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第69話 何だかモヤモヤする件について
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「………………ん?」
「どうかしたの、リーダー?」
「いや、何でもねえ。いいかお前ら、こっからは気合入れろよ」
俺ら『紅天下』の精鋭部隊は、現在【榛名富士】の中腹までやってきていた。
目的はもちろん我が妹である莱夢を始め、『紅天下』の仲間たちを救い出すこと。
「よし、ここからは涼香。お前の感知能力が頼りになる。頼むぞ」
「任せなさい。――《亜人化》!」
我が『紅天下』が誇る唯一の感知タイプ。それが彼女だ。
涼香の全身が白い体毛に覆われていき、同時に身体そのものが小さくなっていく。
フワフワとした毛に包まれた、赤い瞳と長い耳を持つ動物へと変貌したその姿。
紛れもなく〝兎〟であった。
彼女が俺の肩にピョンと飛び移ると、耳をピクピクと動かし始める。
「…………どうやら近くにモンスターの気配はないわ。でも大勢の人間の気配が、ロープウェイ乗り場付近にあるみたい」
「よし、ナイスだ」
「でも莱夢も近くにいないってことはもしかしたら……」
「捕まった可能性が高いってことか?」
「…………多分」
ちっ、だから一人で行かせたくなかったんだ。
だが血のニオイがしないと涼香が言うので、まだ彼女が生きている可能性は十二分にある。
そもそも黒スーツの連中は『持ち得る者』を集めている節があるのだ。優秀な莱夢を殺すとは考えられない。きっと他の仲間たちのように捕縛されているはず。
「涼香は引き続きモンスターの感知を頼む。淳二、お前も《トラップゲット》のスキルで罠を見極めてくれ」
「任せなって。『盗賊』として抜かりねえってとこ見せてやんよ!」
「舞は、突然敵が現れた時に備えて俺と信行で警戒しつつ進むぞ」
「了解です、リーダー」
「この中で『武闘家』の俺が一番奇襲に対応できるからな! 絶対にみんなを守ってやるぜ!」
本当に頼もしい奴らだ。あとはこのままできる限り無駄な戦闘を避けながらロープウェイ乗り場を目指していく。
……莱夢……無事でいてくれよ。
俺の唯一、血の繋がった妹。絶対に失うわけにはいかない。
あの時………すべてを失ったと思って壊れかけていた頃、莱夢が俺を救ってくれた。
アイツがいてくれたから今の俺がいる。アイツがいてくれたから、今俺の傍には涼香や淳二たちがいてくれるのだ。
両親に託された大切な存在。俺の生き甲斐。必ず救い出す。
「待ってろよ……莱夢!」
※
今、俺とヒーロは高速バスがある停留所まで来ていた。
そしてバスに乗り込み、窓際の席に座って出発までぼ~っと、そこから見える【榛名富士】を眺めている。
あと十分もすればバスが走り出し、二時間後には我が家がある街に到着するだろう。
群馬に来たことは正解だった。様々な情報を得られたからだ。
食料もいろいろゲットできたし、モンスターも討伐して経験値を得た。
得にヒーロとの連携が鍛えられたのは大きい。これでまた今後の攻略にも大いに役に立ってくれることだろう。
家に帰ったら、ヒオナのところに顔を出して情報交換を行おう。
群馬で得た知識を対価に、他のダンジョン情報を得るのが良いだろう。そしたらまた今回のように遠出でもしてダンジョン調査に出向くのも悪くない。
そうやって攻略できるダンジョンならば攻略して、そうでないなら調査という形で終われば、命の危険も減るし効率だって良いはず。
無理をしない。それが一番の生存率を上げる方法が。
面倒ごとや争いごとに無暗に巻き込まれないようにするのが一番だ。
そして今回も、こうして平和的に帰ることができている。
『紅天下』のアジトに連れられたものの、運良く情報だけを得られ生き延びているのだから上々だ。
蓬一郎さんには俺のことがバレてしまったが、彼の人柄のお蔭で何事もなかった。
あそこで俺を利用しないばかりか、助けを求めない人格者の彼ならば、俺のことを言い触らすような真似はしないだろう。
……これでいい。無傷のまま群馬を去ることができる。価値のある情報収集ができた。
「…………それなのにな……」
何故だろう。何故こんなにもモヤモヤしてしまっているのだろうか。
結果だけを見れば最高とはいかないものの、最善の評価をつけてもいいくらいの旅だったはず。
それなのにどういうわけか、大手を振って喜べる気分じゃない。
俺は膝の上に乗っているヒーロを撫でながら、ふと蓬一郎さんが言った言葉が脳裏に過ぎる。
『お前の生き方はいつか破綻するぞ』
何が破綻だ。破綻なんかするわけがない。だって今までそうやって生き続けてきたし、全部上手くいっているんだから。
『信頼できない人間は、いつか……壊れちまう』
『いいもんだぜ。人を信頼し、信頼されるっつうのはよ』
グルグルと彼が言った言葉が頭の中でリフレインされていく。
「…………ああ、うっせえな」
「キュ? キュキュ?」
「何でもねえよ、ヒーロ」
「キュー……」
本当に何でもないから……だから、そんな不安そうな声を出すなって。
「……信頼なんてクソくらえだよな」
そんなもんは本当の意味でこの世には無い。
あったとしても表面上、体裁を取り繕うだけのものだ。
そこに〝本物〟なんか無い。
たとえどこかに存在したとしても、少なくても俺なんかが手にできる代物なんかじゃないんだ。
俺は過去に経験した出来事を不意に思い出す。
今の俺を作り上げた原因の、その事件を――。
「どうかしたの、リーダー?」
「いや、何でもねえ。いいかお前ら、こっからは気合入れろよ」
俺ら『紅天下』の精鋭部隊は、現在【榛名富士】の中腹までやってきていた。
目的はもちろん我が妹である莱夢を始め、『紅天下』の仲間たちを救い出すこと。
「よし、ここからは涼香。お前の感知能力が頼りになる。頼むぞ」
「任せなさい。――《亜人化》!」
我が『紅天下』が誇る唯一の感知タイプ。それが彼女だ。
涼香の全身が白い体毛に覆われていき、同時に身体そのものが小さくなっていく。
フワフワとした毛に包まれた、赤い瞳と長い耳を持つ動物へと変貌したその姿。
紛れもなく〝兎〟であった。
彼女が俺の肩にピョンと飛び移ると、耳をピクピクと動かし始める。
「…………どうやら近くにモンスターの気配はないわ。でも大勢の人間の気配が、ロープウェイ乗り場付近にあるみたい」
「よし、ナイスだ」
「でも莱夢も近くにいないってことはもしかしたら……」
「捕まった可能性が高いってことか?」
「…………多分」
ちっ、だから一人で行かせたくなかったんだ。
だが血のニオイがしないと涼香が言うので、まだ彼女が生きている可能性は十二分にある。
そもそも黒スーツの連中は『持ち得る者』を集めている節があるのだ。優秀な莱夢を殺すとは考えられない。きっと他の仲間たちのように捕縛されているはず。
「涼香は引き続きモンスターの感知を頼む。淳二、お前も《トラップゲット》のスキルで罠を見極めてくれ」
「任せなって。『盗賊』として抜かりねえってとこ見せてやんよ!」
「舞は、突然敵が現れた時に備えて俺と信行で警戒しつつ進むぞ」
「了解です、リーダー」
「この中で『武闘家』の俺が一番奇襲に対応できるからな! 絶対にみんなを守ってやるぜ!」
本当に頼もしい奴らだ。あとはこのままできる限り無駄な戦闘を避けながらロープウェイ乗り場を目指していく。
……莱夢……無事でいてくれよ。
俺の唯一、血の繋がった妹。絶対に失うわけにはいかない。
あの時………すべてを失ったと思って壊れかけていた頃、莱夢が俺を救ってくれた。
アイツがいてくれたから今の俺がいる。アイツがいてくれたから、今俺の傍には涼香や淳二たちがいてくれるのだ。
両親に託された大切な存在。俺の生き甲斐。必ず救い出す。
「待ってろよ……莱夢!」
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今、俺とヒーロは高速バスがある停留所まで来ていた。
そしてバスに乗り込み、窓際の席に座って出発までぼ~っと、そこから見える【榛名富士】を眺めている。
あと十分もすればバスが走り出し、二時間後には我が家がある街に到着するだろう。
群馬に来たことは正解だった。様々な情報を得られたからだ。
食料もいろいろゲットできたし、モンスターも討伐して経験値を得た。
得にヒーロとの連携が鍛えられたのは大きい。これでまた今後の攻略にも大いに役に立ってくれることだろう。
家に帰ったら、ヒオナのところに顔を出して情報交換を行おう。
群馬で得た知識を対価に、他のダンジョン情報を得るのが良いだろう。そしたらまた今回のように遠出でもしてダンジョン調査に出向くのも悪くない。
そうやって攻略できるダンジョンならば攻略して、そうでないなら調査という形で終われば、命の危険も減るし効率だって良いはず。
無理をしない。それが一番の生存率を上げる方法が。
面倒ごとや争いごとに無暗に巻き込まれないようにするのが一番だ。
そして今回も、こうして平和的に帰ることができている。
『紅天下』のアジトに連れられたものの、運良く情報だけを得られ生き延びているのだから上々だ。
蓬一郎さんには俺のことがバレてしまったが、彼の人柄のお蔭で何事もなかった。
あそこで俺を利用しないばかりか、助けを求めない人格者の彼ならば、俺のことを言い触らすような真似はしないだろう。
……これでいい。無傷のまま群馬を去ることができる。価値のある情報収集ができた。
「…………それなのにな……」
何故だろう。何故こんなにもモヤモヤしてしまっているのだろうか。
結果だけを見れば最高とはいかないものの、最善の評価をつけてもいいくらいの旅だったはず。
それなのにどういうわけか、大手を振って喜べる気分じゃない。
俺は膝の上に乗っているヒーロを撫でながら、ふと蓬一郎さんが言った言葉が脳裏に過ぎる。
『お前の生き方はいつか破綻するぞ』
何が破綻だ。破綻なんかするわけがない。だって今までそうやって生き続けてきたし、全部上手くいっているんだから。
『信頼できない人間は、いつか……壊れちまう』
『いいもんだぜ。人を信頼し、信頼されるっつうのはよ』
グルグルと彼が言った言葉が頭の中でリフレインされていく。
「…………ああ、うっせえな」
「キュ? キュキュ?」
「何でもねえよ、ヒーロ」
「キュー……」
本当に何でもないから……だから、そんな不安そうな声を出すなって。
「……信頼なんてクソくらえだよな」
そんなもんは本当の意味でこの世には無い。
あったとしても表面上、体裁を取り繕うだけのものだ。
そこに〝本物〟なんか無い。
たとえどこかに存在したとしても、少なくても俺なんかが手にできる代物なんかじゃないんだ。
俺は過去に経験した出来事を不意に思い出す。
今の俺を作り上げた原因の、その事件を――。
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