異世界帰りの俺は、スキル『ゲート』で現実世界を楽しむ

十本スイ

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第九話 食い違う常識

「「………………」」

 まあ、当然のごとく、しおんと真鈴さんは、この数十秒ほどの間に起きた現実に対し、脳の処理が追い付いていない様子だ。
 うるさい連中がいなくなったことで、痛いほどの静寂がその場を包んでいる。

 どうすっかなぁ。これは俺が先に何か言った方が良いのか? でもなぁ……。

 とりあえずは彼女たちが正気に戻るまで待った方が良いのかもしれない。
 そんなことを考えていると、ようやく口火を切ってくれたのは真鈴さんだった。

「……あ、あの日六くん? ……その……今も何だかいろいろなことが一気に起きて整理がつかないんですが……」

 そう言いながらも、俺に向かって姿勢を正すと、スッと頭を下げてきた。

「ご迷惑をかけてしまって、本当に申し訳ありませんでした」

 そこへしおんもハッとすると、同じように立ち上がり、

「わたしのせいで! 本当にごめんなさいっ!」

 本当に申し訳なく思っているのか、俺が何かを言うまでずっと頭を下げ続けている。

「……はぁ。あのな、しおん」

 名前を呼ばれたと同時にビクッと怯えたように身体を振るわせるしおん。
 俺はそんな彼女に近づき、いまだ彼女の両手を拘束している手錠を力任せに引き千切ってやった。

「あ……ろっくん」
「怪我はねえか?」
「……うん。その……ありがとう」

 悲しそうに、それでいて寂しそうな表情はそのままだ。
 俺はそんな顔を見ていると何だか無性に腹が立ってきたので、コツンと軽めにデコピンをしてやった。

「ふぇうっ!? うぅ……ろっくぅん?」
「だからいつまでもそんな顔して謝ってくんなよ。別に気にしてねえし」
「で、でもぉ!」
「大体三人とも無事だったんだからそれでいいじゃねえか。な?」
「……! でも…………でもわたしは…………ずっと黙ってて……騙してたんだよ! ずっとずっと、自分がヴァンパイアだってことを! 人間の……フリをして……」

 なるほど。それが彼女にとって一番の罪悪感だったか。
 俺にとっちゃどうでもいいことでも、しおんにとっちゃ重大な事実だったんだろう。

「あーまあ、だから何だって感じなんだけどな」
「……それは本当なんですか、日六くん?」
「真鈴さん?」

 どこか鋭さを宿した声音だったので、彼女を見たら剣呑とした表情を浮かべていた。

「あなたは間違いなく人間……なんですよね?」
「はぁ、それは間違いないですよ」
「だとしたら何故我々のような『異種』を簡単に受け入れてるんですか?」

 いしゅ? 異種、か? 初めて聞く言葉だな。

「えっと……異種ってのはもしかして二人みたいな?」
「ええ、そうです。人間ではない存在のことをそう呼びます」

 なるほど。異世界じゃ、モンスターの亜種ってもんがいたが、あれと似たような意味合いってことかね。

「へぇ、初めて聞いた」
「「え?」」
「え?」
「「「………………」」」

 あ、あれぇ……? 何か二人が俺を「何言ってんのコイツ?」的な顔で見てくるんだが……。
 そんなに変なこと言ったの俺?

「ろ、ろっくん? 『異種』だよ? 数は少ないけど、一応『異種』が存在することは国も認めてるでしょ?」
「……そ、そうなの?」
「? 社会の授業でも習ったよ?」

 えぇ……マジ? そんな記憶一切無いんですけどぉ……。

「ちょ、ちょっと待ってくれ、しおん! えっと異種……だったか? 授業で習ったってマジか?」
「本当だよ? それに数は少ないけど、『異種』専門の施設や学校だってあるじゃない」
「い、いやいや、二人とも俺をからかってねえか? 生まれてこの方、異種なんて初めて聞いたし、そんな奴らは通う学校なんてもんがあるなんて信じられねえって!」

 だが二人ともマジな顔で俺を見つめているだけ。

「…………冗談とかじゃないんだな」

 確かめるように聞いたが、二人ともが同時に首肯した。
 そしてそこから『異種』に関して、二人が大まかだが教えてくれた。
 地球には人間と『異種』と呼ばれる二つの種族が住んでいる。
 ただ人間の方が圧倒的に数が多く、『異種』は基本的に長命種のせいか繁殖力が低いとのこと。

 故にこの世で認知されている『異種』だが、実際に目にした者も少なかったりする。
 ただし現在、日本は率先して『異種』を受け入れる国としての体裁を整えていて、先にしおんが言ったような施設や学校なども、少ないが確かにあるという。

 また『異種』は数は少ないものの、人間には有り得ない力を持っていることから、人間の中には恐れる者も多い。 
 だからこそ『異種』という存在は、人間社会で生きていくためにも、正体を隠して生活しなければならない。

 もしバレれば『異種族反対派』に何をされるか分かったものではないからだ。
 しおんや真鈴さんも、自分たちがヴァンパイアだとバレると、迫害されたり、悪意のある者たちに捕縛され研究機関に送られかねないので、それを避けるために人間のフリをしていた。

「特に私たちのような純血種のヴァンパイアは珍しいんです。世界でも数えるほどしか存在しませんから、できる限り人間にはバレないように暮らしてきたんですよ」
「あのオッサンも純血種ってやつ?」
「いいえ。あの人はクォーターヴァンパイアで、人間の血の方が濃いんです」
「はあ? それなのに人間を見下してたのかよ……」
「……ヴァンパイア一族を絶やさないためには、他の種族との交わりが必要だったのです。そしてそれは他の種族も同じ。長い年月を超えていき、純血種の『異種族』は少なくなっていきました」

 まあ元々出生率が低いって話だし、一族同士では繁殖に限界が訪れたのだろう。そこで他種族とも交わって、一族を存命させてきたのだ。たとえ血が薄くなろうとも、〝種〟を絶やさぬように。

「しかし稀に隔世遺伝や先祖返りなどで、純血種が誕生することがあるんですよ」
「それがしおんや真鈴さってわけか」

 二人がコクリと頷く。
 ということは、この二人はかなりレアな存在ってことになる。そりゃ研究機関にとっちゃ、喉から手が出るほどの欲しい検体かもしれん。

「……なるほどな。そんな事情があったのか」

 ていうかこの話マジなの? テレビでもたまに『異種』特集をするとか言ってるけど、俺そんな番組観たことないし。
 やっぱりおかしい。確かにあまり新聞とかニュースを観ない俺だけど、世間的に一応認知されている『異種』のことをまったく知らないなんて有り得ないだろう。
 少なくとも、俺が異世界に飛び立つ前まで、こんな話題を周りがしているのを見たことも聞いたこともない。

 ……何か混乱してきたんだけど。

「そ、そのさ……ヴァンパイアっていう証拠みたいなもんってあんの?」
「ろっくん、まだ信じられないの?」
「あー悪いな。俺にとっちゃマジで寝耳に水でよ……」
「ん、分かった。じゃあちょっと恥ずかしいけど見てて。――〝ヴァンデ〟」
「? ヴァンデ?」
「え? あ、ごめん。今のは解放の呪文みたいなもの。ほら、見て」

 そう言ったしおんが、少し大きめに口を開いた。
 すると八重歯あたりからズズズ……と、鋭い牙が伸び出てきたのである。
 同時にしおんの瞳が、黒から紅へと変色していく。

「!? ……も、もういいぞ。うん、理解した」

 こんなもんを見せられれば納得するしかないだろう。

「……やっぱり怖い……よね?」
「へ? 怖い? しおんを? 何で?」
「何でって……騙してたわけだし。それにヴァンパイアって……『異種』の中でも恐れられる傾向が強い種族だから」
「んなこと言われても、もっと怖え吸血鬼にも会ったことあるしな」
「「……へ?」」
「あ……」

 しまった。つい余計なことを口走っちまった。

「ど、どどどどういうこと、ろっくん!? 他にもヴァンパイアに会ったことあるの!? でもヴァンパイア一族はわたしたち夜疋家だけのはずだよっ!」
「ちょ、ちょちょちょ、分かったから! 説明するから詰め寄ってくんなって!?」

 できれば隠しておこうって思ってたけど、もう二人には俺の力は見せたしな。

 それに彼女たちのことも聞いたので、俺だけ黙っておくのはフェアじゃないか。
だから俺は正直に、あの異常で痛快な二年間のことを伝えたのである。



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