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第四十八話 やはりヒーロは最高の相棒である件について
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ピョコン、ピョコン、ピョコンと一匹の緋色のスライムが閉じられた建物内で自由に動き回っていた。
人の気配もなく物音一つしない場所だが、この建物内は通常ではけたたましい音がずっと鳴り響いているようなところだ。
何せここは――パチンコ店なんだから。
周りにはスロットやパチンコ台がずら~っと並んでいて、きっと平和な世の中なら、ここは人と音、そして眩い光で埋め尽くされていただろう。
……それにしてもこの《感覚共有》、めっちゃ便利だわ。
当然このスライムは、ヒーロであり、今彼女(メスなので)には一匹でパチンコ店に侵入し探索してもらっているのだ。
ヒーロは少しの隙間さえあれば、身体の平常を変化させて侵入もすることが可能なので、閉じられたドアの隙間から中へと入り込んだというわけである。
俺は店から少し離れた石垣の上に座っていた。
この共有能力は面白い感覚で、通常の俺の視界に加え、右上に別の画面が映し出されている感じでヒーロの視界を見ることができるのだ。
また通常では、嗅覚や聴覚などは俺本体が優先されているが、ヒーロに意識を集中させると、ヒーロの感覚を優先させることができる。視界も切り替わり、俺本体の視界が右上に映るといった具合だ。この切り替わりが面白い。
五分ほど、店内を見回させたあと、俺は《召喚》を使って手元に呼び戻してみた。
すると、ズズズズと地面に黒ずみが浮かび上がったあと、そこからヒーロが出現したのである。
「おぉ、マジで呼び戻せたな」
しかもこの《召喚》の仕方、どこかで見覚えがあると思ったら、ヒオナさんの能力である。
彼女が山月や吾輩を召喚する時とまったく同じ感じなので、彼女と同じスキルを得られたと考えると、どことなく得をしているような気がした。
きっと俺がこのことを伝えると「ズル~イ」とか言ってくるに違いない。
「よし、あと数回ほど試したら飯にすっか」
「キュ~キュ~!」
俺はこのスキルを満足に扱えるまで練習し終えると、その足で食事処を探すことにした。
しかしやはりどこの店も閉まっていて食べ物にありつけそうにない。
一応保存食などを持ってきて正解だった。
俺はヒーロから収納させた保存食を取り出させ空腹を満たす。
ちなみにヒーロはそこらの雑草や木などを美味そうに食べている。食費がかからなくて本当にエンゲル係数に優しい奴だ。
それにしても見事なまでに閑散とした街だ。まるでゴーストタウンにでも来たかのよう。
きっと家の中には人が住んでいるのだろうが、こんなに天気も良いのに人気がないというのは違和感ありありである。
「さてと、そんじゃ次は【榛名山】での情報収集に向かうか」
この《感覚共有》と《召喚》のコンボを使えば、俺自身がダンジョン内を探索しなくとも、内部の状況を得ることができる。
怖いのは一瞬でヒーロが倒されてしまうことだが、そこはちゃんと警戒して進ませるようにすればいい。まあ防御力関係も断然ヒーロの方が圧倒的に上なので、俺が攻略に臨むよりかは安全なのだ。
ここから【榛名山】まではそう遠くない。
車で十分程度だ。歩きでもそう時間はかからない。バスが見つからないので、街の散策がてら徒歩で向かうことにする。
そうして歩き始めると、ところどころに発見したコンビニだが、ドアやガラスが壊され中身が荒らされまくっていた。
きっと食料を確保するために襲撃したのだろう。俺の住む街でも同じだったしな。
まあ店が機能していない以上、食料を確保するには致し方ないとは思う。自給自足なんて都会じゃなかなかできないし。
完全に犯罪ではあるが、あちこちで同じような状況が起きている以上、警察も手が回らなくて放置するしかないのかもしれない。
「あれだなぁ。前に見たゾンビ映画もこんな感じだったよな」
街中でパンデミックが起き、日本中が終末を迎えてしまい、コンビニや飲食店などは真っ先に人間たちに襲撃をされていた。ああいう状況になってしまった以上、何よりも必要なのは食料なのだから。
その光景と今の世の中は似通っている。モンスターかゾンビかって話になるだけ。
そのうち街中にもぞろぞろとモンスターが湧いてくるだろうし、まさしくあのゾンビ映画のような光景になるだろう。
「っと、噂をすればだ」
どこから現れたのか、少し遠目にのっそりと動き回るモンスターを発見した。
恐らくどこかの建物がダンジョン化して、そこから出てきたのだろう。
アイツは…………狼っぽいけど。
見た目はそうだが、頭部に鋭い角が一本突き出ている。あんな狼は普通いないので、モンスターで間違いない。
しかも二体……か。こっちに気づかれたら面倒だな。
素早い相手なので、一気に間を詰めらて姿を見られたら《ステルス》の効果を発揮できない。
「ヒーロ、頼めるか?」
「キュキュ!」
やる気十分なようで、ヒーロは鳴き声をあげるとモンスターに向かって駆けていく。
俺はその様子を建物の陰からジッと観察する。
当然近づいてきたヒーロの姿に気づいた二体の狼だが、モンスターということもあってそれほど警戒心を向けてこない。
これもまたヒーロの優位性の一つ。相手がモンスターなら、ある程度油断を突けるのだ。
ヒーロは敵意を見せずに、わざと狼たちの周りを動き回っていると、一体の狼が視線を切って隙を見せたので、一気に相手に詰め寄り体当たりを食らわせた。
「キャインッ!?」
無防備に攻撃を受けた狼から、骨が砕けたような音がして地面に転がる。まだ息はあるものの、致命傷のようでビクビクと痙攣していた。
自身の身体を硬質化することができる《硬化》を使っての体当たり。狼にとってはボーリングの玉が高速で飛んできたようなものだ。それはたまったものじゃないはず。
仲間がやられたことにより、そこで初めてヒーロが敵だと認識したもう一体。
低く唸り声を上げて突進し、ヒーロに噛みついた……が、ヒーロの特異性である《物理攻撃無効化》のお蔭で、ただ穴が開くだけでヒーロには何のダメージも入らない。
そのままヒーロは形態を変化させ、身体を紐上にして狼の全身に巻き付く。
「カッ……カァッ!?」
ヒーロの攻撃力は並みじゃない。そんな力で締め付けられて、狼は全身の骨を粉砕された結果、そのまま絶命してしまい粒子状に消えた。
残った致命傷の狼は、ヒーロが《吸収》を使って体内に取り込み消失させる。
……やっぱ強さがダンチだな。最早スライムの強さじゃねえや。
古今東西、ほとんどのファンタジーな物語ではスライムは弱小モンスターのはずなのに、ヒーロはもうドラゴン級かもしれない。
彼女がいれば攻撃役としては申し分ない。
今の戦闘で、ここらのダンジョンに現れるモンスター程度なら、ヒーロの相手にならないことを知る。
「これでまだ10レベルなんだから末恐ろしいよなぁ。あと羨ましい」
やはりあれだけの攻防一体のスキルを持っているヒーロには嫉妬がある。
ヒーロはそんな俺の感情に気づくことなく、意気揚々といった感じで戻ってきた。そしてそのまま俺の胸に飛び込んで、褒めて褒めてと全身を擦り付けてくる。
こういう仕草が小動物みたいで可愛くて、俺も満足いくまで撫でてやるのだ。
「よーしよしよしよしよしよし」
「キュ~キュ~キュキュ~!」
「よくやったぞ~ヒーロ! お前は最高の使い魔だからな~!」
その言葉が嬉しかったのか、激しく胸に擦り付けてくる。
まったくカワイイ奴め。さっきの嫉妬なんかこれで吹き飛んじまったよ。
俺はひとしきり可愛がったあと、何もいなくなった道を進んでいく。
だが時折、先程の同じようにモンスターがちょこちょこ出てくるので、すべてヒーロに活躍してもらって目的地へと向かう。
そうしてナビ情報ではあと十分ほどで到着する手前で、向かう先から何やら賑やかな音が聞こえてきた。
そこは広々とした十字路になっており、俺から見て左右に大勢の人間が分かれて対峙していたのである。
……何だ?
改造したようないかついバイクに乗っていたり、木刀や刃物などを携えていて、どこか物々しい雰囲気だ。そんな二つの集団が明らかな敵意をもって睨み合っている状態。
何かきっかけがあれば、すぐに両者が激突しそうな様相を呈している。
コイツら一体……?
よく見れば、二つの集団には違いがあって、一方は右腕に赤い布を巻いており、もう一方は白い布を左腕に巻いている。
俺は《ステルス》を使って、できるだけ近くまで行き建物の陰に身を潜める。そこから何が起きているのか観察に徹した。
人の気配もなく物音一つしない場所だが、この建物内は通常ではけたたましい音がずっと鳴り響いているようなところだ。
何せここは――パチンコ店なんだから。
周りにはスロットやパチンコ台がずら~っと並んでいて、きっと平和な世の中なら、ここは人と音、そして眩い光で埋め尽くされていただろう。
……それにしてもこの《感覚共有》、めっちゃ便利だわ。
当然このスライムは、ヒーロであり、今彼女(メスなので)には一匹でパチンコ店に侵入し探索してもらっているのだ。
ヒーロは少しの隙間さえあれば、身体の平常を変化させて侵入もすることが可能なので、閉じられたドアの隙間から中へと入り込んだというわけである。
俺は店から少し離れた石垣の上に座っていた。
この共有能力は面白い感覚で、通常の俺の視界に加え、右上に別の画面が映し出されている感じでヒーロの視界を見ることができるのだ。
また通常では、嗅覚や聴覚などは俺本体が優先されているが、ヒーロに意識を集中させると、ヒーロの感覚を優先させることができる。視界も切り替わり、俺本体の視界が右上に映るといった具合だ。この切り替わりが面白い。
五分ほど、店内を見回させたあと、俺は《召喚》を使って手元に呼び戻してみた。
すると、ズズズズと地面に黒ずみが浮かび上がったあと、そこからヒーロが出現したのである。
「おぉ、マジで呼び戻せたな」
しかもこの《召喚》の仕方、どこかで見覚えがあると思ったら、ヒオナさんの能力である。
彼女が山月や吾輩を召喚する時とまったく同じ感じなので、彼女と同じスキルを得られたと考えると、どことなく得をしているような気がした。
きっと俺がこのことを伝えると「ズル~イ」とか言ってくるに違いない。
「よし、あと数回ほど試したら飯にすっか」
「キュ~キュ~!」
俺はこのスキルを満足に扱えるまで練習し終えると、その足で食事処を探すことにした。
しかしやはりどこの店も閉まっていて食べ物にありつけそうにない。
一応保存食などを持ってきて正解だった。
俺はヒーロから収納させた保存食を取り出させ空腹を満たす。
ちなみにヒーロはそこらの雑草や木などを美味そうに食べている。食費がかからなくて本当にエンゲル係数に優しい奴だ。
それにしても見事なまでに閑散とした街だ。まるでゴーストタウンにでも来たかのよう。
きっと家の中には人が住んでいるのだろうが、こんなに天気も良いのに人気がないというのは違和感ありありである。
「さてと、そんじゃ次は【榛名山】での情報収集に向かうか」
この《感覚共有》と《召喚》のコンボを使えば、俺自身がダンジョン内を探索しなくとも、内部の状況を得ることができる。
怖いのは一瞬でヒーロが倒されてしまうことだが、そこはちゃんと警戒して進ませるようにすればいい。まあ防御力関係も断然ヒーロの方が圧倒的に上なので、俺が攻略に臨むよりかは安全なのだ。
ここから【榛名山】まではそう遠くない。
車で十分程度だ。歩きでもそう時間はかからない。バスが見つからないので、街の散策がてら徒歩で向かうことにする。
そうして歩き始めると、ところどころに発見したコンビニだが、ドアやガラスが壊され中身が荒らされまくっていた。
きっと食料を確保するために襲撃したのだろう。俺の住む街でも同じだったしな。
まあ店が機能していない以上、食料を確保するには致し方ないとは思う。自給自足なんて都会じゃなかなかできないし。
完全に犯罪ではあるが、あちこちで同じような状況が起きている以上、警察も手が回らなくて放置するしかないのかもしれない。
「あれだなぁ。前に見たゾンビ映画もこんな感じだったよな」
街中でパンデミックが起き、日本中が終末を迎えてしまい、コンビニや飲食店などは真っ先に人間たちに襲撃をされていた。ああいう状況になってしまった以上、何よりも必要なのは食料なのだから。
その光景と今の世の中は似通っている。モンスターかゾンビかって話になるだけ。
そのうち街中にもぞろぞろとモンスターが湧いてくるだろうし、まさしくあのゾンビ映画のような光景になるだろう。
「っと、噂をすればだ」
どこから現れたのか、少し遠目にのっそりと動き回るモンスターを発見した。
恐らくどこかの建物がダンジョン化して、そこから出てきたのだろう。
アイツは…………狼っぽいけど。
見た目はそうだが、頭部に鋭い角が一本突き出ている。あんな狼は普通いないので、モンスターで間違いない。
しかも二体……か。こっちに気づかれたら面倒だな。
素早い相手なので、一気に間を詰めらて姿を見られたら《ステルス》の効果を発揮できない。
「ヒーロ、頼めるか?」
「キュキュ!」
やる気十分なようで、ヒーロは鳴き声をあげるとモンスターに向かって駆けていく。
俺はその様子を建物の陰からジッと観察する。
当然近づいてきたヒーロの姿に気づいた二体の狼だが、モンスターということもあってそれほど警戒心を向けてこない。
これもまたヒーロの優位性の一つ。相手がモンスターなら、ある程度油断を突けるのだ。
ヒーロは敵意を見せずに、わざと狼たちの周りを動き回っていると、一体の狼が視線を切って隙を見せたので、一気に相手に詰め寄り体当たりを食らわせた。
「キャインッ!?」
無防備に攻撃を受けた狼から、骨が砕けたような音がして地面に転がる。まだ息はあるものの、致命傷のようでビクビクと痙攣していた。
自身の身体を硬質化することができる《硬化》を使っての体当たり。狼にとってはボーリングの玉が高速で飛んできたようなものだ。それはたまったものじゃないはず。
仲間がやられたことにより、そこで初めてヒーロが敵だと認識したもう一体。
低く唸り声を上げて突進し、ヒーロに噛みついた……が、ヒーロの特異性である《物理攻撃無効化》のお蔭で、ただ穴が開くだけでヒーロには何のダメージも入らない。
そのままヒーロは形態を変化させ、身体を紐上にして狼の全身に巻き付く。
「カッ……カァッ!?」
ヒーロの攻撃力は並みじゃない。そんな力で締め付けられて、狼は全身の骨を粉砕された結果、そのまま絶命してしまい粒子状に消えた。
残った致命傷の狼は、ヒーロが《吸収》を使って体内に取り込み消失させる。
……やっぱ強さがダンチだな。最早スライムの強さじゃねえや。
古今東西、ほとんどのファンタジーな物語ではスライムは弱小モンスターのはずなのに、ヒーロはもうドラゴン級かもしれない。
彼女がいれば攻撃役としては申し分ない。
今の戦闘で、ここらのダンジョンに現れるモンスター程度なら、ヒーロの相手にならないことを知る。
「これでまだ10レベルなんだから末恐ろしいよなぁ。あと羨ましい」
やはりあれだけの攻防一体のスキルを持っているヒーロには嫉妬がある。
ヒーロはそんな俺の感情に気づくことなく、意気揚々といった感じで戻ってきた。そしてそのまま俺の胸に飛び込んで、褒めて褒めてと全身を擦り付けてくる。
こういう仕草が小動物みたいで可愛くて、俺も満足いくまで撫でてやるのだ。
「よーしよしよしよしよしよし」
「キュ~キュ~キュキュ~!」
「よくやったぞ~ヒーロ! お前は最高の使い魔だからな~!」
その言葉が嬉しかったのか、激しく胸に擦り付けてくる。
まったくカワイイ奴め。さっきの嫉妬なんかこれで吹き飛んじまったよ。
俺はひとしきり可愛がったあと、何もいなくなった道を進んでいく。
だが時折、先程の同じようにモンスターがちょこちょこ出てくるので、すべてヒーロに活躍してもらって目的地へと向かう。
そうしてナビ情報ではあと十分ほどで到着する手前で、向かう先から何やら賑やかな音が聞こえてきた。
そこは広々とした十字路になっており、俺から見て左右に大勢の人間が分かれて対峙していたのである。
……何だ?
改造したようないかついバイクに乗っていたり、木刀や刃物などを携えていて、どこか物々しい雰囲気だ。そんな二つの集団が明らかな敵意をもって睨み合っている状態。
何かきっかけがあれば、すぐに両者が激突しそうな様相を呈している。
コイツら一体……?
よく見れば、二つの集団には違いがあって、一方は右腕に赤い布を巻いており、もう一方は白い布を左腕に巻いている。
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