世界がダンジョン化していく件について ~俺のユニークジョブ『回避術師』は不敗過ぎる~

十本スイ

文字の大きさ
60 / 62

第74話 潜水士が本領発揮する件について

しおりを挟む
「ちっ、鬱陶しいスキルですね」

 しかし危なかった。俺に《潜水》がなけりゃ、今ので大ダメージを受けていたのは間違いない。
 遠距離も中距離もこっちが不利。加えて接近戦もさっき見た通りだ。

 マジでコイツら何者だ。こんな腕利きが集まって、何で『持ち得る者』狩りなんかしてる?

 いや、今は考えるのはよそう。俺らの目的はコイツらの討伐なんかじゃねえ。真悟たちを救い出すことだ。
 俺は地面に潜りながら、今度は黒スーツの男の背後へ現れる。

「二度同じ手はくいませんよ!」

 予想していたのか、振り向き様に裏拳を放ってくる。
 だが俺も迎撃は予想していた。その拳を受け止め、奴の腕を掴む。
 そのまま一本背負いをくらわせようとしたその時、またも身体が浮かんでしまう。

「そのような攻撃をくらうとでも? 調子に乗ならいでください」
「……調子に乗ってんのはてめえだ!」
「何を……」
「――《潜心《ソウルダイブ》》!」
「ん――っ!?」

 直後、男の瞳にフッと色が消える。
 同時に俺の意識は奴の精神へと潜り込んだ。

 俺のこのスキルは、相手の魂にすら潜り込むことができる。
 あまり深く潜ると、逆に相手の意識に取り込まれてしまう可能性があるが、意識を刈り取るくらいはすぐにできる。

 本来なら時間をかけて、コイツらが何者なのか探った上で廃人にでもしてやりたいところだが、さすがに時間もないし、こちらの気力がごっそり減ってしまい、後の戦いに尾を引いてしまう。
 だから少ない気力で行使できるのは意識を刈り取るくらいなので、せめてそれだけは成功させる。

 いつもみたいに周囲が宇宙のような空間に入り込んだ俺は、大きな青白い火の玉のようなものから伸び出ている幾つかの線を見分けていく。
 それら一本一本が、記憶であったり意識だったりする。記憶の線を断ち切ることで、その記憶を抹消することができるのだ。

 こうして《巨人病》にかかった者たちを救ってきた能力である。
 俺は意識の線を辿り、その線を両手で握り込み力を込めて引き千切った。
 そしてすぐに《潜心》を中断して、俺の身体へと意識を戻す。

「――っ! ……ふぅ」

 やはりこの能力の消耗は激しい。たった数秒でもかなりの気力を使うのだ。

 しかしそのお蔭で――――パタリ。

 黒スーツの男が前のめりに倒れた。

「……一人撃退」

 これでしばらくは気絶中だ。その間に仲間を救い出す。

 ……最優先は真悟たちを操ってる男の方だな。

「あちゃあ~、まさか宗介くんがやられちゃうなんてねぇ」

 少しも驚いていない様子だ。このオッサン、どこか底が知れねえ。
 こんな掴みどころのない人間は珍しい。これまで多くの人間とケンカしてきたが、このオッサンとだけはまともにやり合うなって本能が警告を鳴らしている。

「役立たず。無能。これだからゲイは」

 女の方も別段表情は変わらない。

 え? ていうかコイツ、ゲイだったの? 

 ちょっとケツの穴がキュッとなってしまったのは秘密にしておこう。

「淳二! 信行! お前らは女を頼む! あのオッサンは俺だ相手する! 涼香たちは今のうちに離れろ!」

 全員が俺の指示を受け行動を開始する。
 だがその時だ。操られた真悟たちが、俺たちに襲い掛かってきた。
 総勢九人の『持ち得る者』だ。
 その中に仲間は四人。傷つけるわけにはいかないし、その上……。

「がぁぁぁぁっ!」
「ちぃぃっ!」

 俺の頭上からハンマーのように大きな拳が降ってくる。
 それを交わし、攻撃をしてきた奴から距離を取った。

「…………操られていても面倒さは変わらねえか……冨樫ぃ」

 恐らくこの中で最大の攻撃力を持った敵だ。 
 別に容赦はしなくてもいいが、コイツ相手だとこっちも全力でやらないといけない。

 とてもシャツ姿の男を同時に相手にできない。
 それに真悟たちが涼香たちの前に立ち塞がっている。
 舞の結界のお蔭で攻撃は防いでいるが、いつまでも結界を張り続けていられるわけじゃない。彼女にも気力の限界があるのだから。

「……悪いけどよぉ、出し惜しみはしねえ。まずは富樫、てめえを潰させてもらうぜ!」

 俺は拳の連撃を放ってくる冨樫に対し、回避しながら隙を探る。
 すでに奴は『亜人化』しているので、一撃でもまともにくらったらアウトだ。
 本人に意識がないせいか、何も考えずに暴力を振り回してくる。
 そのため一撃一撃が大きく、その隙をつくべきと判断した。

 ――ここだ!

 奴が大きく拳を振りかぶった直後、俺は地面に潜って逃げ、すぐさま奴の背後へと飛び出た。
 そのまま冨樫の後頭部にそっと触れる。

「――《潜水》!」

 悪いな……冨樫。お前とはもっと違う形で勝負をつけたかったべえ。

「――《内部衝撃《イン・ブレイク》》!」

 体内の中で暴れ回り、その衝撃で内臓にダメージを与えていく。

「がはぁっ!?」

 冨樫が大量の鮮血を吐いて膝をつく。内臓が破裂したかもしれない。そしてそのままゆっくりと仰向けに倒れた。
 俺は富樫の身体から出るが……。

「はあはあはあ……くっ」

 立て続けの大技。さすがに気力の消耗が激しい。
 だがこれで冨樫を……そう思ったが、俺の背後に立つ大きな人影。
 見ればそこには冨樫が立っていた。
 虚を突かれた俺は、奴に腹を殴られてしまう。

「がはふぅっ!?」

 凄まじい一撃で吹き飛ばされる俺。

「蓬一郎っ!?」
「イチ兄ちゃん!?」

 涼香と莱夢が俺の名を呼ぶ。
 激しく地面を転がった俺は、その先にあった木にぶつかって止まる。

「っ……かはっ」

 マズイ、今の一撃で肋骨の五番と六番が砕けたか……それに七番もヒビが……っ!

 それに吐血をしたことで、内臓が傷ついたことも分かる。
 だがこのまま寝ているわけにはいかない。必死で立ち上がり、同じように咳き込んでいるが無表情のままの富樫を睨みつけた。

 そうか……操られてるから、痛みも感じねえってわけだな。

 普通なら《内部衝撃》をまともに受けたことで、もう立っているのも無理なはず。
 しかし強制的に身体を動かされているのだとしたら、どれだけ痛みを与えても無意味。物理的に立てないようにしなければ戦いは終わらないのだ。

「にしても……相変わらずの……くっ、バカ……力だなコイツは」

 元々腕力には定評のあった不良だったが、さすがは『亜人闘士』である。たった一撃でこれなのだから、攻撃力だけに関していえば理不尽さを覚えた。
 この状態で戦闘を続けるのは正直遠慮願いたいが、まだ状況は何一つ良くなっていない。むしろ悪くなっているといえる。
 やはり真悟や富樫たちを操っている張本人を何とかしなければどうにもならない。

 しかし――だ。

 バタッ、バタッと、二人の人間が地面に倒れるのを見た。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...