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第五十一話 一人の少女が六門を想っている件について
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お姉ちゃんから、有野くんが全然電話に出ないから、試しにわたしにかけて欲しいって言われてかけた。
最初の一、二回は通じなかったが、三回目には有野くんが出てくれたのでホッとする。
どうやら電源を切っていたようだけど、何か事件に巻き込まれたんじゃなくて本当に良かった。
正直今群馬にいるって聞いた時は驚いたけど、傍にはヒーロちゃんもついているようなので安心だ。
あんな小さくても、わたし何かよりも断然強いし、お姉ちゃんも戦いたくないモンスターだっていうほどである。きっとご主人様の有野くんを守ってくれるだろう。
電話を切ると、すぐにお姉ちゃんに電話をかけて顛末を伝えた。
すぐにわたしが仕事をしている【五堂神社】へと戻ってきたお姉ちゃんは深刻そうな表情を見せている。
そういえばここから出て有野くんの家に向かう際も、こんな顔をしていたような気がする。
「おかえりお姉ちゃん」
「ん、電話ありがとね。にしても六門ってば、こんな時に群馬って……はぁ」
「何かあったの? あの子の新しい未来視が出たとか?」
あの子――【五堂神社】において誰よりも巫女としての気質を備えている秘蔵っ子である。
あの子もまた『持ち得る者』として覚醒し、未来を視ることのできるスキルを持つ。
どんな未来視も、放置していたら百パーセントその通りになることから、身内でもあの子の未来視は重要とされている。
その中でも日本……いや、世界の終末を予見した未来視は、あまりにも現実離れ過ぎて、さすがに身内でも疑惑を持つ者もいる。
ただお姉ちゃんは、その未来は必ず来ると確信しているのか、終末が来てもわたしたちが行き抜けるために毎日奔走してくれているのだ。
そのせいで巻き込まれた有野くんには本当に申し訳ないが、確かに彼の力量を考えると仲間になってくれるのはとてもありがたい。
初めて会った時は、どこにでもいるような少年に見えたが、お姉ちゃんですらリタイアしそうになった大規模ダンジョンを、ほとんど一人で攻略してしまったのだ。
物腰だって柔らかいというか、接していて気楽に話せるというのはわたしとしても驚きではあった。
今まで女子学校でしか学んで来なかったので、男子という存在には少し気後れするものがあったのだ。
事実、神社に来られる男性たちに話しかけられると、ちょっと怖気づいてしまう。でも有野くんは良い意味で軽く接することができたのだ。
だからこれからも彼とは出来る限り仲良くしていきたいなって思う。
「ううん、違うけど。でもちょっと厄介そうなことが起きててね」
「厄介? わたしが聞いてもいいこと?」
「そういやシオカには言ってなかったっけ。実はね、最近変な奴らが街中をうろついてるのよ」
「変な人?」
「間違いなくそいつらは『持ち得る者』なんだけど、共通してるのは全員が黒スーツと着てサングラスをかけてること。しかも……とんでもない実力者」
「強い……ってこと? そんな人たちが一体何をしてるの?」
「………………『持ち得る者』狩りよ」
思わず「え?」と喉を鳴らしてしまった。
お姉ちゃん曰く、黒スーツの人たちは二人一組で行動していて、街中やダンジョン内にいる『持ち得る者』たちを倒しているとのこと。
「しかもただ倒すだけじゃなくて、持ち去ってるのよね~」
声音は軽い調子だが、不機嫌そうに口を尖らせている。
「これじゃスカウトできないし、こっちの縄張りにも関係なく荒らしてきてるのよ」
「まだスカウトなんかしてたんだねお姉ちゃん。もう止めたら? 成功したのって有野くんだけなんだし」
「え~だって有能な奴らが傍にいればシオカだって安全でしょ~?」
「でもあまり知らない人たちはちょっと……」
「そんなこと言って。六門とはすぐに仲良くなったくせに」
「あ、有野くんはその……話しやすかっただけで。同い年ってこともあったし……」
「ふぅん。……もしかして惚れちゃった?」
「ほっ、ほほほほ惚れちゃったなんかないでげしょ!?」
「ぷぷっ!? アッハッハッハッハ! 何よそれ! ないでげしょ! そんな噛み方あんの? アハハハハハハハ!」
「もう! もうもうっ! お姉ちゃんが変なこと急に言うからでしょっ!」
まったく、何でこうもこの姉は妹をからかうのが好きかな!
それに有野くんとはそういう関係でもないし、これからだって……まあ未来のことは分からないけどさ。
「ま、あの子はあれで食えない子よ~? ワタシと手を組んでるっていっても、隠し事なんてまだまだたっくさんあるっぽいし」
「そ、そうなの? 有野くんって素直そうなんだけど」
「あらら、そんなことじゃお姉ちゃん心配だなぁ。変な男に騙されなきゃいいけど」
「だ、騙されないし!」
「はいはい。けど六門はねぇ……怒らせない方が良い相手っていうのは確かよ」
確かに有野くんは温厚そうだし、もしキレたら……想像できないけど怖いんだろう。
「ハッキリ言っておくけど、六門が敵になるってもし言ったら、最優先で始末しなきゃいけない相手ってことよ」
「そ、そんな! 始末なんて……!」
「大丈夫。少なくてもこっちに旨みを感じている間は、あの子も裏切ったりはしないと思うし」
裏切り……嫌な言葉だ。
有野くんは真面目そうだし、わたしのことも気遣ってくれる優しい人だと思う。
何だかんだいっても、お姉ちゃんの無茶な要求にも応えてくれるし、裏切りとかは無縁な男の子じゃないだろうか。……ちょっとエッチだけど。
「ていうか今は六門のことじゃなくって、黒スーツの奴らのことよ。アイツら……何者なんだろ」
「うちの情報網でも探れないの?」
「向こうにもシオカや吾輩みたいな感知タイプがいるらしくてね。必要以上に近づけないのよ。この前吾輩に尾行を頼んだら、すぐに居場所がバレて襲撃されたわ」
それは……情報収集に長けた吾輩ちゃんがダメなら、確かに他に手立てはない。
「あ、そっか。だから有野くんなんだね?」
「そういうこと。あの子がいれば、感知とか関係ないしね」
有野くんの《ステルス》は反則級のスキルだ。何せ触れるまでどんだけ近づいても対象には気づかれないというずば抜けた隠密能力なのだから。
「けど群馬かぁ。……そういやあそこって今、結構ざわついてるって話ね」
「そうなの?」
「何かねぇ、おっきな二つの『コミュニティ』同士が縄張り争いしてるって話。そのせいで多くの一般人が巻き込まれてるらしいわ」
「そんなところに有野くんが……大丈夫かな」
「大丈夫でしょ。六門が本気で逃げたら誰も勝てないわよ。それに今はヒーロもいる。あのチートスライムまでいるんだから、そんじょそこらの相手に囲まれたって生き残れるわよ……多分」
「そこは断定してよっ、お姉ちゃん!」
「だってぇ、物事には絶対とかないし~」
確かにそうだけど、姉として妹の不安を拭う手助けくらいはしてほしかった。
「……あ、そういえば帰ってきたら本堂に来てってお父さんが言ってたよ」
「うげ、また説教かぁ」
「神社のお仕事をサボってるんだからしょうがないじゃない」
「その分、将来のために骨を折ってるんだけどなぁ」
やれやれ~と行きたくなさそうな表情で、本堂に向かって歩き始めるお姉ちゃん。
するとお姉ちゃんが何を思ったのかピタリと足を止めると、わたしに向けて口を開く。
「六門から何か連絡が来たら教えてね~」
手を振りながらお姉ちゃんはその場を去って行った。
わたしは境内の掃除をしつつ、先程聞いたお姉ちゃんの話を思い出す。
「群馬にも黒スーツの人が出たりしないよね? ……有野くん、無事で帰ってきてね」
彼の無事を祈り、わたしは少しどんよりとしている空を仰いだ。
最初の一、二回は通じなかったが、三回目には有野くんが出てくれたのでホッとする。
どうやら電源を切っていたようだけど、何か事件に巻き込まれたんじゃなくて本当に良かった。
正直今群馬にいるって聞いた時は驚いたけど、傍にはヒーロちゃんもついているようなので安心だ。
あんな小さくても、わたし何かよりも断然強いし、お姉ちゃんも戦いたくないモンスターだっていうほどである。きっとご主人様の有野くんを守ってくれるだろう。
電話を切ると、すぐにお姉ちゃんに電話をかけて顛末を伝えた。
すぐにわたしが仕事をしている【五堂神社】へと戻ってきたお姉ちゃんは深刻そうな表情を見せている。
そういえばここから出て有野くんの家に向かう際も、こんな顔をしていたような気がする。
「おかえりお姉ちゃん」
「ん、電話ありがとね。にしても六門ってば、こんな時に群馬って……はぁ」
「何かあったの? あの子の新しい未来視が出たとか?」
あの子――【五堂神社】において誰よりも巫女としての気質を備えている秘蔵っ子である。
あの子もまた『持ち得る者』として覚醒し、未来を視ることのできるスキルを持つ。
どんな未来視も、放置していたら百パーセントその通りになることから、身内でもあの子の未来視は重要とされている。
その中でも日本……いや、世界の終末を予見した未来視は、あまりにも現実離れ過ぎて、さすがに身内でも疑惑を持つ者もいる。
ただお姉ちゃんは、その未来は必ず来ると確信しているのか、終末が来てもわたしたちが行き抜けるために毎日奔走してくれているのだ。
そのせいで巻き込まれた有野くんには本当に申し訳ないが、確かに彼の力量を考えると仲間になってくれるのはとてもありがたい。
初めて会った時は、どこにでもいるような少年に見えたが、お姉ちゃんですらリタイアしそうになった大規模ダンジョンを、ほとんど一人で攻略してしまったのだ。
物腰だって柔らかいというか、接していて気楽に話せるというのはわたしとしても驚きではあった。
今まで女子学校でしか学んで来なかったので、男子という存在には少し気後れするものがあったのだ。
事実、神社に来られる男性たちに話しかけられると、ちょっと怖気づいてしまう。でも有野くんは良い意味で軽く接することができたのだ。
だからこれからも彼とは出来る限り仲良くしていきたいなって思う。
「ううん、違うけど。でもちょっと厄介そうなことが起きててね」
「厄介? わたしが聞いてもいいこと?」
「そういやシオカには言ってなかったっけ。実はね、最近変な奴らが街中をうろついてるのよ」
「変な人?」
「間違いなくそいつらは『持ち得る者』なんだけど、共通してるのは全員が黒スーツと着てサングラスをかけてること。しかも……とんでもない実力者」
「強い……ってこと? そんな人たちが一体何をしてるの?」
「………………『持ち得る者』狩りよ」
思わず「え?」と喉を鳴らしてしまった。
お姉ちゃん曰く、黒スーツの人たちは二人一組で行動していて、街中やダンジョン内にいる『持ち得る者』たちを倒しているとのこと。
「しかもただ倒すだけじゃなくて、持ち去ってるのよね~」
声音は軽い調子だが、不機嫌そうに口を尖らせている。
「これじゃスカウトできないし、こっちの縄張りにも関係なく荒らしてきてるのよ」
「まだスカウトなんかしてたんだねお姉ちゃん。もう止めたら? 成功したのって有野くんだけなんだし」
「え~だって有能な奴らが傍にいればシオカだって安全でしょ~?」
「でもあまり知らない人たちはちょっと……」
「そんなこと言って。六門とはすぐに仲良くなったくせに」
「あ、有野くんはその……話しやすかっただけで。同い年ってこともあったし……」
「ふぅん。……もしかして惚れちゃった?」
「ほっ、ほほほほ惚れちゃったなんかないでげしょ!?」
「ぷぷっ!? アッハッハッハッハ! 何よそれ! ないでげしょ! そんな噛み方あんの? アハハハハハハハ!」
「もう! もうもうっ! お姉ちゃんが変なこと急に言うからでしょっ!」
まったく、何でこうもこの姉は妹をからかうのが好きかな!
それに有野くんとはそういう関係でもないし、これからだって……まあ未来のことは分からないけどさ。
「ま、あの子はあれで食えない子よ~? ワタシと手を組んでるっていっても、隠し事なんてまだまだたっくさんあるっぽいし」
「そ、そうなの? 有野くんって素直そうなんだけど」
「あらら、そんなことじゃお姉ちゃん心配だなぁ。変な男に騙されなきゃいいけど」
「だ、騙されないし!」
「はいはい。けど六門はねぇ……怒らせない方が良い相手っていうのは確かよ」
確かに有野くんは温厚そうだし、もしキレたら……想像できないけど怖いんだろう。
「ハッキリ言っておくけど、六門が敵になるってもし言ったら、最優先で始末しなきゃいけない相手ってことよ」
「そ、そんな! 始末なんて……!」
「大丈夫。少なくてもこっちに旨みを感じている間は、あの子も裏切ったりはしないと思うし」
裏切り……嫌な言葉だ。
有野くんは真面目そうだし、わたしのことも気遣ってくれる優しい人だと思う。
何だかんだいっても、お姉ちゃんの無茶な要求にも応えてくれるし、裏切りとかは無縁な男の子じゃないだろうか。……ちょっとエッチだけど。
「ていうか今は六門のことじゃなくって、黒スーツの奴らのことよ。アイツら……何者なんだろ」
「うちの情報網でも探れないの?」
「向こうにもシオカや吾輩みたいな感知タイプがいるらしくてね。必要以上に近づけないのよ。この前吾輩に尾行を頼んだら、すぐに居場所がバレて襲撃されたわ」
それは……情報収集に長けた吾輩ちゃんがダメなら、確かに他に手立てはない。
「あ、そっか。だから有野くんなんだね?」
「そういうこと。あの子がいれば、感知とか関係ないしね」
有野くんの《ステルス》は反則級のスキルだ。何せ触れるまでどんだけ近づいても対象には気づかれないというずば抜けた隠密能力なのだから。
「けど群馬かぁ。……そういやあそこって今、結構ざわついてるって話ね」
「そうなの?」
「何かねぇ、おっきな二つの『コミュニティ』同士が縄張り争いしてるって話。そのせいで多くの一般人が巻き込まれてるらしいわ」
「そんなところに有野くんが……大丈夫かな」
「大丈夫でしょ。六門が本気で逃げたら誰も勝てないわよ。それに今はヒーロもいる。あのチートスライムまでいるんだから、そんじょそこらの相手に囲まれたって生き残れるわよ……多分」
「そこは断定してよっ、お姉ちゃん!」
「だってぇ、物事には絶対とかないし~」
確かにそうだけど、姉として妹の不安を拭う手助けくらいはしてほしかった。
「……あ、そういえば帰ってきたら本堂に来てってお父さんが言ってたよ」
「うげ、また説教かぁ」
「神社のお仕事をサボってるんだからしょうがないじゃない」
「その分、将来のために骨を折ってるんだけどなぁ」
やれやれ~と行きたくなさそうな表情で、本堂に向かって歩き始めるお姉ちゃん。
するとお姉ちゃんが何を思ったのかピタリと足を止めると、わたしに向けて口を開く。
「六門から何か連絡が来たら教えてね~」
手を振りながらお姉ちゃんはその場を去って行った。
わたしは境内の掃除をしつつ、先程聞いたお姉ちゃんの話を思い出す。
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