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正直、【アビッソの穴】に入って、しばらく進んだとのに誰一人会わなかったのには焦った。くまなく探している暇はないので、《索敵》というスキルで生物反応を調べたところ、固まって移動している集団が地下一階にはいなかったので、すぐに下へと下りて、同じように調べていった。
それを繰り返し、超速で階下に向かい、ようやく地下七階にて、集団でのろのろと動く集団をキャッチ。しかもその周囲にも生物反応があり、何やら囲まれていたので、これは危機的状況なのではと判断し、急いで駆けつけた。
すると十匹のファングウルフ――ちなみにSランクのモンスターに囲まれていたので、《電光石火》のスキルを使って一撃必殺のもと全力で吹き飛ばしてやったというわけだ。
「あ、あなたは――イックウ殿っ!?」
「少し勇み足過ぎましたね、師団長さん」
「あ……っ」
オレの言葉の意味が分かったのか、彼女は目を伏せる。
「そうですな。この状況はまさしく私の浅慮が巻き起こした結果です」
「うん。それが分かってるなら十分です。んじゃ、さっさとここを抜けちゃいましょう」
「え……抜け……る?」
「はい。地下十階に行けば、フロアボスがいます。そいつを倒せば元の場所に戻れるアイテムをゲットできるので、さくっと行きましょう」
「さ、さくっとと申されるが……」
「あ~大分疲弊し切ってますね。もしかして回復アイテムとか底をついちゃいましたか?」
「は、はい。恥ずかしながら回復役のMPもなくなってしまい……」
なるほど。だから満足な回復もできずにこうなっているわけだ。
確かに十分な備えも無くSSSランクのダンジョンに入ればこうなることは必然。
「んじゃ、これですぐに回復してください」
オレは《アイテムボックス》から、瓶に入った液体状の大量のHP回復薬とMP回復薬を出す。
「こ、これは!? 全部上級の回復薬ではないですか!? しかも《アイテムボックス》まで!?」
「そうですよ。これなら全快できるでしょう?」
「で、できますが……いやしかし……!」
「つべこべ言わずに回復してください。ここで死にたいんですか?」
オレは彼女だけでなく、他の兵士たちにも聞こえるように言う。
「外では一応これ以上あなたたちの後を追わないように、兵士さんたちには注意してきました。でもあまり遅くなると、痺れを切らして突入してくる可能性もあります。そうなる前に、早くここから出る必要があるんです。違いますか?」
「…………いや、あなたの申される通りです。……ありがたく頂戴致します」
兵士たちもホッとした様子で、回復薬を使用してHPMPを回復していく。多少の傷なら、この回復薬で瞬く間に治るのだから、ゲームの薬は凄過ぎだ。
地球にあったらすっげえ売れるだろうなぁ。
そんなことを思いながら、兵士たちがゴクゴクと回復薬の瓶を傾けて飲んでいるところを見ていると、
「すまない、少しよろしいだろうか?」
「はい? 何ですか、師団長さん?」
「私のことはどうかメルヴィスと呼んで頂きたい」
「はぁ、ではメルヴィスさん、何か?」
「メルヴィスでいい」
「……いや、いきなり同い年くらいの女性を呼び捨ては勇気が必要で……」
「メルヴィスでお願い申し上げる」
「…………」
「メルヴィスで」
「…………はぁ、分かりました、メル――」
「あと、敬語も必要ありませぬ」
ならいっぺんに言ってくれない?
「……分かった。んじゃ、メルヴィスって呼ばせてもらうから」
「うむ!」
嬉しそうに微笑む彼女の笑顔は想像以上に衝撃が強く、思わずキュンとしてしまうほど。強気であまり表情を崩さない女の子が笑うとどうしてこうも心が動かされるのだろうか……永遠の謎かもしれない。
「そ、それで何か?」
「ああ、そうでした。この度は、またもご助力を賜り誠に痛み入ります!」
「……昨日もそうだったけど、師団長がそう簡単に頭を下げてもいいの?」
「何を申されますか! 礼を忘れては本物の騎士にはなれますまい!」
「そ、そうなんだ」
「そうなのです! 我が騎士道精神は、自身の正義を貫くだけではなく、人の道を全うに歩むことでもあるのです! 礼を忘れた者に、騎士は務まりませぬ!」
どうやらずいぶんお固い人格のようだ。
「ですから、本当にありがとうございました!」
「いや、いいよいいよ。オレもまさかこうなるとは思っていなかったし、成り行きだったしね」
「そういえば、どうしてイックウ殿はこちらへ? ここは一応立ち入り禁止のはずで」
オレは外で兵士たちに言ったことを彼女にも告げる。
「なるほど。遺跡マニア……ですか。しかしここの入り方は、所長は誰も教えていないと申されておりましたが、何故教会に“オーブ”があり、ダンジョンがあることをご存知なので?」
……しまった。そこを深く考えていなかった。
確かに良く考えればおかしなこと言ってるよね、オレ。…………どうしよう。
それを繰り返し、超速で階下に向かい、ようやく地下七階にて、集団でのろのろと動く集団をキャッチ。しかもその周囲にも生物反応があり、何やら囲まれていたので、これは危機的状況なのではと判断し、急いで駆けつけた。
すると十匹のファングウルフ――ちなみにSランクのモンスターに囲まれていたので、《電光石火》のスキルを使って一撃必殺のもと全力で吹き飛ばしてやったというわけだ。
「あ、あなたは――イックウ殿っ!?」
「少し勇み足過ぎましたね、師団長さん」
「あ……っ」
オレの言葉の意味が分かったのか、彼女は目を伏せる。
「そうですな。この状況はまさしく私の浅慮が巻き起こした結果です」
「うん。それが分かってるなら十分です。んじゃ、さっさとここを抜けちゃいましょう」
「え……抜け……る?」
「はい。地下十階に行けば、フロアボスがいます。そいつを倒せば元の場所に戻れるアイテムをゲットできるので、さくっと行きましょう」
「さ、さくっとと申されるが……」
「あ~大分疲弊し切ってますね。もしかして回復アイテムとか底をついちゃいましたか?」
「は、はい。恥ずかしながら回復役のMPもなくなってしまい……」
なるほど。だから満足な回復もできずにこうなっているわけだ。
確かに十分な備えも無くSSSランクのダンジョンに入ればこうなることは必然。
「んじゃ、これですぐに回復してください」
オレは《アイテムボックス》から、瓶に入った液体状の大量のHP回復薬とMP回復薬を出す。
「こ、これは!? 全部上級の回復薬ではないですか!? しかも《アイテムボックス》まで!?」
「そうですよ。これなら全快できるでしょう?」
「で、できますが……いやしかし……!」
「つべこべ言わずに回復してください。ここで死にたいんですか?」
オレは彼女だけでなく、他の兵士たちにも聞こえるように言う。
「外では一応これ以上あなたたちの後を追わないように、兵士さんたちには注意してきました。でもあまり遅くなると、痺れを切らして突入してくる可能性もあります。そうなる前に、早くここから出る必要があるんです。違いますか?」
「…………いや、あなたの申される通りです。……ありがたく頂戴致します」
兵士たちもホッとした様子で、回復薬を使用してHPMPを回復していく。多少の傷なら、この回復薬で瞬く間に治るのだから、ゲームの薬は凄過ぎだ。
地球にあったらすっげえ売れるだろうなぁ。
そんなことを思いながら、兵士たちがゴクゴクと回復薬の瓶を傾けて飲んでいるところを見ていると、
「すまない、少しよろしいだろうか?」
「はい? 何ですか、師団長さん?」
「私のことはどうかメルヴィスと呼んで頂きたい」
「はぁ、ではメルヴィスさん、何か?」
「メルヴィスでいい」
「……いや、いきなり同い年くらいの女性を呼び捨ては勇気が必要で……」
「メルヴィスでお願い申し上げる」
「…………」
「メルヴィスで」
「…………はぁ、分かりました、メル――」
「あと、敬語も必要ありませぬ」
ならいっぺんに言ってくれない?
「……分かった。んじゃ、メルヴィスって呼ばせてもらうから」
「うむ!」
嬉しそうに微笑む彼女の笑顔は想像以上に衝撃が強く、思わずキュンとしてしまうほど。強気であまり表情を崩さない女の子が笑うとどうしてこうも心が動かされるのだろうか……永遠の謎かもしれない。
「そ、それで何か?」
「ああ、そうでした。この度は、またもご助力を賜り誠に痛み入ります!」
「……昨日もそうだったけど、師団長がそう簡単に頭を下げてもいいの?」
「何を申されますか! 礼を忘れては本物の騎士にはなれますまい!」
「そ、そうなんだ」
「そうなのです! 我が騎士道精神は、自身の正義を貫くだけではなく、人の道を全うに歩むことでもあるのです! 礼を忘れた者に、騎士は務まりませぬ!」
どうやらずいぶんお固い人格のようだ。
「ですから、本当にありがとうございました!」
「いや、いいよいいよ。オレもまさかこうなるとは思っていなかったし、成り行きだったしね」
「そういえば、どうしてイックウ殿はこちらへ? ここは一応立ち入り禁止のはずで」
オレは外で兵士たちに言ったことを彼女にも告げる。
「なるほど。遺跡マニア……ですか。しかしここの入り方は、所長は誰も教えていないと申されておりましたが、何故教会に“オーブ”があり、ダンジョンがあることをご存知なので?」
……しまった。そこを深く考えていなかった。
確かに良く考えればおかしなこと言ってるよね、オレ。…………どうしよう。
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