ゲーム世界が侵食してくる ~開発者の知識で無双する~

十本スイ

文字の大きさ
6 / 43

第5話 いよいよスタート

しおりを挟む
 一日ほどかけて、スキルの使い様を学んだ十束は、ようやく本来のストーリーへと介入することにした。
 十束のような体験をしている人がいても、恐らく十束が一番遅く本番を始めることだろう。何せ、初日から四日以上を費やしているのだから。

 飲み込みが良いゲーマーなら、すでにボス討伐まで手を伸ばしているかもしれない。
 しかし、十束に焦りはなかった。別に、十束は成り上がって邪神を倒す英雄になりたいわけではない。 

 ただ、自分の開発したゲームを、心の底から楽しみたいだけなのだ。デスマーチから解放され、ようやく得られた自由。しかもその自由が、自分にとって最高の展開になっているのだから、できるだけゆっくりと大いに堪能したい。
 だから積極的な攻略は、そういう意思がある連中に任せ、十束は十束でのんびりやるつもりである。

 とはいっても、せっかくだからレアアイテムとか、レアイベントなどは手にしたいと考えている。その中には自分が考えたものもあるのだから楽しみだ。

「おっと、その前に、だ」

 十束は渦の傍で、異様なほど山なりになっている、あるモノたちに視線を向けた。
 そこには、これまで幾度となく繰り返した軌跡を形にしたものが山積みになっている。

 剣や盾などの武器や、服やアクセサリー、壺や本などもあって多種多様だ。
 これらは、十束がガチャの度に手に入れた初期武器である。

「捨てていくのは勿体ないからな。全部持っていこう」

 『勇者』には、《袋》という初期スキルがあり、いわゆるアイテムボックス機能である。ただし、保存できるのは三十種類で数は九十九個が限界。
 ここに回収し、システム画面を開いて、いつでも好きな時に取り出せる便利機能だ。だから『民』もまた、このスキルを優先して取得する者が多い。

 しかし、目の前の武器たちは、大体千五百個くらいある。当然全部収納することなんてできない…………普通なら。
 ここで役に立つのが、十束のスキルである。すでに《袋》の境界に介入し、限界値を変質させ制限を取っ払った。

 故に十束の《袋》の収納量は無限大。何種類でも、何個でも収納することが可能となったのだ。
 十束は、すべての武器たちを回収し、見事《袋》に収まっていることを確認して一息吐く。もちろん《メガフォーク》も回収した。

「さて、これでもう完全にこの場所には用はなくなったな」

 そうして十束は、もう思い残すことはなく、改めて渦の中へと突き進んでいった。
 渦の先、ここも何度見たか分からない変わり果てた街並みが広がっている。ただ、これまでと違うのは、後ろを振り返ってみるが、そこにはもう渦が見当たらないことだ。
 ここからようやく十束の冒険が始める。

(あーまずは腹ごなしだな。レベル上げはその後だ)

 とにかく腹が減っては満足に動くことができない。
 十束は身を屈め、周囲を警戒しながら進んでいき、ある場所を目的地として目指す。

 基本的に、どんな【始まりの砂浜】から始まったとしても、ユーザーが冒険を始める場所は決まっている。
 ここが十束の知っている場所なら、これから行く場所には、ユーザーには非常にありがたい存在があるはずだ。

 スキルの《地図》を使い、マップ画面を見ながら突き進む。とはいっても、この地図だが、最初は何も描かれていない白紙状態である。持ち主が進む度に、そこに道の情報が刻まれていくといった感じ。

 こうして自分専用の地図を制作していくのも面白いだろう。時には行き止まりにぶつかったり、思いもよらぬ発見をすることもある。それが冒険の醍醐味だ。
 ただ、十束は自分の知識に従って、立ち止まることなく進んでいく。

(マップ作成も俺が関わってたしなぁ)

 覚えているマップが続く。ゲーム上とリアルでは、実感こそまったく違うが、筋道はほぼ変わっていないので助かる。

(おっと、モンスターか……!)

 地図を見ると、そこには赤い点が浮き上がっていた。赤い点はモンスターを表し、青い点が持ち主を示す。
 物陰に潜み、そっと進行方向にいた存在に意識を向ける。

 そこには、以前見たオーガとはまた別のモンスターが一体いた。オーガよりも遥かに小粒だが、その醜悪な見た目を持つそいつは、およそゲーマーなら知らない者がいないほどのポピュラーな存在。

(……ゴブリン)

 赤褐色の肌で、下半身だけを隠すようにボロ布が巻かれている。その手にはこん棒が握られていて、常に涎を垂らしながら獲物を探るように目をギョロギョロと動かす姿は、ハッキリ言って気持ちが悪い。

(……一体……か)

 周りを見て、そいつだけしかいないことを確認する。
 相手が複数なら、今の状態だと厳しいかもしれないが、一体だけなら何とかなりそうだ。

 それに、奴が邪魔なのも確かだし、ここで迂回するよりは倒して進んだ方が良いと判断した。
 システム画面を開き、《袋》から武器を取り出す。

 とはいっても、『界の勇者』の初期武器ではない。何故なら『無双勇者)』には、初期武器がないのだ。というのも基本的に身体能力が高く、武器が必要ないから作っていなかっただけ。さすがに特殊な専用武器を与えて、これ以上、序盤から強くなるのはどうだろうと思ったからだ。

 またそれぞれの『勇者』に与えられる初期武器だが、別に他の者も装備することはできる。ただ、適正武器ではないということで、その武器を使いこなすことはできないように設定されているが。

 つまり専用武器の攻撃力が10だとすると、他称号の者が装備したら半減し、5程度にまで威力が落ちるのである。また特殊技能なども使用できない。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...