世界がダンジョン化していく件について ~俺のユニークジョブ『回避術師』は不敗過ぎる~

十本スイ

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第五十五話 悩みながらも新しいスキルを獲得する件について

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 現在俺は、ヒーロと一緒にある場所へやって来ていた。
 そこは大型のデパートである。

 もう日も暮れて休む場所が必要だったため、どこか適当なところが無いかなと探していいたところ、このデパートを見つけたのだ。
 ただ窓ガラスや入口などが破壊されていて、中も台風が通ったあとのように荒らされている。

 きっといろんな奴らが侵入し商品を盗んでいったのだろう。あとは店の連中が、ここから逃げ去る前にどこかへ運び去ったか。
 ほとんどの商品が綺麗になくなっているので、つい溜め息が零れ出る。
 俺の目的は食料と寝床なのだが、寝床はともかくこれでは食料は期待はできないだろう。
 食料なんて真っ先に狙われるのだから。
 それでも一応俺は、食料品が売られているフロアである地下へと向かう。

「……ん? どうしたヒーロ?」

 腕に抱えているヒーロがもぞもぞしだしたので尋ねてみると、自分の身体の一部を伸ばして、空中に『気配、あり』という文字を作ってみせた。

「……人かそれとも……」

 俺はヒーロを懐に入れると、《ステルス》を使って止まっているエスカレーターを降りていく。
 いわゆるデパ地下であるそこは、様々な食料品を売っている店が立ち並び、本来なら奥様方に大人気な場所のはずだが、今ではその賑わいも陰に潜み照明も落ちているので、お化け屋敷のような雰囲気が漂っている。

 そして……。

 ……いた。モンスターだったのか。

 ゴブリンに似ているが、それよりも二回りほど大きなガタイで、明らかに凶悪そうな存在がウロウロしている。

 ……ダンジョン化? いや……地下室だけってことはないよな?

 デパート自体がそうなっているのなら分かるが、一階フロアにはモンスターの気配なんてなかった。
 ということは、どこかから現れたモンスターが、フラフラとこの地下へやってきたという説が浮かぶが……。

 多分そうだろうな。他にモンスターが見当たらんし。

 ダンジョン化しているなら、モンスターが一体ってことはない。
 見ればまだ残っている食料品を手にし食べていた。
 モンスターだって生物で間違いないない。生物である以上は、何かを食して栄養を補給しなければ生きていけないのは当然。

 だから外をフラフラしていた時に、ここのニオイを嗅ぎ取って降りてきたという推察はきっと当たっているだろう。
 一体なら倒しておくか。その方がゆっくり散策できるしな。
 ただ相手の情報が一切ないのは怖い。

 基本的にガタイが良い奴って強いイメージがあるしなぁ。
 …………やはり《鑑定》のスキルを取るか?

 スキルポイントが50も減るのは痛いが、それさえあれば相手の情報を取得することができるし、戦うか戦わないかの選択だって悩まずに済む。

 でも50かぁ…………痛いよなぁ。

 ただ価値でいえば俺が欲している《テレポート》にと同等くらいの重要さはある。
 それにこのスキルは、ある制限もかけられているのだ。

 ……………………………………よし!

 俺は《鑑定》のスキルを取ることに決めた。必ず取得しようと思っていたものだし、早いか遅いかの違いだ。
 それに《テレポート》は、まだジョブランクも足りないことだし、スキルポイントだってまた貯めればいいだけである。
 俺はステータス画面を開いて、《鑑定》のスキルを取得した。


鑑定    消費気力:4

 対象の情報を得ることができる。ランクを上げることで、取得できる情報が増えていく。また《限界数スキル》でもあり、その稀少度はかなり高い。



 この《限界数スキル》というのは何か。
 読んで字のごとく、数に限りが存在するスキルということ。

 唯一無二のユニークジョブのようなものではないが、取得できる人数が決められているらしい。
 つまりある一定の人数が、このスキルを得るとそれ以上は幾らポイントがあってもゲットすることができなくなる、いわゆる早い者勝ちのスキルというわけだ。

 仮に現時点で取得人数が満たされていたら、このスキルの欄から消失していた。
 だからまだ時間には余裕があると思っていたが、そのうち絶対になくなりそうだったこともあり、スキルポイントは痛かったが取得しておいたというわけである。

 ということで俺はさっそく《鑑定》を使って、あのデカブツの情報を確認してみた。
 するとデカブツの頭上に、それことRPGみたいに名前やレベル、体力と気力が浮かび上がる。

【レベル:17 名前:マッスルゴブリン 体力:130 気力:70】

 おお、マジで便利! こいつはやっぱゲットしといて正解だったわ!

 この情報だけでも十分だ。特にレベルが判明するのはありがたい。

 17か……それに体力もそんなに多くねえ。……やってみるか。

 俺が懐にいるヒーロに視線を落とすと、任せろと言わんばかりに頷きを見せる。
 そこで《感覚共有》を使って、頭の中で指示を出す。

〝いいかヒーロ。俺が気を引くから、お前は背後から襲い掛かれ〟

 俺はヒーロを床にそっと置くと、抜き足状態でマッスルゴブリンへと近づいていく。
 そして奴の目前に立つが、いまだ俺の気配には気づいていない。

 じゃあ先制攻撃を頂くとするか。

 サバイバルナイフを構え、一気に対象に向かって駆け出す。
 そしてそのまま奴の左目にナイフを突き立ててやる。

「グガァァァァァァァァァッ!?」

 突然襲い掛かってきた激痛に、両手で左目を押さえ見悶えるマッスルゴブリン。
 俺はすぐに距離を取るが、奴に攻撃をしたことで姿は認識されている。
 一気に膨れ上がる殺意を真正面から受け、俺は思わず一歩退いてしまう……。
 相手の体力が一気に20も削られたことを視認することができた。やはり便利な力だ。

「前ばっか気にしてたら危ないぜ?」

 その直後、刃状に擬態させた身体でマッスルゴブリンの背中から刀のように切りつけていくヒーロ。
 攻撃力は圧倒的に俺よりも高いヒーロの攻撃は、無防備の身体にクリティカルヒットになったのか、どんどん体力が削られていく。

 当然マッスルゴブリンが何事かと後ろを振り返るが、その瞬間にヒーロは身体を伸ばしてマッスルゴブリンの首に巻き付く。身体を硬化させてどんどん締め付けていく。
 俺の目には、面白いように体力が下がっていく光景が映っている。
 そして10を切った頃から、マッスルゴブリンの筋肉が弛緩し力を失っていく様子が見て取れた。

 ――ゴキンッ!

 渇いた音が響くと同時に、マッスルゴブリンの体力が0になる。
 そのまま粒子状に消失し討伐成功を示した。


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