはなかった。なら何のために封印を……?)
恐らくメメがパパと慕う存在がカギなのだろうが、残念ながら現在のパパである悟円にはサッパリ分からない。
「うーん………………考えても答えは出ないよなぁ」
封印されたことで、あるいは弱体化されたことで、ほとんどの記憶をも封印されたのか、そのまま失われたのかは定かではないが、メメの反応からして完全に失われているようには見えない。なのでメメについては、彼女の成長待ちかもしれない。
「ま、別に危険そうにも見えないし、今は様子見でいいか」
悟円はそう決断すると、持っていたスマホを元の場所に戻してリビングへと向かった。
一応耳を澄まして、琴乃が来ていないことを確認してから机の引き出しから数珠を取り出す。その直後にまたも亀へと変化した。
「おそいよぉ、パパ~」
「ごめんごめん。ほら、残りのチョコ」
「わぁい。ハムハムハム」
こうして見ていると普通の亀にしか見えないし、ちょっと可愛い。前世の頃から動物は好きだったので、できればペットを飼ってみたいなと思っていたのだ。家庭の事情や金銭事情のせいで望みは叶わなかったが。
「そういえばお前って名前はあるの?」
「んぁ? だから『霊亀』だよぉ」
「それは僕でいう人間って言ってるようなもんじゃないか。お前個人を示す名称はないの?」
「う~ん……あったような……なかったような……どっちかなぁ?」
「いや、僕に聞かれても……じゃあ名前つけよっか?」
「うんうん! パパがつけてくれたら嬉しいなぁ」
「そうだなぁ……あ、お前ってメスかオスかどっち?」
「一応メスだよぉ」
「え……そうだったの?」
てっきりのんびり屋のオスかと思ったが。
「メスね……じゃあ…………メメってのはどう?」
「メメかぁ……うん! 可愛いからいいよぉ。ありがとぉ、パパ~」
どうやら喜んでくれたようで何よりだ。それとどうしても尋ねておきたいことがあった。
「ところで何で僕のことをパパって呼ぶの?」
「えぇ……だってパパはパパだしぃ」
これって生まれてからすぐに目にした存在を親と思うインプリンティングというやつだろうか。
「ま、いっか。それと僕がいない時は勝手に亀にならないでね」
「何でぇ?」
「いや、家の中に飼ってないのに亀がいたらダメでしょ。それに僕と一緒でも許可がないと亀になっちゃダメ。あ、喋ってもね」
「えぇ! それはイヤなんだけどぉ」
「ダメだよ。喋る亀とか下手すりゃ、怖い大人に捕まって研究所行きだぞ。身体中弄り回されて実験動物扱いだね」
「うわぁ、それはイヤだなぁ」
「だろ? だから我慢してよね」
「う~ん……じゃあ念話術もダメぇ?」
「ねんわじゅつ? ああ、もしかして念話のこと? なるほど……使えるんだね? ちょっとやってみて」
悟円の要求に「うん」とメメが答えると――。
(どう、パパ? 聞こえるぅ?)
(お、ちゃんと聞こえる。僕の声も聞こえてる?)
(うん、聞こえてるよぉ)
これは便利だ。仙人の時も念話を使用していたから、いつか使えたらと思っていたが、そう簡単に使える対象がいないのでヤキモキしていた。だからこうして使うことができて嬉しい。
「よし、じゃあこれからはできるだけ念話で会話をすること。そうすればいつでも話してもいいから」
「わかったぁ。えへへ、パパといっぱいお喋りできるから嬉しいなぁ」
悟円は健気なことを言うメメを優しく撫でてやると、メメも笑みを浮かべて堪能している。
(じゃあさっそく念話で会話の練習ね)
こうして念話を使い続けることで経験値も上がる。熟練者になればかなり離れていても会話ができるようになるので、目指すは仙人だった時の自分だ。
(仙術には結構便利なものもあるから、気と並行して鍛錬しとかないと)
本来なら仙人に直接学ぶか、仙術を記した書物などを解明して自力で習得するのが普通だが、最初から知識があるのは本当に助かる。
どうすれば学べるか瞬時に理解できるから、あとは知識に沿って技術を培っていくだけだ。
悟円は、風呂場からタオルと、キッチンから小皿を二枚持ってくると、引き出しを整理して、そこにタオルを敷き、近くに皿を二枚置く。それぞれ水とチョコが入っている。ここが今日からメメの部屋になる。
メメも嬉しいのか、タオルに乗るとゆったりと身を預けたと思ったら、再び数珠になってしまった。どうやら寝てしまったらしい。
そんなメメの愛らしい姿に微笑みながら引き出しを静かに閉めると、少しこの世界について思考に耽ることにした。
(この世界は明らかに僕が前にいた世界とは違う……よね)
何せ『霊亀』なんていなかったし。
(それとも本当は存在してて、単に会う機会がなかっただけ……?)
だが気になるのは、メメが自分を創ったのは仙人だと言ったこと。前の世界に、神を創ることができるような仙人がいるとは到底思えない。やはりこの世界だからこそだと考える。
(となると他にも神って存在がいてもおかしくないよな)
何せまだ生まれたばかりで、ロクに力も無いが、それでもメメは水神の象徴だ。ファンタジーの塊のような存在。
それに『四霊』ということは、他の三つの存在もどこかにいる可能性が高い。それに仙人が存在するなら、他に漫画やアニメに出てくるようなビックリ人間もいるかもしれない。
(超能力者とか魔法使い? それに宇宙人とかサイボーグとかいたり……まさかね)
もしそうならごった煮のような世界だ。それとなく親にでも聞いてみようか。まだこの世界について情勢などを詳しく調べたことはない。
自分が使えるネット環境があればいいが、残念ながら勝手に親が所持するパソコンやスマホを使うことは禁じられている。
(琴姉ちゃんのスマホを貸してもらう?)
琴乃は小学校に上がって与えられたのだ。今どき持っていない子の方が珍しいらしいから。それに一人で外出する機会が多い彼女には持たせておくべきだという理由もあった。
チラリと琴乃の机を見ると、そこには充電したままのスマホが置かれている。
(……ちょっとだけならいいよね)
心の中で一応姉に対して謝罪してから、彼女のスマホを借りることにした。
そうしてこれまで気になったワードを検索する。
「…………うーん、別にファンタジー事件とかはないなぁ」
もしかしたらモンスターが現れたり、超能力者だけが通う学校とか、魔法使いの里などの情報があるかもと思ったが、前の世界とあまり変わらない検索結果だった。
もちろん中には未確認飛行物体や未確認生物を見たとか、気功の達人がいるとか、超能力を使って事件を解決などという眉唾物の情報がある。しかしそれくらいなら前の世界だってありふれていた。どれも信憑性に足りないものばかりだ。
「『霊亀』や『四霊』に関しても、基礎的な情報だけか。」
「これはメメの記憶が完全に復活するのを期待した方が良いかもなぁ」
しかしそのことについても気になることがあった。
メメは自分を創った存在を待っていたということだけは覚えていた。あとはうろ覚えというか記憶の欠如が見られる。
この状態について悟円には些か身に覚えがあったのだ。
それは――。
「――メメは封印処置をされていた」
だから封印が解かれて間もない今は記憶が定まっておらず、身体能力も衰退していた。恐らくメメは、衰退させられてから封印された。
実際の『霊亀』は、もっと遥かに身体も大きく、強大な霊力を有している。それこそ全力を出せば世界すらも脅かせるほどに。
だから封印しようとするなら、それ相応の規模の術が必要になるだろう。山そのもの、見上げるほどに大きな岩、あるいは大地そのものを媒体として封印しなければならない。ハッキリいって、神社にあった祠のような小規模で封印処置などできるはずがない。
つまりメメを封印した何者かは、そんな強大な存在を弱体化させてわざわざ封印したのだ。
(弱体化できるなら、そのまま殺すことだってできたはずだ。それなのに封印で留めた)
その理由がいまだに分からない。たとえば過去にメメが暴走し、世界に危機が訪れたとしよう。ならそのまま討伐する方が賢い。何せ弱体化させられるのだから、わざわざ危険な存在を活かす必要がない。
(つまり封印した奴は、メメを殺すつもりはなかった。なら何のために封印を……?)
恐らくメメがパパと慕う存在がカギなのだろうが、残念ながら現在のパパである悟円にはサッパリ分からない。
「うーん………………考えても答えは出ないよなぁ」
封印されたことで、あるいは弱体化されたことで、ほとんどの記憶をも封印されたのか、そのまま失われたのかは定かではないが、メメの反応からして完全に失われているようには見えない。なのでメメについては、彼女の成長待ちかもしれない。
「ま、別に危険そうにも見えないし、今は様子見でいいか」
悟円はそう決断すると、持っていたスマホを元の場所に戻してリビングへと向かった。
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