ゲーム世界が侵食してくる ~開発者の知識で無双する~

十本スイ

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第3話 終末の地球

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 最低ランクは〝F〟で、ここから、〝F+〟〝F++〟〝E--〟〝E-〟〝E〟と、一つのランクを上げるのに、五段階の開きがあるのだ。
 そして最高ランクは、〝S〟。

 仮にすべてのランクが〝S〟ならば、ラスボスも目をつむりながら倒せることだろう。またそうなる可能性があるのは、レア度の極端に高い勇者だけ。

(この『食の勇者』だけのスキルも、かなり貴重なんだけどな)

 スキルというのは、先天的に持っていたり、後天的に習得できる技術のことであり、《地図》と《袋》は、『勇者』なら誰もが持つ初期スキル。
 ただ、『民』であったとしても、レベルを上げて〝SPスキルポイント〟を獲得することで、システム画面で、そのポイントを消費し、スキルツリーを成長させれば様々なスキルを得ることが可能だ。

 しかし、『民』の場合は、最初から何も与えられておらず、たとえレベルを上げても、獲得できる〝SP〟は少なく、覚えるためのポイント消費率も高い。だから、『勇者』と『民』とでは、根本的に潜在的な価値の差が大きいのだ。

 また、『勇者』だけに許された先天的スキルである――〝ブレイブスキル〟。これは、その勇者に特化したスキルであり、強力無比な能力を秘めるものが多い。そして、〝SP〟を使用することにより、成長させることも可能なのだ。

 この『食の勇者』に特化した《万物食化》は、この世にあるあらゆるものを食すことができて、そのレア度によって、一時的にステータスを増加させたり、有用なバフをかけたり、戦闘にも探索にも非常に重宝できる最高に近いスキルなのだ。

 仮にSランク指定のアイテムを食べれば、一時的に無敵状態になったり、一時的にパラメーターの一つを〝S〟にするなんてこともできる。
 これを聞けば、どれだけ『特性勇者』が特別か理解できるだろう。
 だが、十束にとっては、こんな魅力的な称号でも不足なのである。

(俺は、絶対にあの称号が欲しい)

 十束には必ず取得したい称号があり、それだけしか見えていない。

「ここが『ブレイブ・ビリオン』の世界なら、多分ここは――【始まりの砂浜】の一つなんだろう」

 ユーザーがゲームを始めて、初めに降り立つ場所。当初は混乱して分からなかったが、何となく見覚えのある砂浜だということを知る。
 何もないように見える砂浜。そう、ここからユーザーの冒険が始まるのである。

(ならここにはアレがあるはずだ)

 その目的のものを探すために、十束はその場から歩き出した。
 海とは正反対にある森の中へと歩を進めていく。見た目は何の変哲もない木々が生えていて、動物や昆虫すら存在しない。

 すると、視線の先にあるものを見つけて、

「――やっぱりあったな」

 思わずそう口にした。
 そこは空間が黒々と渦状に歪んだ、不気味な場所だった。まるで異世界にでも通じるような扉だと、ファンタジーに造詣が深い人なら感じることだろう。

(よし、試してみるか)

 十束は、持っていた《メガフォーク》を、渦の中へと入れ込んでいく。
 ズズズ……と、何の抵抗もなく進んでいき、半分くらい埋まったところで、そのまま武器を地面に置いた。

(これで問題なければバグを利用できるんだが……)

 そう願いつつ、今度は十束自身が渦の中へと足を踏み入れた。

 すると、その先には――――変わり果てた東京の街が広がっていたのである。
 まるで何百年、何千年も放置されたかのように、あのコンクリートジャングルだった街並みは、草木が地面を突き破って生い茂っており、半壊、あるいは風化したビルや建物には、蔓や苔などが付着して、明らかに廃墟と化していた。

 あれだけのビル群も、今では見る影もない。いうなれば終末世界のようだ。

「っ……これは……マジで〝廃国化〟してやがるな」

 異世界と融合し、ほとんどの文化が機能しなくなってしまい、同時に急速に成長し過ぎた自然が街を飲み込んでしまった。国という存在自体が廃されたようなこの状況から、〝廃国化〟と呼ばれている。
 そして、それは日本のみにとどまらず、世界中で起こっている超怪奇現象だ。

「……っ!?」

 十束は何となく気配を感じ取り、傍にあった廃車の陰に身を潜ませた。
 気配を感じた場所を視線で探ってみると、そこには驚くべきモノが居た。

 身体は力士のように膨らんでいるが、その体躯は三倍以上もある。さらに肌は深緑色と不気味で、顔つきに関しては、鮮血の鋭い瞳と、口に生えた巨大な二本の牙。明らかに人ではない異形が、威風堂々と闊歩している。

(あれは……オーガか)

 初めて見ればパニックにも陥るだろうが、十束は予想していたこともあって、冷静に分析することができた。
 何故なら、そこにいたは、『ブレイブ・ビリオン』に出てくるオーガというモンスターだったからだ。

(……はあ。今あれとぶつかったら終わるな)

 オーガは、初期ユーザーにとっては初めてのボスに近い実力を持っている通常モンスター。初期ではあまり出会うことはないが、もし出会い倒すことができれば、強力な武器などが手に入る。オーガもまた倒せば、貴重なアイテムがゲットできるのだ。

(予想してたとはえ、マジでいきなりあんなもんに出くわすなんてな。運が良いやら悪いやら……いや、今はそんなことよりも優先すべきことがある)

 十束が目を向けたのは、自分が出てきた渦。

(よし! 思った通り、まだ閉じてねえ!)

 渦はそこに存在し、《メガフォーク》もまた、半分ほどこちらに顔を覗かせていた。
 その時だ。

「うぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!?」

 先ほどオーガが闊歩していた周辺から悲鳴が聞こえたので確認してみると、どこから現れたのか、数人の男女が追われていた。

(もしかして俺みたいに渦から出てきた直後だったか……?)

 しかも最悪なことに、十束のように少し離れた場所ではなく、オーガの射程圏内に出てきてしまったのだろう。
 見たところ、手には武器を持っているので、恐らくは運よく『勇者』の称号を手にできたようだが……。

「グラララァァァァッ!?」

 オーガの振るう巨大な斧には太刀打ちすることができず、武器と一緒に身体を真っ二つにされたり、大きな手で握り潰されたりしていた。
 ほんの十数秒の間で、その場は血の惨劇と化し、肉塊となった人間は、オーガの腹の中へと収まっていく。

「な、何だよアイツはっ!?」

 今度は、少し離れた場所から声が聞こえてきた。視線を向けると、またも人間たちが、恐怖に慄いた様子で、オーガを見つめていた。
 当然、その声にオーガは気づき……いや、どうやら他のモンスターにも気づかれたようで、人間たちは、次々とモンスターに攻め寄られていく。

 叫びながら逃げ惑う彼らを、十束は顔をしかめながら眺めていた。
 人間があれほどまでに、簡単に殺されていく様を見たのだ。まるで映画か何かのようだが、そのリアルさに思わず身震いをしてしまう。

(俺も見つかる前に、さっさと行動しねえとな)

 十束は周囲を警戒しながら、また渦の中に素早く戻った。
 再び森の中へと戻ってきた十束は、冷や汗を拭いながら、しばらくその場で待っていた。そしてその瞬間がやってきて、思わずガッツポーズする。

 その理由は――。


――――――――――――――――――――――――――――――
サキヤマ トツカ    Lv:1  NEXT EXP:8

HP:15/15    BP:0  SP:0
ATK:F DEF:F RES:D 
AGI:F HIT:F LUK:A

スキル:
称号:民
――――――――――――――――――――――――――――――

 再び、十束の目の前に出現したシステム画面。

「よっしゃ! 大成功だ!」

 不思議なことに、先ほどまでの十束のステータスとは違っていた。それは明らかに、ガチャをする前のステータスだったのである。

 すると、しばらくして新たな画面で《勇者ガチャ》が現れた。
 ということは、つまり再度ガチャができるようになったということ。

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