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第十四話 帝都・セイヴァース
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「話? ……俺と話してもつまならいと思うが?」
何せ今まで会話をしてきた人間なんて身内だけだし、メイドとも必要最低限の会話しかしてこなかった。
人が笑えるような経験談もないし、あるとしても妖精絡みでおいそれと話せることではない。ハッキリ言って主観的に見ても客観的に見てもつまらない男だと思う。
「そ、そんなことはありません! ……えと、多分」
「多分って……まあそうとしか言いようがないかもしれないが」
「で、でもこう見えて私の勘って結構当たるんです! アオスさんは、きっとつまらない人なんかじゃないって!」
何をそんなに真剣にフォローしてくるのか。別に俺はつまらないと言われても一切気にしないのだが。
「ていうかお前って、俺を避けてなかったか? 嫌われてると思ってたが」
「べ、別に嫌ってなんかないです! 私が人見知りなだけで……えぅ」
「……まあ、別にいいが何の話がしたいんだ?」
「その……私たちを見て何とも思いませんか?」
「……は? すまん、質問の意図が分からないんだが?」
「あ、すみません! ……この姿を見て分かってもらえたと思いますが、私たちは【日ノ本】出身です」
「それは自己紹介でも聞いたぞ」
一体何が言いたいのかサッパリ分からん。
「……もしかして私たちの国のことをご存じありませんか?」
「国のこと? ……どういう意味だ?」
「長年私たちの国は鎖国状態にありました。それが三年前、殿の代が変わってから、鎖国は解かれ、他国とも関わりを持つようになったんです」
「ああ……そういえば……」
前の人生の時も、確かそんな情報があったような気がする。
ただ今は鎖国が解かれたとはいえ、誰でも自由に行き来できるわけではないので、冒険者の資格を持っていなかった俺は、さして気にも留めていなかったのだ。
「三年経ちますが、それでもまだ【日ノ本】に対する皆さんの認識は……あまり良くなくて。だからアオスさんの反応が珍しくて」
「……そういや、酒飲み勝負を吹っ掛けた連中も、最初はシン助に突っかかってくる感じだったな」
なるほど。今までずっと他者との関わりを立ってきた者たちだ。外の連中も、まだコイツらのことを完全には受け入れていないのかもしれない。
前の人生で、【日ノ本】出身の奴と会ったことはなかったので分からなかったが、世間での評判は悪い方なのかもしれない。
俺は噂や他人の評価を鵜呑みにしたりはしない。自分の目で見てそいつを判断する。まあ基本的に人には興味無いので、噂なんかもどうでもいいと思っているだけではあるが。
「確か帝国とも同盟してないって話だったな」
「……はい」
そう、それが恐らく一番の難だろう。
この世界において帝国は絶対的権力を持つ存在。多くの国は、この帝国が盟主として成る同盟に加盟している。
しかし【日ノ本】だけは、いまだに独立国家としての立場を貫いているのだ。
それがまた世間一般の者たちの評価を下げているのだろう。
「……! そうか。少し前、シン助に目立つなって言ってたのは、周りの連中にイチャモンをつけられることを恐れてか?」
「……ああいう兄ですから、ケンカとか売られたらすぐに買ってしまうので」
ああ、それは簡単に予想できるな。実際もう勝負は売られて、見事に買ってしまっているけれど。
ただ最初は男たちに不評なシン助だったが、勝負が進んでいき次々と酒飲み勝負に勝っていった。そんな彼の姿を見て「やるじゃねえか」と、男たちも評価を改めていく様子は、単純バカ野郎たちを見ているようで呆れてしまったが。
「それに父からも言われていまして。あまり【日ノ本】の評価を下げるような行為は控えろと」
「……お前が一緒に冒険者学校を受験するのってもしかして……アイツのストッパー役としてか?」
「ふぇ? あ、えと……まあ父にはそういう算段もあってのことでしょうけど、私は純粋に冒険者に憧れているんです」
「へぇ、命すら軽々と消えかねない職業なのにか?」
「……【日ノ本】出身で、初めて冒険者になった女性がいるんです。私はそんな彼女のような強い女性になりたくて」
強くなることに憧れを抱く奴だったか。見た目に反して分からないものだ。
てっきり強引なシン助に無理矢理連れて来られたか、先にも言ったようにストッパー役のどちらかだと思っていたが、これは予想外だった。
「そうか。なら冒険者学校に通って資格を取らないとな」
「! ……はい!」
初めて嬉しそうに満面の笑みを浮かべる九々夜。
それからシン助は船が停泊するまで眠り続けた。
目的地である帝都の港へと到着し、俺は久々に見る帝都の外観に懐かしさを覚えていた。
城塞都市と呼ばれている通り、都市の周りには重厚な外壁が侵入者を阻むべく立ち塞がっている。
港だけでも一つの町ほどの規模があり、市場などが毎日開かれていて活気づく。船から見るとよく分かるが、どこに視線を向けても、人、人、人、といった感じだ。
まるで日夜祭りでも行われているかのような喧噪で、思わず人に酔ってしまいそうになる。
「【帝都・セイヴァース】……か」
元々は近くに存在した七つの国を一つにした統一国家であり、絶対王政の形を取った軍国主義を敷いている。
まさに強い者こそ正義と言わんばかりの体制を持つのだ。
前の人生は、港経由ではなく陸路だったが、こうしてまた足を踏み入れることになるとは思ってもいなかったのである。
最後に訪れたのは……忘れようとも忘れられない。無実の罪で投獄され、この帝都に送られ裁判を受けた時以来だ。
そこで流刑に処されてしまい、七十年以上あの孤島で過ごしてきた。
それ以外でも何度か帝都には立ち寄ったことがあるが、ここにはそんなに良い思い出はない。
金もそんなに無かったし、ボロボロの恰好で目立っていたため、周囲からも敬遠されていた。加えて独り言をぶつぶつという不気味な人種ということで、その噂はすぐに広まって宿すら泊まれなかった。
「……まさかこうしてまた戻ってくるなんてなぁ」
人生何があるか分からないというが、本当にそれを痛感している。
別に帝都で一花咲かせようなどという気持ちはさらさらない。ただ俺の目的は、冒険者学校に通い、冒険者の資格を得るだけなのだから。
……まあでも、懸念は他にもあるんだけどな。
ここから先、嫌でもトラブルには見舞われることは覚悟している。
どうしても避けては通れない問題があることを重々認識しているからだ。
そんな障害を目の前にしても、俺は何が何でも資格を得たい。だから何があってもその問題に、そして自分に敗けるわけにはいかないのだ。
「うへぇ……きぼぢ……わぶい……っ」
少し離れた後方では、九々夜に介抱されているシン助がいる。酒の飲み過ぎと船酔いが重なり、とてつもなく情けない姿になっていた。
船長から港に降りる許可が出たので、俺は船長に礼を言って妖精さんたちを伴って降りていく。
埠頭をそのまま歩いていき、その先に見える巨大な橋を見て感嘆の溜息を零す。
港と街を繋ぐ一つの橋。この橋だけでも圧巻とも思えるほどの規模だ。
目視ではあるが、街へ入るまで徒歩十分ほどかかる長さではなかろうか。
往来する人の数も多く、道幅も広いので、橋というよりはもう道路そのものだ。
「あれれ~? じっくりといちばはみないんですかー?」
「おさかなさん、いっぱいでしたねぇ。とってもなまぐさいニオイがしてましたぁ。からだにニオイ、ついてませんよねぇ?」
「ながかったふなたびもおわりか。……おなかがへったぞ、あまいものをしょもうする!」
俺はそれぞれに発言する妖精さんたちに答える。
「まずは宿を先に取らないとな。それとニオイは別にしみついてないぞ。ほら、腹減ってんならこれでも食べな」
最後の子にだけではなく、三人に俺は懐から出した砂糖菓子を与える。
「いいんですか! いいんですか!」
「わぁ、だからアオスさんだいすきですぅ!」
「こ、これは! こうなったらわたしのおおぐいっぷりをみせるしかあるまい!」
全員が丸い砂糖菓子を俺から受け取ると、美味しそうに俺の頭の上で食べ始めた。
できれば食べかすは落とさないでくれよ。
「おーい、アオスーッ!」
そこへ背後から声が聞こえたので振り向くと、さっきと比べてかなりスッキリとした顔のシン助と、疲弊し切った様子の九々夜がいた。
何せ今まで会話をしてきた人間なんて身内だけだし、メイドとも必要最低限の会話しかしてこなかった。
人が笑えるような経験談もないし、あるとしても妖精絡みでおいそれと話せることではない。ハッキリ言って主観的に見ても客観的に見てもつまらない男だと思う。
「そ、そんなことはありません! ……えと、多分」
「多分って……まあそうとしか言いようがないかもしれないが」
「で、でもこう見えて私の勘って結構当たるんです! アオスさんは、きっとつまらない人なんかじゃないって!」
何をそんなに真剣にフォローしてくるのか。別に俺はつまらないと言われても一切気にしないのだが。
「ていうかお前って、俺を避けてなかったか? 嫌われてると思ってたが」
「べ、別に嫌ってなんかないです! 私が人見知りなだけで……えぅ」
「……まあ、別にいいが何の話がしたいんだ?」
「その……私たちを見て何とも思いませんか?」
「……は? すまん、質問の意図が分からないんだが?」
「あ、すみません! ……この姿を見て分かってもらえたと思いますが、私たちは【日ノ本】出身です」
「それは自己紹介でも聞いたぞ」
一体何が言いたいのかサッパリ分からん。
「……もしかして私たちの国のことをご存じありませんか?」
「国のこと? ……どういう意味だ?」
「長年私たちの国は鎖国状態にありました。それが三年前、殿の代が変わってから、鎖国は解かれ、他国とも関わりを持つようになったんです」
「ああ……そういえば……」
前の人生の時も、確かそんな情報があったような気がする。
ただ今は鎖国が解かれたとはいえ、誰でも自由に行き来できるわけではないので、冒険者の資格を持っていなかった俺は、さして気にも留めていなかったのだ。
「三年経ちますが、それでもまだ【日ノ本】に対する皆さんの認識は……あまり良くなくて。だからアオスさんの反応が珍しくて」
「……そういや、酒飲み勝負を吹っ掛けた連中も、最初はシン助に突っかかってくる感じだったな」
なるほど。今までずっと他者との関わりを立ってきた者たちだ。外の連中も、まだコイツらのことを完全には受け入れていないのかもしれない。
前の人生で、【日ノ本】出身の奴と会ったことはなかったので分からなかったが、世間での評判は悪い方なのかもしれない。
俺は噂や他人の評価を鵜呑みにしたりはしない。自分の目で見てそいつを判断する。まあ基本的に人には興味無いので、噂なんかもどうでもいいと思っているだけではあるが。
「確か帝国とも同盟してないって話だったな」
「……はい」
そう、それが恐らく一番の難だろう。
この世界において帝国は絶対的権力を持つ存在。多くの国は、この帝国が盟主として成る同盟に加盟している。
しかし【日ノ本】だけは、いまだに独立国家としての立場を貫いているのだ。
それがまた世間一般の者たちの評価を下げているのだろう。
「……! そうか。少し前、シン助に目立つなって言ってたのは、周りの連中にイチャモンをつけられることを恐れてか?」
「……ああいう兄ですから、ケンカとか売られたらすぐに買ってしまうので」
ああ、それは簡単に予想できるな。実際もう勝負は売られて、見事に買ってしまっているけれど。
ただ最初は男たちに不評なシン助だったが、勝負が進んでいき次々と酒飲み勝負に勝っていった。そんな彼の姿を見て「やるじゃねえか」と、男たちも評価を改めていく様子は、単純バカ野郎たちを見ているようで呆れてしまったが。
「それに父からも言われていまして。あまり【日ノ本】の評価を下げるような行為は控えろと」
「……お前が一緒に冒険者学校を受験するのってもしかして……アイツのストッパー役としてか?」
「ふぇ? あ、えと……まあ父にはそういう算段もあってのことでしょうけど、私は純粋に冒険者に憧れているんです」
「へぇ、命すら軽々と消えかねない職業なのにか?」
「……【日ノ本】出身で、初めて冒険者になった女性がいるんです。私はそんな彼女のような強い女性になりたくて」
強くなることに憧れを抱く奴だったか。見た目に反して分からないものだ。
てっきり強引なシン助に無理矢理連れて来られたか、先にも言ったようにストッパー役のどちらかだと思っていたが、これは予想外だった。
「そうか。なら冒険者学校に通って資格を取らないとな」
「! ……はい!」
初めて嬉しそうに満面の笑みを浮かべる九々夜。
それからシン助は船が停泊するまで眠り続けた。
目的地である帝都の港へと到着し、俺は久々に見る帝都の外観に懐かしさを覚えていた。
城塞都市と呼ばれている通り、都市の周りには重厚な外壁が侵入者を阻むべく立ち塞がっている。
港だけでも一つの町ほどの規模があり、市場などが毎日開かれていて活気づく。船から見るとよく分かるが、どこに視線を向けても、人、人、人、といった感じだ。
まるで日夜祭りでも行われているかのような喧噪で、思わず人に酔ってしまいそうになる。
「【帝都・セイヴァース】……か」
元々は近くに存在した七つの国を一つにした統一国家であり、絶対王政の形を取った軍国主義を敷いている。
まさに強い者こそ正義と言わんばかりの体制を持つのだ。
前の人生は、港経由ではなく陸路だったが、こうしてまた足を踏み入れることになるとは思ってもいなかったのである。
最後に訪れたのは……忘れようとも忘れられない。無実の罪で投獄され、この帝都に送られ裁判を受けた時以来だ。
そこで流刑に処されてしまい、七十年以上あの孤島で過ごしてきた。
それ以外でも何度か帝都には立ち寄ったことがあるが、ここにはそんなに良い思い出はない。
金もそんなに無かったし、ボロボロの恰好で目立っていたため、周囲からも敬遠されていた。加えて独り言をぶつぶつという不気味な人種ということで、その噂はすぐに広まって宿すら泊まれなかった。
「……まさかこうしてまた戻ってくるなんてなぁ」
人生何があるか分からないというが、本当にそれを痛感している。
別に帝都で一花咲かせようなどという気持ちはさらさらない。ただ俺の目的は、冒険者学校に通い、冒険者の資格を得るだけなのだから。
……まあでも、懸念は他にもあるんだけどな。
ここから先、嫌でもトラブルには見舞われることは覚悟している。
どうしても避けては通れない問題があることを重々認識しているからだ。
そんな障害を目の前にしても、俺は何が何でも資格を得たい。だから何があってもその問題に、そして自分に敗けるわけにはいかないのだ。
「うへぇ……きぼぢ……わぶい……っ」
少し離れた後方では、九々夜に介抱されているシン助がいる。酒の飲み過ぎと船酔いが重なり、とてつもなく情けない姿になっていた。
船長から港に降りる許可が出たので、俺は船長に礼を言って妖精さんたちを伴って降りていく。
埠頭をそのまま歩いていき、その先に見える巨大な橋を見て感嘆の溜息を零す。
港と街を繋ぐ一つの橋。この橋だけでも圧巻とも思えるほどの規模だ。
目視ではあるが、街へ入るまで徒歩十分ほどかかる長さではなかろうか。
往来する人の数も多く、道幅も広いので、橋というよりはもう道路そのものだ。
「あれれ~? じっくりといちばはみないんですかー?」
「おさかなさん、いっぱいでしたねぇ。とってもなまぐさいニオイがしてましたぁ。からだにニオイ、ついてませんよねぇ?」
「ながかったふなたびもおわりか。……おなかがへったぞ、あまいものをしょもうする!」
俺はそれぞれに発言する妖精さんたちに答える。
「まずは宿を先に取らないとな。それとニオイは別にしみついてないぞ。ほら、腹減ってんならこれでも食べな」
最後の子にだけではなく、三人に俺は懐から出した砂糖菓子を与える。
「いいんですか! いいんですか!」
「わぁ、だからアオスさんだいすきですぅ!」
「こ、これは! こうなったらわたしのおおぐいっぷりをみせるしかあるまい!」
全員が丸い砂糖菓子を俺から受け取ると、美味しそうに俺の頭の上で食べ始めた。
できれば食べかすは落とさないでくれよ。
「おーい、アオスーッ!」
そこへ背後から声が聞こえたので振り向くと、さっきと比べてかなりスッキリとした顔のシン助と、疲弊し切った様子の九々夜がいた。
応援ありがとうございます!
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